連続発酵(ケモスタット)とは?しくみと長期運転の落とし穴

連続発酵は、発酵槽大腸菌や酵母などの微生物を高密度で培養する培養槽で、高い酸素供給や蒸気滅菌に対応した発酵用の設備です。詳しく →に培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →を入れ続け、同じ量の培養液を抜き続ける培養で、その代表がケモスタットです。ケモスタットでは、ポンプで入れる速さがそのまま菌の増える速さを決め、条件がそろえば槽の中身はずっと同じ状態に保たれます。
ただし、同じ条件で何十世代も増やし続けるため、少しでも速く増える変異株が出ると、時間とともに槽の中でその割合が増えていきます。
この記事では、ケモスタットのしくみ、回分・流加・灌流との違い、長く回すと起きること、連続製造としての扱い、運転前に確かめる点を順に説明します。
1. しくみ ― ポンプの速さと菌の増える速さ
ケモスタット(chemostat)は、液量を一定に保った発酵槽に新しい培地を一定の速さで入れ、同じ速さで培養液を菌ごと抜き出す運転です。1950年に Monod と、Novick・Szilard がほぼ同時に考案しました。
槽にとどまれるのは、抜き出される速さとちょうど同じ速さで増えている菌だけです。そのため、ポンプを速くすれば菌は速く増え、遅くすればゆっくり増えます。この入れ替わりの速さを希釈率(dilution rate)、菌の増える速さを比増殖速度(μ)と呼びます。
菌がどこまで濃くなるかは、培地の成分のうち一つ、多くは糖などの炭素源だけをわざと足りない状態にしておき、その成分をどれだけ供給したかで決まります。この成分を律速基質と呼びます。
ポンプの速さには上限があり、菌が増えられる最高の速さを超えて抜き出すと、菌は増えるより早く流れ出て、槽からいなくなります。これを洗い出し(wash-out)と呼びます。
生産性を上げようと入れ替えを速くするほど、運転は洗い出しが起きる速さに近づきます。その近くでは、供給のわずかなぶれで上限を越えただけでも、菌は減り始めます。
条件を変えても槽はすぐには落ち着かず、新しい定常状態に入るには、槽の液が何回か入れ替わる必要があります。研究報告では、4〜6回入れ替わるまで待ってから定常とみなす例がよく見られます。
いまの培養がどのくらいの速さで増えているかは、2つの時点の菌体濃度から比増殖速度の計算ツールで出せます。
ケモスタットでは、ポンプの速さを決めることが、菌の増える速さを決めることと同じ意味を持ちます。
2. 回分・流加・灌流との違い ― 連続が選ばれる場面
違いは、槽の中身が時間とともに変わるかどうかにあります。
| 回分(バッチ) | 流加(フェドバッチ) | 連続(ケモスタット) | |
|---|---|---|---|
| 槽の中身 | 時間とともに大きく変わる | 変わる | 定常なら一定 |
| 増える速さの決め方 | 菌まかせ | 糖を与える速さで抑える | ポンプの速さで指定する |
| 長く回したときの弱点 | 短期で終わるので小さい | 中程度 | 変異株・汚染が積み重なる |
| 向く場面 | 単純な培養、少量 | 高密度・高生産の工業生産 | 増える速さを固定した研究、長期の生産 |
医薬品の原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →を微生物で作る工程で流加が主流なのは、糖を少しずつ与えて増える速さを抑えれば、大腸菌なら酢酸、酵母ならエタノールがたまるのを避けながら、菌を高い密度まで育てられるからです(オーバーフロー代謝と酢酸)。収穫はロットごとに区切られ、記録も出荷判定製造したロットを規格に照らして出荷の可否を決める判断。有効期間の短い製品では時間との戦いになる。詳しく →もその単位で回ります。
連続が向くのは、増える速さを固定して比べたい研究です。同じ菌を、増える速さだけを変えて何段階かで育てれば、代謝や生産性がどう変わるかを、ほかの条件を動かさずに比べられます。回分では時間とともに栄養も菌の量も変わるので、この比較は組めません。
動物細胞で広く使われる灌流(パーフュージョン培養液を連続的に入れ替えながら細胞を高密度に保ち、長期間生産を続ける培養方式です。細胞を装置で保持し、老廃物を除きつつ栄養を補給します。詳しく →)培養も、培地を入れ続けて抜き続ける点は同じで、違いは細胞を槽に残すかどうかにあります。
- 灌流:フィルターなどで細胞を引き止めて上澄みだけを抜くので、細胞は高い密度までたまります。
- ケモスタット:菌ごと抜くので、菌の量は律速基質で決まった高さにとどまります。
灌流の設計は灌流培養とはで解説しています。
連続を選ぶかどうかは、量の多さより、同じ状態で回し続けることに価値があるかで決まります。
3. 長く回すと起きること ― 変異株・汚染・壁面増殖
連続発酵は、培地を入れ続け、同じ量を抜き続ければ、理屈の上ではいつまでも回し続けられる方式です。ただし、回分なら数日で終わる培養を何週間も同じ条件で続けるため、時間がたつほど問題が積み重なります。
1つ目は変異株で、槽の中では、抜かれる速さに追いつけない菌から順に消えていきます。逆に、少しでも速く増える菌が現れると、その子孫は世代を重ねるごとに割合を増やします。
代替肉の材料として売られているマイコプロテイン(Quorn)は、糸状菌の一種を大きな発酵槽で連続して育てて作られていますが、連続で回せるのは数週間ほどです。枝分かれの多い C 変異株(C-variant)が繰り返し現れて増え、製品の食感を損なうため、運転を早めに打ち切る原因になってきました。
2025年の論文は、商業発酵から分けた C 変異株12株のうち11株で、菌糸の枝分かれに関わる遺伝子 LRG1 に変異を見つけています。
組換えタンパク質遺伝子組換えで微生物や細胞に作らせた目的タンパク質。宿主により折りたたみやコスト、糖鎖が異なる。詳しく →の生産では、目的のタンパク質の遺伝子を載せたプラスミド大腸菌の中で複製・増幅させる環状DNA。核酸医薬やベクター製造の伝統的な出発材料。詳しく →が菌にとって重荷になるため、同じことがもっと身近な形で起きます。1985年に報告された組換え大腸菌の例では、プラスミドを失った菌が約1.7倍の速さで増え、プラスミドが極端に抜けやすい系になっていました。連続培養ではこの差が世代ごとに積み重なり、菌の量は保たれたまま、生産だけが落ちていきます。
医薬品では、ICH Q5B が、製造に使う細胞の培養年齢(マスターセルバンク製造の起点となる細胞を段階的に均質に凍結保存した在庫(マスター/ワーキングセルバンク)。詳しく →を起こしてから収穫までの長さで、日数や世代数で数える)に上限を決めるよう求めています。上限は、実際にその長さ以上まで増やした細胞のデータで裏付けます。連続運転は培養年齢を延ばし続けるので、運転期間はこの上限の内側に収めます。
2つ目は汚染で、培地の補給口と抜き出し口は、運転のあいだずっと外とつながっています。培地タンクの交換、サンプリング、つなぎ目の緩みのどれか一つで無菌が破れれば、数週間分の運転を失います。
3つ目は、槽の壁やセンサーに菌が貼り付いて増える壁面増殖(wall growth)です。貼り付いた菌は抜き出しで減らないので、洗い出しが起きにくく見えたり、抜き出した液の菌体濃度がふらついたりします。pH や溶存酸素(DO)培養液などに溶け込んでいる酸素の量。細胞培養では制御対象となる重要なパラメータ。の電極が汚れると、測定値そのものも信用できなくなります。
連続運転の長さを決めるのはポンプではなく、菌が変わらずにいられる世代数と、無菌を保てる日数です。
4. 連続製造としての扱い ― ロットの区切りと監視
ICH Q13原薬・製剤の連続生産に関する品質・規制の考え方を整理した国際調和ガイドライン。詳しく → で連続生産の枠組みが整い、装置選びや運転計画、品質の確認で連続の考え方に触れる場面は増えています。医薬品の製造に連続を持ち込むと、どこで区切ってロットにするかという問いに答える必要が出てきます。
ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q13(原薬及び製剤の連続生産)は、化学合成品とタンパク質医薬品の連続生産を対象にしたガイドラインで、2022年11月に合意され、国内では2023年5月31日付の通知で示されました。ロットの大きさは、出てきた量、入れた原料の量、決まった流量での運転時間のいずれかで決めてよく、科学的な根拠があれば別の決め方も認めています。
連続の工程では、状態が一時的に崩れたとき、そのあいだに出た物がどこまで流れていったかを追えなければなりません。そのため、菌体濃度、溶存酸素、排ガスの組成などを止めずに測り続けるプロセス解析工学製造中の品質特性をセンサーなどでリアルタイムに測定し、工程を監視・制御する枠組みです。工程終了後の検査に頼らず、その場で品質を作り込むことを目指します。詳しく →(PAT)が、品質保証の土台を担います。考え方はPATとリアルタイム工程制御で整理しています。
連続発酵を製造に使うなら、装置を選ぶ前に、ロットの区切り方と、状態が崩れたときに外す範囲を決めておきます。
5. 明日から確かめられること
連続発酵を試す計画や装置の見積もりの前に、次の点を順に決めておくと、メーカーや社内との話が早く進みます。
- 目的:増える速さを固定して比べる研究か、長く生産し続けることかを決めます。
- 液量と送液:液量を一定に保つ方法(あふれ管で抜くか、重量で制御するか)と、送液ポンプ液体を配管を通して、タンクや次の工程など別の場所へ送り移すためのポンプです。詳しく →の校正の頻度を決めます。培地タンクの容量と、運転中に無菌のまま交換する手順も決めておきます。
- 定常の判断:条件を変えたあと、液が何回入れ替わるまで待って定常とみなすかを決めます。定常の確認に何を測るか(菌体濃度、残った糖、産物)も決めておきます。
- 運転の長さと点検:何日、何世代まで回すかを決め、その長さまで増やした菌で、プラスミドの保持や生産性を確かめたデータがあるかを確かめます。壁面増殖や電極の汚れを、いつ、どう点検するかも決めます。
- 製造での扱い:製造に使う場合は、ロットの区切り方と、状態が崩れたときに外す範囲を決めます。
送液と液量の制御は培養制御システム、試験用の装置は小型バイオリアクターで比べられます。連続にするか流加で足りるかを迷ったら微生物発酵の運転方式を、長期運転に耐える株とセルバンク目的物質を作る細胞をあらかじめ大量に凍結保存し、製造のたびに同じ素性の細胞を使えるようにした細胞の在庫(MCB/WCB)のことです。詳しく →の作り方は微生物の株構築とセルバンクを読むと、次の判断につながります。
参考文献
- ICH Q13: Continuous Manufacturing of Drug Substances and Drug Products(Step 4、2022年11月16日), EMA 掲載版(対象範囲、ロットの大きさの決め方)
- 厚生労働省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課長通知「原薬及び製剤の連続生産に関するガイドラインについて」(薬生薬審発0531第1号、2023年5月31日)
- ICH Q5B: Analysis of the Expression Construct in Cells Used for Production of r-DNA Derived Protein Products, EMA 掲載版(製造に使う細胞の培養年齢の上限)
- Novick A, Szilard L. Experiments with the chemostat on spontaneous mutations of bacteria. Proc Natl Acad Sci USA. 1950;36(12):708-719.(ケモスタットの考案)
- Pierce J, Gutteridge S. Large-scale preparation of ribulosebisphosphate carboxylase from a recombinant system in Escherichia coli characterized by extreme plasmid instability. Appl Environ Microbiol. 1985;49(5):1094-1100.(プラスミドを失った菌が約1.7倍速く増えた例)
- Connell et al. Mutation of the LRG1 Rho-GAP gene is responsible for the hyper branching C-variant phenotype in the quorn mycoprotein fungus Fusarium venenatum A3/5. Fungal Biol Biotechnol. 2025;12:3. doi:10.1186/s40694-025-00195-8(C 変異株と発酵の早期打ち切り)
- The Good Food Institute, Suppressing hyper-branching of filamentous fungi(連続運転が数週間で変異株に阻まれること)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/microbial-continuous-fermentation-chemostat