バイオシミラーとは?同じ分子にならないのに、なぜ先行品と同等と言えるのか

バイオシミラー(バイオ後続品)とは、特許が切れたバイオ医薬品抗体や組換えタンパク質など、生きた細胞や微生物に作らせる医薬品の総称です。細胞治療・遺伝子治療の製品を含めて呼ぶこともあります。化学合成で作る核酸医薬やペプチドは、ふつう含めません。詳しく →(先行品)と同等であることを示して承認される後続品です。開発する人は、作った分子が先行品とどこまで同じかを測り、その結果で臨床試験の範囲を決めます。
ただし、先行品と同じ分子を作ることは求められていません。 細胞が作る薬は先行品自身もロットごとに少しずつ違うため、その違いの幅に収まることを示します。
この記事では、ジェネリックとの違い、同じ分子でなくても承認される理由、何と比べて判断するか、臨床試験がどこまで要るか、開発資料で何から確かめるかを順に説明します。
- ジェネリックとの違い:ジェネリックは臨床の同等性試験が立証の中心ですが、バイオシミラーは先行品との分析比較が中心で、臨床試験はその上に積みます。
- なぜ同じ分子でなくてよいのか:先行品もロットや時期によって糖鎖の割合などが動いており、制度は違いが臨床的に意味を持たないことを求めているためです。
- 何と比べるのか:先行品の複数ロットが作る幅と比べ、平均が近いかではなく、幅に収まるか、外れた項目の意味を説明できるかを見ます。
1. 立証の順序が逆:バイオシミラーは、ジェネリックと何が違うのか?
バイオシミラーは、先行品と同じ分子を作るのではなく、先行品との違いが効き目と安全性に影響しないことを、分析を中心に示して承認されます。 低分子のジェネリックとは、立証の順序が逆です。
低分子の薬は、構造式が決まれば同じ分子を化学合成で作れます。一方、抗体のようなバイオ医薬品は分子量15万ほどのタンパク質を細胞に作らせるので、細胞株や培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →、培養の条件が違えば、出てくる分子も少しずつ違います。
- 低分子のジェネリック:有効成分を先行品と同一にできるため、人に投与して体内での動きが同じかを見る試験(生物学的同等性二つの製剤が同程度に全身へ届くことを示すこと。後発品の評価などで用いる。詳しく →試験)が立証の中心です。
- バイオシミラー:有効成分は同一にできないため、先行品との分析比較が立証の中心です。臨床試験は、分析で説明しきれない点を補うために行います。

違いが出やすいのは、分子の表面に付く糖鎖の付き方、電荷の違う分子(電荷バリアント)の割合、分子どうしが固まった凝集体の量、C末端リジン抗体重鎖のC末端に残るリジン残基。正電荷を持ち塩基性バリアントとして現れ、切断されると相対的に酸性化する。詳しく →の残り方です。アミノ酸の配列は同じにできても、その周りの修飾までは揃いません。
開発で最初に問われるのは、同じものを作れたかではなく、違いをどこまで測り、説明できるかです。では、同じ分子でないものが、なぜ承認されるのか。
2. 先行品もロットごとに動いている:なぜ同じ分子でなくても承認されるのか?
先行品自身も、ロットや時期によって品質特性が動いているからです。 そのため制度は「同一であること」を求めず、違いがあると承知したうえで、その違いが臨床的に意味を持たないことを示すよう求めています。
この実態を示したのが、2011年にNature Biotechnologyに出た論文です。2007年から2010年に市場にあったエタネルセプト、リツキシマブ、ダルベポエチンアルファの3製品を調べています。著者は後続品メーカーの研究者なので、立場は割り引いて読む必要があります。
目に見えて動いたのは、エタネルセプトの糖鎖タンパク質に付加される糖の鎖状構造で、抗体の有効性・免疫原性などに影響する重要な品質特性。詳しく →の割合です。この論文を引いた解説では、G2Fという糖鎖を含む分子の割合が約50%から約30%に下がったとされます。原因は製造の変更とみられています。それでも先行品の添付文書は変わらず、同じ製品として使われ続けました。
製法を変えた先行品のメーカーも、変更の前後で品質を比べ、同じ製品と言えることを示します(ICH Q5Eと同等性/同質性)。バイオシミラーの考え方は、この比べ方を別の会社の製品どうしに広げたものです。
後続品に求められるのは、同一であることではなく、先行品が実際に動いている幅に収まることです。その幅は、どう測り、何と比べるのか。
3. 比べる相手は1ロットではなく幅:何と比べて同等と判断するのか?
比べる相手は、先行品の1ロットではなく、複数ロットが作る幅です。 自社品のロットがその幅に収まっているか、外れた項目があれば、その差が何に効くかを説明できるかで判断します。
何を測って比べるのか
先行品の複数ロットと自社品を並べ、構造・機能・不純物を次のように比べます。
- 一次構造タンパク質のアミノ酸の並び順のことで、設計配列との一致が同一性の基本的な保証になる。詳しく →:ペプチドマッピングで、アミノ酸の配列が同じかを確かめます。
- 高次構造アミノ酸鎖が折りたたまれてできる立体構造。二次・三次構造などの階層があり、品質特性として評価する。詳しく →:円偏光二色性や示差走査熱量測定温度を上げながら分子がほどける際の熱の出入りを測り、融解温度(Tm)を求める手法。詳しく →で、折りたたみの形と熱への強さを比べます。
- 糖鎖:N型糖鎖のプロファイルを取り、シアル酸糖鎖の末端に付く酸性の糖。負電荷を加えるため酸性バリアントに寄与し、薬物動態にも関わる。詳しく →やフコースの割合を並べます。
- 電荷とサイズ:電荷と大きさの分布を、イメージキャピラリー等電点電気泳動(icIEF)とサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)多孔性樹脂の孔に小分子ほど入り込む時間差を利用し、分子をサイズで分けるクロマトグラフィー。詳しく →で比べます。
- 機能:抗原やFc受容体(免疫細胞が抗体の根元をつかむ受け手)への結合と、細胞アッセイでの力価を見ます。
承認済みの申請書類で、どの品質特性がどの分析法で比べられたかは、論文の解説にまとめています。
なぜ先行品の幅を先に測るのか
先に測るのは、先行品のロット間のばらつきです。収まっているか外れているかを決める基準が無ければ、見つかった違いの意味を論じられないからです。
平均値が近くても、自社品の1ロットが幅の外に出ていれば、同等とは言い切れません。かといって、外れた項目がそれだけで不合格と決まるのでもありません。その差が効き目や安全性に効くかを、説明する対象です。
外れた差は、どう説明するのか
差の重さを決めるのは、分子がどう効くか(作用機序薬が効果を発揮する仕組み。抗体医薬ではADCCやCDCなどが該当し、アッセイで裏づける。詳しく →)です。たとえばフコースが少ないと、抗体が結合した細胞を免疫細胞が壊す働きが強まります。この働きを抗体依存性細胞傷害(ADCC)抗体のFc領域が免疫細胞を呼び寄せ、標的細胞を傷害させるエフェクター機能。と呼びます。
- ADCC抗体FcがNK細胞などのFcγRIIIaに結合し、そのエフェクター細胞に標的細胞を傷害させる作用。詳しく →が作用機序に関わらない分子:フコースの差は、許容できる場合があります。
- ADCCが作用機序に関わる分子:機能試験で、ADCC活性に差がないことまで示す必要があります。

同じ大きさの差でも、分子によって説明に要るデータは変わります。そして、分析でどこまで説明できたかが、次の臨床試験の範囲を決めます。
4. 重要:臨床試験の範囲は分析で決まる。どこまで要るのか?
分析で高い類似性を示せた場合、通常求められる臨床試験は、健常人での薬物動態投与した薬が体内で吸収・分布・代謝・排泄されていく挙動。ADCではDARが大きく影響する。詳しく →の比較と、免疫原性薬そのものが患者の免疫応答を誘発しやすい性質。凝集体や不純物、投与経路、患者背景などが要因になる。詳しく →の評価です。 有効性を比べる試験は、分析と薬物動態で説明しきれない不確実性が残るときに求められます。
有効性の試験が本当に要るのかという議論は、規制の側でも進んでいます。FDAは2025年10月29日に公表した指針案で、高品質な分析比較に薬物動態と免疫原性の評価を組み合わせれば、有効性の比較試験は必ずしも要らない場合があるとしました。
理由としてFDAが挙げるのは感度で、患者を集めて効き目を比べる試験は、多くの分析に比べて差を見つける感度が一般に低いとしています。ただし対象は、分析で性質を十分に調べられる高純度の製品で、人での薬物動態の比較が行える場合などに限られます。
免疫原性は別扱いです。体が薬を異物とみなして抗体(抗薬物抗体投与した抗体医薬を異物とみなして患者の免疫系が作る抗体。薬の効果低下や安全性の問題を招く。詳しく →)を作るかどうかは、分子のわずかな違いや製剤、容器に左右されます。こればかりは、人に投与して確かめる必要があります(抗体医薬の免疫原性)。
承認されたことと、薬局で先行品と入れ替えてよいことは別の話です。米国には入れ替えを認める「interchangeable(相互置換可能)」という追加の区分があり、FDAは2024年6月の指針案で、そのための切替試験は一般に要らないとする方向を示しました。欧州では、入れ替えの可否は各国の判断に委ねられています。
臨床試験をどこまで行うかは、分析でどれだけ説明できたかで大きく変わります。開発資料を読むときも、まず分析の比較から確かめます。
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- 5. 開発資料や提案書では、何から確かめるのか
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ほかの会員向けの記事を見る →参考文献
- ICH Q5E製造工程の変更前後で製品が同等・比較可能かを評価する考え方を定めたガイドライン。詳しく →, Comparability of Biotechnological/Biological Products Subject to Changes in Their Manufacturing Process
- ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく →, Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products
- EMA, Guideline on similar biological medicinal products(CHMP/437/04 Rev 1)
- FDA, Scientific Considerations in Demonstrating Biosimilarity to a Reference Product(2015年)
- Jones Day, FDA Biosimilar Playbook: Merging Biosimilarity with Interchangeability(2025年10月29日のFDA指針案と、2024年6月の相互置換可能性の指針案の解説)
- Schiestl M, et al. Acceptable changes in quality attributes of glycosylated biopharmaceuticals. Nat Biotechnol. 2011;29(4):310-312.(GaBIによる解説。著者はSandozの研究者)
- 厚生労働省「バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針」(薬食審査発第0304007号)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/biosimilar-development-comparability