Roche は、Eli Lilly と共同開発したアルツハイマー病の血液検査 「Elecsys Phospho-Tau (217P) Plasma」(Elecsys pTau217) が、FDAの販売許可(510(k)によるclearance)を受けたと発表しました。血液を調べて、脳にアミロイドβというタンパク質の塊がたまっているか(アミロイド病理)を見分ける手助けをする検査です。対象は、物忘れなど認知機能の低下の兆候や訴えがある 55歳以上 の人です。専用の装置は要らず、米国の検査室にすでに置かれている 4,500台超 のRoche製分析装置で実施できます。検査受託大手の Labcorp と Quest Diagnostics が提供を計画していると伝えられています。欧州では2026年5月にCEマークを取得しています。
かかりつけ医と専門医で同じ境目を使う検査
pTau217は、タウというタンパク質の決まった位置にリン酸が付いた分子です。脳にアミロイドがたまっている人では、血液中のこの分子が増えることが知られています。Elecsysは、これを抗体で捕まえて測るイムノアッセイ(免疫測定)の試薬です。
Rocheによれば、この検査はかかりつけ医(プライマリケア)でも専門医でも、同じ1組の検証済みカットオフ(結果を分ける境目)を使います。「病理がありそう」として判断を進める rule-in にも、「なさそう」として別の原因を探す rule-out にも使えます。結果は陽性・中間・陰性の3区分で返ります。信号でいえば赤・黄・青の3色で、黄色にあたる中間の人は、脳脊髄液の検査やPET画像などの追加検査に回ります。1つの物質だけを測る血液検査で、この形のFDA許可を受けたのは初めてで唯一だと同社は説明しています。
2025年5月に、アルツハイマー病の血液検査として初めてFDAの許可を受けた富士レビオの検査は、2つの物質の量の比で判定する方式です。Roche自身も2025年10月に、Lillyと開発した血液検査Elecsys pTau181でFDAの許可を受けていますが、これはかかりつけ医で「なさそう」を確かめるrule-out専用でした。今回の検査は1つの物質だけを測り、「ありそう」の側の判断にも使えます。
同じカットオフなら、かかりつけ医で出た「陽性」も専門医で出た「陽性」も、同じ物差しで測った結果として読めます。この検査は診断を単独で確定するものではなく、医師がほかの所見と合わせて判断するための補助として位置づけられています。
既設の4,500台と、Lillyが診断に関わる理由
検査が広まるかどうかは、性能と同じくらい「どこで実施できるか」で決まります。専用の装置が要る検査なら、検査室はまず装置を買い、据え付けて動作を確かめるところから始めます。Elecsys pTau217は、すでにある分析装置に試薬を足して使える検査です。手持ちのスマートフォンに新しいアプリを入れるのに近く、LabcorpやQuestのような大手の検査網にも載せやすい形といえます。もっとも、新しい項目を始める前に、各検査室が自分の手で性能を確かめる作業は残ります。
Lillyは、アミロイドを標的とする治療薬ドナネマブ(米国での製品名Kisunla)を販売しています。この種の薬は、投与の前に脳のアミロイドを確かめることが前提です。その確認は長くPETや脳脊髄液の検査に頼っていて、2025年から血液検査が加わり始めました。かかりつけ医で採血し、その結果から次の判断へ進めるようになれば、治療を検討できる人の幅は広がります。Lillyが検査の開発に加わったのも、薬を届ける入口を広げるためと考えられます。数日前にはワシントン大学セントルイス校発の技術による血液検査もFDAの許可を受けました。治療側でも、エーザイとBiogenのレケンビが皮下注のオートインジェクターで在宅投与へ広がりつつあります。
試薬を作る側にとって、かかりつけ医と専門医で同じカットオフを使うことは厳しい条件です。どの検査室で測っても同じ境目で判定されるので、2本の境目の近くで測定値がわずかにずれるだけで、陽性と中間、中間と陰性が入れ替わります。製造のたびに試薬の性質が少しずつ変わる抗体試薬のロット間差や、測定値の基準にする標準物質の管理が、判定の安定にそのまま結びつきます。立場によって、手元で確かめておきたい点は違います。
- 体外診断薬(IVD)の品質保証なら、2本の境目それぞれに近い濃度の管理用検体をロットごとに測り、判定が変わらないことを確かめているか
- 営業や購買なら、取引先の検査室がどのメーカーの分析装置を使っているか
- 治療薬の開発やメディカル部門なら、自社の薬を使う患者を選ぶ検査が、どの方式で、どこで受けられるか
検査の広がりを決めるのは性能だけではなく、その検査がすでに検査室にある装置で動くかどうかでもあります。
※ 本ページはFierceBiotechの報道とRocheの発表をもとにした紹介です。適応・使用目的・性能の詳細は一次情報とFDAの公表文書をご確認ください。