微生物発酵槽の選び方──オートクレーブ式かSIPかで設備工事の有無が決まる
微生物の発酵槽を選ぶとき、動物細胞のバイオリアクター細胞やウイルスの培養を制御された環境下で大規模に行うための培養槽で、商業規模の製造に用いられる。と同じ表で比べるとうまくいきません。必要な酸素供給が桁で違うからです。
高密度の大腸菌培養では、供給が追いつかなければそこで培養が止まります。撹拌も散気も冷却も、この一点から逆算して設計されています。だから「細胞培養兼用機で微生物もできます」という構成は、条件によっては成立しません。

最初の分岐は、オートクレーブかSIPか
これが設備の話になるか、装置の話で済むかの分かれ目です。
| オートクレーブ高温高圧の飽和蒸気を使い、器具や培地などに付いた微生物を死滅させて滅菌する装置です。詳しく →式 | SIPタンクや配管を分解せず設置したまま洗浄(CIP)し、蒸気などで滅菌(SIP)する仕組みです。詳しく →(in-situ滅菌) | |
|---|---|---|
| 滅菌 | 槽を外してオートクレーブへ運ぶ | その場に据えたまま蒸気で滅菌する |
| 実用上の容量 | 数L程度まで(持てる・入る範囲) | 容量の制限がない |
| 要るもの | オートクレーブと、運ぶ人 | 蒸気・圧空・冷却水・排水の設備工事 |
| 段取り | 毎回の搬出入 | 据え置きで回せる |
容量が上がると、オートクレーブ式は物理的に無理になります。 槽が持てない、オートクレーブに入らない、という単純な理由です。
そしてSIPを選ぶということは、装置を買うのではなく設備を作ることです。純蒸気か工業蒸気か、圧空の乾燥度、冷却水の温度と流量、排水の受け。ここが揃っていない部屋にSIP機を置くと、装置が来てから工事が始まります。
- オートクレーブ式のベンチ機:Sartorius の Biostat B、Eppendorf の BioFlo 320、INFORS HT の Labfors 5、Applikon(Getinge)のオートクレーブ式、Bioengineering AG
- ベンチSIP機:Solaris Biotech の GENESIS、Bionet の SIPベンチ発酵槽大腸菌や酵母などの微生物を高密度で培養する培養槽で、高い酸素供給や蒸気滅菌に対応した発酵用の設備です。詳しく →、Applikon の SIPベンチ機
- パイロットSIP機:INFORS HT の Techfors-S / Techfors、Sartorius の Biostat Cplus、Applikon の BioPilot、Solaris Biotech の M-SERIES、Bionet の F2 Lab-to-Pilot
ベンチにSIP機を置く選択は、パイロットへの移行を見据えたときに効いてきます。 同じ滅菌方式で条件を作っておけば、スケールアップの際に滅菌の影響を切り分けやすい。
酸素供給の設計が、機種の性格を決める
微生物の高密度培養菌体を高い密度まで増やして、容積あたりの生産性を高める培養。では、酸素移動が律速になります。ここを支えているのは3つです。
- 撹拌 — ラシュトン翼などの高せん断流れの中で分子にかかる物理的な力。強すぎると抗体の凝集や微粒子発生を招く。型を多段で入れる。動物細胞用の低せん断翼とは設計思想が逆
- 散気 — 通気量と、必要なら酸素富化
- 背圧 — 槽内の圧力を上げて溶解度を稼ぐ。SIP機の耐圧設計はここに効く
細胞培養兼用機は、この3つがどれも微生物向けに振られていません。 兼用と書かれていても、微生物専用の構成が別に用意されていることが多いので、そこを確認することになります。
酸素供給を上げるほど泡が立つので、消泡の制御も一緒に決まります。消泡剤培養や撹拌で生じる泡を抑えるために加える添加剤で、泡による酸素供給の低下やあふれを防ぎます。詳しく →の添加系があるか、機械的な消泡があるか。ここは後付けが面倒な部分です。
発熱と冷却が、実は詰まりやすい
見落とされやすいのがここです。
高密度発酵は発熱します。撹拌の入力エネルギーと、菌の代謝熱の両方です。冷却が追いつかないと、設定温度を維持できません。
ベンチ機の水冷は、ラボの水道水を通す構成であることがあります。夏場に水温が上がると冷却能力が落ち、同じ運転条件が再現しなくなる。チラー(冷却水循環装置)を別に用意する必要があるかどうかは、見積もりの段階で確認しておく項目です。
パイロット以上では、冷却水の温度と流量が設備側の仕様になります。ここが足りないと、装置が正常でも到達できる細胞密度に上限ができます。
制御と記録を、どこまで求めるか
やることで要求が変わります。
- 開発・条件検討 — 並列で振れることの価値が大きい。Eppendorf の SciVario twin のように複数槽を1台で制御する構成は、DoEパラメータを変えたときCQAがどう応答するかを効率よく調べる実験計画法。を回すときに効きます
- プラスミドDNAの製造や、原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。に近い工程 — 記録、監査証跡いつ誰が何をしたかを記録し、改ざんや削除ができないようにした操作履歴。記録の信頼性を支える。、上位システムとの接続が要件に入ります
開発機をそのまま製造に持っていこうとして、記録要件で止まるのはよくある詰まり方です。GMP工程で使う予定があるなら、そのメーカーが適格性評価製造装置やユーティリティが意図どおりに据え付けられ、動き、性能を出せることを文書で裏づける活動。(IQ/OQ)の文書を出せるかを先に確認することになります。
排ガス分析(O2/CO2からOUR細胞が単位時間あたりに消費する酸素の速度。酸素要求速度。・CER・RQを出す)を組み合わせるかも、この段階で決まります。代謝の状態をリアルタイムで見たいなら、槽側に接続の余地が要ります。
シングルユース発酵槽は、条件が合えば
Thermo Fisher の HyPerforma S.U.F. / e.S.U.F.、Eppendorf の BioBLU f のように、微生物向けのシングルユース使い捨ての樹脂製バッグや容器を用いる製造方式です。洗浄・滅菌の手間を減らせる一方、ステンレス設備と比べて特徴が異なり、目的に応じて選び分けます。詳しく →槽があります。
滅菌と洗浄の手間が消えるのが利点です。ただし、バッグ構造で高い酸素供給と冷却をどこまで出せるかが制約になります。狙う細胞密度と発熱量しだいで、成立する場合と成立しない場合が分かれます。
多品種を切り替える用途、交差汚染を避けたい用途では、この制約を受け入れる価値が出てきます。逆に、単一品目を高密度で回し続けるならステンレスSIPのほうが素直です。
国内メーカーという選択肢
エイブル(バイオット)のパイロットファーメンター BMP / マルチファーメンター BME、佐竹マルチミクスの SATAKE BIOREACTOR シリーズ / HSF Reactor、丸菱バイオエンジニアリングの MDL型ジャーファーメンター、東京理化器械(EYELA)の MBF-ME シリーズ、三ツワフロンテックのベンチスケールファーメンター。
発酵槽は据え付けと調整と保守が長く続く装置なので、対応の距離が選定理由になります。仕様のカスタマイズや、既設設備への合わせ込みが要る場合は特に効きます。
迷ったときの順番
- オートクレーブ式かSIPか(容量と、設備工事を引き受けるか)
- 設備ユーティリティ水・空調・ガスなど、製造を直接支える設備の総称。適格性評価や汚染管理の対象になる。(蒸気・圧空・冷却水・排水。SIPなら先に確認)
- 微生物専用構成か(撹拌翼・散気・耐圧。兼用と書かれていても中身を見る)
- 冷却能力(狙う密度に対して足りるか。チラーが別途要るか)
- 並列性か、記録要件か(開発なら並列、GMP医薬品を一定の品質で安全に造るために守るべき製造・品質管理の基準(適正製造規範)です。詳しく →なら記録)
- 将来のスケールアップ小型培養で確立した条件を、より大きなバイオリアクターへ拡大する取り組みです。酸素供給の指標kLaなどを揃え、性能を再現します。詳しく →先(同系列でパイロットまで行けるか)
- 保守の距離
槽の容量と最高回転数の比較は、この順番を通ったあとで意味を持ちます。最初に容量から入ると、置ける場所と回せるユーティリティが決まっていないので、結局そこで止まります。
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