疾患モデルマウスの作り方とは? 遺伝子改変・異種移植・ヒト化という三つの道
標的を確かめ、細胞ベースの疾患モデルで仮説を立てたら、いよいよ「生きた個体」で病態を再現する段階に入ります。培養皿では見えない血流・免疫・代謝まで含めて薬が本当に効くかを問うには、疾患を再現したマウスが要ります(オルガノイドの有効性モデルの先にある工程です)。では、マウスに疾患をどう作るのか。方法は多彩ですが、大きく三つの道に整理できます。遺伝子を変える、ヒトの組織を移植する、外から誘発する——本記事では、それぞれの作り方と、何を再現したいかでモデルを選ぶ考え方を整理します。

- 遺伝子改変マウス(GEMM)は、遺伝子を加える・壊す・置き換えることで病態を作り、Cre-loxPやCRISPRで組織特異的・高速な作製ができます。
- 異種移植はヒト腫瘍を免疫不全マウスに移植する担がんモデルで、細胞株由来のCDXと患者腫瘍由来のPDXがあり、ヒト免疫や肝を持たせたヒト化マウスも使われます。
- 化学誘発や食餌性などの誘導モデルも含め、「何を再現したいか」でモデルを選び、ヒトとの差という限界を織り込んで読むことが要点です。
遺伝子を変えてつくる — 遺伝子改変マウス(GEMM)
病気の原因遺伝子がわかっているなら、その遺伝子そのものを操作して病態を再現できます。これが遺伝子改変マウス(GEMM=genetically engineered mouse model)です。手法は目的に応じていくつかあります。
- トランスジェニック:外から遺伝子を加えて過剰に働かせる。がん遺伝子本来は細胞増殖を促す正常遺伝子だが、活性化するとがん化のきっかけになりうる遺伝子。を発現目的タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞内で転写・翻訳させ、機能的なタンパク質として産生させる工程。させて腫瘍を作る、といった使い方です。
- ノックアウト遺伝子を機能破壊する編集。切断後のNHEJで生じるインデルが読み枠をずらして機能を失わせる。(KO):特定の遺伝子を壊して働きを失わせ、その遺伝子が欠けると何が起きるかを見ます。
- ノックインゲノムの狙った座位に目的の遺伝子を組み込むこと。挿入位置を制御でき挿入変異リスクを抑える。(KI):遺伝子を狙った配列に置き換える。ヒト型の変異や、ヒトの遺伝子そのものを入れることもできます。
さらに、遺伝子を全身で常に変えると発生に影響したり致死になったりするため、特定の組織・特定のタイミングだけで変える工夫が使われます。代表がCre-loxP系で、loxPという目印で挟んだ配列を、Creという酵素を発現させた組織でだけ切り出す仕組みです。これで条件付き(コンディショナル)・組織特異的なモデルが作れます。近年はゲノム編集標的の遺伝子を狙って改変する技術。他家CAR-TでTCRを壊してGvHDを抑えるなどに使う。のCRISPR-Cas9が加わり、狙った改変を直接・短期間で導入できるようになって、作製は大きく高速化しました。
GEMMは「加える・壊す・置き換える」の三つが基本で、Cre-loxPで“どこで・いつ”変えるかを制御します。原因遺伝子がはっきりした疾患の再現に強い一方、作製と交配に時間がかかるのが課題でした。CRISPRはこの時間を大きく縮めています。
ヒトの組織を移植してつくる — 異種移植とヒト化
がんのように「ヒトの細胞そのものを相手にしたい」場合は、ヒトの組織をマウスに移植します。ただしヒト細胞は普通のマウスでは免疫に排除されるため、免疫を欠いた免疫不全マウス(NSGなど)を使います。これが異種移植(xenograft免疫不全マウスにヒト腫瘍細胞株を移植し、腫瘍縮小で薬効を見るモデル。)による担がんモデルです。移植するもとの違いで二つに分かれます。
- CDX(cell line-derived xenograft):株化したヒト腫瘍細胞株を移植する。均一で扱いやすく、スクリーニングに向きます。
- PDX(patient-derived xenograft患者の腫瘍組織をそのまま免疫不全マウスに移植し、元の多様性や構造を保つモデル。):患者さんの腫瘍組織をそのまま移植する。もとの腫瘍の多様性や構造を保ちやすく、臨床での反応を写しやすいとされます。
ただし免疫不全マウスでは、肝心のヒトの免疫が働いていません。そこで、ヒトの造血幹細胞血液細胞のもとになる幹細胞。採取して体外で遺伝子を編集し、体内に戻す治療に使う。や免疫細胞を移植してヒト免疫系を持たせたり、ヒト肝細胞を移植してヒトに近い薬物代謝をさせたりしたヒト化マウス免疫不全マウスにヒトの細胞や遺伝子を持たせ、ヒトの免疫系や標的を再現したモデル。が使われます。ヒトの免疫を介した作用(がん免疫療法など)や、ヒト特有の代謝の評価に力を発揮します。PDX患者の腫瘍組織をそのまま免疫不全マウスに移植し、元の多様性や構造を保つモデル。にヒト免疫系を組み合わせたモデルも登場しています。
誘発してつくる、そしてモデルの選び方
遺伝子や移植を使わず、外からの刺激で病態を起こす誘導モデルもあります。化学物質で発がんや臓器障害を起こす化学誘発、高脂肪食で肥満・糖尿病を作る食餌性肥満(DIO=diet-induced obesity)などが代表です。単一の遺伝子に帰せない生活習慣病や、環境要因の関わる病態を再現するのに向きます。
道が複数あるからこそ、問われるのは「何を再現したいか」です。原因遺伝子が明確ならGEMM、ヒト腫瘍そのものを相手にするなら異種移植免疫不全マウスにヒト腫瘍細胞株を移植し、腫瘍縮小で薬効を見るモデル。、ヒト免疫や代謝まで見たいならヒト化マウス抗体の抗原認識部だけを残し、それ以外をヒト配列に置き換えて免疫原性を下げる工程。、生活習慣が関わるなら誘導モデル——目的から逆算してモデルを選びます。
| モデルの型 | 主な作り方 | 向く用途 |
|---|---|---|
| 遺伝子改変(GEMM) | 遺伝子を加える/壊す/置き換える | 原因遺伝子が明確な疾患 |
| 異種移植(CDX/PDX) | ヒト腫瘍を免疫不全マウスへ移植 | 抗がん剤の有効性評価 |
| ヒト化マウス | ヒト免疫系・ヒト肝などを付与 | がん免疫療法・ヒト代謝 |
| 誘導モデル | 化学物質・食餌などで誘発 | 生活習慣病・環境要因 |
どのモデルにも共通する限界が、ヒトとの差(種差)です。マウスの病態はヒトより単純で均質になりがちで、遺伝背景も免疫も代謝もヒトとは異なります。そのため、動物で効いてもヒトで効くとは限りません。この限界を踏まえ、近年はヒト由来細胞やオルガノイド幹細胞から臓器を模した立体構造(オルガノイド)を育てるためのキットで、基底膜マトリックスなどの環境を提供します。詳しく →を使った動物実験代替(NAMs)も併用し、複数の証拠を重ねてヒトへの当てはまりを高める方向に進んでいます。
まとめ
疾患モデルマウスの作り方は、遺伝子を変えるGEMM、ヒト組織を移植する異種移植・ヒト化、外から誘発する誘導モデルという三つの道に整理できます。どれを選ぶかは「何を再現したいか」で決まり、Cre-loxPやCRISPR狙った箇所のゲノム配列を書き換える技術。変化が恒久的で、オフターゲットのリスクが加わる。、ヒト化といった技術がその実現を支えます。ただしいずれもヒトの近似にすぎず、種差という限界は残るため、単一のモデルを過信せず複数の証拠を重ねることが大切でした。
そして、こうして作った有効性モデルで「効く」ことが見えたら、開発は次の非臨床評価へ進みます。安全に人へ届けるための初回投与量の設計(NOAELからHED/MRSD)などが、その先に控えています。
参考文献
- Heyer J, Kwong LN, Lowe SW, Chin L. Non-germline genetically engineered mouse models for translational cancer research. Nat Rev Cancer. 2010. PubMed
- Hidalgo M, Amant F, Biankin AV, et al. Patient-derived xenograft models: an emerging platform for translational cancer research. Cancer Discov. 2014. PubMed
- Shultz LD, Brehm MA, Garcia-Martinez JV, Greiner DL. Humanized mice for immune system investigation: progress, promise and challenges. Nat Rev Immunol. 2012. PubMed
- The Jackson Laboratory. What is a (JAX) humanized mouse免疫不全マウスにヒトの細胞や遺伝子を持たせ、ヒトの免疫系や標的を再現したモデル。? (JAX Blog, 2025). jax.org
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