PARとNORとは?工程パラメータの「動かしてよい幅」を3層で持つ

- NOR(通常運転範囲)は日常の運転で狙う幅、PAR(実証された許容範囲)は品質を損なわないと実証済みの幅です。
- NORをPARの内側に置くことで、多少ぶれても品質は守られ、逸脱かどうかの判定も機械的に決まります。
- PARは1つのパラメータを単独で振って確かめた範囲、デザインスペースは複数を同時に動かして確かめた領域です。
幅を1つだけ持つと、運用が詰まる
培養温度を37.0℃で回す工程があるとします。この「37.0℃」に、どれだけの幅を持たせるか。
幅を1つしか持たないと、運用は苦しくなります。狭くすれば(例:37.0±0.2℃)、装置のわずかな揺らぎでも幅を外れ、そのたびに逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →として調査することになります。広くすれば(例:37.0±3.0℃)、日常の運転が緩み、実際にどこで運転していたのかが記録から読み取れなくなります。
そこで、性質の違う幅を層にして持ちます。
- NOR(Normal Operating Range日々の製造で実際にパラメータを動かす、狭めの正常運転範囲。、通常運転範囲):日常の運転で狙い、実際にその中に収まっている幅。
- PAR(Proven Acceptable Range他を固定し一つのパラメータを動かしても品質が保たれると実証された、NORより広い確認済み許容範囲。、実証された許容範囲):その範囲内であれば品質特性が許容内に収まると、データで実証した幅。
NOR日々の製造で実際にパラメータを動かす、狭めの正常運転範囲。はPAR他を固定し一つのパラメータを動かしても品質が保たれると実証された、NORより広い確認済み許容範囲。の内側に置きます。これが基本の関係です。
NORは「いつもここで回している」幅、PARは「ここまでなら品質は大丈夫と示した」幅。前者を後者の内側に置くことで、日常のぶれが即座に品質問題にならない構造を作ります。
3つの層の関係
実務では、さらに届出上の範囲を加えた3層で考えると整理しやすくなります。
- NOR(通常運転範囲):日常の運転幅。工程能力製造工程が規格の範囲内で製品を安定して生産できる能力を定量的に表す指標。から見て、無理なく収まる範囲に設定します。
- PAR(実証された許容範囲):品質への影響を実証済みの範囲。NORより広く取ります。
- 申請・届出上の範囲:規制当局に提出した管理幅。この外に出ると、製品の適合性そのものが問われます。
温度の例で言えば、NORが37.0±0.5℃、PARが37.0±1.5℃、といった関係になります。運転中に37.8℃まで上がったとき、NORは外れていますがPARの内側なので品質は担保されているという判断ができます。この場合、記録して原因を確認する対象にはなりますが、製品の品質そのものを疑う話にはなりません。
逆にPARを超えた場合は、その条件での品質が実証されていないため、影響評価が必要になります。どちらの幅を超えたかで、次にやることが変わる——これが層を分ける実利です。
PARはどうやって決まるか
PARは、パラメータを意図的に振ってみて、品質特性がどこまで許容内に収まるかを実験で確かめて決めます。多くの場合、スケールダウンモデルを使った実験室規模の検討で範囲を出し、実生産では日常の運転をNORに収めます。
対象になるのは、まず重要工程パラメータ(CPP)です。品質特性への影響が大きいと判断されたパラメータに対して、影響が許容内に留まる範囲を示します。影響が小さいと判断されたパラメータでも、その判断の根拠として範囲を振ったデータが求められることがあります。
注意したいのは、PARは1つのパラメータを単独で振って得た範囲だという点です。温度のPARは、他のパラメータを標準値に固定した状態で温度だけを動かして確かめています。したがって、複数のパラメータが同時にPARの端にある状態は、実証された条件ではありません。
デザインスペースとの違い
この「同時に動いたらどうなるか」に答えるのが、デザインスペースです。ICH Q8医薬品開発とQbDの考え方を示すICHガイドライン。重要品質特性(CQA)を定義している。で示された考え方で、複数のパラメータの組み合わせとして、品質が保証される多次元の領域を定義します。
- PAR:1変数ずつ振って得た、一次元の範囲の集まり
- デザインスペース品質が保証されると実証された、工程パラメータや原材料特性の多次元的な組み合わせの領域。:複数の変数を同時に振って(実験計画法パラメータを変えたときCQAがどう応答するかを効率よく調べる実験計画法。などで)得た、多次元の領域
違いは、相互作用を捉えているかどうかです。温度が高いときは撹拌を弱めなければならない、といった関係は、1変数ずつの検討では出てきません。デザインスペースの内側であれば、複数のパラメータが同時に動いても品質は保証されます。
規制上の扱いも異なります。デザインスペースを申請して承認されれば、その領域内での変更は変更申請の対象になりません。PARの集まりとして管理する場合は、この柔軟性は得られません。ただしデザインスペースの構築には実験の負担が大きく、すべての工程に適用する必要はありません。影響の大きい工程に絞って使うのが現実的です。
運用に落とすときの注意
層を作っても、次の点が曖昧だと機能しません。
アラート値とアクション値の位置づけ:NORの内側にアラート値を置き、傾向として近づいたら手を打つ運用が一般的です。アラートは品質の問題ではなく、工程が普段と違う挙動を見せている合図として扱います。この考え方は継続的工程確認(CPV)の日常運用そのものです。
逸脱の判定基準を先に決めておく:NORを外れたときに何をするか、PARを外れたときに何をするかを、事前に手順として決めます。決めていないと、その場の判断になり、記録の一貫性が失われます。
NORの見直し:運転を重ねるとデータが溜まり、実際の工程能力が見えてきます。NORが実力に比べて広すぎる、あるいは狭すぎることが分かれば、見直します。この更新は承認後の変更管理の枠組みの中で行います。
スケール間の翻訳:小スケールで得たPARが、そのまま実生産に当てはまるとは限りません。スケールダウンモデル大スケールで起こる勾配やストレスを小さな槽で再現し、事前にリスクを評価する実験系。の妥当性を示すことが、PARの根拠を支える前提になります。
まとめ
- NOR=日常の運転幅、PAR=品質を損なわないと実証した幅。NORをPARの内側に置く。
- 超えた幅がどちらかで次の対応が変わる。NOR超過は工程の確認、PAR超過は品質影響の評価。
- PARは1変数ずつ、デザインスペースは複数変数を同時に振って得た領域。相互作用を捉えているかが違い。
- 層を作るだけでなく、逸脱時の対応と見直しの手順を事前に決めておかないと機能しない。
参考文献
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。, Q8(R2) Pharmaceutical Development
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