AAVの力価は3種類ある:ゲノム力価・感染力価・効力の違いと読み方

「ゲノム力価試料中のベクターゲノム(vg)の数を表す力価。実カプシドの量の目安になり、カプシド力価との比で空実比を求める。詳しく →は出ているのに、細胞に入れると思ったほど効かない」。AAV遺伝子治療で遺伝子を運ぶウイルスベクター。血清型によって集まりやすい組織が異なる。詳しく →の開発では、一度は聞く話です。原因はたいてい製品ではなく、力価という一語が、別のものを三つ束ねていることにあります。
同じ細胞株RC32で感染力価を測ると、AAV2のvg/IU物理的なゲノム力価と感染価の比。粒子があっても感染できないものの割合を映し、製品の質の指標になる。(ゲノム力価と感染力価ウイルスベクターが実際に細胞へ感染する能力を表す力価。TCID50などのアッセイで測る。詳しく →の比)はほぼ1対1に出ます。同じ系でAAV8を測ると、350から460に開きます。この系はAAV2で組み立てられたもので、培養細胞の中ではAAV2のほうがAAV8よりずっと感染しやすい、というのが論文の読み方です。AAV8が400倍劣っているという話ではありません。数字の分母には、血清型AAVのカプシドの種類による分類。組織指向性が異なり、狙う臓器や細胞に応じて選び分けられる。詳しく →と試験系の相性が入っています。
開発の人は試験系を選ぶ前の考え方を、品質保証の人は規格に何を書くかを、購買や営業の人は受託先に何を聞くかを、ここで押さえられます。ゲノム力価そのものの測り方はddPCRによるゲノム力価測定に置いてあります。
三つの力価 ― 数えているものが違う
ゲノム力価は粒子の中のゲノムを数え、感染力価は細胞に入れた粒子を数え、効力の試験は入ったあとに作られたものを測ります。
ゲノム力価は、DNaseでカプシドウイルスの遺伝物質を包むタンパク質の殻。AAVでは直径数十ナノメートルの正二十面体の構造をとる。詳しく →の外に漏れた核酸を分解し、カプシドを壊してから中のゲノムを数えます。投与量を決める数字はここから出ますが、数えているのはゲノムを抱えた粒子の数だけで、細胞の中で何をするかは問うていません。ゲノムのない空のカプシドも含めた総数との比から、充填の程度を見積もる使い方は空カプシドと実カプシドで扱っています。
感染力価と効力の試験は、細胞を使います。上の層ほど「効く」に近づく代わりに、測定の揺れも同じだけ大きくなります。
三つは互いの代わりになりません。何を数えた力価なのかを言わずに、数字だけを並べても判断はできません。
vg/IUの読み方 ― 同じ系でAAV2は1対1、AAV8は350〜460
感染力価の標準的な系のひとつが、AAV2のrepとcapの遺伝子を持つHeLa由来の細胞株RC32です。検体を10倍ずつ薄めて細胞に加え、アデノウイルスを重ねて感染させ、増えたベクターゲノムをPCRで検出します。陽性のウェルの分布から、感染した単位の数(IU)を求め、ゲノム力価をIUで割ったものがvg/IUです。
報告されている値は、同じRC32の系でAAV2がほぼ1対1、AAV8が350から460です(Françoisらの2018年の報告)。論文はこの開きを、TCID50法がAAV2で組み立てられたことの表れだと説明しています。別の形質導入ウイルスベクターを介して細胞に外来遺伝子を導入すること。導入細胞の割合が形質導入効率として評価される。詳しく →の系でrAAV8を測った報告では、粒子と感染の比が数千の桁に達しました。血清型を変えるだけで、比が二桁から三桁動きます。
RC32は、AAV2の複製を検出するために作られた細胞株です。AAV8をここで測ると、受容体への結合も、細胞内の輸送も最適ではありません。系が拾っているのは、感染そのものより、AAV2向けの系にどれだけ合うかです。Françoisらは、核への移行に必要なVP1を欠いたAAV8を作り、「粒子としては同じだが感染だけができない」陰性対照に使って、系の選択性を確かめました。
vg/IUが大きいことは、その血清型がヒトで効かないことを意味しません。比が映しているのは、製品の質と、血清型と試験系の相性の両方です。
10倍刻みの粗さ ― 感染力価を規格の中心に置かない
感染力価の測定には、原理から来る粗さがあります。
TCID50は、10倍ずつ薄めた系列のどこで陽性が半分になるかを見る方法です。隣り合う段のあいだを埋める情報がないので、ロット間で2倍違っても、同じ段に収まれば同じ値で出ます。逆に段の境目をまたげば、実際の差が小さくても10倍の差として記録されることがあります。
そこに細胞側の揺れが乗ります。継代数細胞を植え継いだ回数。培養履歴を表し、産生量や品質の再現性に影響する。詳しく →、播いた密度、その日の細胞の状態、アデノウイルスのロットの違い。機器で測るゲノム力価とは、揺れの桁が違います。
だから感染力価の値そのものを、規格の中心に置くのは筋がよくありません。使いどころは、工程の一貫性を追う指標です。同じ系で測り続けたときに比が動いたら、工程か検体に何かが起きたと読みます。
効力の試験 ― 作用機序に近づくほど増す揺れ
感染力価は、ゲノムが細胞に届いたところまでしか見ません。届いたゲノムが読まれ、産物が作られ、働くかどうかを見るのが、効力の試験です。
血友病B向けのAAV8ベクター(第IX因子の遺伝子)で報告された例が分かりやすい。出荷試験として、第IX因子を持たないマウスに投与して血漿中の産物を測る動物試験が使われてきました。これに代わる方法として、肝細胞株のHepG2にベクターを感染させ、培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →に出た第IX因子の活性を発色基質で測る細胞ベースの試験が報告されています。25ロットで動物試験の結果と有意に相関し、ばらつきは細胞を使う試験が小さく、出荷試験で動物の代わりになりうると結論しています。
この層は絶対値では表しません。標準品力価の基準に定めた品。検体と同じアッセイで並べて測り、相対力価の基準にする。詳しく →と検体を同じ平板に並べ、用量反応の曲線が平行かを確かめたうえで、力価の比を出します(バイオアッセイと相対力価)。
どこまで作用の連鎖を下りて測るかは、難しい選択です。2022年に承認されたHemgenix(AAV5の血友病B遺伝子治療)では、CSL BehringがEMAとFDAと協議しながら効力試験製品が本来の生物学的な作用をどれだけ発揮するかを測る試験です。有効性を保証するための重要な品質指標です。詳しく →を開発した経緯を寄稿で振り返っています。
作用機序に近づくほど、数字は「効く」に近づき、同じだけ揺れます。この交換条件は避けられません。
試験から保証へ ― FDAの草案が求めるもの
規制側の考え方も、近年動いています。
FDAは2011年に、細胞・遺伝子治療製品の効力試験の指針を出しました。単一のアッセイで足りなければ、複数を束ねる考え方です。2023年12月に出た草案「Potency Assurance for Cellular and Gene Therapy Products」は、これを置き換える位置づけです。
力点は、効力を出荷試験だけで担保する発想から離れたことにあります。草案は、工程の設計、工程と原材料の管理、工程内の試験、出荷試験の組み合わせで、効力を担保する戦略を求めています。揺れる測定に頼りきらない工程をつくる、という組み立てです。規格の考え方はICH Q6B、分析法の妥当性確認はICH Q2(R2)分析法バリデーションのガイドライン。分析手順が妥当性を持つことを確認する枠組みを定める。詳しく →に沿います。遺伝子治療の品質管理遺伝子治療製品の品質・安全性・有効性を保証するために製造・出荷の各段階で実施する試験・管理の総体。詳しく →の全体は遺伝子治療の品質管理にあります。
測定の分解能で届かない部分を、原材料と工程の管理で埋める。それが草案の要旨です。
よくある失敗と、明日から確かめられること
細胞を使う試験で、つまずきやすい点は四つあります。
1つめは、他社や論文のvg/IUと自社の値を並べて、優劣を論じることです。系が違えば、比は二桁も三桁も動きます。2つめは、AAV2向けの系を、別の血清型にそのまま流用することです。受容体と指向性から、その血清型が入る細胞を選び直します。
3つめは、標準品が足りなくなってから作ることです。それまでのデータとの連続性を示す作業が、別に要ります。4つめは、細胞の継代増殖した細胞を定期的に希釈・移植して培養を維持する操作で、回数が増えると細胞の性質が変化するリスクがある。詳しく →数の上限を決めないことです。継代が進むと、感染効率も発現量も動くので、数年分のデータが流れます。
受託先との打ち合わせや、試験系の見直しに使える項目です。
- 作用機序のどこを測るか決まっているか。分泌タンパク質の量か、酵素の活性か、下流の表現型か
- 感染力価は、どの細胞株、どのヘルパーウイルス、何時間で測った値か。血清型に合う系か
- 標準品は、十分な量を確保し、新旧を並べて切り替える運用が決まっているか
- 細胞バンクと継代数の上限、感染の条件、検出のタイミングは、手順として書き切られているか
- 標準品の曲線の形や平行性標準品と検体の用量反応曲線が相似であること。相対力価を一つの数値で表す前提になる。詳しく →が外れた回を、捨てる基準があるか
- 10倍刻みの系で、2倍の管理幅を規格に書いていないか
- 出荷試験で押さえきれない変動を、原材料と工程のどこで抑えるか、割り振りが決まっているか
試験系の候補はAAV力価・感染性アッセイ、ゲノム力価はデジタルPCR、効力の読み出しはレポーター遺伝子アッセイで比べられます。血清型の選び方はAAVの血清型と組織指向性にあります。
参考文献
- François A, Bouzelha M, Lecomte E, et al. Accurate Titration of Infectious AAV Particles Requires Measurement of Biologically Active Vector Genomes and Suitable Controls. Mol Ther Methods Clin Dev. 2018;10:223-236.(RC32を使うTCID50、血清型によるvg/IUの差、VP1欠損を陰性対照に使う設計)
- Development of an In Vitro Biopotency Assay for an AAV8 Hemophilia B Gene Therapy Vector Suitable for Clinical Product Release. Mol Ther Methods Clin Dev. 2020.(HepG2を使う第IX因子の活性測定、25ロットでの動物試験との相関)
- How CSL Behring Worked With EMA/FDA To Develop Hemgenix Potency Assays. Cell & Gene.(効力試験を規制当局と協議しながら開発した経緯)
- FDA, Potency Assurance for Cellular and Gene Therapy Products(2023年12月 草案)
- FDA, Potency Tests for Cellular and Gene Therapy Products(2011年1月)
- ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく →, Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q2(R2), Validation of Analytical Procedures
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