脂溶性(logP・logD)とは?飲み薬の候補を選ぶとき、なぜ測るのか

脂溶性とは、化合物が水と油のどちらになじみやすいかを表す性質で、logP油と水への分配のしやすさ(脂溶性)を対数で表した値。計算値のcLogPやclogDで代用することも多い。詳しく →(分配係数)か logD(分布係数)という数値で表します。経口薬の候補化合物を選ぶ研究者や、そのデータをもとに製剤や申請資料を作る担当者が、腸からの吸収、水への溶けやすさ、代謝の受けやすさを予測するのに使います。
ただし、同じ化合物でも、データシートによって脂溶性分子が脂に溶けやすい性質。高いほど細胞膜を通り組織へ分配されやすく、分布容積が大きくなりやすい。詳しく →の値が1以上違うことがあります。測った pH と方法がそろっていないからです。
この記事では、logP と logD がそれぞれ何を表すのか、pH でなぜ値が変わるのか、目安の数値や他部署の値を自分の化合物と比べるときに何をそろえればよいのかを説明します。
- logPとlogDの違い:logP は電荷を持たない形(中性形)だけの分配の比、logD は指定した pH で電荷を持つ形も含めた分配の比です。
- 高いほどよいのか:膜透過性は上がりますが、溶解性の低下や代謝などの問題も増えます。
- 値を比べる前に:計算値か実測値か、どの pH か、どの方法かをそろえます。
1. 脂溶性は、オクタノールと水への分かれ方で表す
脂溶性は、油と水を入れた容器で化合物を振り混ぜたあとの、油の層と水の層の濃度の比で表します。 油には 1-オクタノール(炭素8個の鎖の端に水酸基を持つアルコール)を使います。長い炭化水素の鎖と水酸基を併せ持ち、生体膜の性質におおまかに近いと考えられてきたためです。
比は常用対数で表すので、値が1違えば濃度の比は10倍違います。logP が3なら、油の層の濃度は水の層の1,000倍です。
創薬では、活性のある化合物の構造を少しずつ変えた類縁体を数多く作ります。すべてを動物に投与して吸収や代謝を調べることはできないので、少量で速く測れる脂溶性を先に測り、どの化合物を残し、構造のどこを変えるかを決めます。

2. 同じ化合物なのに、なぜlogPとlogDで値が違うのか?
logP は電荷を持たない形(中性形)だけを数え、logD は決めた pH の水で、電荷を持つ形(イオン形)も合わせて数えるからです。 薬の多くは、カルボン酸のような酸や、アミンのような塩基の部分を持ちます。水中では pH に応じてプロトンを放出したり受け取ったりして、一部が電荷を持ちます。
電荷を持ったイオン形は、油の層へほとんど移りません。だから、イオン形が多い pH ほど水の層に残る量が増え、logD は logP より低く出ます。
- logP(分配係数):中性形だけについての、油と水の濃度比の対数です。分子ごとに決まり、pH によって変わりません。
- logD(分布係数):指定した pH で、中性形とイオン形を合わせた総濃度の比の対数です。同じ化合物でも pH で値が変わります。
電荷を持たない分子なら、logD は logP と同じ値です。医薬品の探索では、血中の pH を想定した logD₇.₄(pH 7.4 での logD)が最もよく使われます。脂溶性の値を記録するときは、logP か logD か、logD ならどの pH かを添えて初めて、ほかの化合物と比べられます。
3. pHが1変わると、logDはどれだけ動くのか?
pH が、イオン化薬分子が水溶液中で電荷を帯びたイオン型と電荷を持たない非イオン型に分かれる現象で、体内のpH環境によって割合が変化する。詳しく →の進む側へ pKa から1離れると logD は logP より約1低く、2離れると約2低くなります。 pKa(酸解離定数の負の常用対数)は、中性形とイオン形がちょうど半々になる pH です。pH と pKa が等しいときは、logD は logP より0.30低くなります。
酸は pH が上がるほど、塩基は pH が下がるほどイオン形が増えます。イオン化する部位が1つの分子なら、イオン形がオクタノールへ移らないと仮定すると、logD を logP・pKa・pH から計算で見積もれます。
- 酸:logD = logP − log₁₀(1 + 10^(pH − pKa))
- 塩基:logD = logP − log₁₀(1 + 10^(pKa − pH))
次の表は、説明用の例として、どちらも logP 3.0、酸の pKa を4.5、塩基の pKa を9.0として上の式で計算した値です。
| pH(想定する部位) | 酸(pKa 4.5)のlogD | 塩基(pKa 9.0)のlogD |
|---|---|---|
| 1.5(胃内を想定) | 3.0 | マイナス4.5 |
| 6.5(小腸上部を想定) | 1.0 | 0.5 |
| 7.4(血中を想定) | 0.1 | 1.4 |
logP が同じ3.0でも、pH 7.4 では酸と塩基で logD に1以上の差がつきます。
実際にはイオン形も対イオンとイオン対を作ってわずかに油の層へ移るので、pH が pKa から大きく離れると、実測の logD は計算値より高めに出ます。両性イオンや、イオン化する部位を複数持つ分子は、この式では扱えません。
4. 重要:脂溶性は、高いほど薬に向いているのか?
高いほど膜を透過しやすくなりますが、水に溶けにくくなり、代謝や標的以外への結合も増えるので、高ければよいとは言えません。 細胞膜は脂質二重層でできていて、油になじむ分子ほど、濃度の高い側から低い側へ膜を透過しやすくなります(受動拡散)。腸管上皮の細胞層を透過する速さ(Caco-2透過性試験)も、脂溶性とよく相関します。
では、膜透過性化合物が細胞膜を透過する速さの指標。経口薬の吸収性の評価に使われる。詳しく →が高ければ吸収されるのか。消化管内で溶けなければ、吸収されません。溶解性と膜透過性の組み合わせで原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →を分けるのが生物薬剤学分類システム(BCS)です。吸収のあとも、脂溶性の高い分子は次のような問題を起こしやすい傾向があります。
- 代謝:肝臓の酸化酵素に代謝されやすく、ミクロソームの固有クリアランスが上がりやすくなります。
- 血漿タンパク結合薬がアルブミンなど血中のタンパク質に結合すること。結合が強いと薬は血中に留まり分布容積は小さくなる。詳しく →:結合が強まり、遊離型分率が下がりやすくなります。
- 標的外への結合:疎水性相互作用は結合相手を選びにくく、心臓のカリウムチャネルを妨げるhERG阻害などが起きやすくなります。
Waring(2010年)は文献を総説し、望ましい脂溶性は logD でおよそ1〜3の狭い範囲にあるとまとめています。 脂溶性は上げるか下げるかを決める値ではなく、膜透過性と、溶解性・代謝安定性肝ミクロソームや肝細胞などを用いた試験管内試験で、薬物が代謝酵素によってどれだけ速く分解されるかを評価する指標。詳しく →の釣り合いを見るための値です。
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- 5. Rule of 5などの目安は、そのまま当てはめてよいのか
- 6. 測定法の違う値は、そのまま並べられない
- 7. 自分の化合物では、計算値・logD₇.₄・pKaを別の列に
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- OECD. Test No. 107: Partition Coefficient (n-octanol/water): Shake Flask Method. 1995.(適用範囲 logP マイナス2〜4、6つの値で±0.3、イオン化する物質の扱い)
- OECD. Test No. 117: Partition Coefficient (n-octanol/water), HPLC Method. 2022年訂正版.(適用範囲 logP 0〜6、例外的に6〜10、適用できない物質)
- OECD. Test No. 123: Partition Coefficient (1-Octanol/Water): Slow-Stirring Method. 2006年採択、2022年訂正.(logP 8.2まで、logP 5以上に適する)
- Lipinski CA, Lombardo F, Dominy BW, Feeney PJ. Experimental and computational approaches to estimate solubility and permeability in drug discovery and development settings. Adv Drug Deliv Rev. 1997;23(1-3):3-25.
- Waring MJ. Lipophilicity in drug discovery. Expert Opin Drug Discov. 2010;5(3):235-48.
- Hughes JD, Blagg J, Price DA, et al. Physiochemical drug properties associated with in vivo toxicological outcomes. Bioorg Med Chem Lett. 2008;18(17):4872-5.
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/lipophilicity-logp-logd