ハーベスト用遠心分離機の選び方──抗体と細胞治療で正反対の装置を指す
「遠心機」という一語が、抗体の製造と細胞治療生きた細胞そのものを有効成分とする医薬。CAR-Tなどが代表。の製造では正反対のものを指します。抗体では細胞を捨てて上清を取る装置で、細胞治療では上清を捨てて細胞を取る装置です。
同じカテゴリに並んでいても、選定の論点はほとんど共有されません。まずどちらの話をしているかを決めないと、比較が噛み合いません。

抗体・タンパク質側:そもそも遠心を持つかどうか
抗体の製造では、遠心は必須の装置ではありません。ハーベスト・清澄化は、デプスフィルターろ材の厚み全体で不純物を捕らえる深層ろ過フィルターで、細胞培養液の清澄化など、細胞残渣や粒子を多く含む液の一次ろ過に使います。詳しく →だけでも成立します。
だから最初の判断はここです。
| 構成 | 効いてくるところ |
|---|---|
| 遠心なし(フィルターのみ) | 装置が減り、流路を閉鎖系外気と触れずに培地交換やサンプリングを行う閉鎖された流路。無菌を保ち汚染を防ぐ。にしやすい。濁質の負荷が全部フィルターに来るので消耗品費が上がる |
| 遠心あり(連続遠心+フィルター) | フィルター面積を大きく減らせる。設備投資設備投資の費用のことで、灌流を導入すると増えるN-1段の初期投資を指す。、洗浄・SIPタンクや配管を分解せず設置したまま洗浄(CIP)し、蒸気などで滅菌(SIP)する仕組みです。詳しく →、設置スペース、要員が要る |
判断は培養規模と生産頻度で決まります。バッチ数が増えるほど、消耗品費の差が設備投資を上回ってきます。 逆に多品種・少バッチなら、遠心を持たないほうが安く速い。
そして遠心を入れてもデプスフィルターは要ります。連続遠心は微粒子まで取り切れないので、後段に必ずデプスフィルターが付きます。遠心はフィルターの代わりではなく、フィルターの負荷を下げる装置です。
連続遠心か、ボトル遠心か
スケールで分かれます。
- ディスクスタック型(連続遠心) — Alfa Laval の CultureOne / BTPX、GEA の Clarifying Centrifugal Separators。液を流しながら連続で分離する。製造規模はこちら
- 大容量バッチ遠心(ボトル・ローター式) — Thermo Fisher の Sorvall BIOS 16 / BIOS A、Beckman Coulter の Avanti JXN シリーズ。開発、小規模GMP、微生物発酵大腸菌などの微生物を培養槽で増やし、目的タンパク質などを作らせて回収する製造工程です。詳しく →液の回収など
ボトル遠心は装置が安く、洗浄も単純です。ただし処理量が増えるとバッチを回す回数と手間が増える。どこで連続遠心に切り替わるかは、1バッチの液量と、そのバッチを何回回すかで決まります。
遠心の最大のリスクは「細胞を壊すこと」
ここが実務でいちばん効きます。
遠心は細胞を分離する装置ですが、入口や排出部のせん断流れの中で分子にかかる物理的な力。強すぎると抗体の凝集や微粒子発生を招く。で細胞が壊れると、細胞内のDNAとタンパク質が液に出ます。細胞を取り除くための装置が、除きたかった不純物を増やす。 濁度は下がっているのにDNAとHCP医薬品を作る宿主細胞に由来するタンパク質の不純物です。安全性に関わるため、精製後の残存量を測ります。詳しく →が上がる、という形で現れます。
だから連続遠心の評価は、清澄化培養液から細胞や破片を取り除いて目的物質を含む上清を回収し、後工程に渡せる清澄な液にする工程です。詳しく →の効率だけでなくHCPとDNAのクリアランスまで含めて見る必要があります。せん断による細胞損傷は培養槽だけの話ではありません。
各社が低せん断設計を打ち出しているのはこのためで、Alfa Laval の CultureOne はバイオ医薬向けにその点を狙った製品として位置づけられています。カタログの分離効率だけで比べると、この軸が抜けます。
洗浄とSIPが、稼働率と要員を決める
ステンレスの連続遠心は、バッチごとに分解洗浄またはCIP/SIPが要ります。これは消耗品費には出てこない代わりに、時間と人と洗浄バリデーション設備を洗浄した後、前の製品の残留がないことを検証し交叉汚染を管理する活動。として効いてきます。
- 洗浄のターンアラウンドが、次バッチの開始時刻を決める
- 交差汚染の管理が必要になる(多品種なら特に)
- 洗浄バリデーション試験法が目的に合う性能を持つことを立証する妥当性確認。正確さ・精度などを評価する。が品目ごとに要る
ここを避けたい要求から、シングルユース使い捨ての樹脂製バッグや容器を用いる製造方式です。洗浄・滅菌の手間を減らせる一方、ステンレス設備と比べて特徴が異なり、目的に応じて選び分けます。詳しく →のディスクスタック遠心が出てきました。GEA の kytero がその系統です。遠心を「持つが洗わない」という選択肢が増えたのが近年の変化で、多品種・臨床用途では検討に入ります。シングルユースとステンレスの比較と同じ判断軸が、遠心にも降りてきた形です。
細胞治療側:目的が逆になる
細胞を製品として回収する工程では、装置がまったく別系統になります。
Sartorius の Ksep、Thermo Fisher の Gibco CTS Rotea、Fresenius Kabi の LOVO、Cytiva の Sefia / Sepax。これらはカウンターフロー遠心向流遠心などを使って細胞を洗い、余分な液を除いて濃く集める(濃縮する)装置です。詳しく →(対向流遠心)や専用の細胞処理システムで、細胞を回収しながら洗浄・濃縮・培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。交換をする装置です。
論点は抗体側と共有しません。
- 回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。(細胞をどれだけ残さず取れるか)
- 生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。への影響(処理後に生きているか)
- 閉鎖系であること(CAR-T製造のような自家製品では前提)
- 処理時間と、1台で何ロット回せるか
- 使い捨てキットの単価(自家製品では1ロット=1患者なので、そのまま原価になる)
自家細胞製品では、キット単価と処理時間が直接コストです。 装置本体の価格より、1ロットあたりの消耗品と占有時間で比べるほうが実態に合います。
迷ったときの順番
抗体・タンパク質なら:
- そもそも遠心を持つか(バッチ数×消耗品費 vs 設備投資)
- 連続かボトルか(1バッチ液量とバッチ回数)
- せん断とDNA/HCP(清澄度だけで比べない)
- 洗浄・SIPを引き受けるか(引き受けないならシングルユース型)
- 後段のデプスフィルター構成とセットで面積を決める
細胞治療なら:
- 閉鎖系であること(ここは要件で、比較項目ではない)
- 回収率と処理後の生存率
- 1ロットあたりのキット単価と占有時間
- 処理容量と、扱う細胞種に対する実績
分離効率やg数の比較は、この順番を通ったあとで意味を持ちます。先に装置スペックを並べると、抗体と細胞治療の装置が同じ表に載ってしまい、決められません。
この分野の新着を、メールで受け取る
こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを月数回お届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。
登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。
メール登録が不要な方は RSSで購読 もできます。