デプスフィルターの選び方──必要面積は計算では出ない
デプスフィルターろ材の厚み全体で不純物を捕らえる深層ろ過フィルターで、細胞培養液の清澄化など、細胞残渣や粒子を多く含む液の一次ろ過に使います。詳しく →の選定で最初に必要になるのは、グレード表でもろ材の材質でもありません。自分の培養液を1m²あたり何L通せるか、その一点です。
そしてこの数字は、カタログを見ても出てきません。培養が終わったときの細胞密度と生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。で変わるからです。だからデプスフィルターだけは、選ぶ前に流してみる工程が要ります。

遠心があるかどうかで、役目が変わる
同じデプスフィルターでも、置く場所で要求が違います。
| 構成 | デプスフィルターの役目 | 効いてくる軸 |
|---|---|---|
| 遠心あり(二次清澄化培養液から細胞や破片を取り除いて目的物質を含む上清を回収し、後工程に渡せる清澄な液にする工程です。詳しく →) | 上清に残った微粒子の仕上げ | 濁度をどこまで落とせるか |
| 遠心なし(一次清澄化) | 細胞・デブリを丸ごと受け止める | 面積あたりの処理量 |
| 二段構成 | 粗いグレードで受けて、細かいグレードで仕上げる | 二段の組み合わせ |
遠心なしで直接ろ過する構成は、装置が減って流路を閉鎖系外気と触れずに培地交換やサンプリングを行う閉鎖された流路。無菌を保ち汚染を防ぐ。にしやすい代わりに、濁質の負荷が全部フィルターに来ます。面積が増え、消耗品費が上がる。遠心を持つかどうかは設備投資設備投資の費用のことで、灌流を導入すると増えるN-1段の初期投資を指す。の判断ですが、そこでの選択がそのままフィルター費用に跳ね返る、という関係になっています。
二段構成を最初から想定するなら、Sartorius の Sartoclear DL-Series のように粗い層と細かい層を一体にした製品もありますし、グレードの違うモジュールを直列に置く組み方もあります。
面積は計算では出ない。小型デバイスで実測する
ここが実務でいちばん時間を食うところです。
デプスフィルターの必要面積は、理論から求まりません。ろ材が目詰まり微粒子や凝集体、タンパク層が膜の孔を塞いでろ過が落ちる現象。プレフィルターでの前段保護が効く。していく速さが、培養液の性状に依存するからです。そのため各社は、製造品と同じろ材を積んだ小型デバイスを用意しています。
- Merck / MilliporeSigma の Millistak+ Micro / Mini / Lab Scale Formats
- Cytiva / Pall の Stax / Supracap のラボ・スケールアップ用デバイス
- Sartorius の Sartoclear Dynamics Lab / Sartoclear Lab Formats
- 3M / Solventum の Zeta Plus BC / Scale-Up Capsules
これらに実際のハーベスト液を流し、差圧膜の両側にかかる圧力の差。ろ過の流れを生む力で、上げても壁律速の領域では流量が増えなくなる。が上限に達するか、濁度が抜けてくるまでの処理量を測ります。その L/m² に安全率を掛けて製造面積を決める。順番はこれだけです。
注意すべきは、この小型デバイスがメーカーの系列ごとに閉じていること。 ラボで Zeta Plus を評価して、製造で Millistak+ を使う、という乗り換えは、面積の根拠を作り直すことになります。評価に入る前に、製造まで同じ系列で行けるかを確認しておくほうが早い。
生存率が落ちた培養は、フィルター代が跳ねる
デプスフィルターの面積を決めているのは、実質的に培養側の終了条件です。
生存率が下がるほど死細胞由来のデブリ破砕で生じる細胞の破片。過度な破砕で微細化すると後段の遠心・ろ過を妨げる。とDNAが増え、ろ材は速く詰まります。同じ培養規模でも、生存率をどこで切るかで必要面積が変わる。つまり「あと1日回して力価を稼ぐ」という培養側の判断が、下流のフィルター費用を動かします。
だから清澄化の検討は、培養の終了条件が固まってから、あるいは終了条件の候補ごとに、という進め方になります。培養の条件が動いている段階で面積を確定させると、たいてい後で取り直しになります。
面積を大きく取れば安心、ではない
詰まりが怖いからと面積に余裕を持たせると、別のところで損をします。
- 製品がろ材に吸着する — デプスフィルターは物理的に捕捉するだけでなく吸着もします。面積が増えれば吸着面も増える
- ホールドアップろ過後もフィルターや配管に残る液量。高濃度では残液がそのまま高価な原薬の損失になる。が増える — ろ材が保持する液量ぶん、目的物が残る
- フラッシュ量が増える — 使用前の洗浄は面積に比例します。バッファーと時間と廃液が増える
力価が低い工程ほど、この回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。ロスが効きます。面積は「詰まらない最小」を狙うもので、大きいほど良いものではありません。 ろ過後にバッファーで押し出す(チェイスろ過後に緩衝液で膜や配管を洗い流し、残った製剤液を回収して抗体の回収率を高める操作。する)運転を組めるかどうかも、あわせて決めておく必要があります。
使用前のフラッシュは省略できません。ろ材からの脱落物や抽出物を流し切る工程で、浸出物の安全性評価にも関わります。メーカーがフラッシュ量を面積あたりで指定しているのは、そのためです。
電荷ろ材は効くが、条件で効き方が変わる
3M / Solventum の Zeta Plus のように電荷を持つろ材は、粒子の捕捉に加えて DNA・HCP・エンドトキシンの一部を静電的に低減します。下流の負荷が減るので、Protein A 以降が楽になります。
ただしこの効果は、導電率液のイオン強度の目安となる電気の通りやすさ。バッファ調製やクロマト制御で監視する。とpHで変わります。培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。の組成や、低pHウイルス不活化後の中和のように液性が動く場所では、期待した除去率が出ないことがあります。電荷ろ材を選ぶなら、実液での確認が前提です。
除去率を工程の設計値として当てにするなら、クリアランス薬が血中から取り除かれる速さ。ADCでは薬物が多く付いた高DAR種ほど速まりやすい。は実測して押さえておくほうが安全です。HCPを工程でどう減らすかの全体設計の中で、デプスフィルターにどこまで期待するかを決めることになります。
シングルユースか、シート+ハウジングか
昔ながらのシート状ろ材とフィルタープレスの構成は、面積あたりの単価は下がりますが、シートの装填、洗浄、バリデーション試験法が目的に合う性能を持つことを立証する妥当性確認。正確さ・精度などを評価する。の手間が残ります。
Millistak+ Pod、Stax、Zeta Plus Encapsulated System のようなカプセル/モジュール型は、単価が上がる代わりに段取りが短く、洗浄バリデーション設備を洗浄した後、前の製品の残留がないことを検証し交叉汚染を管理する活動。が要りません。多品種や臨床用途、シングルユース中心の設備では、こちらが既定になっています。
判断は装置単体ではなく、流路全体を閉鎖系にするかどうかで決まります。閉鎖系にするなら、Sartorius Single-Use Assemblies や Cytiva ReadyCircuit のようなアセンブリ、CPC AseptiQuik や Sartorius Opta SFT のような無菌コネクター無菌状態を保ったまま2本のチューブや流路をつなげる接続部品です。開放せずに滅菌済みの液経路を接続でき、外部からの汚染リスクを抑えます。詳しく →まで含めて一式で考えることになります。
セカンドソースを、いつ考えるか
清澄化のろ材は、供給が止まると工程が止まります。しかも同等品への切り替えは、面積の根拠から取り直しになる。
商業生産に入る工程では、Cobetter、Meissner、Eaton の BECO、Porvair Filtration のような代替候補を早い段階で評価しておく選択があります。必要になってから探すと、評価期間ぶん止まります。 開発段階で1系列だけ走らせるのは合理的ですが、その決定が商業段階まで持ち越されていないかは、確認しておく価値があります。
迷ったときの順番
- 遠心の有無(設備側の前提)— ここでフィルターの役目が決まる
- 培養の終了条件(細胞密度・生存率)— 面積を動かす最大の変数
- 小型デバイスで L/m² を実測(系列を跨がないこと)— ここで面積が決まる
- 回収率(吸着・ホールドアップ・チェイス運転)— 面積を絞る理由
- 電荷ろ材を使うか(実液でクリアランスを確認)
- 閉鎖系にするか(アセンブリ・コネクターまで込みで)
- セカンドソース(商業生産なら先に)
グレード表と材質の比較は、この順番を通ったあとで意味を持ちます。最初にろ材の材質から入ると、決められません。
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