低分子研究・創薬スクリーニング

表現型スクリーニングと標的ベーススクリーニング:どちらから攻めるか

スクリーニング戦略を選ぶ判断は、プロジェクトの出発点で行われるにもかかわらず、後の工程全体を縛ります。「どこに効かせるか」を先に決めて化合物を探すのが標的ベース(target-basedあらかじめ選んだ標的タンパク質への結合や活性変化を直接測る創薬探索。)スクリーニング、「どういう結果になってほしいか」を先に置いて化合物を探すのが表現型(phenotypic標的を先に決めず、細胞や組織で望ましい変化が起きるかで化合物を選ぶ創薬探索。)スクリーニングです。標的ベースは、狙う標的タンパク質に結合したり活性を変えたりする化合物を測ります。表現型分子が標的に結合するかなど、実際に現れる働き・性質のこと。は、標的を先に決めず、細胞や組織に化合物をかけて望ましい変化(表現型)が起きるかを見ます。

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表現型スクリーニングと標的ベーススクリーニング:どちらから攻めるか

この出発点の違いは、長所と短所の違いに直結します。標的ベースは機序がはっきりしている代わりに、その標的が本当に病気に効くのかという賭けを最初に背負う。表現型は病気に近い状態で効くものを直接拾える代わりに、後から「どこに効いたのか」を突き止める宿題が残ります。強みと弱みは、ちょうど裏返しの関係です。

では、どちらが優れているのか。単純な答えはなく、狙う疾患、標的の分かり具合、使えるアッセイ、開発の段階によって向き不向きが変わります。低分子創薬を中心に、両者を長所短所・first-in-class既存にない全く新しい作用機序を持つ医薬。創薬での実績・標的同定(デコンボリューション表現型で得たヒットが実際に作用している分子を突き止める作業。)・細胞/オルガノイドモデルの役割といった観点で並べていくと、「どちらから攻めるか」を決める勘所が見えてきます。

この記事の要点
  • 標的ベースは機序が明確な一方で標的選定に賭けが集中し、表現型は疾患に近い場で拾える一方で標的同定が宿題になります。
  • first-in-class創薬では表現型が優勢だったとの解析がありますが、特定期間の後ろ向き分類で普遍的な優劣ではありません。
  • どちらが優れるかは疾患や標的の分かり具合で変わり、両者を組み合わせる進め方が実務では増えています。

出発点の違いが生む二つの読み出し

標的ベーススクリーニングでは、あらかじめ選んだ標的タンパク質(酵素や受容体など)を精製、あるいは組換え発現させ、化合物がその標的に結合するか、活性を変えるかを直接測ります。読み出しは「標的に対する作用」なので、機序は最初から明確です。構造活性相関(SAR)を追いやすく、構造ベース設計とも相性がよく、ハイスループットスクリーニング(HTS)数万〜数十万の試料を同条件で測り、活性化合物(ヒット)を拾い上げる大規模なスクリーニング。に載せやすい。これが標的ベースの強みです。

表現型スクリーニング標的を先に決めず、細胞や組織で望ましい変化が起きるかで化合物を選ぶ創薬探索。では、細胞や組織、あるいはモデル生物に化合物をかけ、興味のある表現型(細胞死の抑制、分化、マーカーの変化、形態の変化など)が動くかどうかを見ます。標的を問わず「望んだ変化が起きたか」で拾うため、まだ知られていない機序や、複数の分子が絡む作用も拾える可能性があります。ただし、ヒットスクリーニングで活性を示し、次の確認に進める候補化合物。が出ても「何にどう効いたのか」は分からないまま始まる。これが表現型のスタート地点です。

つまり片方は「作用点」を、もう片方は「結果」を読み出しに据えます。この違いを長所短所の一覧に落とすと、次のようになります。

観点標的ベース表現型
起点標的分子望ましい表現型
機序の明確さ最初から明確後から同定が必要
HTS数万〜数十万の試料を同条件で測り、活性化合物(ヒット)を拾い上げる大規模なスクリーニング。への載せやすさ高い系による(高含量解析細胞の多くの表現型情報を画像から一度に取得する評価手法。など)
SAR・構造ベース標的タンパク質の立体構造に候補分子を当てはめ、うまくはまるかを直接評価する手法。ドッキングが中核。設計進めやすい標的が分かるまで進めにくい
未知の機序を拾う力低い(仮説に依存)高い
生物学的妥当性細胞系より低くなりがち疾患に近い場を作りやすい
主なリスク標的が病気に効かない標的が分からない・多標的

標的ベースの弱点は、標的選び(ターゲットバリデーション選んだ標的が本当に病態を動かすかを検証すること。)そのものに賭けが集中する点です。生化学アッセイで強く効いても、その標的が本当に病態を動かすとは限りません。細胞や動物、そして臨床で効かないことは珍しくない。標的が病態に効くかどうかの検証は、創薬の標的選定と疾患仮説の考え方と合わせて見ると理解しやすくなります。

表現型の弱点は、この裏返しです。機序が分からないまま進む不確かさと、拾ったヒットが複数の標的に作用している(ポリファーマコロジー一つの化合物が複数の標的に作用する性質。)可能性がつきまといます。SARを詰めたり毒性を切り分けたりするうえで、標的が分からないことは実務上の重い制約になる。だからこそ、後述の標的同定表現型で得たヒットが実際に作用している分子を突き止める作業。が鍵になります。

first-in-classでは、どちらが実績を残したか

過去の発見実績を振り返ると、両者の得意領域の違いが数字にも表れています。SwinneyとAnthonyは、1999年から2008年にFDAが承認した新規分子(new molecular entity)を、発見時にどの戦略で見つかったかで分類しました。その解析では、機序がまったく新しいfirst-in-class低分子薬50品のうち、標的ベースが約34%(17品)であったのに対し、表現型ベースは約56%(28品)を占め、残りは天然物由来の改変などでした。一方で、既存機序を踏襲するfollower薬では標的ベースが優勢でした(Swinney & Anthony, 2011)。

この結果がよく引用されるのは、「機序が未知の領域を切り拓くうえで、標的を先に固定しない表現型アプローチが有利だった」という解釈につながるからです。標的を決めないからこそ、まだ誰も狙っていなかった作用点にたどり着けた、という筋書きです。逆に、機序が既に分かっている改良型では、標的ベースの効率が生きたと読めます。

ただし、この対比を額面どおり受け取るのは危うい面があります。対象は特定の期間のFDA承認薬に限られ、「発見戦略」の分類には解釈の幅があります。近年は標的ベースの手法も大きく進歩しており、この数字をそのまま現在に当てはめるのは行き過ぎです(Swinney, 2013)。示唆として受け止めるのが妥当で、「表現型なら必ず勝てる」という話ではありません。

POINT

「first-in-classでは表現型が優勢だった」という解析は広く知られていますが、特定期間の承認薬に基づく後ろ向きの分類です。傾向として参考にする価値はある。ただし、普遍的な優劣を示す証拠ではない点は押さえておく必要があります。

表現型を選んだときに残る宿題:標的同定

表現型を選ぶと、標的同定(target deconvolution表現型で得たヒットが実際に作用している分子を突き止める作業。)という追加の作業が必ずついてきます。ヒットが出ても、標的が分からないままではSAR分子の構造をどう変えると効き目や毒性がどう変わるかの関係。化合物最適化の指針になる。の最適化や安全性評価が難しくなる。化合物が実際に作用している分子を突き止める必要が生じ、主な手段は化学的手法と遺伝学的手法に大きく分かれます(Kubota et al., 2019)。

手法の系統代表例考え方
化学プロテオミクス化合物に結合するタンパク質を捕まえ、質量分析で同定する標的探索の手法群。アフィニティ精製(化合物固定化ビーズ)、光アフィニティ標識光で化合物を標的に共有結合させ、結合相手を捕まえる標的同定法。(PAL)、活性ベースプローブ酵素の活性部位に結合するプローブで作用相手を捕まえる手法。(ABPP酵素の活性部位に結合するプローブで作用相手を捕まえる手法。)化合物に結合するタンパク質を捕まえて質量分析分子の質量を精密に測る手法。鎖の組み合わせ違いを分子量差として捉え純度評価に使う。で同定する
熱安定性抗体が熱に対して立体構造を保つ性質。融解温度(Tm)などで評価する。(標識フリー)細胞熱シフトアッセイリガンド結合でタンパク質の熱安定性が変わることを利用し、結合相手を探る手法。(CETSAリガンド結合でタンパク質の熱安定性が変わることを利用し、結合相手を探る手法。)リガンド担体ビーズ表面に結合させた官能基やタンパク質で、目的物や不純物と相互作用して分離を担う部分。結合でタンパク質の熱安定性が変わることを利用し、結合相手を探る
遺伝学的手法CRISPR狙った箇所のゲノム配列を書き換える技術。変化が恒久的で、オフターゲットのリスクが加わる。RNAi二本鎖RNAが配列特異的に標的mRNAを分解する仕組み。siRNAの作用機構の基盤。による遺伝子スクリーニング、耐性変異解析遺伝子を操作したときの効き方の変化から標的を推定する
計算的手法表現型プロファイルの類似性比較、ケミカルバイオロジー情報の統合既知化合物との挙動の似方から標的候補を絞る

これらは互いに排他的ではなく、複数を組み合わせて確からしさを高めるのが一般的です。たとえばCETSAは、プロテオーム規模で結合相手を探れるため、狙った標的だけでなく副作用につながりうるオフターゲット意図した標的以外の似た配列に結合・作用してしまうこと。核酸医薬の毒性や副作用の一因。の手がかりも得られます(CETSA review, Frontiers 2022)。

候補が挙がっても、「本当にその標的を介して効いているのか」を別の実験で裏づける工程が残ります。結合が見つかっても、それが表現型を動かした原因とは限らない。結合・機能・表現型の三つを結びつける確認が、標的同定の質を決めます。標的ベースにはそもそも存在しないこの工程が、表現型を選ぶコストの中心にあります。

表現型の勝敗を分けるモデルの妥当性

表現型が標的ベースに対して優位を主張できる根拠は「疾患に近い場で効くものを拾える」点にありました。だとすれば、その優位はどれだけ疾患を映した系を作れるかにそのまま左右されます。単純な不死化細胞株は扱いやすい反面、実際の病態から離れていることがある。そこで、iPS細胞由来の分化細胞、患者由来細胞、共培養、そして三次元のオルガノイド幹細胞から臓器を模した立体構造(オルガノイド)を育てるためのキットで、基底膜マトリックスなどの環境を提供します。詳しく →(臓器の一部を模した立体構造)など、より疾患に近い系を使う流れが広がっています。

産業側の視点をまとめたレビューでは、表現型アッセイを設計するときの三本柱として、(1)生理的に妥当な細胞種・形式を選ぶこと、(2)疾患の関連性を高める刺激を選ぶこと、(3)臨床のエンドポイントに近い読み出しを使うこと、が整理されています(Moffat et al., 2017)。妥当性の低い系では、ヒットを拾っても臨床につながりにくく、表現型が本来もつはずの優位が消えてしまいます。

もっとも、疾患に近い系ほど扱いが難しくばらつきも大きくなりがちで、HTSに載せる際にはスループットとの折り合いが必要になります。ここは標的ベースが載せやすさで勝るところです。高含量イメージング細胞の多くの表現型情報を画像から一度に取得する評価手法。のように多くの表現型情報を一度に取る手法は、こうした複雑な系から意味のある信号を引き出すために使われます。系の妥当性・スループット・読み出しの三者をどうバランスするかが、設計の要になります。

なお、こうした表現型のヒットも、最終的には測定系の品質評価と偽陽性の切り分けを通ります。アッセイのばらつきの評価はZ因子とアッセイ品質、干渉化合物の扱いはPAINSフィルターの考え方が共通して効いてきます。

どちらから攻めるか

ここまでの対比を、選ぶ側の目安に落とし込むと次のように整理できます。

  • 標的ベースが向きやすい場面⁠:標的と病態の結びつき(遺伝学的証拠など)がすでに強い、標的が創薬しやすい(druggable)、機序を明確にしたい、構造情報を使いたい場合。既存機序の改良(follower)にも向きます。
  • 表現型が向きやすい場面⁠:病態の分子機序がまだよく分かっていない、複数の分子が絡む、単一標的を狙っても効きにくいと予想される、疾患に近いモデルを作れる場合。first-in-classを狙う探索初期に力を発揮しやすいアプローチです。

二択で片方を捨てるより、両者を組み合わせる進め方が実務では増えています。表現型で拾ったヒットを標的同定して機序を裏づけ、そこから標的ベースの最適化に橋渡しする流れは典型例です。逆に、標的ベースで得た化合物を疾患に近い細胞系の表現型アッセイで確かめ、細胞レベルで本当に効くかを見る使い方もある。対比してきた強みと弱みが互いの裏返しである以上、補い合わせて機序と効き目の両方を確かめるのは自然な帰結です。

この選択の重みは、モダリティによっても変わります。抗体やsiRNA/ASO、mRNA-LNPのように標的や配列が作用の起点になるモダリティでは、標的を先に定めた設計が中心になりがちです。低分子は、標的を精製した生化学アッセイにも細胞表現型にも載せやすく、両アプローチを行き来しやすい点が特徴です。だからこそ低分子では、過去の実績に一喜一憂して片方に決め打つより、目の前の疾患と標的の分かり具合を見ながら出発点を選ぶことに、大きな価値が残ります。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、低分子に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。