図で学ぶ医薬品製造第1回・全体をつかむ
図で学ぶ医薬品製造第1回・全体をつかむ
更新:2026/10/18
細胞に作らせる(上流)
抗体だけを取り出す(下流)
注射できる形にする
分析・品質管理(すべての工程にかかわる)
工程の途中で測る工程内管理と、できた原薬・製剤を規格と照らす出荷試験の2つがあります。出荷試験は、確認・純度・含量・力価・安全性の項目で組み立てます。
概念図です。工程の数や順番、使う方式は、製品と会社によって変わります。
抗体は大きく複雑なタンパク質なので、化学合成ではなく、細胞に作らせます。細胞が作った液には、抗体のほかに細胞由来のタンパク質や DNA、培地の成分が混ざっています。
そのため、作る段(上流)と、抗体だけを取り出す段(下流)を分けて考えます。最後に、患者に注射できるよう、濃度と液の組成を整えて無菌で容器に詰めます。
上流と下流では、管理する対象が違います。上流では細胞の状態を、下流では不純物とウイルスがどれだけ除かれたかを主に見ます。
抗体の性質の多く(糖鎖の分布、電荷の違う分子の割合など)は、培養の段階で決まります。精製は不純物を除く工程で、分子そのものの性質を大きく作り変えることはできません。
このため、品質に効く工程の条件(重要工程パラメータ、CPP)を見つけ、品質の特性(重要品質特性、CQA)とのつながりを、開発の段階で調べておきます。考え方は ICH Q8 と Q11 にまとめられています。
CHO 細胞などの動物細胞を使うため、ウイルスが入り込む危険をゼロにはできません。そこで、原料と細胞を試験で確かめたうえで、工程でウイルスを除く力を示します。
ICH Q5A は、原理の違う複数の工程で除去・不活化することを求めています。抗体では、低 pH の不活化(膜を持つウイルスに効く)と、ウイルス除去ろ過(大きさでこし取る)を組み合わせる形が広く使われています。陰イオン交換クロマトグラフィーも、ウイルスを除く工程として評価されることがあります。
培養では細胞の数と生存率、精製では収率と不純物の残り、製剤では無菌と微粒子を主に見ます。最後にできた製品は、規格に書いた試験項目で確かめてから出荷します。
どの分析法が何を測っているかは、第10回で1枚の図にまとめます。
抗体の遺伝子を組み込んだ細胞(多くは CHO 細胞)を選び、マスターセルバンクとワーキングセルバンクとして凍結保存します。毎回の製造は、同じバンクの細胞から始めます。
細胞が変わると、作られる抗体の性質も変わりえます。同じバンクから始めるのは、ロットごとの品質をそろえるためです。
確かめる分析:無菌試験、マイコプラズマ否定試験、外来性ウイルスの試験、細胞の同一性
バイオリアクターで細胞を増やし、培地の中に抗体を分泌させます。抗体では、途中で栄養を足す流加培養(フェドバッチ培養)で、2週間前後培養する方法が広く使われています。
温度・pH・溶存酸素・栄養の足し方といった工程の条件で、抗体の量だけでなく糖鎖などの性質も変わります。糖鎖の分布は、あとの精製では大きく変えられません。
確かめる分析:生細胞密度と生存率、グルコース・乳酸などの代謝物、抗体の濃度(力価)
培養液から、遠心分離とデプスフィルター(厚みのあるろ材)で細胞と細胞の破片を除き、澄んだ液にします。この操作を清澄化と呼びます。
回収のときに細胞が壊れると、宿主細胞由来タンパク質(HCP)や DNA が液に増え、あとの精製の負担が大きくなります。
確かめる分析:濁度、HCP の量、DNA の量
抗体の Fc 領域に結合するタンパク質(Protein A)を固定した樹脂に液を流します。抗体は樹脂に結合し、ほかの成分は流れ出ます。そのあと酸性の液で抗体を外し、回収します。
この1段で、HCP と DNA の大部分が除かれます。樹脂は高価なので、洗浄(CIP)しながら繰り返し使い、使う回数の上限を決めます。樹脂から外れた Protein A も、不純物として測ります。
確かめる分析:収率、HCP、残存 Protein A
Protein A から外した酸性の液を、そのまま決まった時間置きます。脂質の膜(エンベロープ)を持つウイルスは、この間に不活化されます。
膜を持たないウイルスには効きにくいので、原理の違うウイルス除去ろ過と組み合わせます。酸性に長く置くと、抗体が凝集することがあります。
確かめる分析:pH と保持時間の記録、ウイルスクリアランス試験(ウイルスを加えて、除去・不活化の程度を測る試験)
陽イオン交換・陰イオン交換などのクロマトグラフィーを1〜2段使い、残った HCP・DNA・凝集体・Protein A を除きます。
凝集体は、抗体どうしがくっついたものです。免疫反応の原因になりうるため、量を測って管理します。
確かめる分析:SEC(凝集体)、HCP の ELISA、残存 DNA(qPCR)
小さなウイルス(パルボウイルスは直径20 nm 前後)まで保持できる膜でろ過します。抗体は膜を通り抜けます。
膜を持たない小さなウイルスにも効くため、低 pH の不活化と組み合わせます。使用後に、膜が壊れていないことを完全性試験で確かめます。
確かめる分析:フィルターの完全性試験、ウイルスクリアランス試験
限外ろ過(UF)で水と小さな分子だけを膜に通し、抗体を濃縮します。続く透析ろ過(DF)で緩衝液を入れ替え、製剤の液の組成にします。液を膜の面に沿って流す TFF(タンジェンシャルフローろ過)で行います。
抗体を高濃度にすると粘度が上がり、ろ過に時間がかかります。皮下注射用の高濃度製剤で問題になりやすい工程です。
確かめる分析:抗体の濃度(A280)、pH と浸透圧、凝集体
原薬に添加剤を加えて製剤にし、除菌ろ過してから、無菌の環境でバイアルやシリンジに充填します。凍結乾燥にする製品もあります。
最後の工程なので、ここで菌や異物が入るとロット全体に影響します。無菌の操作は、アイソレーターなどで人と製品を隔てて行います。
確かめる分析:無菌試験、エンドトキシン試験、不溶性微粒子、容器の完全性
多くの場合は直せません。糖鎖の分布は培養の段階で決まるので、温度・pH・栄養の足し方など、培養の条件に戻って調べます。
低 pH は膜(エンベロープ)を持つウイルスに効きますが、膜を持たない小さなウイルスには効きにくいためです。原理の違う方法を組み合わせて、ウイルスの安全性を確保します(ICH Q5A)。
Protein A のあとにも、凝集体、樹脂から外れた Protein A、残りの HCP と DNA が残るためです。仕上げ精製で、これらを規格の範囲まで下げます。
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