低分子医薬基礎知識・分析

X線CTで製剤の中を見る——非破壊で内部構造を調べる

X線CTによる非破壊観察とは、⁠試料を切らずに内部の構造を三次元で見る方法です。医療用のCTと原理は同じで、角度を変えながら透過像を撮り、計算で断層像を組み立てます。工業用のものは分解能がはるかに高く、条件によってはマイクロメートル以下まで見えます。

製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。で使う理由は単純で、⁠見たいものが、切ると壊れるからです。空隙、層の境界、剥離といった構造は、樹脂に埋めて研磨する過程で形が変わってしまいます。

凍結乾燥機#分析法#製剤#凍結乾燥#工程内管理
X線CTで製剤の中を見る——非破壊で内部構造を調べる
この記事の要点
  • 破壊検査には「その個体が失われる」「見た断面しか分からない」「切る操作が構造を変える」という制約があります。
  • 分解能と観察できる試料の大きさは基本的に交換関係にあります。
  • まず工程開発で使い、そこで見つかった関係を簡便な指標に翻訳するのが現実的な使い方です。

切って見ることの3つの限界

内部を見る方法として、断面を作って顕微鏡で観察するのは確実です。ただし制約があります。

その個体は失われます。 同じ試料で経時変化を追えません。安定性試験出荷時から有効期限まで品質特性が規格内にとどまることを確認する試験。のように時間を追う評価では、時点ごとに別の個体を使うことになり、個体差と経時変化が混ざります。

見た断面しか分かりません。 どこを切るかで結果が変わります。欠陥が偏在していれば、切った場所によって見つかったり見つからなかったりします。

切る操作が構造を変えます。 空隙や層間の剥離は、包埋や研磨で潰れたり広がったりします。⁠見たいものほど、前処理細胞移植の前に患者へ行う処置。生着の場を空けるために既存の骨髄細胞を減らす目的で実施される。で壊れやすいという関係になりがちです。

非破壊で見られるなら、この3つが同時に外れます。

分解能と試料の大きさは交換関係

X線CTでは、細かく見るほど観察できる範囲が狭くなります。理由は幾何学的なもので、拡大するには試料を線源に近づける必要があり、そのぶん視野に入る範囲が減るためです。

したがって、「錠剤1個をまるごと、かつ最高分解能で」は基本的に成り立ちません⁠。どちらを取るかを決めることになります。

  • 全体の構造(層の位置、大きな空隙、割れ)を見たい → 分解能を譲る
  • 局所の微細構造(粒子の境界、細孔)を見たい → 一部を切り出すか、視野を絞る

もう一つの制約が、⁠厚くて平たい試料です。回転させながら透過を取る通常のCTでは、長辺方向でX線の経路が長くなりすぎ、像が破綻します。これを避けるために、斜めから撮るラミノグラフィという方式があります。分解能は譲る代わりに、大きな板状の試料を切らずに観察できます。

医薬品での使いどころ

内部構造が性能を決める対象は、製剤にもデバイスにも多くあります。

錠剤。 層構造、空隙率、割線の周りの密度分布は、崩壊と溶出に効きます。打錠でのキャッピングmRNAの5'末端にキャップ構造を付ける修飾で、分解を防ぎ翻訳効率を高めます。3'末端のポリA付加とは別の修飾です。詳しく →やラミネーションは、外観に出る前の段階で内部に現れていることがあります。難溶性薬物の製剤では、この不均一性が溶出のばらつきになります。

凍結乾燥製剤から水分を抜いて乾燥させ、長期安定性を高めた剤形。使用時に溶かして戻す。ケーキ凍結乾燥後に残る固形物のこと。崩れると外観や再溶解性が悪くなるため、形状の確保が重要になる。 多孔構造の均一性が、復水の速さと残留水分凍結乾燥した注射剤などが適切な状態かを確かめる試験で、残った水分量や、使う前に溶かし直したときの溶けやすさ(再溶解性)などを調べます。詳しく →に関わります。凍結乾燥サイクルの設計を検証する材料になり、収縮や倒壊の程度も三次元で見られます。

デバイスと容器。 オートインジェクターの組立では、可動部の噛み合いや封止の状態が問題になります。容器閉塞性に関わる部分は、外から見えません。プレフィルドシリンジでも、ガラスと栓の接触状態は内部の話です。

単回使用の部材。 接合部や溶着部の内部欠陥は、抽出物・浸出物とは別の観点で問題になります。

どこまでを規格に載せるか

観察できることと、規格試験に据えることは別です。この種の測定を分析法として扱うなら、次が要ります。

  • 分析法の移管:装置や施設が変わっても同じ結果になること
  • 頑健性:撮像条件と再構成の条件で、判定が動かないこと
  • 判定基準⁠:「空隙が多い」ではなく、数値で線を引けること
  • 記録の扱い⁠:判定を伴うなら、画像データもデータの完全性の対象になります

3つ目が実務上のハードルです。三次元の画像から数値を出すには、しきい値の設定と領域の切り分けが要り、そこに解析者の判断が入ります。

現実的な使い方

多くの場合、次の順序になります。

  1. 工程開発で使う。 逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →や不具合の原因究明、条件を振ったときの内部構造の変化を見る
  2. 関係を見つける。 内部構造と、崩壊時間・溶出・気密性といった性能指標の対応を取る
  3. 簡便な指標に翻訳する。 見つかった関係を、工程内管理で回せる指標——打錠圧、重量、厚み、外観——に落とす

重い測定をいきなり全数の規格試験に据えるのは、費用の面でも時間の面でも現実的ではありません。役割は翻訳のもとを作ることにあります。同じ考え方は、ソフトセンサーラマンによるインライン測定でも使われています。

受託で使うという選択

装置を自前で持つのは、費用だけでなく撮り方と再構成の条件出しに経験が要る点で負担があります。年に数回の原因究明のために持つには重く、受託分析に出す形が現実的です。

その場合に決めておくとよいのは、次のあたりです。

  • 何を見たいのか(分解能か、全体か)を先に言語化しておく
  • 試料の切り出しをどちらが行うか
  • 生データ(投影像)を受け取るか、再構成後の画像だけでよいか
  • 判定を伴うなら、GMP上の位置づけをどう扱うか

「とりあえず撮ってもらう」と、分解能が足りずに何も分からない、ということが起こります。⁠見たい構造の大きさを先に決めておくのが、実務上の要点です。

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、低分子医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。