Quantum Flex は、中空糸を束ねたカートリッジの中で細胞を育てる装置です。自動で、外気に触れない機能的閉鎖系。Terumo Blood and Cell Technologies が2022年9月に出しました。
数字を1つ置きます。標準のリアクターの培養面積は 2.1 m²。畳1枚よりやや広いくらいの面積が、両手で持てる筒に収まっています。
細い管を、たくさん束ねる
中空糸は、ストローを細くしたような管です。Quantum Flex が使う糸は内径が約200 µm、壁の厚みが50 µm。髪の毛2〜3本ぶんの太さです。
これを何千本も束ねて筒に詰めます。糸の内側に培地を流し、細胞は糸の外側の空間か、糸の内壁で育ちます。面積が稼げるのは、細い管をたくさん並べているからです。平らな容器で2.1 m² を確保しようとすれば、フラスコが何十枚も必要になります。
培地は流し続けます。灌流なので、栄養を入れながら老廃物を出し、細胞が置かれる環境を一定に保ちます。撹拌槽のようにインペラで混ぜないため、細胞にかかる剪断が小さいのも中空糸の性格です。
8日で20億個、という数字の読み方
同社が示しているのは、小型リアクターで 600万個のT細胞が8日で20億個を超えたというデータです。倍率にして300倍以上。回収する液は 1 L 未満に収まります。
ここで効いてくるのは倍率より回収液量のほうだと考えます。自家CAR-Tでは、患者1人ぶんの細胞を集めて洗い、凍結するまでが一続きの作業です。培養液が10 L あれば濃縮に手間と時間がかかり、そのぶん細胞は傷みます。1 L を切っていれば、細胞の洗浄・濃縮の負担が一段軽くなります。
小型リアクターは標準の約1/10の大きさです。狙いは、工程開発と製造で同じ原理の装置を使うことにあります。小さい器で条件を決め、大きい器で作る。器の形が変われば結果も変わるので、開発と製造で方式が違うとスケールダウンモデルの成立に手間がかかります。
撹拌槽と、どちらを選ぶか
同じ細胞治療向けでも、撹拌槽の単回使用バイオリアクターという選択肢があります。どちらが上という話ではなく、性格が違います。
中空糸は面積を稼ぎ、剪断が小さく、閉鎖系を組みやすい。一方で、培養の様子は見えにくくなります。糸の束の中で細胞がどう分布しているかは、外から直接は分かりません。撹拌槽は中身が均一で、サンプリングして測れば培養全体を代表する値が取れます。装置の選び方では、この「測れるかどうか」が効いてきます。
接着性の細胞を扱うなら中空糸が向きます。Terumo BCT は2023年、中空糸のリアクターでウイルスベクター産生細胞が4日で8倍になったという査読論文を出しており、ベクター製造やエクソソームにも用途を広げようとしています。
装置にはデータ管理ソフト CPA(Cell Processing Application) が付き、複数台の運用と記録を扱います。自動化された装置が増えるほど、装置そのものより記録をどう束ねるかが製造所の課題になります。
価格、日本国内での保守体制、標準リアクターでの具体的な到達細胞数は、公開情報からは分かりません。
