CTDとは?承認申請資料の5モジュールと、承認後に変えにくい部分
医薬品の承認申請の書式として日本・米国・欧州で使われているCTD医薬品の承認申請書の国際共通様式。製造や規格などの品質情報はModule 3に集約される。詳しく →のガイドラインには、「どの試験が必要かを示すものではない」とわざわざ書かれています。申請資料の決まりなのに、中身の試験は決めていないのです。では、CTDは何を決めているのでしょうか。

答えは資料の並べ方です。CTD(Common Technical Document、コモン・テクニカル・ドキュメント)は、承認申請資料を5つのモジュールに分け、どこに何を書くかを日米欧で共通にした目次です。製造や品質の情報もこの目次に沿って書かれます。そして日本では、申請書に書いた製造方法や規格が、承認後に守る約束に変わります。原料の購入先を変える、試験法を改めるといった日々の判断も、この約束に触れることがあります。
CTDの成り立ちとeCTD
CTDができる前は、同じ薬でも日本・米国・欧州で申請資料の形式がばらばらでした。同じデータを地域ごとに組み直す手間がかかり、当局どうしで情報をやり取りするのも面倒でした。そこで日米欧の規制当局と業界団体で始まったICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく →(医薬品規制調和国際会議)が、2000年にM4というガイドラインで共通の構成を合意しました。
図書館の分類番号に似ています。どの図書館でも、同じ番号の棚には同じ分野の本が並びます。CTDも同じで、「3.2.P.5」を開けば、どの国に出した資料でも製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →の規格と試験方法の管理が書いてあります。どの本を書くか、つまりどんな試験をどこまで行うかは、ICHの別のガイドラインや各国の規制が決めます。
いまは紙ではなく、CTDの構成をそのまま電子化したeCTD(electronic CTDCTDを電子的に提出するための形式で、承認後の変更・追加を含むライフサイクル全体にわたる申請資料の管理が可能な仕組み。)で出すのが普通です。米国FDAは2017年5月5日から、新薬(NDA)や生物製剤(BLA)などの申請にeCTDCTDを電子的に提出するための形式で、承認後の変更・追加を含むライフサイクル全体にわたる申請資料の管理が可能な仕組み。を義務づけました。eCTDは承認後の差し替えや追加も記録できるので、製品を売り続けるかぎり、同じ資料が少しずつ更新されていきます。
5つのモジュールの中身
5つのうちModule 1だけは、国や地域ごとに中身が違います。申請書や添付文書の案のような行政上の書類が入るので、ICHのガイドラインもModule 1を共通部分には含めていません。Module 2から5までが、日米欧で共通の本体です。
| モジュール | 入るもの | 主に関わる部署(一例) |
|---|---|---|
| Module 1 | 申請書など、国や地域ごとの書類 | 薬事 |
| Module 2 | Module 3〜5の要約 | 各分野の取りまとめ役 |
| Module 3 | 品質(CMC医薬品の化学・製造・品質管理に関する申請資料。原薬と製剤で章立てが分かれる。詳しく →)。製造方法、規格、試験法、安定性 | 製造・品質管理遺伝子治療製品の品質・安全性・有効性を保証するために製造・出荷の各段階で実施する試験・管理の総体。詳しく →・CMC開発 |
| Module 4 | 非臨床試験(薬理・薬物動態投与した薬が体内で吸収・分布・代謝・排泄されていく挙動。ADCではDARが大きく影響する。詳しく →・毒性)の報告書 | 非臨床研究 |
| Module 5 | 臨床試験(治験)の報告書 | 臨床開発 |
Module 2は、審査する側が全体を短い時間でつかむための要約です。品質の要約は品質に関する概括資料(QOS、Quality Overall SummaryCTDのModule 2に置かれる、製造・品質(CMC)情報全体を要約した文書で、審査当局が品質パートの全体像を把握するために参照する。)と呼ばれます。Module 4の毒性試験はGLP非臨床試験の信頼性を担保するための基準。申請用のhERG試験などで求められる。詳しく →、Module 5の治験はGCP臨床試験(治験)を、被験者の人権・安全の保護と得られるデータの信頼性を確保して実施するための基準です。詳しく →という、それぞれの信頼性の基準に従って行われます。3つの基準の違いはGLP・GMP・GCPの違いの記事で整理しています。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べるModule 3と現場の仕事
Module 3は、原薬(3.2.S)と製剤(3.2.P)に大きく分かれます。どちらにも、製造方法、原材料の管理、規格と試験方法、試験法のバリデーション試験法が目的に合う性能を持つことを立証する妥当性確認。正確さ・精度などを評価する。詳しく →、標準品力価の基準に定めた品。検体と同じアッセイで並べて測り、相対力価の基準にする。詳しく →、容器と栓、安定性といった項目が並びます。
製造部門が残す製造記録やプロセスバリデーションの結果は、製造方法と工程管理の項目を支えます。品質管理(QC)の試験法と、その試験法が正しく測れることを示したバリデーションは、規格と試験方法の項目に入ります。規格の決め方そのものはICH Q6Bと規格設定の記事が詳しく扱っています。購買の仕事も無関係ではありません。培地や樹脂、容器をどこから買い、どんな品質で受け入れるかは、原材料製造の起点となる原料で、その品質や持ち込む不純物が最終製品の品質に影響しうるため、規格管理が重視される物質。詳しく →の管理や容器と栓の項目に書かれるからです。
資材メーカーの営業担当が顧客から「DMFはありますか」と聞かれるのも、この流れの中の話です。DMF(ドラッグマスターファイル原料や中間体などの製造情報を当局に登録する文書。製造者が機密を保ちつつ品質情報を提供できる。)は、メーカーが自社の製法や品質の情報を米国FDAへ直接出しておく仕組みです。製薬会社は、メーカーが出す参照の許可書(LOA)を申請に添えれば、メーカーの社外秘の情報を自分では見ないまま、審査で参照してもらえます。容器や包装材料はType III、添加剤はType IVという区分です。日本にも原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →等登録原簿(MF)という似た仕組みがあります。
Module 3の書き方そのものも変わろうとしています。ICHは2025年5月、品質の部分を改めるM4Q(R2)の案を公開しました。化学合成の薬だけでなく、バイオ医薬品抗体・タンパク質・核酸など生体由来の分子を利用して製造された医薬品の総称。詳しく →や細胞・遺伝子治療のような製品にも合う形に整え、承認後の変更の管理も申請の中で示せるようにする内容です。FDAも2026年1月に、この案を自国のガイダンス案として公表しています。細胞・遺伝子治療については、FDAが2026年7月にCMCの柔軟な運用を示す最終ガイダンスも出しました。
Module 3は申請のために一から書く資料ではなく、社内の記録と試験の積み重ねを、決まった棚に並べ直したものです。
申請書に書いた内容と承認後の変更
日本では、承認申請書の製造方法欄や規格及び試験方法欄に書いた内容が承認事項になり、そのとおりに作り、そのとおりに試験することが求められます。
変えたいときは、重さに応じて手続きが分かれます。品質に影響しうる変更は一部変更承認申請(一変)で前もって承認を取ります。影響のおそれがない軽い変更は、変えてから30日以内に軽微変更届を出します。厚生労働省が示した典型例では、滅菌条件のような管理上重要な工程パラメータの変更は一変、製造スケールのようなその他の工程パラメータの変更は軽微変更届に分けられています。2024年9月には、その中間にあたる中等度の変更を40営業日で審査する手続きの試行も導入されました。
ここで効いてくるのが、申請のときにどこまで細かく書いたかです。同じ月に出た厚生労働省の通知は、製造方法をどこまで詳しく書くかは、品質に影響しない操作条件の幅が開発の中でどこまで分かっているかで変わる、という考え方を示しました。開発で確かめた条件の幅は、承認書に幅で書くときの根拠です。承認後の変更をあらかじめ計画に組み込む考え方は、ICH Q12とライフサイクル管理の記事で扱っています。
書いたとおりに作れるかは、承認前査察(PAI)で工場まで確かめに来られます。承認そのものが製造で止まることもあります。2026年8月7日、米国FDAはITM Isotope Technologiesの神経内分泌腫瘍の治療薬候補ITM-11について、臨床や安全性のデータには懸念を示さないまま、CMCと委託先の商用製造施設の問題を理由に承認を見送りました(ニュース)。承認後に書いたとおりに作らなければ、処分の対象です。2021年3月、富山県は日医工に対し、承認書に書かれていない工程で製造していたことなどを理由に、富山第一工場の製造業務を32日間止める業務停止命令を出しました。
申請書の一行は承認後に工場が守る約束になり、その書き方が将来の変更の重さを左右します。
担当製品の承認書で確かめる点
まず、自分の仕事がCTDのどの棚に入っているかを一度たどってみてください。薬事の担当者に、担当製品の承認書の製造方法欄と規格及び試験方法欄を見せてもらうのが近道です。
原料や資材、試験法、設備の条件を変えたくなったら、言い出す前に次の点を当ててみてください。品質保証や薬事の担当者と話すときにも、そのまま使えます。
- 変えたいものは、承認書の製造方法欄や規格及び試験方法欄に書かれているか
- 書かれているなら、一変・中等度変更・軽微変更届のどれにあたりそうか。変更管理の窓口に相談したか
- 一変になるなら、承認が下りるまでの在庫や切り替えの時期を、購買や営業の計画に入れたか
- 新しい資材を採用するなら、メーカーにDMF(米国)やMF(日本)の登録があり、参照の許可書を出してもらえるか
- Module 3の根拠になる製造記録、バリデーション報告書、安定性データを、すぐに取り出せるか
参考文献
- ICH M4(R4), Organisation of the Common Technical Document for the Registration of Pharmaceuticals for Human Use(Step 4、2016年6月15日)
- ICH M4Q(R1), The Common Technical Document for the Registration of Pharmaceuticals for Human Use: Quality(Step 4、2002年9月12日)
- FDA, M4Q(R2) Common Technical Document for the Registration of Pharmaceuticals for Human Use: Quality(Draft Guidance、ICH Step 2 は2025年5月14日、FDAの告示は2026年1月21日)
- FDA, Electronic Common Technical Document (eCTD)(NDA・BLA生物製剤の製造販売承認を求める申請。後期・商用段階で規制実績やデータの厚みが問われる。詳しく →・ANDA は2017年5月5日からeCTDが必須)
- FDA, Drug Master Files: Guidance for Industry(Draft、Revision 1、2019年10月)
- 厚生労働省, 医薬品の製造方法の記載方法及び変更手続について(医薬薬審発0930第7号、2024年9月30日)
- 厚生労働省, 中等度変更事項に係る変更手続の導入の試行について(医薬薬審発0927第4号、2024年9月27日)
- ITM, ITM Receives Complete Response Letter for 177Lu-edotreotide (ITM-11)(2026年8月)
- FiercePharma, ITM neuroendocrine tumor drug spurned by FDA over manufacturing qualms
- 薬事日報, 【富山県】日医工に業務停止命令‐富山第一工場で不適切製造
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