mRNA-LNPは凍結乾燥で冷蔵流通に載るか:論文が示す保存期間と条件

mRNAワクチンの多くは、マイナス20℃からマイナス70℃で保管します。冷凍庫とドライアイスを継ぎ足しても、電源の細い地域や巡回接種の現場までは届けにくいのが実情です。凍結乾燥凍らせた試料を減圧下に置き、氷を直接水蒸気にして(昇華)水分を除く乾燥の方法です。液のままでは安定性を保ちにくいタンパク質製剤などに使い、使う前に溶かして戻します。詳しく →で冷蔵庫や室温に近づけられるのか。研究では、凍結乾燥したmRNA-LNPが25℃で6か月(2023年)、冷蔵で1年以上(2024年)、性質と機能を保った報告があります。
ただし、凍結乾燥しただけで持つのではありません。糖の保護剤、緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →、凍らせ方、乾かす温度がそろった処方と工程の結果です。
凍結乾燥機試料を凍らせてから減圧し、氷を昇華させて水分を除く乾燥装置です。熱に弱い医薬品を安定な状態で保存できます。詳しく →の大きさや機種名より、その処方と工程をパイロット機から量産機へ引き継げるかが、冷蔵流通に載るかどうかを分けます。
論文が示した保存期間 ― 25℃で6か月、冷蔵で1年超
保存期間の数字は、論文ごとに条件が違います。
Aiらは2023年にCell Discovery誌で、新型コロナ向けのmRNA-LNPワクチンを凍結乾燥し、25℃で6か月置いても粒子の性質と活性に変化がなかったと報告しました。マウス、ウサギ、アカゲザルで免疫応答を確かめ、ヒトでも凍結乾燥品のブースター接種で中和抗体が上がったとしています。CerTest Biotecのグループは2024年に、緩衝液と保護剤を選び、凍結乾燥の条件を調整して、粒子の特性と機能が冷蔵温度で1年以上保たれる処方と工程を示しました。
液剤との差を直接比べた例もあります。2026年に発表された自己増幅型mRNAアルファウイルスなどの複製酵素遺伝子を組み込むことで細胞内で自己増幅できるよう設計されたmRNAで、少量投与で高いタンパク質発現を目指す技術。詳しく →(sa-mRNA)のLNPの研究では、スクロースタンパク質製剤で広く使われる非還元糖。液体でも凍結乾燥でも安定化・保護剤として働く。詳しく →中の液剤は冷凍庫の温度なら保てても、4℃や室温に近い温度では急速に不安定になる一方、凍結乾燥した粉末は4℃で機能と構造を保ったと報告されています。この処方では、冷蔵に載せるのに液剤のままでは足りませんでした。
ゲント大学のグループは、バイアルを回転させながら凍らせる連続式の凍結乾燥で、従来より高い温度での保存が可能になると報告しています。モダリティ抗体・低分子・核酸・細胞治療など、医薬品の種類・創薬手法の区分。詳しく →は違いますが、既承認のジフテリア・破傷風ワクチンを再処方して凍結乾燥した英Stablepharmaの製剤SPVX02は、30℃で24か月力価を保つと報じられました(ニュース)。凍結乾燥が保存できる温度の範囲を広げた実例です。
論文の保存期間は、処方、乾燥の条件、測る項目で変わります。自社の処方で確かめて初めて使える数字です。
糖が粒子を守る仕組み ― 保護剤の役割と純度
凍結乾燥のあいだ、LNPmRNAなどを包んで細胞へ届ける脂質の微粒子。全身投与では肝細胞に取り込まれやすい。を守るのは糖です。
スクロースやトレハロース非還元糖の一種で、凍結乾燥品の安定化に使われる。ガラス転移温度が比較的高いとされる。詳しく →は、乾燥中にガラス状の固まり(非晶質結晶格子を持たないエネルギーの高い状態で、溶けやすいが結晶に戻りやすい。詳しく →のマトリックス)を作り、粒子を動けなくします。これがガラス化です。水が抜けて失われた水の層の代わりに、糖が脂質の表面と水素結合を作って、粒子の形を保ちます。これが水置換です。凍結乾燥した製剤の中では、mRNA-LNPが保護剤の固体に固定されています。
糖は名前だけでなく、グレードでも選びます。注射剤向けには、低エンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →などを掲げたグレードがあります。たとえばPfanstiehlは高純度のスクロース・トレハロース(低エンドトキシン・低金属を掲げる注射剤グレード)を、MerckはEmproveプログラムで低エンドトキシン・低微粒子の糖類を揃えています。購買や品質保証の人は、グレードと規制対応の書類を確かめておきます。
糖の選び方は、乾かせる温度の上限にも響きます。スクロース、トレハロース、マンニトール結晶性が高く、凍結乾燥品の増量剤としてケーキ形状や再溶解性の確保に使われる糖アルコール。詳しく →を混ぜて、崩壊温度や共晶温度を引き上げた報告もあります。上限が上がれば乾燥を速められます(凍結乾燥のコラプス温度と打栓)。
糖の名前を決めて終わりにせず、グレードと、その糖で崩壊温度がどこに来るかまで決めます。
緩衝液と凍らせ方 ― PBSの回避と氷の核の制御
凍結は、緩衝液そのものも変えます。
水が氷になるにつれ、凍っていない液に溶質が濃縮されます。リン酸塩中性付近で強く緩衝する一方、凍結時にpHが大きくシフトすることで知られる緩衝剤。詳しく →のように、片方の成分が先に析出する緩衝液では、局所のpHが大きく振れることが知られています。mRNA-LNPでは、凍結乾燥後の安定性でTrisが適し、PBSは適さないとする報告があります。pHが振れれば、LNPの表面の電荷が崩れ、凝集や、封入したmRNAの漏れにつながるおそれがあります。
緩衝液は、冷蔵で使うか凍結するかでも答えが変わります。2026年にACS Nano誌に載った研究では、凍らせる前の評価ではクエン酸が最も高い導入効率を示した一方、凍結融解を経るとTrisのほうが粒子を安定に保つという逆転が示されました(mRNA-LNPの凍結耐性を決めるのは緩衝液か)。
凍らせ方も効きます。水が氷になるときの核ができる温度は、制御しなければバイアルごとにばらつきます。深く冷えてから凍ると氷の結晶は細かくなり、乾く速さも変わります。凍り方がそろわないと、同じロットの中で粒子径やmRNAの完全性がばらつく原因になりえます。氷の核ができる瞬間をそろえる機能として、SP ScientificのControLyo、IMA LifeのKRYOSEQ、Millrock TechnologyのFreezeBoosterなどがあります。一次乾燥では、製品温度を崩壊温度より低く保つ必要があり、SP Scientificの無線温度センサー(Tempris)や、水蒸気の流れから製品温度を推定する方式(LyoFlux)で、製品温度を追います。工程の流れそのものは凍結乾燥サイクルの設計で解説しています。
PBSを既定の緩衝液として使い回さず、凍結と乾燥に耐える緩衝液を、処方設計の最初の分岐点で選びます。
戻したあとに確かめること ― 再水和後の品質
乾いたケークができた時点では、まだ何も証明されていません。
使う直前に注射用水などで戻す再水和は、液剤にはない工程です。加える液量、速さ、混ぜ方が粗いと、守ったはずの粒子がここで凝集したり壊れたりします。凍結乾燥後は粒子径がやや大きくなる傾向も報告されているので、戻したあとの粒子径は必ず測ります。
測る時点は、乾燥の前、乾燥のあと、戻したあと、保管したあとです。項目は、粒子径とPDI粒子径分布の広がりを表す指標。DLSで会合や凝集の傾向を早期に捉えるのに使う。詳しく →(粒子径の分布の広さ)、封入率、mRNAの完全性、そして活性です。粒子の評価に使う装置は、製品データベースのLNP粒子解析で比べられます。目標とする保管温度での長期の安定性データは、安定性試験(ICH Q1)の枠組みで積み上げます。
戻したときに元のLNPが機能ごと保たれているかを、実測で示して初めて、冷蔵流通に載せられるかの答えが出ます。
明日から確かめられること ― 選ぶ順番
処方、工程、装置、評価の順に決めます。前の段が甘いと、後ろをどれだけ作り込んでも粒子は守れません。
- 処方:糖の種類、濃度、グレード。緩衝液はPBSでないか。凍結中のpHの動き
- 凍結:氷の核を揃える機能のあるパイロット機で条件を作り、バイアルごとのばらつきも見たか
- 乾燥:製品温度の実測値は、崩壊温度よりどれだけ低いか
- 量産機:核形成の制御と製品温度の測定を、パイロット機から引き継げるか
- 評価:戻したあとの粒子径、封入率、mRNAの完全性、活性と、目標温度での長期安定性データがあるか
量産機に移すときの確認点は凍結乾燥のスケールアップと技術移管に、装置の構成は凍結乾燥機に、保護剤の糖類は添加剤・安定化剤にあります。冷蔵に近づける手段は、凍結乾燥だけではありません。緩衝液を替えた液剤という道もあり、剤形の選び方は凍結乾燥か液剤かで扱っています。
参考文献
- Ai L, Li Y, et al. Lyophilized mRNA-lipid nanoparticle vaccines with long-term stability and high antigenicity against SARS-CoV-2. Cell Discov. 2023.(凍結乾燥品を25℃で6か月置いても変化がなかったこと)
- Comprehensive Optimization of a Freeze-Drying Process Achieving Enhanced Long-Term Stability and In Vivo Performance of Lyophilized mRNA-LNPs(2024年。冷蔵温度で1年以上、特性と機能が保たれたこと)
- Freeze-Drying in Sucrose Followed by Cryomilling Enables the Formulation of sa-mRNA-LNP Powders for Inhalation(2026年。液剤と凍結乾燥品の4℃での比較)
- Meulewaeter S, et al. Continuous freeze-drying of messenger RNA lipid nanoparticles enables storage at higher temperatures. 2023.(連続式の凍結乾燥)
- Lyophilization process optimization and molecular dynamics simulation of mRNA-LNPs for SARS-CoV-2 vaccine. npj Vaccines. 2023.(糖の組み合わせと崩壊温度)
- Freeze-Drying of mRNA-LNPs Vaccines: A Review. Vaccines. 2025;13(8):853.(保護剤の固体の中にmRNA-LNPを固定する仕組みと、物流の課題)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/mrna-lnp-lyophilization-coldchain-application