Nature Biotechnology に、遺伝子合成をハイブリダイゼーションで駆動する手法が2報掲載された。掲載情報によれば、内容は次のとおりである。
MOSAIC("Massive-scale parallel gene synthesis with oligonucleotide hybridization")
- 酵素処理ではなく、熱アニーリング中の相補的オリゴの自己集合が組み立てを駆動する高スループット遺伝子合成法
- マイクロチップ上のオリゴ合成の容量を使い切ることで、1,000種類を超える異なる遺伝子断片と変異体ライブラリーを、単純なワンポット反応で並行生産できる
Molecular Self-Assembly Induced Cloning("High-throughput synthesis of DNA fragments by molecular self-assembly of overlapping oligonucleotides"、Wu, Sun, Jiang ら)
- in vitro での重なり合うDNA断片の直交的な自己集合と、宿主細胞内のDNA修復機構を組み合わせる
- これにより、遺伝子間の分子クロストークとオリゴのミスアラインメントを克服する
- 同じくマイクロチップ合成オリゴを用い、1,000種類を超える遺伝子断片をワンポットで得る
いずれも「たくさん作れる」という話に見えるが、効いてくるのはまとめて作れるという点にある。
いまの遺伝子合成が抱えている非対称
固相合成によるオリゴヌクレオチドは、短い鎖であれば非常に安価に、しかも大規模に作れる。マイクロチップ上で数十万〜数百万本を一度に合成する技術は既に確立している。
一方で、それをつないで遺伝子にする工程が律速になってきた。
- オリゴを混ぜると、別の遺伝子に属するオリゴどうしが結合してしまう(クロストーク)
- 同じ遺伝子内でも、繰り返し配列があるとずれた位置で結合する(ミスアラインメント)
- このため、遺伝子ごとにオリゴを分けて反応させる必要が生じ、反応の本数が遺伝子の本数だけ必要になる
チップ上では数十万本のオリゴが一度に作れるのに、そこから作れる遺伝子は数百本という非対称が生まれる。チップの容量が余っている状態である。
2報が共通して狙っているのは、この余りを使い切ることといえる。
「一本ずつ」でなくなると何が変わるか
遺伝子を1本ずつ作る前提だと、費用と時間は本数にほぼ比例する。設計を試す回数が、そのまま予算になる。
ワンポットで並行生産できるなら、この関係が崩れる。効いてくるのは、設計案を絞らずに済む場面である。
- 抗体の設計:ヒト化や親和性成熟の候補配列を、絞り込まずに一度に発現させて評価できる。開発容易性の観点で落ちる配列を、早い段階で実測で外せる
- 細胞株の構築:プロモーター、シグナルペプチド、コドン最適化の組み合わせを網羅的に試せる
- AAVカプシドの改変:変異体ライブラリーの作成は定向進化の前提そのものである
- 微生物の菌株構築:酵素の変異体ライブラリーを作り、活性を実測で選ぶ
つまり、計算で候補を絞ってから作るという順序を、作ってから測るという順序に戻せる余地が広がる。
品質の担保が別の形で問われる
合成した遺伝子は、配列が正しいことを確認して初めて使える。ワンポットで多数を得る系では、この確認の設計が変わる。
- 個々の断片の配列確認を、クローンごとに行うのか、プールのまま次世代シーケンサーで見るのか
- 誤りを含む分子の割合をどこまで許すか。ライブラリーとして使うなら混在は許容できるが、単一の遺伝子として使うなら分離が要る
- 変異体ライブラリーの場合、設計した変異の網羅率と偏りが指標になる
宿主細胞のDNA修復機構を組み立てに使う設計は、修復の過程で意図しない配列変化が入る可能性も含む。したがって、最終的な配列確認が省けるわけではない。
製造用の材料としてはどうか
治療用途の核酸——プラスミド、IVTの鋳型、線状DNA——を作る場面では、要求が変わる。
- 原材料の品質として、由来と製法の記録が要る
- 配列の同一性は、規格として保証する対象になる
- 多数を並行して作る利点は薄い。必要なのは1種類を大量に、確実に作ることである
したがって、この2報が直接効くのは開発の探索段階である。ただし、探索で候補を広く取れるかどうかは、最終的に製造へ渡る分子の質を左右する。分子・ベクター・細胞の設計で選択肢を狭めずに済むこと自体が、後工程の余裕につながる。
同じ号に近い着想の2報が並んだ形になっており、ハイブリダイゼーション駆動という方向自体に複数のグループが到達していることがうかがえる。
※ 本ページは公開情報(Nature Biotechnology に掲載された2報の掲載情報)をもとにしたProglenth編集部による整理です。手法・性能・適用範囲の詳細は一次情報をご確認ください。本文中の解説は遺伝子合成一般の構造に関する説明であり、各論文の具体的な内容や結論を示すものではありません。