ハイコンテント・イメージング(HCA)装置の選び方:再現性を先に見る

ハイコンテント・イメージング(HCA)の装置のカタログには、「1ウェルから1,500の特徴量」といった数字が並びます。数の多い装置ほど、多くの情報が取れそうに見えます。ところが導入してから壁になるのは特徴量の数ではなく、撮った画像を日をまたいで比べられるかどうかです。
HCAは、培養細胞を蛍光で染め、プレートの全ウェルを自動で撮影して、細胞の形や構造の変化を数値にする方法です。化合物の効き方を細胞の姿で見る表現型スクリーニングや、毒性評価に使われます。装置選びで先に見るべきは、自社のサンプルの厚みと、撮り直しても揺れないデータが取れるかどうかです。
共焦点か広視野か ― サンプルの厚みと日程で決める
共焦点と広視野に優劣はありません。決まるのは、サンプルの厚みと、その実験で何を見たいかです。
広視野(ワイドフィールド)は、焦点の外の光も一緒に集めるぶん、1枚を速く撮れます。単層に広がった細胞を数万の化合物でふるいにかける初期のスクリーニングなら、これで足ります。共焦点は、焦点面以外の光を除いて薄い断面だけを像にする方式です。数百マイクロメートルの厚みをもつスフェロイド細胞を立体的に凝集させた塊。腫瘍を模した3D培養などに使う。詳しく →やオルガノイド(細胞を立体的に培養した塊)の内部を見るには、この方式の出番です。そのかわり、撮影に時間がかかります。
| 方式 | 向くサンプル | 向く場面 | 注意 |
|---|---|---|---|
| 広視野 | 単層の培養細胞 | 数万化合物規模の初期スクリーニング | 厚いサンプルの内部はぼやける |
| 共焦点 | スフェロイドなど厚いサンプル | ヒットの確認、3Dモデルの評価 | 撮影が遅く、日程に響く |
| 切り替え型 | 両方 | 初期は広視野、ヒット確認だけ共焦点 | 方式で数値が変わるので、段階をまたぐ比較に注意 |
共焦点の代表機は、RevvityのOpera Phenix Plusや横河電機のCellVoyager CV8000です。Molecular DevicesのImageXpress Micro Confocalは、共焦点と広視野を切り替えられます。3Dモデルの培養はオルガノイド培養キットのページで扱っています。
どちらの失敗が自社のアッセイで重いかで決めます。像がぼやける失敗を嫌うなら共焦点へ、日程に収まらない失敗を嫌うなら広視野へ寄せます。
レンズ・プレート・自動化 ― 装置の外側も含めて選ぶ
光学方式を決めても、レンズとプレートが合わなければ性能は出ません。
カタログで目に入るのは、対物レンズのNA(開口数、集光能力の目安)です。NAが高いほど細部が写って明るく撮れますが、視野は狭くなります。Opera Phenix Plusでは、水浸の高NAレンズを選ぶと視野が大きく狭まり、作動距離(レンズとサンプルの距離)も短くなります。同じウェルを撮るのに何倍も多くの視野をつなぐので、撮影時間はむしろ伸びることがあります。NAは画質の数字で、撮影の速さを保証する数字ではありません。速度のカタログ値も、プレートの種類や色数が決まった条件つきです。横河電機はCV8000について、96ウェルプレートを4色で撮るのに1分と公表していますが、自社の細胞とプレートで何分かかるかは、デモ機で測ってもらうのが確実です。
プレートの底面も、系の一部です。水浸の高NAレンズには、底面が0.2 mmほどの薄いフィルムでできたプレート(RevvityのPhenoPlateなど)を合わせます。ウェル数を384、1536と増やすほど、分注を受け持つ自動化装置(TecanのFluentやHamiltonのMicrolab STARなど)が要ります。CV8000のようにピペッタを内蔵できる機種なら、刺激を加えた数秒後の変化を、プレートを動かさずに撮れます。自動化ラインのない研究室は、ベンチトップ型(横河電機のCQ1など)という選択もあります。分注装置はリキッドハンドリングのページで、経時変化を追うならライブセルイメージングのページで比べられます。
レンズ、プレート、分注装置は、一つの系として同時に選びます。
特徴量の数より再現性 ― Cell PaintingとJUMPの教訓
染色をそろえないと、装置を変えるたびにデータは比べられなくなります。この染色を標準化した代表が、Cell Paintingです。
2016年にBrayらがNature Protocolsで発表した手順では、6種類の蛍光色素で核・小胞体真核細胞内でタンパク質の折りたたみや分泌経路への送り出しを担う区画。酵母は持ち、大腸菌にはない。詳しく →・ミトコンドリア・アクチン細胞骨格・ゴルジ体など8つの構造を染め分け、5つのチャネルで撮ります。画像は無償のCellProfilerで解析し、細胞1個あたり約1,500の形態特徴量を取り出します。この数字は、撮れる情報の上限です。撮影日やプレート、試薬のロットが変わるたびに値がずれれば、使える情報は減ります。このずれがバッチ効果です。イメージングは多次元のデータなので、Z′因子のような1つの数字では、ずれを見つけにくくなります。
ずれの大きさを示す実例が、Broad Instituteが主導するJUMP Cell Painting Consortiumです。製薬企業10社、技術企業6社、非営利団体2つが参加し、12の拠点で撮影しました。プレプリントの時点で、化合物は約116,750種、遺伝子の過剰発現は12,602種、CRISPRによるノックアウト遺伝子を機能破壊する編集。切断後のNHEJで生じるインデルが読み枠をずらして機能を失わせる。詳しく →は7,975種でした。題名にある136,000の摂動は、これらをまとめた呼び名です。この規模を同じ手順で集める狙いの一つは、拠点や試薬ロットをまたいでも崩れない補正の方法を、実データで検証することでした。
だから、メーカーの担当者に聞くのは「何色まで撮れるか」ではありません。「同じプレートを日を置いて撮り直したとき、特徴量がどれだけばらつくか」です。自社で確かめるなら、各プレートに共通の対照ウェルを置き、日をまたいで同じ値が出るかを見ます。
装置の性能は1回の撮影で決まりますが、データの価値は、撮り直しても揺れない範囲で決まります。
解析ソフト ― 装置付属か、メーカーをまたぐ無償ソフトか
解析ソフトは、装置とセットで売られています。
Revvityの装置にはHarmony、Molecular DevicesにはMetaXpress、横河電機にはCellPathfinderが付きます。Harmonyは3Dの共焦点データから体積や表面積まで測れ、機械学習のプラグインPhenoLOGICで、目視では見分けにくい表現型も分類できます。CellPathfinderは、染色しない明視野の画像も解析できます。一方、CellProfilerのような無償ソフトなら、メーカーの違う装置の画像を同じパイプラインで解析できます。Cell Paintingが施設をまたいで使われているのは、この互換性があるからです。
選ぶときの問いは、画像を標準的な形式で書き出して、別のソフトで同じ解析ができるかどうかです。装置を入れ替えるときや、他施設とデータを合わせるときに効いてきます。ソフトの選定は撮影後でも変えられるので、装置選びと同時に固める必要はありません。
明日から確かめられること ― 選ぶ順番と確認点
先に決めるのは、サンプルの厚みと実験の目的です。厚い3Dモデルを内部まで見るなら共焦点、単層で数を稼ぐなら広視野へ倒し、両方要るなら切り替え型を選びます。次に、光学方式に合うレンズとプレート、ウェル数と分注の規模を決めます。そのうえで解析ソフトを選び、最後に、同じプレートを日を変えて撮り直して、特徴量のばらつきを数値で押さえます。この確認を後回しにすると、導入してから気づくことが多いのです。
デモや見積もりの段階で、次の点を確かめてください。
- 自社の細胞とプレートで、1プレートを撮り終えるまでの時間を測ったか。カタログ値と条件が同じか
- 厚いサンプルを扱うなら、自社のスフェロイドの内部が像になるか
- 同じプレートを日を置いて撮り直し、特徴量のばらつきを見たか
- 画像を標準的な形式で書き出し、別のソフトで解析できるか
- 分注の自動化とプレートの底面が、選んだ装置と合っているか
特徴量の数を最初に見ないのが、この順番のいちばんの要点です。
参考文献
- Revvity, Opera Phenix Plus 製品情報(水浸対物レンズのNAと作動距離、視野)
- Molecular Devices, ImageXpress Micro Confocal 製品情報(共焦点と広視野の切り替え)
- Yokogawa Electric, CellVoyager CV8000 Bulletin 80H01D01-01E(撮影速度、ピペッタの内蔵)
- Bray MA, et al. Cell Painting, a high-content image-based assay for morphological profiling using multiplexed fluorescent dyes. Nature Protocols. 2016(6色素・5チャネル、8つの細胞内構造、約1,500の特徴量)
- Chandrasekaran SN, et al. JUMP Cell Painting dataset: morphological impact of 136,000 chemical and genetic perturbations. bioRxiv. 2023(化合物116,750種、過剰発現12,602種、ノックアウト7,975種。12拠点、製薬10社・技術企業6社・非営利団体2つ)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/high-content-imaging-analysis-hca