ターゲットバリデーションとは?薬が効いても標的が正しいとは限らない理由

ターゲットバリデーション選んだ標的が本当に病態を動かすかを検証すること。詳しく →(標的検証)は、薬を作る前に選んだ標的のタンパク質に作用すれば病気が変わるかを、前臨床(ヒトに投与する前)の実験で確かめる仕事です。創薬の研究員が、その標的に何年もの開発を賭けてよいかを決める材料です。
一方で、薬が標的に当たり、期待した反応が出ても、標的が正しかったことにはなりません。臨床試験に進んだ薬でも、実は別のものに効いていた例や、標的は動いたのに病気は動かなかった例が報告されています。
何が示されれば「検証できた」と言えるのか、そして提案書や報告書をどの順に読めばよいかが分かります。
- 検証できたと言えるのは:薬が設計どおり働いたことと、標的を動かすと病気が動くことを、別々に示したときです。
- 化合物の効き目で足りないのは:狙った標的以外に効いている可能性を消せないからです。
- 報告書で最初に見るのは:届いた・結合した・下流が動いたの3つが測られているかです。
1. 標的が「検証できた」と言えるのは、何が示されたときか
薬が設計どおり働いたことと、その標的を動かすと病気が動くことの2つが、別々の実験で示されたときです。 前者は薬の性能の問いで、後者が標的そのものの問いです。
前者を確かめる考え方は、ファイザーの研究者らが2012年にまとめています。同社の44の開発計画の第2相での判断を振り返ると、失敗の多くは有効性の欠如によるもので、さらに全体の43%では、狙った仕組みを十分に試せたのかどうかさえ判断できませんでした(Morgan、2012年)。
著者らは、第2相を生き残るための条件を「3つの柱」として挙げました。
- 曝露:薬が、標的のある組織に届いたか。
- 標的への結合:薬が標的に結合したか。これをターゲットエンゲージメントと呼びます。
- 機能的な反応:期待した薬理の反応が出たか。

3つを前臨床で測っておけば、臨床で効かなかったときに、届いていなかったのか、当たっていなかったのか、標的が違ったのかを切り分けられます。ここで読者が思うのは、3つがそろえば標的も正しいと言えるのでは、という疑問でしょう。
2. 標的が動いたのに、なぜ病気が動かないことがあるのか
標的の活性を下げることと、その標的が病気の原因として効いていることは、別のことだからです。 3つの柱がそろっても、示せるのは薬が標的を動かしたところまでです。
ベルベセスタット(verubecestat)が、その例です。アルツハイマー病でアミロイドβを作る酵素 BACE1 を止める薬で、髄液のアミロイドβを大きく下げることが確かめられていました。
それでも、軽度から中等度の患者約2,000人を78週追う試験は、効果が見込めないとして早期に中止されました(Egan、2018年)。より早い段階の患者を対象にした試験でも、認知機能の改善は見られませんでした(Egan、2019年)。
届いた・結合した・下流が動いたがそろっても、標的が病気を動かす証拠にはなりません。 その証拠は、標的を別の手段で動かしたときにも病気のモデルが動くかで取ります。どの手段を使うかで、見落とすものが変わります。
3. 化合物の効き目は、なぜ標的を壊した細胞で確かめるのか
化合物は狙った標的以外にも作用することがあり、標的が無い細胞でも効くなら、効き目は別の何かから来ていると分かるからです。がん細胞で MELK という遺伝子をゲノム編集標的の遺伝子を狙って改変する技術。他家CAR-TでTCRを壊してGvHDを抑えるなどに使う。詳しく →の技術(CRISPR)で壊しても、細胞はふつうに増えました。ところが、MELK を狙って臨床試験に進んでいた阻害剤は、MELK の無い細胞も殺しました(Lin、2017年)。同じグループは別の薬 OTS964 でも、薬に耐えて生き残った細胞の遺伝子を調べ、CDK11 に変異があったことから、そちらが本当の標的だと報告しています(Lin、2019年)。
標的を動かす手段ごとに、答えられることと見落とすことが違います。
- ツール化合物:投与量を変えられ、止めれば元に戻るので薬に近い実験ができますが、標的以外への作用を見落とします。構造の違う別の化合物でも同じ結果になるかを確かめます。
- 遺伝子操作:siRNA で発現を減らすノックダウンや、CRISPR で遺伝子を壊すノックアウト遺伝子を機能破壊する編集。切断後のNHEJで生じるインデルが読み枠をずらして機能を失わせる。詳しく →は、標的そのものを減らせます。発生の途中から標的が欠けると補う仕組みが働き、成体で薬が一時的に抑える場合と結果が違うことがあります。
- 核酸の投与:アンチセンス核酸や siRNA二本鎖の短いRNAで、RISC(Ago2)を介して標的mRNAを分解する核酸医薬。ASOと製造基盤を共有する。詳しく → を動物に投与すれば、一定期間、標的を下げた状態で病態を追えます。届く臓器が肝臓などに限られる点が制約です(アンチセンス核酸)。
どの手段も単独では決め手になりません。原理の違う手段で同じ向きの結果が出るか、とくに標的を壊した細胞で化合物の効き目が消えるかを突き合わせます。 遺伝子操作の結果は、独立した複数の配列で再現するか、壊した標的を戻すと元の表現型に戻るか(レスキュー)でも確かめます。
4. 細胞で確かめた結果は、動物でも同じと言えるのか
同じとは言えず、モデルが病気のどの面を再現しているかの範囲でしか言えません。 生体では、薬の体内での動き、補う経路、組織の環境が加わるため、細胞できれいに効いても同じように動かないことがあります。
細胞では、まず標的がその細胞に発現しているかを確かめます。発現していない細胞で表現型を論じても、その標的の話にはなりません(細胞を使った疾患モデル)。
動物モデルは、遺伝子を改変したものでも薬で誘発したものでも、再現できるのは病気の一部です。すでに効くと分かっている薬(陽性対照)がそのモデルで効くかが、モデルを信じてよいかの手がかりです(疾患モデルマウス)。
効くことと同じ重さで、抑え続けて害が出ないかも見立てます。標的がどの臓器で働くか、遺伝子を欠いた動物や機能を失う変異を持つ人に何が起きるかが材料です。ただし遺伝子を欠いて生まれた動物の表現型は、成体で薬が一時的に抑える状況と同じではありません(非臨床の毒性試験)。
5. 提案書や報告書は、どの順に確かめればよいか
最初に、薬の性能を示す3つの柱が測られているかを見て、そのあとで標的と病気の結びつきを示す実験を見ます。 順番を逆にすると、効かなかった結果が標的のせいか薬のせいかを決められません。
- 届いた・結合した・下流が動いた(3つの柱):標的のある組織での濃度、標的への結合の証拠、下流の指標の変化が、それぞれ測られているか(薬の作用を示す指標(PD)の評価)。
- 化合物の対照:構造の違う別の化合物でも同じ結果か、似ているのに効かない対照の化合物と結果が分かれるか。
- 遺伝子操作との突き合わせ:標的を壊した細胞で化合物の効き目が消えるか、遺伝子操作の結果を複数の配列で再現したか。
- モデルの範囲:モデルが再現する面と、しない面が書かれ、陽性対照が効いているか。
- 進む基準と止める基準:結果が出る前に、何が示されれば進み、何が出たら止めるかが決められているか。
5つ目を先に決めておくのは、結果を見てから基準を作ると、都合のよい読み方になりやすいからです。学術研究で標的を評価するときの項目は、標的評価の推奨事項(GOT-IT、Emmerich ら、2021年)が整理しています。
参考文献
- Morgan P, Van Der Graaf PH, Arrowsmith J, et al. Can the flow of medicines be improved? Fundamental pharmacokinetic and pharmacological principles toward improving Phase II survival. Drug Discov Today. 2012;17:419-424.(第2相の判断の振り返りと3つの柱)
- Egan MF, Kost J, Tariot PN, et al. Randomized trial of verubecestat for mild-to-moderate Alzheimer's disease. N Engl J Med. 2018;378(18):1691-1703.
- Egan MF, Kost J, Voss T, et al. Randomized trial of verubecestat for prodromal Alzheimer's disease. N Engl J Med. 2019;380(15):1408-1420.
- Lin A, Giuliano CJ, Sayles NM, Sheltzer JM. CRISPR/Cas9ガイドRNAと複合体を作り、指定された配列でDNA二本鎖を切断するヌクレアーゼ。詳しく → mutagenesis invalidates a putative cancer dependency targeted in on-going clinical trials. eLife. 2017;6:e24179. doi:10.7554/eLife.24179(MELK)
- Lin A, Giuliano CJ, Palladino A, et al. Off-target toxicity is a common mechanism of action of cancer drugs undergoing clinical trials. Sci Transl Med. 2019;11(509):eaaw8412.(OTS964とCDK11)
- Emmerich CH, Gamboa LM, Hofmann MCJ, et al. Improving target assessment in biomedical research: the GOT-IT recommendations. Nat Rev Drug Discov. 2021;20(1):64-81.
次に、何を調べますか?
- 1標的選定とは?遺伝学の証拠は、どこまで強ければ進めるのか
- 2ターゲットバリデーションとは?薬が効いても標的が正しいとは限らない理由いま読んだ記事
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/target-validation-preclinical