MaxCyte が、ゲノム編集治療のオフターゲット評価を強化する 「CHANGE-seq-BE」 と 「ONE-seq-BE」 を投入した。Manufacturing Chemist の報道によれば、塩基編集が臨床へ進み、規制当局がゲノムの安全性について感度が高く直交的(orthogonal)な手法を重視するようになっていることが背景にあるとされる。
名称の「-BE」は塩基編集(base editing)を指すと読める。既存のヌクレアーゼ向け手法を、塩基編集用に作り直したという位置づけになる。
塩基編集では「切れたかどうか」が使えない
オフターゲットの検出で確立されてきた手法の多くは、二本鎖切断(DSB)を検出する設計をとる。GUIDE-seq、DISCOVER-seq、そして in vitro で切断部位を網羅する CHANGE-seq。いずれも「Cas が切った場所」を探す。
塩基編集は、この前提を外れる。
- 二本鎖切断を起こさない。ニッカーゼと脱アミノ酵素の組み合わせで、標的の1塩基を化学的に変換する
- したがって切断部位を探す手法では検出できない
- 代わりに探すべきは、意図しない場所で起きた塩基置換である
これは検出の難易度が上がることを意味する。切断は「あるかないか」だが、塩基置換はバックグラウンドの変異と区別しなければならない。シーケンシングの誤り率、細胞集団に元々ある多型、PCRの誤り。目的の信号はこれらに埋もれる。
さらに、塩基編集特有のRNAへのオフターゲットもある。脱アミノ酵素は DNA だけを基質とするとは限らず、転写産物を編集しうる。
「直交的」であることの意味
報道が「orthogonal(直交的)」という語を使っている点は、この分野の評価の組み立てを反映している。
単一の手法で網羅性を主張するのは難しい。どの手法にも、原理に由来する見落としがある。
- in vitro の手法(精製DNAに酵素を作用させる):感度は高いが、クロマチン構造や細胞内の条件を反映しない。偽陽性が出る
- 細胞ベースの手法:実際の条件を反映するが、頻度の低い事象を捉えられない。偽陰性が出る
- 計算による予測(配列の相同性から候補を挙げる):網羅的だが、実測ではない
したがって実務では、原理の違う手法を組み合わせ、それぞれの候補リストの重なりと差を見るという形になる。CHANGE-seq 系(in vitro で網羅)と ONE-seq 系(計算で候補を挙げ、実測で絞る)を並べて出すのは、この組み合わせを1社で揃えるという設計と読める。
規制側が何を見ているか
遺伝子改変を伴う細胞・遺伝子治療では、挿入部位に起因する遺伝毒性の評価が申請の中核に入る。ゲノム編集の場合、問われるのは次の点である。
- どの手法で、どこまでの感度で探したか
- 見つかった候補を、どう絞り込んで検証したか
- 残存するリスクを、どう評価したか
ここで「1つの手法で候補が出なかった」という主張は通りにくい。探し方の妥当性そのものが審査の対象になるためである。分析法の妥当性確認と同じ構造だが、対象がゲノム全体である分、網羅性の立証が難しい。
評価を外に出すか、自社で持つか
この種の評価は、専門的な実験系と解析パイプラインを要する。多くの開発企業は受託に出す。
受託に出す場合の論点は、他の分析法の移管と共通する。
- 手法の詳細がどこまで開示されるか。ブラックボックスのままでは、当局への説明ができない
- 検体の送付と保管の条件。ゲノムDNAの品質が結果に効く
- 開発の各段階で繰り返す必要があるため、継続的に依頼できるか
一方、装置メーカーがこの層のサービスを持つことには、別の意味もある。MaxCyte は電気穿孔法による非ウイルス的な細胞改変の装置を手がけており、導入する装置と、導入の結果を評価する手段を同じ供給者から得る構図になる。利便性と引き換えに、評価の独立性をどう担保するかという問いが生じうる。
コンパクトなCasヌクレアーゼの改良のように編集酵素そのものが更新され続けている以上、評価の側も追随を求められる。酵素が変われば、オフターゲットの様相も変わるためである。
※ 本ページは公開情報(Manufacturing Chemist の報道)をもとにしたProglenth編集部による整理です。手法の内容・性能・提供条件の詳細は一次情報および同社の公式発表をご確認ください。本文中の解説はゲノム編集のオフターゲット評価一般の構造に関する説明であり、当該製品の具体的な仕様を示すものではありません。