ICH Q6Bとは?バイオ医薬品の規格と試験方法の設定
申請に向けて原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →と製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →の規格表を作るとき、手が止まるのは、いつも同じ場所です。何を試験項目に並べるか。そして、その合否の線をどこに引くか。規格はできた製品を最後に選り分ける関所に見えますが、効いてくるのはもっと手前からです。抗体は一つの分子ではなく、少しずつ違う分子の集まりです。低分子のように、構造式だけで品質を語り切れません。だから試験項目も判定基準も、製品ごとに一から組み立てます。

核心は一点です。規格とは一つの数字ではなく、3つの部品の組み合わせです。試験項目、その分析法、そして判定基準。ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく → は、この3点をまとめて「規格及び試験方法」と呼びます。3つのどれが欠けても、規格は成り立ちません。なかでも判定基準は、当局と交渉して決める数字ではありません。これまで作ってきたロットの実績から引く数字です。ここを取り違えると、後からやり直しが増えます。
本稿では、まず規格という言葉を3つに分けるところから始めます。そのうえで、CQA製品の有効性や安全性に直結し、規格で管理すべき品質特性。空実比や純度、凝集体などが該当する。詳しく →から試験項目をどう選ぶか、バイオ特有の試験項目群、判定基準の引き方、参照標準、そして低分子の Q6A との違いまで、工程の考え方に沿って順に整理します。読みながら、規格表のどの欄の話かを思い浮かべてください。
- 規格は一つの数字ではなく、試験項目・分析法・判定基準の3点を組み合わせたものです。
- 何を規格に載せるかはCQAから選び、工程で担保できる項目は規格から外せる場合があります。
- 判定基準は交渉で決めるのではなく、非臨床・臨床ロットと製造実績の幅から引きます。
規格とは何か ― 試験項目・分析法・判定基準の3点
規格は、一つの合否判定器ではありません。
ICH Q6B は規格を、試験項目と、参照する分析法と、判定基準の3つをまとめたものと定義します。判定基準は、数値の限度値だったり、範囲だったり、その他の基準だったりします。試験結果がこの基準に収まれば、そのロットは規格に適合します。規格が参照する分析法そのものは、ICH Q2(R2)分析法バリデーションのガイドライン。分析手順が妥当性を持つことを確認する枠組みを定める。詳しく → に沿って妥当性を示しておきます。
押さえておきたい点が一つあります。規格に適合することは、安全性と有効性を一から証明することとは違います。規格は、GMP や工程管理や特性解析規格試験より高い分解能で製品の品質特性を詳しく調べること。比較可能性の評価などで用いる。詳しく →と組んで、品質保証の一部を受け持ちます。何を規格に載せ、何を工程で担保するか。この線引きが、そのまま管理の設計です。
規格は単独の数字ではなく、試験項目・分析法・判定基準の3点が揃って初めて意味を持ちます。
何を規格に選ぶか
試験項目は、重要品質特性(CQA)製品の品質・安全性・有効性を保証するため規格内に収めるべき重要な品質特性。から引きます。
重要品質特性(CQA、Critical Quality Attribute)は、患者への安全性や有効性に影響する品質の性質です。抗体なら糖鎖、電荷の分布、凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →、宿主細胞由来の不純物などが挙がります。どのCQAをどの分析法で測るかはCQA別の分析法の選び方にまとめました。糖鎖タンパク質に付加される糖の鎖状構造で、抗体の有効性・免疫原性などに影響する重要な品質特性。詳しく →がなぜ効き方を変えるのかは抗体の糖鎖とCQAで扱っています。どのCQAをどこまで作り込むかは、ICH Q8医薬品開発とQbDの考え方を示すICHガイドライン。重要品質特性(CQA)を定義している。詳しく →(R2)・Q9・Q11 が示す品質・バイ・デザインとリスク管理の考え方が土台にあります。
見落とされやすい点があります。測った属性が、すべて規格の項目になるわけではありません。Q6B は、規格だけでなく工程管理や特性解析と組み合わせて品質を保証する考え方を示します。工程で確実に取り除けると実証できた不純物は、原薬や製剤の規格値を必ずしも置かなくてよい場合があります。
規格に何を載せるかは、測れるかどうかではなく、患者への影響と工程でどこまで担保できるかで決まります。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べるバイオ特有の試験項目群 ― 同一性・純度・力価
Q6B は、試験項目をいくつかの群に整理します。
同一性は、その製品が表示どおりのものかを確かめます。一つの試験では決めきれません。だから直交する複数の方法を重ねます。ペプチドマップや質量分析分子の質量を精密に測る手法。鎖の組み合わせ違いを分子量差として捉え純度評価に使う。詳しく →が中心です。
純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →と不純物は、サイズと電荷の両面から見ます。凝集体や断片はSECやCE-SDSSDSで処理したタンパク質をキャピラリー電気泳動で分離し、抗体などの純度や分子サイズ分布(断片・凝集)を評価する手法です。詳しく →で、電荷異性体はCEX-HPLC陽イオン交換カラムでタンパク質を表面電荷の違いにより分離し、脱アミド化などで生じる電荷バリアントの割合を調べる手法です。詳しく →やicIEFキャピラリー内にpH勾配をつくり、タンパク質を等電点の違いで分離して全長を撮像し、電荷の不均一性を評価する手法です。詳しく →で分けます。SEC分子を天然に近い条件でサイズにより分ける液体クロマトグラフィー。凝集体の主要な定量法。詳しく →でモノマーが 98% でも、断片まで見えるとは限りません。純度は、手法ごとに違う顔を見せます。
力価は、その製品が本来の働きをどれだけ発揮するかを測ります。ここは物性では代わりがききません。細胞を使ったバイオアッセイで、標準品力価の基準に定めた品。検体と同じアッセイで並べて測り、相対力価の基準にする。詳しく →を 100% と置き、試料がその何パーセントかを読みます。
含量製品にどれだけの目的物質が含まれるか(含量)や、その生物学的な効き目の強さ(活性)を示す指標です。培養液中の産生量を指す場合もあります。詳しく →は、タンパク質がどれだけ入っているかの量です。培養で言う力価と、規格で言う力価は別の量なので、ここは取り違えやすい。
一般試験には、性状、pH、浸透圧、無菌、エンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →、不溶性微粒子溶液中に浮遊するサブミクロン〜数百マイクロメートルサイズの粒子で、品質規格上の管理対象となる異物。詳しく →などが入ります。
力価の試験は、ほかの項目で代わりがききません。純度が高くても、量が合っていても、働くとは限らないからです。結合を見る方法と、細胞で生物活性を見る方法があり、作用機序に合わせて選びます。
不純物の分け方 ― 工程由来・製品由来・製品由来物質
不純物は、由来で大きく二つに分けます。
一つは工程由来不純物mRNA製造などで生じる二本鎖RNA(dsRNA)や鋳型DNAなど、製造工程に由来する不純物の残存量を調べる試験です。詳しく →です。製造の過程で入り込むもので、宿主細胞由来タンパク質(HCP)、宿主細胞由来DNA、培地の成分、Protein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく →からのリークなどが入ります。たとえば残存DNA製造に使った宿主細胞に由来するDNAの不純物です。安全性の観点から、精製後にどれだけ残っているかを測る試験です。詳しく →なら、製剤1回投与あたり 10 ng 未満、断片の大きさ 200 bp 未満が一つの目安です。HCPは総量を、たとえば 100 ng/mg製品ミリグラムあたりのHCPナノグラムで残存量を表す単位。製品濃度に依存せず工程比較や規格管理に向く。詳しく → のような水準に抑えます。減らす責任は、分析ではなく精製工程の側にあります。
もう一つは製品由来不純物目的物質そのものの変化体(凝集体・分解物など)を指し、製造工程に由来する工程由来不純物とは区別して管理します。詳しく →です。目的物そのものが変化したもので、凝集体、断片、脱アミド体、酸化体が代表です。全体の整理は不純物の種類を参照してください。
ここで Q6B が引く線が、見落とされやすい。目的物の分子種のうち、活性があって、安全性にも悪影響がないと示せたものは、不純物ではなく製品由来物質として扱います。同じ電荷異性体抗体などで電荷が異なる分子種のことです。脱アミド化などの修飾で生じ、酸性側・塩基性側の割合を分離して測る品質指標です。詳しく →でも、片方は不純物、片方は製品由来物質になり得る。変異体をすべてゼロに近づけることが目的ではありません。
変異体を数えて減らす前に、それが不純物なのか製品由来物質なのかを、Q6B の線引きで仕分けます。
規格値をどこから引くか ― 製造実績と臨床ロット
判定基準は、交渉ではなく実績から引きます。
Q6B は、判定基準の根拠を製造の実績に置きます。非臨床と臨床で使ったロットの値。製造の恒常性を示したロットの値。安定性試験出荷時から有効期限まで品質特性が規格内にとどまることを確認する試験。詳しく →のデータ。薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。詳しく →の要求。これらを突き合わせて、安全で有効だと確かめた製品の幅を、数字にします。臨床で効いたロットがどんな品質だったか。それが、そのまま基準の土台です。工程理解とプロセスバリデーションで実績を積んだ製品ほど、根拠のある線を引けます。
もう一つ、バイオ医薬品抗体・タンパク質・核酸など生体由来の分子を利用して製造された医薬品の総称。詳しく →で効いてくる考え方があります。出荷時の基準と、有効期間医薬品が規定の品質を保てると保証される期間。安定性データの経時変化から設定する。詳しく →を通じた基準を、別に置けます。力価や分解物のように保存中に動く項目では、出荷の線を少し内側に取ります。そうすれば、有効期間の終わりでも規格に収まります。
判定基準は決め打ちではなく、臨床で確かめたロットと製造実績の幅から引く数字です。
出荷時の基準と有効期間末の基準を分ける考え方は、低分子ではあまり使いません。バイオ医薬品で効くのは、保存中に力価や分解物が動くからです。出荷の線を内側に取っておくと、期間の終わりでも規格の中に収まります。
参照標準 ― 比較の基点となる現物
力価も純度も、必ず何かと比べて測ります。
その比較の相手が参照標準(reference standard、標準物質)です。抗体医薬は製品ごとに分子が違うので、公定の標準品がありません。入念に特性解析した自社の一次標準品を、基点に据えます。Q6B は、一次標準品と、日常試験で消費する実務標準の二段構えを勧めます。実務標準は、一次標準品に対して値づけします。USP の一般章 <11>(Reference Standards)も、標準物質の扱いを定めます。設定から更新までの組み方は標準物質の設定・管理に詳しく書きました。
低分子のQ6Aとの違い ― 規格と工程管理の分担
Q6B には、対になる文書があります。
低分子の新有効成分を扱うのが ICH Q6A です。構造式で分子を定義できる低分子では、規格の物理化学試験が品質の大部分を語ります。バイオ医薬品は、そうはいきません。分子が大きく不均一で、構造式だけでは定義しきれない。
だから Q6B では、三つの重みが低分子と違います。一つは、力価という生物活性の試験が欠かせないこと。もう一つは、物性試験だけで品質を語り切れないぶん、工程管理と工程内試験が保証を分担すること。そして、不純物が合成の副産物ではなく、工程由来と製品由来に分かれること。低分子なら、不純物の多くが合成の副産物で、ICH Q3A/Q3B が 0.10% のような閾値で管理します。製造を変えた前後が同じと言えるかを示す比較可能性(ICH Q5E)も、この不均一さが前提にあります。
Q6A が規格で品質を語り切るのに対し、Q6B では規格と工程管理が組んで品質を保証します。
規格を組む順番
最後に、規格を組むときの順番を並べます。
先に決めるのは、重要品質特性です。 患者への影響から選び、規格があるからという理由では選ばない。ここが動くと、後の全部をやり直します。
次に、CQAごとに分析法を割り当てます。一つの物差しでは死角が残るので、直交する手法を重ねる。同一性なら複数法、純度ならサイズと電荷の両方です。
そのうえで、判定基準を引きます。非臨床・臨床ロットと製造実績の幅から線を置き、出荷時と有効期間末で分けるかを決めます。参照標準は、代表的な製造ロットから十分量を確保し、更新のためのブリッジング計画まで先に決めておきます。
最後に、規格に載せる項目と、工程で担保する項目を仕分けます。 工程で確実に取り除けると実証した不純物は、規格から外せる場合があります。何を規格にするか迷うなら、たいてい工程の理解がまだ途中です。
参考文献
- ICH Q6B, Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products
- ICH Q6A, Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for New Drug Substances and New Drug Products: Chemical Substances
- ICH Q5E, Comparability of Biotechnological/Biological Products Subject to Changes in Their Manufacturing Process
- ICH Q8(R2), Pharmaceutical Development
- ICH Q11, Development and Manufacture of Drug Substances
- 厚生労働省医薬局審査管理課長通知「生物薬品(バイオテクノロジー応用医薬品/生物起源由来医薬品)の規格及び試験方法の設定について」(医薬審発第571号、平成13年5月1日)
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