技術トピック
2026.09.04

組込み部位を設計し直し、Bxb1の組込み効率を高める

技術トピック

Photo: Voxels Republic / Unsplash

遺伝子を細胞の狙った場所に入れる酵素は、DNA上の「目印」の配列を頼りに働きます。その目印を設計し直し、⁠遺伝子が入る効率を上げたとする論文が、2026年9月2日付で Nature Biotechnology に掲載されました。表題は「Engineered genomic attachment sites for site-specific recombinases enable high-efficiency integration in plants and human cells」です。細菌に感染するウイルス(ファージ)由来のリコンビナーゼ Bxb1 を使い、ヒト細胞とイネの両方で結果を出しています。

酵素ではなく、目印の配列を変える発想

リコンビナーゼは、DNAの中から決まった短い配列の組を見つけ、その2か所をつなぎ合わせる酵素です。Bxb1 が探す目印は attP と attB の2種類で、組込み部位(attachment site)と呼ばれます。片方をゲノムに、もう片方を入れたい遺伝子の側に置いておくと、遺伝子は基本的に目印の位置に入ります。ゲノムに目印を置く最初の工程には、プライム編集(狙った位置の配列を書き換える技術)を使う方法が報告されています。

これまでの改良は、酵素そのものを磨く方向が先行していました。Nature Biomedical Engineering に報告された進化型の Bxb1(evoBxb1)がその例です。酵素を鍵、目印を鍵穴にたとえると、今回は鍵ではなく、鍵穴の形を作り直しました。

研究チームは、天然の目印の配列を部品に分けて組み替え、144種類の候補を作りました。どれも Bxb1 は認識しましたが、組み込みやすさは候補によって大きく違いました。最も良かった候補は、ヒト細胞株の HEK293T で 51.9%、イネのプロトプラスト(細胞壁を取り除いた植物の細胞)で 35.6% の組込み効率を示しました。天然型の目印と比べると、それぞれ1.7倍、4.4倍の値です。

ヒト細胞では、この最適化した目印と、酵素の働く部分(触媒ドメイン)に変異を入れた Bxb1 を組み合わせています。酵素と目印、両方の工夫を重ねました。この組み合わせで、CD19を狙うCAR(がん細胞を見つけるために T細胞へ持たせる受容体)の遺伝子が31%、肝臓の代謝酵素OTCの遺伝子が25%の割合で組み込まれました。

イネでは、5,000塩基対を超える長さの除草剤耐性遺伝子を狙った位置に入れ、再生した植物の24%で安定した組込みが見つかっています。長鎖シーケンス(長いDNAを途切れさせずに読む解析)で調べた植物では、挿入が完全で正確と確認され、次の世代にも受け継がれたと報告されています。

細胞株づくりと細胞治療での使いどころ

抗体医薬の産生細胞株づくりでは、遺伝子が細胞のどこに入るかで発現量が大きく変わります。ランダムに入れる従来のやり方では、多数のクローンを育てて当たりを探します。決まった場所に入れる方式(ターゲットインテグレーション)は、その手間を減らす手段として広がっており、細胞株開発の初期設計で選ぶ項目の1つです。

リコンビナーゼで入れる方式は、目印を置く工程と、そこへ遺伝子を入れる工程の2段で進みます。今回の報告が上げたのは後者です。入れる効率が高ければ、遺伝子が入った細胞を探して選ぶ手間が減ると見込めます。ただし、数字は実験室のヒト細胞株とイネの細胞での値です。製造に使うCHO細胞や患者から採った細胞で同じ水準が出るとは限りません。

細胞治療や遺伝子治療では、遺伝子が入った場所そのものが安全性の論点です。初期の遺伝子治療試験では、ベクターががん化に関わる遺伝子の近くに入り、白血病を発症した患者が出ました。詳しい経緯は挿入変異のリスクを扱った記事にまとめています。入る場所が決まっていれば、挿入部位解析やコピー数の確認で見る範囲を絞りやすいと考えられます。それでも、酵素が目印に似た別の配列に入ってしまう「ねらい外」の組込みの確認は欠かせません。

目印を先に入れる工程が要るため、患者の細胞をその場で改変する製品より、あらかじめ細胞を作り込める他家細胞やiPS細胞を起点にした製品に向くとみられます。

細胞株の開発を外部に頼むときは、ランダム組込みか決まった場所への組込みか、後者ならどの酵素を使い、目印は最初から細胞に入っているのかを聞いておくと違いが見えます。方式によって、開発の進め方と当局への説明の中身が変わることがあるためです。

注目点は、CHO細胞や患者由来の細胞でも、目印の設計で同じように効率が上がるかどうかです。

※ 本ページは2026年9月2日付の Nature Biotechnology 掲載論文の公開情報をもとにしたProglenth編集部による整理です。数値は論文の報告値で、詳細な条件は一次情報をご確認ください。

学術・公的機関
nature.com
出典を見る ↗

本記事は学術論文・公的機関の情報をもとに、Proglenth編集部が独自に見出し・要約・解説を加えて整理したものです。正確性には努めていますが、最終的な仕様・条件は各社の公式情報・一次情報をご確認ください。編集の考え方は編集方針に記載しています。

ProgLoopで続きをこのニュース、現場ではどう受け止める?ProgLoopでは、製品ニュースに研究者・技術者がコメントを添えて共有しています。ProgLoopで見る

この記事に関連する工程

関連製品
関連記事
Newsletter

装置・試薬の新製品ニュースを、メールで

こうした製品ニュースと、製造・分析・品質の解説記事を毎週水曜の朝にお届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。

登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。閲覧の記録(どのページから、どの会社のサイトへ移ったか)を、ご案内のために使います。

← 製品ニュースの一覧へ