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遺伝子治療基礎知識・製造工程

アデノウイルスベクターの製造工程とRCA、混入を防ぐ確かめどころ

Proglenth 編集部公開 2026-07-18更新 2026-10-09約6分で読めます

2021年3月、米国の製造所で、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の新型コロナワクチンの原液が使えなくなりました。同じ工場で別に作っていたアストラゼネカのワクチンの成分が混ざったためで、最大1,500万回分の原液が廃棄されたと報じられています。どちらもアデノウイルスベクターアデノウイルスのゲノムを改変し、目的遺伝子を細胞に届ける運搬体として利用する遺伝子治療・ワクチン用のウイルス製剤。詳しく →を使ったワクチンでした。

この記事の要点

  1. 同じウイルスベクターでも、搭載量と免疫反応の違いが、用途と、製造で見られる点を分けています。使われる場面と、強い免疫反応 ↓
  2. RCAの出やすさは細胞株とベクターの配列の組み合わせでほぼ決まり、出ていないことは試験法の感度とあわせて読みます。RCAと品質の見られ方 ↓
AEXレジン ↗ベンゾナーゼ ↗デプスフィルター ↗クロマト精製装置 ↗#アデノウイルスベクター#ワクチン#腫瘍溶解性ウイルス#HEK293
この記事が関わる製造工程遺伝子治療/AAVベクター30工程・4フェーズ細胞・産生精製製剤・充填キャラクタリゼーションこの製造の全体像を工程マップで見る →
アデノウイルスベクターの製造工程とRCA、混入を防ぐ確かめどころ

アデノウイルスベクターは、遺伝子やワクチンの抗原を細胞に届ける運び屋です。搭載量が大きい一方、免疫反応が強く、遺伝子の働きも一時的なので、長く効かせたい遺伝子治療ではAAVに役割を譲り、ワクチンと腫瘍溶解性ウイルスがん細胞で選択的に増殖して細胞を破壊するよう設計されたウイルス。強い免疫応答を治療に利用する。で使われています。製造で見られるのは、細胞を壊して取り出す回収の設計と、増える力を持ってしまったウイルス(RCAウイルスベクター製品に、増殖する能力を持つウイルスが生じていないか調べる安全性試験です。混入がないことを確認します。詳しく →)が混じっていないことの確認です。冒頭の事例が示すように、工場の運用がそのまま品質に響く製品でもあります。

使われる場面と、強い免疫反応

アデノウイルスは、直径が90〜100 nmほどの、脂質の膜(エンベロープ一部のウイルスが持つ脂質の外膜。レンチウイルスではVSV-Gなどをまとうが、温度・剪断・凍結融解に弱い。詳しく →)を持たない粒子です。ゲノムには組み込まれず、細胞の中で働いたあとは、細胞の分裂とともに薄まっていきます。長く効かせる用途には向きませんが、強い免疫反応そのものが役に立つ場面があります。

ワクチンでは、抗原の遺伝子を運んで免疫を立ち上げます。J&Jの製品はAd26という型、アストラゼネカの製品はチンパンジー由来のアデノウイルスを使っており、人が元から持っている抗体に邪魔されにくい型が選ばれてきました。腫瘍溶解性ウイルスでは、がん細胞の中だけで増えるよう設計したウイルスを腫瘍に投与し、壊れたがん細胞から出る抗原と炎症で免疫を呼びます。2022年12月に米国で承認されたAdstiladrinは、増えないように作ったアデノウイルスで遺伝子を運び、BCG(膀胱がんの標準的な免疫療法)が効かなくなった、筋層に達していない膀胱がんの患者の膀胱へ直接注入する薬です。

免疫反応の強さには、重い歴史があります。1999年、米国の遺伝子治療の臨床試験で、アデノウイルスベクターを肝臓の動脈に投与された18歳の患者が、強い免疫反応のため4日後に亡くなりました。FDAはこの試験を止めています。この性格があるため、体内に投与して長く効かせる遺伝子治療では、免疫反応がおだやかなAAV遺伝子治療で遺伝子を運ぶウイルスベクター。血清型によって集まりやすい組織が異なる。詳しく →が主役になっています。

AAVレンチウイルス分裂していない細胞にも遺伝子を組み込めるレトロウイルスベクター。CAR-Tで広く使われる。詳しく →アデノウイルス
搭載量の目安約4.7 kb約8 kb約8 kb(第1世代)、約35 kb(ヘルパー依存型)
ゲノムへの組込み主に組み込まない組み込む組み込まない
脂質の膜(エンベロープ)なしありなし
主な使いどころ体内に投与する遺伝子治療CAR-T患者や健常ドナーのT細胞にCAR(キメラ抗原受容体)を導入し、がん細胞を攻撃させる細胞治療。詳しく →など体外での細胞改変ワクチン、腫瘍溶解性ウイルス

同じウイルスベクター治療用の遺伝子を細胞へ運ぶために改変したウイルス。AAVやレンチウイルスが代表で、遺伝子・細胞治療に使う。詳しく →でも、搭載量と免疫反応の違いが、用途と、製造で見られる点を分けています。

製造の流れと回収の特徴

治療やワクチンに使うベクターの多くは、増殖に必須のE1という領域を削って、体内では増えないように作られています。その代わり、作るときにはE1の働きを外から補う細胞が要ります。代表がHEK293ヒト胎児腎由来の細胞株。アデノウイルスのE1機能を持ち、AAV産生の三重トランスフェクションで広く使われる。詳しく →で、E1をあらかじめ染色体に持つため、E1を欠いたベクターがこの細胞の中でだけ増えます。

培養は、この細胞を懸濁培養のバイオリアクター細胞やウイルスの培養を制御された環境下で大規模に行うための培養槽で、商業規模の製造に用いられる。詳しく →(多くはシングルユース使い捨ての樹脂製バッグや容器を用いる製造方式です。洗浄・滅菌の手間を減らせる一方、ステンレス設備と比べて特徴が異なり、目的に応じて選び分けます。詳しく →)で増やし、ベクターを感染させる流れです。感染のタイミングと、感染から回収までの時間が、収量と粒子の質を左右します。

回収がレンチウイルスと大きく違います。アデノウイルスは多くが細胞の中に残るので、培養上清を集めるだけでは足りません。界面活性剤や凍結融解で細胞膜を壊し、粒子を液に出します。すると宿主DNAも一気に出てくるため、ヌクレアーゼ核酸を分解する酵素です。製造では培養由来の残存DNA/RNAを分解・除去して製品の純度を高める目的で使い、ベンゾナーゼが代表例です。詳しく →(Benzonaseなど)で断片化主鎖が切れて分子が分かれる劣化。低分子量体(LMW)として現れ、酸性側などで進みやすい。詳しく →し、デプスフィルターで細胞片を除いてから精製に進みます。上清から取れるレンチウイルスとの違いはレンチウイルスの製造工程で確かめられます。

精製は、かつては塩化セシウムの密度勾配超遠心密度の坂を作った溶液を超遠心し、各粒子を自らの密度と釣り合う位置に沈めて分ける手法。分離能は高いが量産に向きにくい。詳しく →でした。セシウムは治療用の製品に残せないので最後に取り除く必要があり、遠心機の容量が上限で、大量の製造には向きません。今は陰イオン交換が主力です。アデノウイルスの粒子は表面が負に帯電していて、正電荷のリガンド担体ビーズ表面に結合させた官能基やタンパク質で、目的物や不純物と相互作用して分離を担う部分。詳しく →によく捕まります。メンブレン型の膜クロマトグラフィーも使われ、Pallは、Mustang Qというメンブレンでアデノウイルス5型を精製する、スケールを広げやすい工程をポスターで発表しています(メーカーのデータです)。仕上げにTFFでバッファー交換と濃縮をして、無菌ろ過で終えます。

POINT

細胞を壊す強さは、回収率と不純物の量の両方を動かします。強く壊せば粒子はよく取れますが、宿主DNAとタンパク質も一緒に出てきて、下流の負担が増えます。溶解の条件は、核酸処理や清澄化とあわせて決めます。

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RCAと品質の見られ方

RCAは、複製能を持つアデノウイルス(replication-competent adenovirus)の略です。E1を欠いたベクターを、E1を持つHEK293のような細胞で増やすと、ベクターと細胞のゲノムの配列が重なる部分で組み換えが起き、E1を取り戻した増える力のあるウイルスが生じることがあります。重なりを避けるよう設計した細胞株(PER.C6など)が使われます。配列の重なりがあるHEK293ではゼロにならず、どの細胞株でも、ロットごとの試験は残ります。

FDAは、最終製品のRCAの上限を、粒子300億個に1個未満としています。気をつけたいのは、試験法の感度で結果が変わることです。2023年の総説は、新しく開発された検出法によって、従来の方法では陰性だった臨床用のロットからもRCAが見つかっていると報告しています。RCAが「出ていない」という成績は、どの方法で、どの感度で調べたかとセットで読む数字です。

力価の表し方にも注意が要ります。アデノウイルスでは、粒子の総数と、実際に細胞へ感染できる粒子の数が別々に測られます。感染できない粒子が多いロットは、同じ粒子数でも効く量が少なくなります。成績書の力価が、どちらの数字なのかを必ず確かめます。

増える力の扱いは、製品の型で正反対です。複製欠損型ではRCAがないことを示すのが最重要で、腫瘍溶解性の複製型では、狙った細胞でだけ増えることを示します。「アデノウイルスの製造実績」という言い方は、どちらの型の実績かを分けて聞かないと意味を持ちません。

RCAの出やすさは細胞株とベクターの配列の組み合わせでほぼ決まり、出ていないことは試験法の感度とあわせて読みます。

実際に起きた混入と、承認の遅れ

冒頭の事例を、もう少し詳しく見ます。原液を作っていたのは、米国ボルチモアのEmergent BioSolutionsの工場(Bayview)で、J&Jとアストラゼネカの両方のワクチン原液を扱っていました。2021年3月にロットが使えなくなり、当時FDAは、この工場で作られたJ&Jのワクチンは米国では配布されていないと説明しました。4月の初めには、米国政府がこの工場でのアストラゼネカ製品の製造をやめさせ、J&Jが新型コロナワクチンの製造を監督することになりました。4月のFDA査察では、混入の調査が十分でなかったこと、作業者の動きを通じて、別のワクチンへの交差汚染が起こりうる状態だったこと、教育が足りていなかったこと、建物と設備が洗浄や作業に適していなかったことが指摘されました。

この事例が教えるのは、アデノウイルスベクターの製造では、製品の性質よりも、共用設備の管理が先に問われるということです。型の違うウイルスベクターを同じ建物で作るなら、区画、人の動線、洗浄、切り替えの手順を、受託先に具体的に説明してもらう必要があります。共用設備の考え方は交差汚染の防止と段取り替えとラインクリアランスで整理しています。

製造が承認を遅らせた例もあります。Adstiladrinの申請に対して、FDAは2020年に製造面の懸念を理由に、承認を見送る通知(complete response letter)を出しました。承認は2022年12月16日で、2年以上の遅れです。承認後も供給体制づくりは続き、2025年4月には、製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →を作る2つ目の製造所がFDAに承認されています。製造所を増やすにも、そのつどFDAの承認が要るという例です。

明日から確かめられること

アデノウイルスベクターの受託製造製造をCDMOやCMOなど外部の製造所へ委託すること。委託しても品質への最終的な責任は委託者に残る。詳しく →や、資材の選定では、次の点を聞いてみてください。

  • 製品は複製欠損型か複製型か。複製欠損型なら、RCAの試験法、感度、判定基準、頻度はどうなっているか
  • 産生に使う細胞株は何か。ベクターとの配列の重なりへの対策は何か
  • 力価は、粒子の総数と感染力価ウイルスベクターが実際に細胞へ感染する能力を表す力価。TCID50などのアッセイで測る。詳しく →の両方で出るか。それぞれの測定法は何か
  • 細胞を壊す方法と、核酸の処理、清澄化、陰イオン交換正に帯電した担体に負電荷の物質を吸着させて分離する手法。フロースルーでDNAやウイルスを除くのに使う。詳しく →の条件は決まっているか。スケールの上限はどこか
  • 同じ施設で、ほかのウイルスベクターや他社の製品を扱っているか。扱うなら、区画、動線、洗浄、切り替えの手順は
  • 過去の査察の指摘と、その是正の経過はどうか
  • 細胞バンクと原材料のウイルス安全性試験は、ICH Q5A(R2)細胞株由来のバイオ医薬品について、ウイルス安全性評価の枠組みを示すICHガイドライン。詳しく →に沿って計画されているか

回収と精製の資材は、Benzonaseなどのヌクレアーゼ、デプスフィルター、陰イオン交換樹脂、膜クロマトグラフィー、TFF、シングルユースバイオリアクターの各ページで比べられます。

ほかのベクターとの比較はAAVベクターの製造工程と遺伝子治療ベクターの選び方が、委託先の選び方はウイルスベクター製造のCDMOの選び方が次の読みどころです。

参考文献

  • Leikas AJ, Ylä-Herttuala S, Hartikainen JEK. Adenoviral Gene Therapy Vectors in Clinical Use: Basic Aspects with a Special Reference to Replication-Competent Adenovirus Formation and Its Impact on Clinical Safety. Int J Mol Sci. 2023;24(22):16519.
  • Fallaux FJ, Bout A, van der Velde I, et al. New helper cells and matched early region 1-deleted adenovirus vectors prevent generation of replication-competent adenoviruses. Hum Gene Ther. 1998;9(13):1909-1917.
  • FDA, ADSTILADRIN (nadofaragene firadenovec-vncg) 製品ページと承認書
  • BioPharma Dive, Emergent社BayviewのFDA査察報告(Form 483)に関する報道(2021年4月)
  • BioProcess International, Emergent社Bayview工場の交差汚染リスクとForm 483に関する報道(2021年)
  • BioPharma Dive, Adstiladrinの承認に関する報道(2022年12月)
  • Pharmaceutical Commerce, Adstiladrinの製剤の2つ目の製造所の承認に関する報道(2025年4月)
  • Science History Institute, The Death of Jesse Gelsinger, 20 Years Later
  • Pall, Scalable Purification of Adenovirus Serotype 5 using Mustang Q Membrane(ポスター、メーカーデータ)
  • ICH Q5A(R2), Viral Safety Evaluation of Biotechnology Products Derived from Cell Lines of Human or Animal Origin
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この記事の目次
  1. 使われる場面と、強い免疫反応→
  2. 製造の流れと回収の特徴→
  3. RCAと品質の見られ方→
  4. 実際に起きた混入と、承認の遅れ→
  5. 明日から確かめられること→
  6. 参考文献→
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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、遺伝子治療に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。

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