細胞培養基礎知識・培養

セルストレーナーの選び方とは?目開きと材質で決まる細胞の通り方

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セルストレーナーの選び方とは?目開きと材質で決まる細胞の通り方
この記事の要点
  • セルストレーナーは細胞懸濁液から塊・組織片・デブリを除き、単細胞に近い状態へ整える器具です。
  • 目開きは40・70・100µmが代表的で、通したい細胞の大きさと、下流の操作で何が詰まると困るかで選びます。
  • 細かくするほど塊は取れますが、通過時のせん断で生存率が落ち、回収率も下がります。

何のために通すのか

セルストレーナー細胞懸濁液を網目に通して細胞の塊や組織片を取り除き、ばらけた単一細胞に近い状態にそろえるためのフィルターです。詳しく →(cell strainer)は、メッシュ状のフィルターを持つ小さな器具で、細胞懸濁液を通して細胞の塊、未解離の組織片、デブリ破砕で生じる細胞の破片。過度な破砕で微細化すると後段の遠心・ろ過を妨げる。を取り除くために使います。ろ過という名前がついていますが、目的は液を澄ませることではありません。⁠細胞を1個ずつばらばらの状態に近づけることが目的です。

なぜ単細胞に近い状態が要るのかというと、下流の多くの操作が「細胞が1個ずつ独立していること」を前提にしているからです。

  • 細胞数の計数⁠:塊があると、何個ぶんなのか判定できません。自動セルカウンターでも塊はしばしば1個として数えられ、実際より少ない値が出ます。
  • フローサイトメトリー細胞を一つずつ測定し、表面マーカーや性質を調べる手法です。細胞の種類・純度・活性の確認に使います。詳しく →⁠:塊はノズルやフローセル液体サンプルを一定の流れで流しながら光学的に撮像・計測するための、装置内部に組み込まれた薄い流路構造体。を詰まらせ、測定そのものを止めます。
  • 播種⁠:塊のまま播くと、密度が場所によってばらつきます。
  • シングルセルクローニング:1ウェルに1細胞であることが前提なので、塊は成立条件を壊します。
POINT

セルストレーナーは液を澄ませる道具ではなく、細胞を1個ずつに分ける最後の仕上げです。下流の操作が何を前提にしているかで、必要な目開きが決まります。

目開きの選び方

一般的なセルストレーナーの目開きは40µm、70µm、100µmです。選ぶ基準は2つあります。

1つ目は、通したい細胞の大きさです。 通す細胞より小さい目開きを選べば、細胞そのものが引っかかってしまいます。培養細胞の多くは10〜20µm程度なので40µmでも通りますが、大きい細胞や、伸展した状態の細胞では余裕を見る必要があります。

2つ目は、下流の操作で何が困るかです。 フローサイトメトリーのように細い流路を通す操作では、詰まりの原因を確実に除きたいので細かい目開きを選びます。一方、播種して培養するだけなら、多少の小さな塊は培養中にほどけるので粗くて構いません。

実務上の目安としては、次の考え方が使えます。

  • 40µm⁠:フローサイトメトリー、セルソーティング、シングルセル解析の前処理細胞移植の前に患者へ行う処置。生着の場を空けるために既存の骨髄細胞を減らす目的で実施される。。詰まりを最も嫌う場面。
  • 70µm⁠:組織解離薬分子が水溶液中で電荷を帯びたイオン型と電荷を持たない非イオン型に分かれる現象で、体内のpH環境によって割合が変化する。後の一次処理、リンパ球など小型細胞の調製。汎用的な位置づけ。
  • 100µm⁠:大きな組織片を粗く落とす最初の段階。この後さらに細かいメッシュに通す前提。

組織から細胞を取り出す場合は、⁠粗いメッシュから細かいメッシュへ段階的に通すのが定石です。いきなり40µmに通すと、大きな組織片でメッシュが塞がり、その後の液が流れなくなります。

細かくすれば良いわけではない

「詰まるのが困るなら、いつも一番細かいものを使えばよい」とはなりません。メッシュを通すこと自体が細胞にストレスを与えるためです。

  • せん断流れの中で分子にかかる物理的な力。強すぎると抗体の凝集や微粒子発生を招く。による損傷⁠:細い隙間を通るとき、細胞は変形を強いられます。もともと弱っている細胞、大型の細胞、初代培養組織から分離した細胞を最初に立ち上げる培養。ドナー差により性質がばらつきやすい段階です。の細胞では、通過後に生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。が落ちることがあります。
  • 回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。の低下⁠:メッシュに引っかかる細胞、器具の壁に残る細胞のぶんだけ、回収できる数が減ります。希少な細胞を扱う場面では無視できません。
  • 目的の集団の偏り⁠:大きい細胞ほど引っかかりやすいので、細かいメッシュを通した後の集団は、元の集団より小型細胞に偏る可能性があります。

したがって、⁠下流の操作が許容する範囲で、できるだけ粗い目開きを選ぶのが合理的です。詰まりを避けたいという理由だけで細かくすると、測りたかった細胞そのものを失うことがあります。

通し方で結果が変わる

同じストレーナーを使っても、通し方で回収率と生存率は変わります。

  • 無理に押し込まない⁠:ピストンで押し出すと、通過時のせん断が強くなります。自重で落ちる速さを基本にします。
  • 塊が溜まったら替える⁠:メッシュ上に塊が積もると、実質的な目開きが細かくなり、後半ほど細胞が通らなくなります。処理量に対してメッシュが小さすぎないか、事前に確認します。
  • 前もって湿らせる⁠:乾いたメッシュは細胞が張り付きやすく、回収率が落ちます。バッファで濡らしてから使います。
  • 洗い込む⁠:通した後、メッシュを少量のバッファで洗うと、残った細胞を回収できます。ただし液量が増えるので、この後の濃縮工程との兼ね合いで決めます。

解離が足りないときの見分け方

ストレーナーで塊が多く取れる場合、原因はその前の解離工程が不十分であることが多くなります。ストレーナーは塊を「取り除く」器具であって、「ほどく」器具ではありません。塊のまま除かれた細胞は、そのまま回収率の損失になります。

解離が足りているかは、通す前の懸濁液を顕微鏡で見れば判断できます。塊が目立つなら、酵素処理の時間や濃度、機械的な処理の強さを見直すほうが、細かいメッシュを使うより結果が良くなります。逆に、解離を強くしすぎれば今度は生存率が落ちるので、両側から挟んで条件を決めることになります。

まとめ

  • セルストレーナーは細胞を1個ずつに近づける仕上げの器具。液を澄ませるためのものではない。
  • 目開きは40・70・100µmが代表。通したい細胞の大きさと、下流の操作が何を嫌うかで選ぶ。
  • 細かくするほど塊は取れるが、せん断で生存率が落ち、回収率も下がり、集団が小型側に偏りうる。
  • 塊が多いときは、メッシュを細かくするより前段の解離条件を見直すほうが効く。

参考文献

  • 日本薬局方 参考情報「細胞加工製品の品質管理遺伝子治療製品の品質・安全性・有効性を保証するために製造・出荷の各段階で実施する試験・管理の総体。」(厚生労働省)
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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、細胞培養に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。