医薬品のシリアライゼーションとは?個装に番号を振ると変わること

医薬品のシリアライゼーションは、個装(箱やブリスター1つひとつ)に固有の番号を振る仕組みです。正規に払い出された番号かを照会でき、同じ番号が二度出てきた時点で気づけます。
ただし、番号を付けること自体は難しくなく、手間がかかるのは、付けた番号を使える状態に保ち続けることです。製造側の現場には、印字と検査の設備、番号のデータ、受託先との分担が増えます。
この記事では、個装に印字するコード、米国DSCSAと欧州FMDの違い、包装ラインで増える設備、よくある失敗、データの置き場所と回収で効く場面、確かめる順番を順に説明します。
1. 個装に印字するコード ― GS1 DataMatrix
ロット番号だけでは、正規の流通に偽造品が混ざったときに見分けられません。同じロット番号を印刷された偽物は、箱を見ただけでは本物と区別できないためです。
そこで個装ごとに固有の番号を振りますが、印字するのは番号そのものではなく、複数の情報を組にしたコードです。GS1という国際標準に沿って、商品コード(GTIN)、シリアル番号、ロット番号、有効期限をまとめ、2次元コード(GS1 DataMatrix)に載せるのが一般的です。
人が読めるように、同じ内容を文字でも併記します。日本でも医療用医薬品にはGS1バーコードの表示が求められ、表示する項目は包装の単位(調剤包装・販売包装・元梱包装)ごとに定められています。
2. 米国DSCSAと欧州FMDの違い
番号を何のために使うかは、米国と欧州で違います。
- 米国のDSCSA:2013年に成立した法律で、段階的に施行されてきました。製造から卸、薬局まで、取引のたびに製品の情報を電子的に受け渡し、誰から誰へ渡ったかをたどれるようにします。
- 欧州のFMD:2019年2月9日から本格運用に入りました。製造側が固有の番号を中央のデータベースに登録し、薬局が患者に渡すときに番号を照会して、登録済みなら「使用済み」にします。
FMDでは、同じ番号が二度照会されると警告が出ます。開封が分かる改ざん防止の封(anti-tampering device)も求められます。

| 制度 | 立場 | 期限 | 求められること |
|---|---|---|---|
| 米国DSCSA | 製造業者・リパッケージャー | 2025年5月27日 | 包装単位で、取引の情報を電子的に受け渡せる状態 |
| 米国DSCSA | 卸売業者 | 2025年8月27日 | 同上 |
| 米国DSCSA | 大規模な薬局(薬剤師と薬剤技術者がフルタイム換算で26人以上) | 2025年11月27日 | 同上 |
| 米国DSCSA | 小規模な薬局(同じく25人以下) | 2027年11月27日(2026年8月に1年延長) | 同上 |
| 欧州FMD | 製造販売業者、卸、薬局など | 2019年2月9日から | 固有の番号の登録と、払い出し時の照合 |
米国の日付は、FDAが出している免除の終わりで、段階を追って、最後に小規模な薬局が残っています。
小規模な薬局の期限は、もともと2026年11月27日でした。FDAは、小規模な薬局が包装単位の電子的な追跡を行えるかを調べる評価を終える時間をとるため、2026年8月に1年延ばしています。
期限は動いてきたので、FDAのDSCSAのページで最新の発表を確かめます。
3. 製造ラインで変わること ― アグリゲーション
包装ラインに増える設備は、次の三つです。
- 印字装置:レーザーまたはインクジェットで、個装にコードを印字します。
- 検査カメラ:印字したコードが正しく読めるかを確かめ、読めないものは不良として排出します。
- アグリゲーション用の読取装置:個装をまとめた箱、箱をまとめたパレットについて、どの番号がどの箱に入っているかを記録します。
三つ目のアグリゲーションは、効き方が分かりにくい設備です。アグリゲーションがあれば、外装のコードを読むだけで中身の番号が分かるので、卸の入荷検品が1個ずつにならずに済みます。
これを持たないと、出荷側も受け入れ側も手間が増えます。
4. よくある失敗
現場で手間がかかるのは番号を付けることではなく、付けた番号を使える状態に保ち続けることです。
一つ目は、コードが読めない、または内容が違うことです。英国の医薬品規制庁(MHRA)は、包装のコードに関する通知をいくつも出しています。
ジアモルヒネの注射用製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →では、有効期限が2次元コードに入っていないロットがあり、薬局の検証で「Scan failed」などのエラーが出ました(2020年の通知)。人が読める表記は正しく、品質の問題はないとされましたが、システム上の検証は通りません。
プリミドンの錠剤は、欧州の制度が始まる前の2015年の通知ですが、バーコードの商品コードが誤っていて、読み取ると別の規格(250 mg)の製品と判定されました。印字の検査では、読めるかだけでなく、読んだ中身が正しいかまで見ます。
二つ目は、番号の状態が実態とずれることです。薬局が払い出しのときに照会すると、データ上の状態が「輸出」と出ることがあるとして、Theramex社のAlfadカプセルが2020年にクラス3で回収されました(MHRAの通知)。
品質には問題がないとされましたが、該当ロットは回収の対象になりました。状態の管理がずれると、品質に問題のない製品でも、薬局で扱えなくなります。
三つ目が、検査で排出した個装の番号です。排出された個装の番号はすでに払い出されているので、そのまま消えると帳尻が合わず、未使用に戻すか、破棄済みとして記録する処理が要ります。
ラインを止めて再開したときに、途中の番号がどうなっているかを説明できる必要があり、逸脱・OOS・CAPAやライン・クリアランスの手順に、番号の扱いが加わります。
四つ目は、包装とラインの能力の取り合いです。2次元コードを載せる面積が要るので既存の包装デザインを変えることになりがちで、印字と検査の分だけラインの能力が落ちることもあります。
受託製造先とは、誰が採番し、誰が保管し、誰がデータを送るかを決めておきます。仕向地ごとに要求が違うので、同じ製品でも包装工程が分かれ、市場が増えるたびに対応が発生します。
技術移管で拠点を移すときも、番号の扱いが移管の対象に入ります。
番号の不具合は、製品の品質ではなく、データと印字の管理の不具合として現れます。
5. データの置き場所と、回収で効く場面
番号は大量に発生し、製品によっては年間で数千万件規模になるため、保管と照会の仕組みが要ります。
置き場所は、社内のシステムか外部のサービスかに分かれますが、どちらでもGMP医薬品を一定の品質で安全に造るために守るべき製造・品質管理の基準(適正製造規範)です。詳しく →の観点で確かめることは同じです。コンピュータ化システムバリデーションで供給者の評価をし、データの完全性で記録が後から書き換えられないことを保ち、監査証跡のレビューで誰がいつ何をしたかを見られるようにします。
番号を出すだけに見えて、出荷可否の判断に関わる記録を持つので、扱いは軽くなりません。
価値がはっきり出るのは、回収の場面です。製品回収の分類では、健康被害の重さでクラスが決まり、通知の範囲と速さが変わります。
ロット単位でしか追えなければ、そのロット全部を止めるしかありませんが、個装単位で流通先まで分かれば、影響のある範囲だけに絞れます。供給が逼迫している製品ほど、この差は大きくなります。
シリアライゼーションのデータは、番号の管理ではなく、出荷可否と回収の範囲を決める記録として扱います。
6. 明日から確かめられること
製造、品質保証、購買、営業のどの立場でも、次の順で確かめられます。
- 対象の制度:自社の製品がどの市場へ出るかを確かめ、米国のDSCSA、欧州のFMD、日本のGS1表示のどれが必要かを決めます。
- 印字の検査:印字したコードの検査が、読めるかだけでなく、商品コードやロットが正しいかまで見ているかを確かめます。
- 排出した番号の扱い:検査で排出した個装の番号を、未使用に戻すか破棄済みとするかの手順があり、ライン再開時に説明できるかを確かめます。
- 状態の更新:出荷、返品、輸出のときに、データの状態を更新する担当と手順が決まっているかを確かめます。
- システムの評価:番号のシステムを、バリデーション試験法が目的に合う性能を持つことを立証する妥当性確認。正確さ・精度などを評価する。詳しく →、データの完全性、監査証跡いつ誰が何をしたかを記録し、改ざんや削除ができないようにした操作履歴。記録の信頼性を支える。詳しく →の面で評価したかを確かめます。
- 受託先との分担:採番、保管、データ送信の分担が文書になっているかを確かめます。
米国の小規模な薬局が取引先にいる場合は、2027年11月27日に向けた準備の状況を聞いておきます。
参考文献
- FDA, Drug Supply Chain Security Act (DSCSA)
- FDA, DSCSA: Waivers and Exemptions Beyond Stabilization Period(段階ごとの免除の終わりの日付)
- FDA, Exemptions Under the Drug Supply Chain Security Act(小規模な薬局の免除を2027年11月27日まで延ばした、2026年8月の発表)
- FDA, DSCSA Small Dispensers Assessment(Federal Register 2025-11-21)
- 欧州連合, Commission Delegated Regulation (EU) 2016/161(偽造医薬品指令の安全性特徴に関する委任規則)
- MHRA, Class 4 FMD Medicines Defect Information: Diamorphine Hydrochloride BP 100 mg lyophilisate for solution for injection
- MHRA, Primidone SERB 50mg tablets: error on the carton
- MHRA, Class 3 Medicines Recall: Theramex AlfaD Capsules, EL (20) A/46(2020年9月29日の最初の通知)
- MHRA, Class 3 Medicines Recall: Theramex Alfad 0.25 microgram capsules, EL (20) A/50(対象ロットを追加した2020年10月29日の更新)
- 欧州委員会, EU GMP Annex 11: Computerised Systems
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