LNPの封入率(EE%)測定とは? RiboGreenアッセイで測る
脂質ナノ粒子(LNP)にmRNAやsiRNAを積み込むとき、投入した核酸がどれだけ粒子の中に入ったかを表すのが封入率(EE%=Encapsulation Efficiency)です。粒子の外にこぼれた核酸は分解されやすく、体内で標的に届く前に失われます。封入率は、その積み込みがうまくいったかを示す基本的な指標になります。

測定でよく使われるのが、RiboGreenという核酸に結合して蛍光を出す色素を用いたアッセイです。仕組みは差分法で、界面活性剤を加えない状態で「粒子の外にある核酸」を、加えて粒子を壊した状態で「全体の核酸」を測り、その差から封入分を求めます。原理はシンプルですが、実務では気をつけどころがいくつもあります。
本稿では、封入率が何を意味するのか、RiboGreenアッセイがどう外側と全体を測り分けるのか、粒子径・PDIとの関係や規格の立て方までを整理します。
封入率(EE%)は何を測っているのか
封入率は、LNPに含まれる核酸のうち、粒子内部に取り込まれた割合です。式としては、全核酸から外側(未封入)の核酸を引き、それを全核酸で割ったものになります。
ここで注意したいのは、封入率は「入った割合」であって「入った絶対量」ではない点です。封入率が高くても、粒子に含まれる核酸の総量(薬物含量)が少なければ、投与量は足りません。実務では封入率と核酸濃度を別々の指標として、両方を管理します。mRNAワクチンの品質管理では、封入率、粒子径、界面電荷、脂質組成などが並列の管理項目として扱われます。
封入率は割合を示す指標であり、核酸の絶対量である薬物含量とは切り分けて管理する必要があります 。
封入率(EE%)は「投入した核酸のうち粒子内に入った割合」です。高い封入率と十分な薬物含量は別物で、どちらか一方だけでは投与に必要な有効成分量を保証できません。
RiboGreenアッセイの原理:外側と全体を測り分ける
RiboGreenは、核酸に結合したときに蛍光が大きく増える色素です。遊離の状態ではほとんど光らず、RNAに結合すると強く発光します。この性質と、色素が粒子膜を通り抜けにくいこと(膜非透過性)を組み合わせて、外側と全体を測り分けます。
- 界面活性剤なし:色素は粒子の中まで入れないため、外側にある未封入核酸だけを検出します。
- 界面活性剤あり:Triton X-100などで粒子膜を壊すと、内部の核酸が放出され、全核酸を検出できます。
この二条件の蛍光値を、それぞれ検量線(既知濃度の核酸標準で作る)で濃度に換算し、差を取れば封入分が求まります。同じ試料を界面活性剤の有無で並行して測るのが基本の設計です。
界面活性剤の役割は、粒子を確実に壊し、内部の核酸を色素がアクセスできる状態にすることです。分解が不十分だと全核酸を過小評価し、封入率を実際より高く見せてしまいます。逆に界面活性剤が蛍光の背景を上げたり、処方中の一部の脂質・添加剤が色素と核酸の結合を邪魔したりすることも報告されており、条件は処方ごとに確かめる必要があります。近年はTriton X-100の代替となる界面活性剤の検討も進んでいます。
RiboGreenアッセイは色素の膜非透過性を使い、界面活性剤の有無で外側の核酸と全核酸を測り分ける差分法です 。
測定でつまずきやすいところ
原理は単純でも、実測ではいくつかの落とし穴があります。
- 粒子の分解の程度:粒子が完全に壊れていないと全核酸を過小評価します。処方が変われば、壊すのに必要な界面活性剤の種類・濃度も見直しが要ります。
- 検量線の範囲:RiboGreenには高濃度用と低濃度用の設定があり、試料濃度が範囲に収まるよう希釈します。範囲を外れると定量がゆがみます。
- 核酸ごとの応答差:RNAとDNA、一本鎖と二本鎖で応答が異なるため、標準物質は測る核酸に近いものを選びます。
- バッファーと純度:規定のバッファー条件で行い、RNaseの混入を避けます。分解した核酸は正しく評価できません。
値の絶対水準よりも、同じ手順で繰り返し測ったときのばらつきが小さいこと(再現性)が、規格運用では効いてきます。RiboGreen法以外に、イオン交換クロマトグラフィーで外側の核酸を分離・定量する手法もあり、直交する原理での確認に使われます。
粒子径・PDIとの関係
封入率は単独で見るより、粒子径やPDIと合わせて眺めると、処方の状態がよく分かります。粒子の物理的な性質はLNPの粒子径・PDIの記事で詳しく扱いますが、封入率との関係だけ触れておきます。
mRNAワクチンでは、おおむね数十〜200 nm程度の粒子径が扱われます。PDI(多分散指数)は粒子径のばらつきを表し、均一なほど小さくなります。均一性の目安として、PDIを一定値以下(たとえば0.2〜0.3程度以下)に置く運用が広く見られます。
製造条件(混合の速さ、脂質と核酸の比率、pHなど)が崩れると、粒子径・PDIと封入率が同時に悪化することがあります。封入率が下がったとき、粒子径やPDIも一緒に動いているかを見ると、原因がプロセスのどこにあるかを推定しやすくなります。これらは一体で、mRNA-LNPの製造プロセスの設計と密接に結びついています。
封入率は粒子径・PDIと連動して動くことが多く、三つを合わせて見ると処方や製造条件の変調を早く捉えられます 。
規格の考え方
封入率にどんな規格を置くかは、モダリティや投与経路、開発段階によって変わります。mRNAワクチンでは高い封入率が求められる傾向があり、公開情報では85〜90%以上を目安とする記述が見られます。ただしこれは処方や目的によって変わる目安であり、一律の閾値があるわけではありません。規格値は、臨床で有効性・安全性が確認されたロットの実績(プロセスケイパビリティ)に基づいて設定するのが基本です。
| 観点 | 内容 |
|---|---|
| 実績ベース | 有効性が確認されたロットの封入率分布から下限を設定する |
| 測定のばらつき | 手法の再現性を織り込み、過度に厳しい規格を避ける |
| 直交手法 | RiboGreen法と別原理(イオン交換など)で相互確認する |
| 併記する属性 | 封入率単独でなく、含量・粒子径・PDIと合わせて評価する |
規制側の枠組みでは、封入率は送達システムの品質特性の一つとして、重要品質特性(CQA)に位置づけられることが多い項目です。USPはmRNAワクチン・治療薬の品質分析手順に関するドラフトガイドラインを整備しており、封入率の測定もその対象に含まれます。
封入率の規格は一律の閾値ではなく、有効性が確認されたロットの実績と測定のばらつきを踏まえ、他の品質特性と併せて設定します 。
まとめ
LNPの封入率(EE%)は、投入した核酸のうち粒子内に取り込まれた割合を示す基本指標です。RiboGreenアッセイは、核酸に結合すると光る色素の膜非透過性を利用し、界面活性剤の有無で外側の核酸と全核酸を測り分ける差分法で封入率を求めます。原理は単純でも、粒子の分解の程度、検量線の範囲、核酸の種類ごとの応答差、純度管理など、値を正しく出すための条件は少なくありません。
封入率は単独で完結せず、薬物含量、粒子径、PDIと合わせて見ることで処方や製造条件の状態が読めてきます。規格は一律の閾値を当てはめるのではなく、有効性が確認されたロットの実績と測定のばらつき、直交手法での確認を踏まえて組むのが実務的です。
参考文献
- USP, Analytical Procedures for Quality of mRNA Vaccines and Therapeutics (Draft Guidelines)
- ICH Q6B, Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products
- ICH Q8(R2), Pharmaceutical Development
- WHO, Biological standardization and vaccine quality resources
- FDA, Vaccines and Related Biological Products guidance