消泡剤とは?泡を消せば培養は安定するのか

消泡剤培養や撹拌で生じる泡を抑えるために加える添加剤で、泡による酸素供給の低下やあふれを防ぎます。詳しく →とは、培養槽に立つ泡の膜を崩して、泡を消す添加剤です。抗体などを作る細胞培養で、泡による細胞の傷みや排気フィルタの詰まりを防ぐために使い、培養の担当は銘柄と量と入れる時期を決める必要があります。
しかし、泡が消えれば培養が安定するとは限りません。 消泡剤は酸素を運ぶ気泡どうしもくっつけるため、酸素の溶けやすさが下がり、培養液に溶けている酸素が足りなくなることがあります。
この記事では、泡と消泡剤が何をするのか、なぜ泡を消すと酸素が溶けにくくなるのか、何を基準に消泡剤と量を決めるのか、自分の場合は何から確かめるのかを順に説明します。
- 消泡剤とは:泡の膜の上に広がって膜を崩す添加剤で、泡から細胞・製品・無菌性を守るために使います。
- 泡を消せば安定するか:気泡どうしがくっついて酸素の溶けやすさ(kLa)が下がり、ある試験では30 ppmで40〜50%下がりました。
- 何で決めるか:泡の消えやすさだけでなく、槽の散気口、細胞の増殖、下流での残留まで含めて、自分の槽で測って決めます。
1. 消泡剤とは、何を守るために泡を消すのか
消泡剤は、泡が細胞と製品と無菌性を同時に傷めるのを防ぐために使う添加剤です。
培養槽は、構造として泡立ちます。酸素を入れるために気泡を吹き込み、培養液にはタンパク質やポロキサマータンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく →が溶けていて、どちらも泡を安定させる側に働くためです。泡が残ると、次の3つが起きます。
- 細胞が傷む:細胞は泡の膜、つまり気体と液体の境目(気液界面)で傷つき、泡に留まったまま本体の培養から切り離されます(散気と細胞の傷み)。
- 製品が凝集する:製品のタンパク質は界面で変性して凝集することがあり、凝集体が増えると後工程の負担が増えます。
- 無菌性が崩れる:排気口のベントフィルタは、結露や泡が運んだ液で濡れると詰まり、槽の内圧が上がります。泡が排気口からあふれれば、閉じているはずの経路が開きます。
シングルユース使い捨ての樹脂製バッグや容器を用いる製造方式です。洗浄・滅菌の手間を減らせる一方、ステンレス設備と比べて特徴が異なり、目的に応じて選び分けます。詳しく →のバッグが耐えられる圧力はごく低く、フィルタメーカーの資料は0.25 psi(約1.7 kPa)程度を一般的な上限として挙げています。このため、ベントフィルタの差圧を監視する運転が広く行われています。
消泡剤は、この泡を中から崩します。泡は薄い液の膜(ラメラ)が細胞やタンパク質に支えられて立っており、表面張力の低い消泡剤がこの膜の上に素早く広がると、膜が崩れて泡は立っていられなくなります。細胞培養で使われるのは、シリコーン系と、ポリプロピレングリコールなどの非シリコーン系が中心です。
消泡剤と混同されやすいのが、ポロキサマー(細胞を守るために培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →に加える添加剤)です。こちらは消泡剤ではなく、泡を安定させる側にも働きます。つまり、泡を消す薬と細胞を守る薬は別の役割で、どちらも泡の立ち方に関わっています。
2. なぜ、泡を消すと酸素が溶けにくくなるのか
消泡剤が入ると、酸素を運ぶ小さな気泡どうしがくっつき(合一)、気体と液体が触れる面積が減るためです。
酸素がどれだけ培養液に溶け込みやすいかは、kLa(酸素移動容量係数、気泡から液へ酸素が移る速さを表す値)で表します。気泡が合一して大きく少なくなると、同じガスを吹き込んでも接触面積が減り、kLaが下がります。
シングルユースのバイオリアクター細胞や微生物を、温度・pH・溶存酸素などを制御しながら培養する槽です。数リットルの開発用から数千リットルの商業生産用まであり、ステンレス製と使い捨て(シングルユース)があります。詳しく →で消泡剤の量を振った試験では、孔をあけた管から気泡を出すドリルドホール型の散気口(スパージャー培養槽の底などからガスを気泡として吹き込み、酸素供給やCO₂排出を行う散気装置。詳しく →)の槽で、30 ppm(100万分の30)を入れると、kLaが40〜50%下がりました。 培地に対してごく少量でも、酸素の溶けやすさは大きく削られます。

この影響が重くなるのは、培養の後半です。細胞が濃くなって酸素の供給に余裕が無いところへ泡が立ち、消泡剤を足すとkLaが下がって、溶存酸素培養液に溶けている酸素の濃度。細胞の呼吸を支えるため一定に保つ制御対象。詳しく →(DO、培養液に溶けている酸素の濃度)がさらに落ちます。散気を強めれば、また泡が立ちます(溶存酸素とkLa)。
消泡剤の量は「泡が消えたか」で決めがちですが、同時にkLaをどれだけ削ったかを見ます。添加量の積算と、DO制御の出力(撹拌、ガス流量、酸素分率)の推移を並べると、どこで余裕を失ったかが読めます。
このように、泡が立ってから消泡剤を足す運転は、酸素の余裕がいちばん要る時期にそれを削ります。では、どの消泡剤をどれだけまでなら入れてよいのでしょうか。
3. では、何を基準に消泡剤と量を決めるのか
消泡剤の上限量は製品の仕様だけでは決まらず、自分の槽の散気口と細胞で測って決めます。
同じ試験で、ドリルドホール型では40〜50%下がったkLaが、細かい孔から気泡を出すマイクロスパージャーの槽では変わりませんでした。孔の細かい散気口が作る気泡は、消泡剤が入ってもくっつきにくいと考えられます。決めるときに見る点は、次の3つです。
- 散気口:小さな槽と大きな槽で散気口の種類が違えば、小さな槽で影響の出なかった量が、大きな槽で酸素の供給を削ることがあります。論文や他社の上限値は、測った槽の散気口とセットでしか使えません。
- 細胞の増殖:マイクロバイオリアクター数mL〜数十mL規模の小型培養容器を多数並列で運転し、スケールダウン実験やプロセス開発を高スループットで行うための装置です。詳しく →で5種類の消泡剤を比べた研究では、3種類は泡を十分に抑えたうえで培養が成立し、2種類は細胞の増殖が明らかに鈍りました。同じ研究は、消泡剤と培地の選び方が抗体の生産と品質の両方に効くことも示しています。
- 下流での残留:消泡剤は工程由来の不純物として扱われ、精製のどこかで除かれることを示す必要があります。シリコーン系の消泡剤は細胞の健康や、下流のろ過と精製に悪影響があると長く考えられてきました。
銘柄の比較の結果は、その試験の細胞株と培地での値です。泡が消えるかどうかだけで選ぶと、細胞の伸びない銘柄を拾ってしまいます。
残留の確認には、測り方の問題もあります。シリコーンは紫外線をほとんど吸収しないため、荷電化粒子検出器(CAD、粒子にした試料の電荷で量る検出器)を付けたクロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →のように、紫外線に頼らない測定法が研究されています。つまり、消泡剤を選ぶときは、泡の消えやすさに加えて、酸素、細胞、下流での落ち方と測りやすさまで並べて比べる必要があります。
4. 自分の場合は、何から確かめるのか
まず、薬に頼る前に泡そのものを物理的に減らせる余地があるかを確かめます。
液面から槽の上端までの空間(ヘッドスペース)を十分に取ると、泡の逃げ場ができます。充填率を上げて生産量を稼ぎたい場面ほど、ここが削られがちです。そのうえで、次の3つを確かめておくと、消泡剤の量と入れ方を決めやすくなります。
- 泡を減らす余地を使い切ったか:ガスの流量を必要な量に抑え、液中に吹き込むガスと液面の上に流すガスの配分を見直します。二酸化炭素を抜くために通気を強めているなら、泡との兼ね合いになるためpHとCO2の制御も合わせて見ます。
- 上限量を、同じ散気口で測ったか:銘柄ごとに、増殖、力価、酸素の溶けやすさ(kLa)を、本番と同じ散気口と培養条件で比べます。培地の組成やポロキサマーの濃度も泡立ちに効くため、培地開発とDoEの段階で消泡剤の種類と上限まで決めておけます。
- いつ、どれだけ入れたかが残るか:泡センサーを槽の決めた高さに付け、泡を検知したときだけ少量を足し、積算量を毎回記録します。あらかじめ培地に混ぜておく運転は、泡が立たない期間までkLaを削り続けます。
記録が無ければ、培養ごとの比較も、スケールアップでの条件の移しもできません。あわせて、ベントフィルタの差圧を監視し、消泡剤が精製のどこでどれだけ下がるかを自社の工程で実測しておきます(清澄化)。
最初の一歩は、いま使っている消泡剤の添加の記録と、溶存酸素(DO)培養液などに溶け込んでいる酸素の量。細胞培養では制御対象となる重要なパラメータ。制御の出力を同じ時間軸に並べてみることです。後半のどこで酸素の余裕が消えたかが見えれば、量と時期のどちらを直すべきかが分かります。
参考文献
- Velugula-Yellela SR et al., Impact of media and antifoam selection on monoclonal antibody production and quality using a high throughput micro-bioreactor system, Biotechnology Progress 34: 262-270, 2018.(銘柄ごとの泡の抑制と増殖の差)
- McAndrew J, Kauffman G(Distek), Characterizing the Effects of Antifoam C Emulsion on Oxygen Mass Transfer within the BIOne Drilled-Hole Sparger and Microsparger Single-Use Bioreactor Systems(American Pharmaceutical Review)(30 ppmとkLa、散気口による違い)
- An RPLC Method with CAD for the Quantification of Residual Simethicone in Biologic Products(LCGC / Chromatography Online, 2025年10月)(消泡剤の残留、測定の難しさ)
- MilliporeSigma(Merck KGaA), Efficient vent filtration(アプリケーションノート AN14431EN)(排気フィルタの濡れ、差圧の監視、シングルユースのバッグの圧力上限)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/antifoam-foam-control