Gibco CTS Rotea は、細胞を洗う・濃縮する・分けるという処理を、閉じたまま自動で行う卓上の装置です。原理は向流遠心(counterflow centrifugation)で、細胞治療の製造工程に入ることを想定して作られています。
開発したのは豪州の Scinogy で、Thermo Fisher との協業により2020年後半に上市されました。実験室の遠心機を大きくしたものではなく、自家細胞製品の規模に合わせて設計された装置という位置づけです。
遠心力と逆向きの流れで、細胞を浮かせる
普通の遠心分離は、回して細胞を底に集め、上澄みを捨てます。単純ですが、細胞を扱う工程としては難点があります。
- 細胞が押し固められる(ペレット化)。回収時にほぐす操作が要り、そこで傷みます
- バッチ処理になる。回して止めて開けて、を繰り返します
- 開放操作が入る。上澄みを捨てる、懸濁し直す、の各段で系を開けます
向流遠心はここを変えます。遠心力と逆向きに一定の流れをかけ、細胞を流動層として空中に浮かせたような状態で保持します。細胞は沈まず、押し固められません。メーカーの説明では、この低せん断の処理により95%を超える回収率を保ちながら、高いスループットを得られるとしています(数値はメーカー公表値です)。
浮いた状態を保ったまま液だけを流せるので、洗浄とバッファー交換が連続的に行えます。粒径の違いで分けられるため、細胞の種類による分離にも使えます。用途としては、分離・濃縮・洗浄・バッファー交換が挙げられています。
通気による剪断が培養での細胞への負荷であるのに対し、遠心は下流での負荷です。どちらも「細胞が製品である」以上、収率と機能に直接効きます。
閉鎖系であることの意味
キットはチューブと回転チャンバーを含む使い捨てで、γ線滅菌された状態で供給されます。つまり装置に触れる液の経路が、すべて使い捨て側にある構成です。
これが効くのは、閉鎖系での細胞製造の要求からです。
- 開けなければ、汚染の機会が減る。無菌操作の等級要求そのものが変わりえます
- 切替が速い。患者ごとに製造する自家製品では、交叉汚染の管理と段取り替えが回転数を決めます
- 洗浄バリデーションが要らない。使い捨てなら、洗浄の妥当性確認の対象から外れます
代わりに、キットの供給が製造の制約になります。単回使用と固定設備の比較でいう、費用構造が設備投資から消耗品へ移るという話です。抽出物・浸出物の評価と、供給者管理も必要になります。
工程のどこに入るか
CAR-Tの製造を例にとると、細胞を洗う・濃縮する場面は一度ではありません。
- アフェレーシス材料の受け入れ後:血漿や不要な成分を除き、目的の細胞を濃縮する
- 形質導入の前後:培地や試薬を交換する
- 拡大培養の後:培養液を除き、製剤化のための液に置き換える
- 最終製剤化の直前:凍結保護剤を加える前の濃縮
用途としては CAR-T のほか、幹細胞治療、PBMC の分離が挙げられています。同じ装置が複数の段で使えるため、工程列の中で位置を選べるのが実務上の利点です。
なお、その先の充填は長く手作業が残っていた区間で、Thermo Fisher は製剤化と充填を対象にした CTS Compleo を後から投入しています。Rotea と組み合わせる構成が示されており、細胞処理から充填までを閉じたまま繋ぐ方向にあります。
導入で確認したいこと
以下は一般的な確認事項で、当該製品の仕様を示すものではありません。
- 処理できる細胞数と液量の範囲。自家製品の規模に合っているか。他家の大ロットでは別の設計が要ります
- 1ロットあたりのキット費用。自家製品では患者数ぶん必要になるため、製造原価に直接効きます
- 回収率と生存率の実測。メーカー公表値は理想条件です。自社の細胞・自社のプロトコルで取り直す必要があります
- 工程内管理。処理中に何を見て、何を記録するか
- 技術移管。同じ装置でも、拠点が変われば条件の確認をやり直します
装置を入れれば工程が閉じるわけではなく、前後の接続をどう閉じるかが実際の設計です。無菌接続の部材と、バッグの構成を含めて考えることになります。
