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研究・DMPKシリーズDMPKの基本3/16入門

脂溶性(logP・logD)とは?飲み薬の候補を選ぶとき、なぜ測るのか

Proglenth 編集部公開 2026-08-03更新 2026-10-28約6分で読めます
脂溶性(logP・logD)とは?飲み薬の候補を選ぶとき、なぜ測るのか

脂溶性とは、化合物が水と油のどちらになじみやすいかを表す性質で、logP油と水への分配のしやすさ(脂溶性)を対数で表した値。計算値のcLogPやclogDで代用することも多い。詳しく →(分配係数)か logD(分布係数)という数値で表します。経口薬の候補化合物を選ぶ研究者や、そのデータをもとに製剤や申請資料を作る担当者が、腸からの吸収、水への溶けやすさ、代謝の受けやすさを予測するのに使います。

ただし、同じ化合物でも、データシートによって脂溶性分子が脂に溶けやすい性質。高いほど細胞膜を通り組織へ分配されやすく、分布容積が大きくなりやすい。詳しく →の値が1以上違うことがあります。測った pH と方法がそろっていないからです。

この記事では、logP と logD がそれぞれ何を表すのか、pH でなぜ値が変わるのか、目安の数値や他部署の値を自分の化合物と比べるときに何をそろえればよいのかを説明します。

この記事の要点
  • logPとlogDの違い⁠:logP は電荷を持たない形(中性形)だけの分配の比、logD は指定した pH で電荷を持つ形も含めた分配の比です。
  • 高いほどよいのか⁠:膜透過性は上がりますが、溶解性の低下や代謝などの問題も増えます。
  • 値を比べる前に⁠:計算値か実測値か、どの pH か、どの方法かをそろえます。

この記事の前提

初めての方は、先にこちらを読むと、この記事に出てくる言葉の意味が分かります。

  • pKa(酸解離定数)とは? pHでイオン化が変わる理由と、溶解度・膜透過性への影響pKa・中性形・イオン形・pH分配仮説約6分
  • DMPKとは?人で試す前に、薬の体内での動きをどう見積もるのかDMPK・ADME・吸収・代謝約6分

1. 脂溶性は、オクタノールと水への分かれ方で表す

脂溶性は、油と水を入れた容器で化合物を振り混ぜたあとの、油の層と水の層の濃度の比で表します。 油には 1-オクタノール(炭素8個の鎖の端に水酸基を持つアルコール)を使います。長い炭化水素の鎖と水酸基を併せ持ち、生体膜の性質におおまかに近いと考えられてきたためです。

比は常用対数で表すので、値が1違えば濃度の比は10倍違います。logP が3なら、油の層の濃度は水の層の1,000倍です。

創薬では、活性のある化合物の構造を少しずつ変えた類縁体を数多く作ります。すべてを動物に投与して吸収や代謝を調べることはできないので、少量で速く測れる脂溶性を先に測り、どの化合物を残し、構造のどこを変えるかを決めます。

上の層を油(1-オクタノール)、下の層を水とした容器を2つ並べる。凡例で、塗りつぶした丸を電荷を持たない中性形、プラスの印の丸を電荷を持つイオン形とする。左の容器はlogP(分配係数)で、中性形だけを数え、logPは油の濃度を水の濃度で割った比の常用対数とする。分子ごとに決まり、pHで変わらない。logPが3なら、油の層の濃度は水の層の1,000倍。右の容器はlogD(分布係数)で、指定したpHの水にイオン形がとどまり、イオン形も合わせた総濃度の比の常用対数とする。イオン形は水の層にとどまるためlogPより低く、同じ化合物でもpHによって値が変わる。下の帯に、本文の表の計算値として、logP 3.0、pKa 9.0の塩基のlogDを、胃内を想定したpH 1.5でマイナス4.5、小腸上部を想定したpH 6.5で0.5、血中を想定したpH 7.4で1.4と示し、塩基ではpHが下がるほどイオン形が増えてlogDが下がることを矢印で示す。概念図で、分子の数は濃度の比を正確には表していない
1-オクタノールと水に分かれる化合物と、logPとlogDが数えるものの違いを示した概念図
図をダウンロード(会員・無料)

2. 同じ化合物なのに、なぜlogPとlogDで値が違うのか?

logP は電荷を持たない形(中性形)だけを数え、logD は決めた pH の水で、電荷を持つ形(イオン形)も合わせて数えるからです。 薬の多くは、カルボン酸のような酸や、アミンのような塩基の部分を持ちます。水中では pH に応じてプロトンを放出したり受け取ったりして、一部が電荷を持ちます。

電荷を持ったイオン形は、油の層へほとんど移りません。だから、イオン形が多い pH ほど水の層に残る量が増え、logD は logP より低く出ます。

  • logP(分配係数):中性形だけについての、油と水の濃度比の対数です。分子ごとに決まり、pH によって変わりません。
  • logD(分布係数):指定した pH で、中性形とイオン形を合わせた総濃度の比の対数です。同じ化合物でも pH で値が変わります。

電荷を持たない分子なら、logD は logP と同じ値です。医薬品の探索では、血中の pH を想定した logD₇.₄(pH 7.4 での logD)が最もよく使われます。脂溶性の値を記録するときは、logP か logD か、logD ならどの pH かを添えて初めて、ほかの化合物と比べられます。

3. pHが1変わると、logDはどれだけ動くのか?

pH が、イオン化薬分子が水溶液中で電荷を帯びたイオン型と電荷を持たない非イオン型に分かれる現象で、体内のpH環境によって割合が変化する。詳しく →の進む側へ pKa から1離れると logD は logP より約1低く、2離れると約2低くなります。 pKa(酸解離定数の負の常用対数)は、中性形とイオン形がちょうど半々になる pH です。pH と pKa が等しいときは、logD は logP より0.30低くなります。

酸は pH が上がるほど、塩基は pH が下がるほどイオン形が増えます。イオン化する部位が1つの分子なら、イオン形がオクタノールへ移らないと仮定すると、logD を logP・pKa・pH から計算で見積もれます。

  • 酸⁠:logD = logP − log₁₀(1 + 10^(pH − pKa))
  • 塩基⁠:logD = logP − log₁₀(1 + 10^(pKa − pH))

次の表は、説明用の例として、どちらも logP 3.0、酸の pKa を4.5、塩基の pKa を9.0として上の式で計算した値です。

pH(想定する部位)酸(pKa 4.5)のlogD塩基(pKa 9.0)のlogD
1.5(胃内を想定)3.0マイナス4.5
6.5(小腸上部を想定)1.00.5
7.4(血中を想定)0.11.4

logP が同じ3.0でも、pH 7.4 では酸と塩基で logD に1以上の差がつきます。

POINT

実際にはイオン形も対イオンとイオン対を作ってわずかに油の層へ移るので、pH が pKa から大きく離れると、実測の logD は計算値より高めに出ます。両性イオンや、イオン化する部位を複数持つ分子は、この式では扱えません。

4. 重要:脂溶性は、高いほど薬に向いているのか?

高いほど膜を透過しやすくなりますが、水に溶けにくくなり、代謝や標的以外への結合も増えるので、高ければよいとは言えません。 細胞膜は脂質二重層でできていて、油になじむ分子ほど、濃度の高い側から低い側へ膜を透過しやすくなります(受動拡散)。腸管上皮の細胞層を透過する速さ(Caco-2透過性試験)も、脂溶性とよく相関します。

では、膜透過性化合物が細胞膜を透過する速さの指標。経口薬の吸収性の評価に使われる。詳しく →が高ければ吸収されるのか。消化管内で溶けなければ、吸収されません。溶解性と膜透過性の組み合わせで原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →を分けるのが生物薬剤学分類システム(BCS)です。吸収のあとも、脂溶性の高い分子は次のような問題を起こしやすい傾向があります。

  • 代謝⁠:肝臓の酸化酵素に代謝されやすく、ミクロソームの固有クリアランスが上がりやすくなります。
  • 血漿タンパク結合薬がアルブミンなど血中のタンパク質に結合すること。結合が強いと薬は血中に留まり分布容積は小さくなる。詳しく →⁠:結合が強まり、遊離型分率が下がりやすくなります。
  • 標的外への結合⁠:疎水性相互作用は結合相手を選びにくく、心臓のカリウムチャネルを妨げるhERG阻害などが起きやすくなります。

⁠Waring(2010年)は文献を総説し、望ましい脂溶性は logD でおよそ1〜3の狭い範囲にあるとまとめています。 脂溶性は上げるか下げるかを決める値ではなく、膜透過性と、溶解性・代謝安定性肝ミクロソームや肝細胞などを用いた試験管内試験で、薬物が代謝酵素によってどれだけ速く分解されるかを評価する指標。詳しく →の釣り合いを見るための値です。

5. Rule of 5などの目安は、そのまま当てはめてよいのか

当てはめる前に、その目安が計算値か実測値か、logP か logD かを、自分の値とそろえる必要があります。 どれも過去の化合物群から得た経験則で、合否の基準ではありません。

  • Rule of 5(Lipinski ら、1997年):水素結合ドナー5個超、アクセプター10個超、分子量500超、計算値の CLogP 5超(MLogP なら4.15超)のとき、吸収や膜透過が悪くなりやすいという整理です。原著は2項目以上が外れたときに注意を促す形で示し、トランスポーター細胞膜にあり薬を細胞外へ汲み出したり内へ引き込んだりして、体内濃度を左右するタンパク質。詳しく →の基質になる化合物群は例外としています。
  • logD でおよそ1〜3(Waring、2010年):4節で紹介した総説の範囲で、実測の logD で読む目安です。
  • 3/75則(Hughes ら、2008年):1社の非臨床の245化合物の動物忍容性試験を解析し、ClogP が3を超え、極性表面積分子表面の極性部分の面積。大きいほど膜を通りにくく、脳移行には小さめが有利とされる。詳しく →(TPSA)が75 Ų を下回る化合物で毒性所見が出やすかったという結果です。ほかの化合物群に同じ強さで当てはまるとは限りません。

Rule of 5 の脂溶性は計算値の logP です。実測した logD₇.₄ を当てはめて「5以下だから範囲内」と読むと、種類の違う数値どうしを比べてしまいます。3節の式から、pKa が8.4を超える塩基では logD₇.₄ が logP より1以上低いので、脂溶性の項目に実際より余裕があるように見えてしまいます。

活性の向上が、脂溶性を上げただけの効果かどうかを見分けたいときは、活性値から logP を引いた脂溶性効率(LLE)を使います。

6. 測定法の違う値は、そのまま並べられない

測定法ごとに測れる範囲と誤差の出方が違うので、方法と pH が違う値は、そのまま並べて比べられません。 化学物質の物性試験としては、経済協力開発機構(OECD)のテストガイドライン(TG)に3つの方法があります。

  • 振とうフラスコ法(TG 107):両相を振とうし、それぞれの濃度を直接測ります。対象は logP でマイナス2〜4(場合により5)で、体積比を変えた6つの値が±0.3の範囲に入るべきとしています。
  • 高速液体クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →(HPLC)法(TG 117):逆相カラム疎水性の固定相を使い、分子の疎水性の差で分離するHPLC用カラムで、純度確認や含量分析など幅広い分析に使われます。詳しく →での保持の強さを、logP が既知の参照物質で較正して換算します。対象は0〜6(例外的に6〜10)で、強酸・強塩基や界面活性物質には使えません。
  • 低速撹拌法(TG 123):オクタノールの微小な液滴ができないようゆっくり撹拌し、数日かけて平衡に到達させます。logP 8.2 までの値が正確に求められたとされ、5以上と見込まれる物質に適します。

なぜ高い logP に別の方法が要るのか。脂溶性が高い物質ほど、水の層に残る量はごく少なくなります。そこへ振とうでオクタノールの液滴が混じると、水の層の濃度を過大に測り、logP を実際より低く見積もります。低速撹拌法は、この誤差を避けるための方法です。

3つとも、もとは中性形の logP を測る試験です。TG 107 は、イオン化する物質を、酸なら pKa より1以上低い、塩基なら1以上高い pH の緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →で中性形にして測るよう求めています。医薬品の探索でよく使う logD₇.₄ は pH 7.4 の緩衝液で測るので、TG の手順で求めた中性形の logP とは、数えているものが違います。

7. 自分の化合物では、計算値・logD₇.₄・pKaを別の列に

計算値、実測の logD₇.₄、pKa を別の列に記録し、比べるときは同じ種類の値どうしで比べます。 混ぜて1列にすると、どの差が構造の違いで、どの差が測り方の違いかが分からなくなるためです。

  • 合成する前は、計算値(clogP)で絞る⁠:分子内水素結合で極性基が隠れる分子などでは計算値が外れやすいので、実測値とは列を分けます。
  • 合成したら、logD₇.₄ と酸解離定数(pKa)を測る⁠:pKa が分かれば、小腸上部を想定した logD₆.₅ のような別の pH の値を、3節の式で見積もれます。
  • 候補を比べるときは、条件をそろえる⁠:緩衝液、イオン強度、温度、測定法を固定します。振とうフラスコ法の試験法自体が±0.3の幅を認めているので、条件の違う値どうしの0.3前後の差は、判断の根拠にしにくくなります。
  • 目安と文献値は、種類をそろえて当てはめる⁠:Rule of 5 には計算値、logD の目安には実測の logD を使います。他部署や文献の値は、pH と測定法を確かめてから並べます。

脂溶性から予測した膜透過性は、次に腸管上皮の細胞層を使った試験で確かめます(Caco-2透過性試験とPapp)。

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  • 5. Rule of 5などの目安は、そのまま当てはめてよいのか
  • 6. 測定法の違う値は、そのまま並べられない
  • 7. 自分の化合物では、計算値・logD₇.₄・pKaを別の列に

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参考文献

  • OECD. Test No. 107: Partition Coefficient (n-octanol/water): Shake Flask Method. 1995.(適用範囲 logP マイナス2〜4、6つの値で±0.3、イオン化する物質の扱い)
  • OECD. Test No. 117: Partition Coefficient (n-octanol/water), HPLC Method. 2022年訂正版.(適用範囲 logP 0〜6、例外的に6〜10、適用できない物質)
  • OECD. Test No. 123: Partition Coefficient (1-Octanol/Water): Slow-Stirring Method. 2006年採択、2022年訂正.(logP 8.2まで、logP 5以上に適する)
  • Lipinski CA, Lombardo F, Dominy BW, Feeney PJ. Experimental and computational approaches to estimate solubility and permeability in drug discovery and development settings. Adv Drug Deliv Rev. 1997;23(1-3):3-25.
  • Waring MJ. Lipophilicity in drug discovery. Expert Opin Drug Discov. 2010;5(3):235-48.
  • Hughes JD, Blagg J, Price DA, et al. Physiochemical drug properties associated with in vivo toxicological outcomes. Bioorg Med Chem Lett. 2008;18(17):4872-5.
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#脂溶性#logP#logD#分配係数
この記事の目次
  1. 1. 脂溶性は、オクタノールと水への分かれ方で表す→
  2. 2. 同じ化合物なのに、なぜlogPとlogDで値が違うのか?→
  3. 3. pHが1変わると、logDはどれだけ動くのか?→
  4. 4. 重要:脂溶性は、高いほど薬に向いているのか?→
  5. 5. Rule of 5などの目安は、そのまま当てはめてよいのか→
  6. 6. 測定法の違う値は、そのまま並べられない→
  7. 7. 自分の化合物では、計算値・logD₇.₄・pKaを別の列に→
  8. 参考文献→
シリーズ3 / 16
DMPKの基本
  1. 1DMPKとは?人で試す前に、薬の体内での動きをどう見積もるのか
  2. 2pKa(酸解離定数)とは? pHでイオン化が変わる理由と、溶解度・膜透過性への影響
  3. 3脂溶性(logP・logD)とは?飲み薬の候補を選ぶとき、なぜ測るのか
  4. 4溶解度とは? 何で決まり、速度論的・熱力学的溶解度をどう使い分けるのか
  5. 5薬は、どうやって細胞膜を透過するのか? 受動拡散・細胞間隙経路・トランスポーター
  6. 6Caco-2透過性試験とは?Pappは何を表し、どう読むのか
  7. 7BCS分類とは?溶けやすい薬なら、よく吸収されるのか
  8. 8生物学的同等性とバイオウェーバーとは? 判定の基準と、ヒトでの試験を溶出試験で代えられる条件
  9. 9バイオアベイラビリティと初回通過効果とは?飲み薬の届く割合が低いのは、吸収が悪いからなのか
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この記事の目次
  1. 1. 脂溶性は、オクタノールと水への分かれ方で表す→
  2. 2. 同じ化合物なのに、なぜlogPとlogDで値が違うのか?→
  3. 3. pHが1変わると、logDはどれだけ動くのか?→
  4. 4. 重要:脂溶性は、高いほど薬に向いているのか?→
  5. 5. Rule of 5などの目安は、そのまま当てはめてよいのか→
  6. 6. 測定法の違う値は、そのまま並べられない→
  7. 7. 自分の化合物では、計算値・logD₇.₄・pKaを別の列に→
  8. 参考文献→
シリーズ3 / 16
DMPKの基本
  1. 1DMPKとは?人で試す前に、薬の体内での動きをどう見積もるのか
  2. 2pKa(酸解離定数)とは? pHでイオン化が変わる理由と、溶解度・膜透過性への影響
  3. 3脂溶性(logP・logD)とは?飲み薬の候補を選ぶとき、なぜ測るのか
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