XCell ATF は、灌流培養で細胞を培養槽に留めるための装置です。中空糸膜のモジュールに培養液を交互に押し引きし、細胞は戻して使用済みの液だけを抜きます。ATF は Alternating Tangential Flow の略で、この「交互」が名前の由来です。
Repligen がこの技術を手に入れたのは2014年でした。そこから普及するまでに、もう一段の変化が要りました。
単回使用版が出るまで、広がらなかった
初期の ATF はステンレス製でした。使うたびに分解して洗い、蒸気滅菌(SIP)して組み直す。灌流培養そのものに関心があっても、この運用が負担で見送る現場は多かったはずです。
2016年に Repligen が単回使用版を出して、ここが変わりました。同社によれば、ベータ評価で導入までの時間が8割以上短縮され、性能はステンレス版と同等だったとしています。培養槽の側もシングルユースが主流になっていた時期で、上流の流路だけステンレスが残っている状態を解消した形です。
2018年には Sartorius と組み、XCell の制御系を Biostat STR に統合した構成も出ています。装置単体ではなく、培養槽と一緒に買えるようになったという意味です。
ATF と TFF、どちらで留めるか
細胞を留める方法には、もう一つ TFF があります。膜面に平行に一方向へ流す方式です。ATF と TFF の比較は灌流を検討するときに必ず通る議論になります。
ATF 側の主張は、目詰まりしにくいことです。流れの向きが交互に入れ替わるため、膜面に溜まった細胞が剥がされます。長期の灌流で膜間差圧が上がりにくい、という説明です。
TFF 側の主張は、構造が単純で大型化しやすいことです。ポンプで一方向に送るだけなので、規模を上げるときの設計が素直になります。
どちらが細胞にやさしいかは、条件によって結論が変わります。ATF はダイアフラムで押し引きするため、その動きが細胞にストレスを与えるという指摘があり、TFF のほうはポンプ通過時の剪断が問題になります。どちらの主張にも実験データがありますが、細胞株も膜も運転条件も違う比較が多く、自社の細胞で比べるしかないというのが実際のところです。
もう一点、見落とされやすい違いがあります。ATF はダイアフラムを動かすために圧縮空気と真空を要し、その供給系が工場側に要る。単回使用版で流路の負担は消えましたが、ユーティリティの要求は残ります。既存の建屋へ後から入れるときは、ここが設置の可否を決めることがあります。
灌流を入れる、ということ
装置の選定より前に決まっているべきことがあります。なぜ灌流にするのかです。
使い道は一つではありません。本培養を灌流で回して生産性を上げる、種培養だけ灌流で高密度にして本培養を短くする(シードトレイン強化)、流加培養の途中で培地を入れ替える。連続生産と工程強化の文脈では、これらは別の狙いです。
灌流を入れれば、培地の消費量が跳ね上がります。CSPR(細胞比灌流速度)をどこに置くかで、必要な培地の量が決まります。培地費が製造原価に効く品目では、ここが導入の可否を分けます。下流も変わります。連続的に出てくる液を受けるには、連続キャプチャーか、いったん溜めるタンクが要ります。
導入で確認したいこと
以下は一般的な確認事項で、当該製品の仕様を示すものではありません。
- 膜の選定と寿命。孔径によって、製品を通すか留めるかが変わります。長期運転での膜間差圧の推移を実測します
- 細胞へのストレス。生存率と、製品の品質特性を自社の細胞で確認します
- 培地の消費量。CSPR の設定から逆算し、製造原価に織り込みます
- 下流との接続。出てくる液をどう受けるか。上流だけ連続にしても、全体は速くなりません
- 規模の連続性。開発時の小型機と商業機で、同じ挙動が出るか
なお、価格と機種ごとの処理容量は、公開資料からは確認できません。
