部位特異的リコンビナーゼが使う組込み部位(attachment site)をゲノム側で設計することで、植物とヒト細胞の両方で高効率な組込みができるとする報告が Nature Biotechnology に掲載された。表題は「Engineered genomic attachment sites for site-specific recombinases enable high-efficiency integration in plants and human cells」です。
以下は、この種の技術が一般にどう使われるかの整理です。論文の具体的な内容や効率の数値は本記事の情報には含まれないため、一次情報での確認が要ります。
「どこに入るか」を決められるかどうか
外から遺伝子を入れる方法は、大きく2つに分かれます。
ランダムに入る方法。 レンチウイルスやトランスポゾンは、ゲノムのあちこちに入ります。効率は出しやすい一方、入る場所が制御できません。挿入部位に由来する遺伝毒性が長期の論点として残り、細胞株の構築では入った場所によって発現量が大きくばらつきます。
決まった場所に入る方法。 部位特異的リコンビナーゼ(Bxb1、φC31、Creなど)は、決まった短い配列どうしを認識して組み換えます。あらかじめゲノム側にその配列を置いておけば、狙った場所にだけ入ります。
後者の弱点は、ゲノム側にその配列がないと使えないことです。そこで、まず配列を1回入れる工程(ランディングパッドの作製)が要ります。今回の報告は、この配列そのものを設計して効率を上げるという話と読めます。
細胞株開発で効くところ
抗体を作る細胞株の開発では、単一細胞クローニングで高発現のクローンを選ぶのに時間がかかります。ランダムに入るぶん、当たり外れが大きいためです。
決まった場所に入れられるなら、この探索が短くなります。
- 発現量が揃う:同じ場所に入るので、クローン間のばらつきが減ります
- 選抜が短い:候補を大量にスクリーニングする必要が減ります
- 遺伝的安定性が読みやすい:どこに何が入っているかが分かっている状態から始まります
大きな配列を入れられる点も効きます。プライム編集や塩基編集は数塩基の変更に強い一方、キロベース規模の挿入は不得手です。リコンビナーゼは大きな配列をまとめて入れられるため、遺伝子まるごとの導入という用途では役割が違います。
細胞治療での位置づけ
CRISPRを使う細胞治療でも、決まった場所に入れることの価値は同じです。CARの遺伝子を狙った座位に入れれば、発現が揃い、ベクターコピー数の規格も意味を持ちやすくなります。論理ゲート型の設計のように回路が複雑になるほど、入る場所が揃っていることの重みは増します。
一方で、ランディングパッドを先に入れる工程が必要な以上、患者由来の細胞をその場で改変する用途にそのまま使えるわけではありません。適しているのは、あらかじめ細胞を作っておける他家の細胞や、iPS細胞を起点とする製品です。
※ 本ページは公開情報(Nature Biotechnology の掲載情報)をもとにしたProglenth編集部による整理です。研究内容・効率・適用範囲の詳細は一次情報をご確認ください。