GEN の8月号に、シングルセルの機能免疫解析(single-cell functional immunomics)がこの10年でどう進んだかを論じる記事が掲載された。Feromics 共同創業者でノースイースタン大学准教授の Tania Konry 氏によるものである。
「機能」という語がわざわざ付いているところに、この分野の転換点がある。
「持っているもの」と「していること」
シングルセル解析というと、まずシングルセルRNA-seqが想起される。1細胞ごとに転写産物を読み、細胞の種類や状態を分類する手法である。
ただしこの方法が返すのは、その瞬間にどんな分子を持っていたかである。細胞を壊して読むため、1細胞につき1点しか得られない。
免疫細胞で本当に知りたいのは、多くの場合そこではない。
- 標的の細胞に接触したか
- 接触して殺せたか
- どれだけのサイトカインを出したか
- 何個の標的を続けて殺せるか(serial killing)
- 疲弊せずにどれだけ持続するか
いずれも時間の中で起きる振る舞いであり、一時点のスナップショットからは読み取れない。機能免疫解析が独立した領域として語られるのは、この差による。
測り方の工夫
生きたまま、1細胞ずつ、時間を追って観察するには、細胞を1個ずつ隔離しておく必要がある。用いられてきたのは主に2つの方式である。
- マイクロウェル:微細なくぼみを多数並べ、1細胞ずつ落とし込む。顕微鏡で連続観察できる
- 液滴(ドロップレット):油中に水滴を作り、その中に細胞と標的を封じ込める。数を稼ぎやすい
いずれも、エフェクター細胞と標的細胞を同じ区画に入れて、殺傷の様子や分泌物を追う設計になる。分泌タンパク質は、ビーズや基板に捕捉して蛍光で読む。
生細胞イメージングとハイコンテント解析の技術が、この10年で扱える細胞数と観察時間を押し上げてきた——というのが記事の見取り図と読める。
細胞治療の品質評価との接点
この技術が製造側に関わるのは、力価(potency)の測り方という論点においてである。
CAR-Tのような細胞治療では、出荷判定に力価試験が要る。ところが「効く力」をどう数値にするかは、簡単ではない。
集団平均で測る従来の細胞傷害性アッセイ——たとえば培養上清中のサイトカイン量、標的細胞の生存率——には限界がある。
- 平均は分布を隠す:全体の10%が強く働いているのか、全体が均等に弱く働いているのか、区別できない
- 製品の実力を決めるのは、強い細胞がどれだけ含まれるかかもしれない
- ロット間差の原因が、平均値だけでは追えない
1細胞ごとの機能分布が見えれば、製品を「平均値」ではなく「分布」で記述する道が開ける。細胞治療の同等性評価や、工程変更の影響評価でも、判断材料が増える。
規格試験へ持っていく壁
ただし、研究の道具を出荷判定の試験にするには距離がある。
- 頑健性:装置と操作者が変わっても同じ結果が出るか
- 判定基準:分布のどこを見て合否を決めるのか。中央値か、上位画分の割合か
- 所要時間:細胞治療は保存期間が短い。数日かかる試験は出荷判定に使いにくい
- 分析法の特異性:何を測っているかを説明できるか
3番目は特に重い。自家細胞治療では製造から投与までの時間が限られ、測り終わる前に投与時期が来るという制約がある。
とはいえ、力価をどう定義するかは細胞治療の開発でいまも定まりきっていない領域である。この10年の技術的な進展が、その定義そのものを変えていく可能性はある。
※ 本ページは公開情報(GEN の記事)をもとにしたProglenth編集部による整理です。論考の詳細・引用文献・具体的な手法は一次情報をご確認ください。