GEN の記事によれば、細胞・遺伝子治療の開発企業は、関係者が多く複雑なサプライチェーン・製造・流通の全体にわたって、材料とデータを追跡するためにソフトウェアを活用すべきだと、業界の専門家が指摘している。
追跡すべき対象が「製品」だけではない
一般的な医薬品でも、原材料のロットと製品のロットは紐づけて管理される。細胞・遺伝子治療で難度が上がるのは、追跡の対象と方向が増えるためである。
自家細胞治療を例にとると、追う必要があるものは次のように並ぶ。
- 患者と細胞の対応:採取した細胞が誰のものかを、工程の全期間にわたって取り違えない(chain of identity)
- 保管条件の連続性:採取から投与まで、温度が一度も外れていないこと(chain of custody)
- 原材料のロット:培地、サイトカイン、ビーズ、ベクター
- 作業と装置の記録:誰が、どの装置で、いつ操作したか
- 輸送の記録:施設間の移動が複数回発生する
一般の医薬品と決定的に違うのは、取り違えが起きたときに代わりがない点である。原料がその患者自身なので、作り直しができない。
関係者が多い、という構造
もうひとつの難しさは、これらが1社の中で完結しないことである。
採取は病院、輸送は物流業者、製造はCDMO、試験は外部の試験室、投与はまた病院——というように、記録を持つ主体が分かれる。それぞれが自前のシステムで記録を残しており、形式も粒度も揃っていない。
この状態で「この製品はどう作られたか」を再構成しようとすると、複数の組織にまたがる照会が必要になる。査察や不具合調査の場面では、この作業に時間がかかること自体がリスクになる。
温度の連続性という具体的な論点
追跡の中でも、凍結保存と輸送の記録は実務で最も問題になりやすい。
- 液体窒素の気相で運ぶ場合、記録装置が読めるのは容器内の代表点であり、製品そのものの温度ではない
- 施設間で装置が引き渡されるたびに、記録の連続性が途切れうる
- 一時的な逸脱が起きたとき、その製品を出荷してよいかの判断根拠が要る
細胞治療の充填・凍結製剤化の設計では、この記録をどう取り、誰が判断するかまで含めて決めておく必要がある。
ソフトウェアが担えることと、担えないこと
記事が指摘するようにソフトウェアは有効な手段になるが、万能ではない。
担えるのは、記録の統合、識別子の一貫した付与、条件から外れたときの検知、監査時の再構成である。人手の照合で起きる転記ミスを減らす効果は大きい。
担えないのは、記録の入力元が正しいかどうかの保証である。温度記録装置が正しく校正されていなければ、統合されたデータも正しくない。監査証跡が残っていても、元の入力が誤っていれば追跡は成立しない。
この領域が「ソフトウェアで解ける」と言われはじめているのは、逆に言えばこれまで表計算とメールで回していたことの裏返しでもある。承認品目が増え、扱う件数が増えるにつれ、その運用が限界に達しつつあるという段階と読める。
※ 本ページは公開情報(GEN の記事)をもとにしたProglenth編集部による整理です。発言者・対象システム・具体的な導入事例の詳細は一次情報をご確認ください。