三井化学が、細胞培養用プレートのブランド「InnoCell」の新製品として、接着細胞向けの「InnoCell Pタイプ」を2026年10月1日に発売し、5日に発表しました。同社独自の酸素を通しやすい素材と、細胞が付きやすくなる表面処理を組み合わせたプレートです。オルガノイド(幹細胞などから立体的に育てた小さな臓器のような組織)や組織モデルを安定してつくり、創薬での薬効・毒性評価の精度を上げることを狙っています。価格は公表されていません。
厚い組織の内側で起きる酸素不足
一般的な培養プレートの素材はポリスチレンで、酸素をあまり通しません。細胞に届く酸素は、上にある培地の表面から溶け込んで下りてくる分にほぼ限られます。一層に広がった細胞ならそれで足りても、厚みのあるオルガノイドでは内側まで酸素が届きにくく、同じ条件で育てたはずの組織の出来がばらつきます。三井化学は、この酸素不足が組織の均一さや3D培養の評価データの再現性を損ねうると説明しています。
InnoCell は、酸素の通り道を容器の側につくる発想のシリーズです。同社は2022年に、このシリーズの量産技術を確立したと発表しています。そのときの説明では、素材に TPX(ポリメチルペンテン)を使い、従来のプレートの約200倍の酸素を細胞に届けられるとしていました。2025年6月には、非接着細胞やスフェロイド向けの「Nタイプ」と、コラーゲンをコートした肝細胞向けの「Cタイプ」の上市を発表しています。今回のPタイプで、接着させて育てる用途に広げた形です。観察の妨げになる自家蛍光が少ないことと、試験する薬剤がプレートに吸着しにくいことも特徴に挙げています。
心臓と腸のオルガノイドでの評価例
同社は発売に合わせて、2つの評価例を公表しました。関西医科大学の升本英利教授は、ヒトiPS細胞からつくった心臓オルガノイドをPタイプで育て、従来のポリスチレン製プレートと比べました。組織全体の厚みがより均一になり、厚みそのものも増えたと報告しています。ミシガン大学のジョニー・セクストン准教授は、ヒト腸オルガノイド由来の上皮細胞を育て、薬の吸収や体の守りにかかわるバリア機能を測りました。ふつうは多孔膜のインサートを使う評価を、インサートなしで、感度高く、ばらつき少なく行える可能性が示されたとしています。どちらもメーカーの発表で示された結果です。
動物実験に代わる評価法(NAMs)として、オルガノイドを薬効や毒性の試験に使う動きは広がっています。米FDAは2025年に、抗体医薬から前臨床の動物試験を減らしていく計画を公表しました。そこで問われるのは、毎回同じ組織ができるかどうかです。評価系を組む側にとって、プレートの素材は培地や細胞株と同じく結果を左右する条件です。途中で変えれば薬効モデルの比較を取り直す必要が出ます。
オルガノイドの出来がばらつくとき、疑う先は細胞と培地だけではありません。今回の製品は、そこに容器から届く酸素の量を加える提案です。
※ 本ページは2026年10月5日の三井化学の発表と、同社の過去の発表をもとにした紹介です。詳細・数値は一次情報もあわせてご確認ください。