バイオシミラーとは?先行品と同じだと、どうやって示すか
バイオシミラーとは、先行するバイオ医薬品抗体・タンパク質・核酸など生体由来の分子を利用して製造された医薬品の総称。の特許が切れたあとに、別の会社が作る同等・同質の医薬品です。日本の制度上の呼び名は「バイオ後続品」になります。
低分子のジェネリックと同じ感覚で捉えると、まず間違えます。同じものは作れないからです。

- 細胞が作る以上、先行品と分子を完全に一致させることはできません。目指すのは同一ではなく同等・同質です。
- 立証の主役は臨床試験ではなく分析です。違いを見つけ、その違いが効き目と安全性を変えないと示します。
- 開発費は低分子ジェネリックの比ではありません。参入できる会社が限られ、供給が細りやすい構造になります。
同じものは作れない
低分子医薬品化学合成によって製造される比較的分子量の小さな有機化合物の医薬品で、バイオ医薬品と区別される。なら、構造式が決まれば同じ分子が作れます。分析で一致を示せば、あとは体内での動きが同じことを確かめれば済みます。
バイオ医薬品は違います。抗体は分子量15万ほどのタンパク質で、しかも細胞が作ります。細胞株が違い、培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。が違い、培養の条件が違えば、出てくる分子は少しずつ違います。
どこが違うか。糖鎖の付き方、電荷異性体の割合、凝集体の量、C末端リジン抗体重鎖のC末端に残るリジン残基。正電荷を持ち塩基性バリアントとして現れ、切断されると相対的に酸性化する。の残り方。アミノ酸配列は同じにできても、その周りの修飾は完全には揃いません。先行品自身も、ロットごとに幅の中で動いています。
だから制度は「同一であること」を求めません。求めるのは、違いがあることを承知したうえで、その違いが臨床的に意味を持たないと示すことです。
分析で積み上げる
立証の順序は、低分子ジェネリックと逆になります。低分子は臨床の生物学的同等性二つの製剤が同程度に全身へ届くことを示すこと。後発品の評価などで用いる。試験が要で、分析はその前提を確かめるものです。バイオシミラーでは分析が主役になります。
比較するのは、先行品の複数ロットと自社品です。見るのは構造と、機能と、不純物です。
- 一次構造タンパク質のアミノ酸の並び順のことで、設計配列との一致が同一性の基本的な保証になる。:ペプチドマッピングで配列を確かめる
- 高次構造:円偏光二色性や示差走査熱量測定温度を上げながら分子がほどける際の熱の出入りを測り、融解温度(Tm)を求める手法。で折りたたみと熱安定性抗体が熱に対して立体構造を保つ性質。融解温度(Tm)などで評価する。を比べる
- 糖鎖タンパク質に付加される糖の鎖状構造で、抗体の有効性・免疫原性などに影響する重要な品質特性。:N型糖鎖のプロファイルを取り、シアル酸糖鎖の末端に付く酸性の糖。負電荷を加えるため酸性バリアントに寄与し、薬物動態にも関わる。やフコースの割合を並べる
- 電荷・サイズ:icIEFとSECで異性体と凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →の分布を比べる
- 機能:抗原への結合、Fc受容体免疫細胞側にある抗体のFc領域の受け皿。結合の強さがADCCなどのエフェクター機能に関わる。への結合、細胞アッセイでの力価
ここで重要なのは、先行品のロット間のばらつきを先に把握しておくことです。自社品が先行品の変動の幅に収まっているのか、外れているのか。その物差しがなければ、違いの意味を論じられません。
差が見つかったときは、その差が何に効くかを説明します。たとえばフコースの量はADCC活性を左右します。作用機序にADCC抗体FcがNK細胞などのFcγRIIIaに結合し、そのエフェクター細胞に標的細胞を傷害させる作用。が関わらない分子なら、フコースの差は許容できるかもしれません。関わるなら、機能試験で差がないことまで示す必要があります。同じ0.5%の差でも、分子によって重みが変わります。
臨床試験はどこまで要るか
分析で高い類似性を示せた場合、臨床試験の負担は軽くなります。求められるのは通常、健常人での薬物動態投与した薬が体内で吸収・分布・代謝・排泄されていく挙動。ADCではDARが大きく影響する。の比較と、免疫原性薬そのものが患者の免疫応答を誘発しやすい性質。凝集体や不純物、投与経路、患者背景などが要因になる。の評価です。有効性の比較試験同一ロットの検体を移管元と移管先の両方で試験し、あらかじめ決めた許容差内かで同等性を判定する方式。は、分析と薬物動態で説明しきれない不確実性が残るときに求められます。
近年は、この「有効性試験は本当に要るのか」という議論が進んでいます。分析技術が上がり、分子の違いを検出する感度が、臨床試験で差を検出する感度をはるかに超えたためです。数百人の試験より、質量分析分子の質量を精密に測る手法。鎖の組み合わせ違いを分子量差として捉え純度評価に使う。のほうが小さな差を見つけられるという逆転が起きています。
免疫原性だけは別扱いになります。抗薬物抗体投与した抗体医薬を異物とみなして患者の免疫系が作る抗体。薬の効果低下や安全性の問題を招く。ができるかどうかは、分子のわずかな違いや製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。、容器に左右されます。ここは実際に人に投与しないと分かりません。
相互置換可能性という別の論点
承認されたことと、薬局で先行品と入れ替えてよいことは、別の話です。
米国には「interchangeable(相互置換可能)」という追加の区分があり、これを取れば処方医の関与なしに薬剤師が切り替えられます。従来は切替試験の追加データが必要でしたが、FDAはこの要求を見直す方向に動いています。欧州は制度の作りが違い、置き換えの可否は各国の判断に委ねられています。
日本では、バイオシミラーへの変更は処方の範囲で扱われます。制度が違えば、同じ品目でも普及の速さが変わります。
作れる会社が限られる、ということ
ここまでの手間を裏返すと、産業構造が見えてきます。
開発には先行品の実物を大量に買い集める費用、数十項目の分析法を立ち上げる費用、そして製造用の細胞株をゼロから作る費用がかかります。細胞株構築からやり直す以上、工程の設計も自前です。低分子ジェネリックのように、数千万円で参入できる世界ではありません。
結果として、バイオシミラーを商業規模で作れる会社は世界でも限られます。供給が数社に集中すれば、受託枠の逼迫や地政学の影響を受けやすくなります。厚生労働省がバイオ後続品の国内製造施設に補助金を出しているのは、この構造に対してです。2026年にはアルフレッサHDら4社がバイオシミラーのCDMOを設立すると発表しており、台湾企業が45%を出資する形で製造技術を持ち込みます。
国産化といっても、技術まで国内で立ち上げるとは限りません。工場と供給網を国内に置き、ノウハウは外から入れる。速さを優先するなら、この形になります。
まとめ
バイオシミラーは「安い同じ薬」ではありません。違うことを前提に、違いが効かないと示した薬です。示す作業の中身は、ほぼ分析です。
実務で関わるなら、見るべき順序は決まっています。先行品のロット間変動を掴む。自社品がその幅に収まるかを見る。外れた項目について、作用機序薬が効果を発揮する仕組み。抗体医薬ではADCCやCDCなどが該当し、アッセイで裏づける。に照らして意味を論じる。この3つが通れば、臨床の負担は軽くなります。
参考文献
- ICH Q5E製造工程の変更前後で製品が同等・比較可能かを評価する考え方を定めたガイドライン。, Comparability of Biotechnological/Biological Products Subject to Changes in Their Manufacturing Process
- ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。, Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products
- EMA, Guideline on similar biological medicinal products(CHMP/437/04 Rev 1)
- FDA, Scientific Considerations in Demonstrating Biosimilarity to a Reference Product
- 厚生労働省「バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針」(薬食審査発第0304007号)
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