BioAccord は、質量分析を品質管理の現場へ持ち込むことを狙った LC-MS システムです。構成は ACQUITY UPLC I-Class PLUS と ACQUITY RDa TOF MS。Waters は、これまで中央の MS 専門ラボにあった属性ベースの監視を、MS の経験が浅い担当者でも扱える形にすることを掲げています。
装置の性能より、その設計思想のほうが検討の対象になります。
MAM は、複数の試験を1つに畳む
MAM(Multi-Attribute Method、多属性法)は、抗体をペプチドに切ってから LC-MS で測り、複数の品質特性を1回の測定でまとめて見る方法です。
従来は、属性ごとに別の試験を回していました。糖鎖は HILIC、電荷異性体は icIEF か CEX、酸化や脱アミド化はペプチドマッピング。それぞれに装置と手順とバリデーションがあります。MAM はこれを1つに畳もうとします。多属性法(MAM)が注目されてきた理由は、この畳み込みにあります。
畳めば速くなります。ただし、畳んだぶん1つの試験に依存することにもなります。その試験が止まれば、複数の属性がまとめて測れなくなる。ここは運用設計の話として残ります。
要点は「新規ピーク検出」
MAM が従来の試験と決定的に違うのは、知らないものを見つけられるところです。
NPD(New Peak Detection)は、試験検体で検出されたピークを参照検体と比べ、新しく現れたピークや存在量が変わったピークを拾います。想定していた属性を測るだけでなく、想定していなかった変化を検出する。Waters は、この機能が予期しないピークを示しつつ偽陽性を抑えると説明しています。
ここが規制上の論点になります。出荷試験として使うなら、新しいピークが出たときに何をするかを先に決めておく必要があります。閾値をどこに置くか、出たときに出荷を止めるのか、調査してから判断するのか。逸脱とCAPAの手順に、この判断を書き込んでおかないと、現場で止まります。
参照検体の管理も効いてきます。比較の基準になる検体が変われば、新規ピークの判定も変わるので、保管と更新の手順を先に決めておく必要があります。ロットをまたいで同じ基準で見続けられるかどうかが、この方法を長く使えるかを分けます。
もう一つ、畳むことで見えなくなるものがあります。MAM はペプチドに切ってから測るので、切る前の分子の状態は見ていません。凝集体やサイズバリアントは、切った時点で情報が消えます。SEC や CE-SDS を残す判断になるのは、この理由からです。MAM で全部をまかなえる、という説明を受けたときは、何を測っていないかを確認する価値があります。
QC ラボに置く、ということ
開発ラボの MS と、QC ラボの MS は要求が違います。
QC では、誰が動かしても同じ結果が出ることが第一です。装置の調整に熟練が要るなら、そもそも置けません。BioAccord がコンパクトな構成で、操作を絞った設計になっているのは、この要求に合わせたものです。
記録の側も変わります。データの完全性の要求に沿って、誰がいつ何をしたかが監査証跡として残る必要があります。MS は生データが大きく、処理の過程も複雑なので、ここは軽くありません。
分析法移管も論点です。開発拠点で組んだ MAM を、製造拠点の QC ラボへ移す。装置が同じでも、担当者と環境が変われば結果は動きます。移管の計画を、通常の HPLC 法より慎重に組む必要があります。
導入で確認したいこと
以下は一般的な確認事項で、当該製品の仕様を示すものではありません。
- 置き換える試験の範囲。どの試験を MAM に畳み、どれを残すか。全部を畳む必要はありません
- NPD の運用手順。閾値、判定者、出たときの動き。先に決めておかないと使えません
- 参照検体の管理。保管、更新、同等性の確認
- 担当者の教育と交代。QC の人員が入れ替わっても回るか
- 既存法との並行期間。切り替え時に、どれだけの期間を並行で回すか
なお、価格と装置の具体的な性能値は、公開資料からは確認できません。
