生菌製剤(LBP)の品質は何で決まる?CFUだけでは見えない点

生菌製剤(LBP: Live Biotherapeutic Products)は、生きた微生物を含み、疾患の予防や治療に使う、ワクチンではない生物学的製剤抗体など生き物由来の医薬品で、NOAEL起点の換算だけでは危ういことがある。詳しく →です。抗体医薬では不純物として取り除く細胞が、ここでは製品そのものなので、有効成分が生きていることが、培養も乾燥も保管も試験も変えます。
ただし、ラベルのCFU(コロニー形成単位培養した際に1つのコロニー(集落)を形成する微生物の単位で、生菌数を表す際に用いられる。詳しく →。寒天培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →で増えて、目に見える塊を作れる菌の数)は、その結果の一つにすぎません。何を数えた値かで、剤形も保管も投与経路も変わります。
この記事では、承認済みの2製品の違い、嫌気培養と凍結乾燥の難しさ、欧州薬局方欧州医薬品品質局(EDQM)が発行する、医薬品の品質基準を定めた公定書で、署名国・加盟国の規制に法的効力を持つ。詳しく →の品質試験、受託先と確かめる点を順に説明します。
1. 承認済みの2製品は、数えているものが違う
米国で承認された2つの生菌製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →は、どちらも、抗菌薬で治療した後の成人で Clostridioides difficile 感染症の再発を防ぐ薬です。ところが、作り方も形もほとんど共通点がありません。
Rebyota(Ferring社)は、FDAが2022年11月に承認した最初の便微生物製品で、ドナーの便を処理した懸濁液を直腸に1回投与します。
Vowst(Seres Therapeutics社)は、2023年4月に承認された最初の経口の便微生物製品です。ドナーの便をエタノールで処理して芽胞を作らない菌を死滅させ、ファーミキューテス門の芽胞(酸や乾燥に強い休眠の形)だけを取り出してカプセルにしています。
| Rebyota | Vowst | |
|---|---|---|
| 投与 | 直腸に1回(150 mL) | 経口、1日4カプセルを3日間 |
| 作り方 | ドナーの便を処理した懸濁液 | ドナーの便をエタノールで処理し、芽胞だけを取り出す |
| 生菌数の表示 | 1 mLあたり1×10⁸〜5×10¹⁰ CFU | 1カプセルあたり1×10⁶〜3×10⁷ CFU(芽胞) |
| 保管 | −60〜−90℃の超低温。解凍は冷蔵で約24時間。冷蔵のままなら解凍を含めて5日まで | 冷凍庫を使わずに保管できる |
桁だけ見ればRebyotaのほうが濃く見えますが、数えている菌も薬の形も違うため、これで優劣は決まりません。
Vowstは、酸と乾燥に強い芽胞だけを選んだことで、冷凍庫なしの保管と経口投与が成り立っています。Rebyotaは幅広い菌を含む液なので、冷凍で生かしたまま届けます。
同じCFUという単位でも、何を数えているかで、剤形と保管と投与経路が入れ替わります。
便を原料にする製品では、ドナーの管理が品質の一部です。2019年6月、FDAは安全性の警告を出しました。試験的に行われた糞便微生物移植(FMT)を受けた免疫の弱い成人2人が、同じドナーの便に由来する薬剤耐性の大腸菌(ESBL産生大腸菌)で重い感染症になり、1人が亡くなったためです。
この便は、ESBL産生菌の検査を受けないまま使われていました。Vowstの添付文書は、ドナーと便を病原体の検査にかけていても、感染性の病原体を伝えるおそれは残ると書いています。
2. 酸素を締め出す嫌気培養
腸内の菌の多くは、酸素に触れると弱る嫌気性菌です。製造の難所の1つめが、酸素のない環境で育てることにあります。
従来のバイオ医薬品抗体・タンパク質・核酸など生体由来の分子を利用して製造された医薬品の総称。詳しく →の工場は、酸素を使って育つ細胞や菌を前提に作られてきました。嫌気性の菌を育てるには、培地から酸素を抜き、窒素などのガスで槽の上の空気を置き換え、培養のあとの濃縮や調製も、密閉した系で酸素に触れさせずに進めます。
培養槽の制御装置は、空気、酸素、二酸化炭素、窒素といった複数のガスの混合比を設定できるものが、嫌気の条件づくりに使われます。
抗体などのタンパク質を作らせる発酵なら、収穫の時点で一部の菌が死んでいても製品は成り立ちます。LBPでは、生きている菌の数が品質そのものなので、培養から充填処方済みの溶液をバイアルやシリンジなどの容器へ無菌的に充填し、封止する製造工程。詳しく →までのどこか1か所で酸素が入れば、そこまでの工程の成果が目減りします。
受託先の側にも事情があります。BioProcess Internationalに2022年に載った記事によれば、生きた細菌の受託を断る会社が多く、受ける会社も納期が長く費用が高い傾向にあります。
細菌の経験がある会社でも、工業用の発酵が中心で医薬品の品質体制が成熟していない例や、発酵と凍結乾燥製剤から水分を抜いて乾燥させ、長期安定性を高めた剤形。使用時に溶かして戻す。詳しく →が一つの施設に揃っていない例があります。
酸素の入り口を1か所でも残すと、生菌数に直接響きます。
3. 乾燥させても生かす凍結乾燥
製造の難所の2つめが、乾燥させても菌を生かすことです。冷凍庫なしで運びたいなら、水分を抜く方法があります。
凍結乾燥は、菌を凍らせて水分を抜き、休眠に近い状態にします。芽胞を作らない菌でも、常温に近い保管を狙える場合があります。
ただし、凍結と乾燥の2つのストレスで菌が傷むため、保護剤の選び方と乾燥の条件を、菌株ごとに詰める必要があります。タンパク質製剤の凍結乾燥とは、最適な条件が別です。
製造用の凍結乾燥機試料を凍らせてから減圧し、氷を昇華させて水分を除く乾燥装置です。熱に弱い医薬品を安定な状態で保存できます。詳しく →は、棚の温度の均一さや、無菌製造での制御の仕組みが選ぶ観点です(凍結乾燥機の製品ガイド)。サイクルの組み立て方の基本は凍結乾燥サイクル設計で解説しています。
4. 品質試験は「数える」「見分ける」「混ざり物を探す」
LBPの品質は、数える、見分ける、混ざり物を探すの3つで見ます。製造の難所の3つめが、生きた製品の中から混ざり物を見つけることです。
- 数える:ラベルに載るCFUです。FDAの早期臨床試験向けCMC医薬品の化学・製造・品質管理に関する申請資料。原薬と製剤で章立てが分かれる。詳しく →ガイダンス(2016年6月)も、開発の初期は力価の試験としてCFUを使えるとしています。CFUは寒天培地で増えられる菌だけを数える方法なので、培地や培養の条件を含めた測り方が結果を左右します。
- 見分ける:菌株の同一性出荷ロットが意図した細胞集団であることを、表現型マーカーや追跡記録によって確認する品質項目。詳しく →です。FDAは臨床試験の届出(IND治験開始申請。ヒトでの臨床試験を始めるために規制当局へ提出する申請。詳しく →)に、菌株の名前と由来、改変の有無、製造方法、ヒトでの使用経験を含めるよう助言しています。
- 混ざり物を探す:LBPに特有の試験です。製品が生きた菌なので、製品の菌が育つだけで混入した菌を見分けられず、一般的な無菌試験製品や細胞に細菌・真菌の汚染がないかを確認する試験。薬局方に準拠して行う。詳しく →は使えません。
欧州薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。詳しく →は2019年4月から、LBP全般に適用する各条3053を施行し、混ざり物を探す試験法を2つの一般試験法に分けました。混入した微生物の数を調べる2.6.36と、特定の微生物がいないかを探す2.6.38で、判定基準は3053に書かれています。どちらも、製品がある状態で方法が成り立つことを示す必要があります。
LBPの純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →は、無菌であることではなく、目的の菌以外がいないことを意味します。
国内では、PMDAの科学委員会が2022年に、細菌製剤の品質と安全性の考え方を報告書にまとめました。セルバンク目的物質を作る細胞をあらかじめ大量に凍結保存し、製造のたびに同じ素性の細胞を使えるようにした細胞の在庫(MCB/WCB)のことです。詳しく →、特性解析規格試験より高い分解能で製品の品質特性を詳しく調べること。比較可能性の評価などで用いる。詳しく →、規格・試験法などが章に分けて扱われています。
2025年10月には再生医療製品等審査部が、FMT製剤の初期開発時の品質に関する留意事項を事務連絡で示しています。国内の治験を見据える案件では、前者が細菌製剤全般、後者が便由来の製品を扱うときの出発点です。
5. 明日から確かめられること
LBPの案件では、開発側や受託先と次の順に確かめます。菌が芽胞を作るかを最初に尋ねると、以降の条件の見通しが立ちます。
- 菌株の性質:菌株が芽胞を作るかを開発側に確かめます。常温に近い保管を狙えるか、冷凍が前提かが、ここでほぼ決まります。
- 受託先の実績と設備:受託先が嫌気性の菌を医薬品の品質体制で扱った実績を持つかを聞きます。工業発酵向けの設備ではないかも確かめます。
- 施設の範囲:発酵と凍結乾燥が同じ施設で完結するかを確かめます。分かれるなら、間の輸送と保管で生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。詳しく →が落ちないかも聞きます。
- CFUの中身:規格書のCFUが何を数えた値か(栄養型か芽胞か)と、その測り方を読みます。
- 混入菌の試験:混入菌の試験の方法と、製品がある状態で成り立つことの確認を求めます。
- 保管温度の猶予:保管温度と、外れたときに許される時間(Rebyotaの冷蔵5日のような条件)を押さえます。
- ドナーの検査項目:便由来の製品なら、ドナーと便の検査項目に薬剤耐性菌が入っているかを聞きます。
- 納期と枠:受託先の納期と、枠を取る時期を早めに確かめます。
候補の装置は、製品データベースの凍結乾燥機、培養制御システム、微生物MCB/WCB作製・保管受託で比べられます。
発酵の運転方式は微生物発酵の運転方式、菌株とセルバンクは微生物の株構築とセルバンク、委託先の考え方はバイオ医薬の製造委託(CDMO)で解説しています。
参考文献
- FDA, Early Clinical Trials With Live Biotherapeutic Products: Chemistry, Manufacturing, and Control Information; Guidance for Industry(2016年6月、最終版)
- PMDA 科学委員会, マイクロバイオーム研究に基づいた細菌製剤に関する報告書(2022年公表)
- PMDA 再生医療製品等審査部, 便微生物移植(FMT)製剤初期開発時の品質に関する留意事項(Early Consideration)(事務連絡、2025年10月31日)
- European Pharmacopoeia, General monograph薬局方に収載された個々の医薬品・原料の品質規格(試験法・基準値など)をまとめた公式の規格文書。詳しく → 3053 Live biotherapeutic products for human use、一般試験法 2.6.36 と 2.6.38(Supplement 9.7、2019年4月施行). EDQM, Outcome of the 160th Session of the European Pharmacopoeia Commission
- FDA, REBYOTA(fecal microbiota, live-jslm)Prescribing Information. Drugs.com掲載
- FDA, VOWST(fecal microbiota spores, live-brpk)Prescribing Information(2023年4月26日承認)
- FDA, Important Safety Alert Regarding Use of Fecal Microbiota for Transplantation and Risk of Serious Adverse Reactions Due to Transmission of Multi-Drug Resistant Organisms(2019年6月13日)
- Managing Manufacturing Requirements for Live Biotherapeutics. BioProcess International, 2022年6月.
- NIRAS, Drug Facility Design For Live Biotherapeutic Products(2025年7月)
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