マイクロ流体混合でmRNA-LNPを量産する:NanoAssemblrの選び方

処方をまったく変えずに、混ぜる装置だけを10種類替えてmRNA-LNP(脂質ナノ粒子mRNAなどの核酸を封入して細胞へ送達する脂質の微粒子。mRNAワクチンで大規模に実用化された非ウイルス系。詳しく →)を作ると、何が起きるのか。2026年にNature Communications誌に載った研究では、粒子径も封入率も、粒子の内部の構造まで、装置ごとに違う結果になりました。研究段階でよく使うピペット混合で作った粒子は、量産で使う乱流ミキサーの粒子と似ていなかったと報告されています。
LNPmRNAなどを包んで細胞へ届ける脂質の微粒子。全身投与では肝細胞に取り込まれやすい。は、脂質と核酸を混ぜたその瞬間に一気にできあがります。だから混ぜ方の差が、そのまま粒子の差として残ります。Cytiva(旧Precision NanoSystems)のNanoAssemblrは、細い流路の中で混ぜ方をそろえるための装置です。処方検討から量産までの道筋で、どこにこの装置を置き、どこで何を確かめるかが、LNP製造の再現性を左右します。
混ぜる装置が粒子を決める理由
LNPを作る操作そのものは単純です。エタノールに溶かした脂質と、酸性の緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →に溶かしたmRNAを混ぜる。エタノールが水で薄まると、脂質は溶けていられなくなり、その場で集まりながらmRNAを抱き込んで粒子を作ります(自己集合)。
問題は、この集合がごく短い時間で進むことです。2つの液をビーカーで混ぜると、液が触れ合った界面では急に薄まり、離れた場所ではゆっくり薄まります。場所ごとに違う条件で粒子ができるので、大きい粒子と小さい粒子が混ざった、分布の広い製品ができます。
運動会の玉入れにたとえてみます。合図の聞こえ方が場所によってずれれば、投げ始めがそろいません。全員に同時に合図が届けば、そろって投げられます。マイクロ流体ミキサーがしているのは、液のどこでも同じ瞬間に「薄まる」という合図を届けること、つまり集合が始まる前に混ぜ終えることです。
マイクロ流体ミキサーは、粒子を作る装置というより、粒子ができる条件をそろえる装置です。
NanoAssemblrの仕組みと機種
速く混ぜる方法には、流れを激しく乱す方法と、流れを折りたたんで薄い層にする方法があります。NanoAssemblrは後者です。
髪の毛の数本分ほどの幅しかない細い流路では、2つの液は混ざらずに層になって並んで流れます。流路の壁に溝を刻んだヘリンボーン型や、流れを輪のように回すトロイダル型の構造に通すと、層が何度も折りたたまれて薄くなります。層が薄いほど、分子が隣の層へ移る距離が短くなり、混ざるのが速くなります。処方検討向けのIgniteでは、トロイダル型の混合構造を組み込んだカートリッジ(NxGen)を使います。
機種は、少量で処方を探索するSpark、Ignite、量を増やすBlaze、GMP医薬品を一定の品質で安全に造るために守るべき製造・品質管理の基準(適正製造規範)です。詳しく →製造向けのシステムに分かれています。Cytivaは、同じマイクロ流体の混合でラボの探索からGMP製造までつなげるとしています。
運転で動かせる条件は、主に2つです。水系と有機系の流量の比(水系と有機系をおよそ3対1で流すのがよく使われる出発点です)と、合計の流量です。処方の側では、粒子の表面を覆うPEG脂質LNP表面を覆い、安定性や体内動態を調整する脂質。詳しく →の割合が粒子径を大きく動かします。PEG脂質は粒子の成長を止める働きをするので、割合を変えると粒子の大きさが変わります。混合の条件を細かく振る前に、処方でどこまで動かせるかを見ておくと、条件出しの回数を減らせます。
スケールアップで保つもの
処理量を増やすときに引き継ぐべきものは、流量の数字ではありません。混ざり方そのものです。流路をそのまま太くして流量だけを上げると、層の厚みや流れの性質が変わり、混ざるまでの時間も変わります。ラボで出した粒子径や分布が、そのままでは再現しなくなります。
対策は大きく2つあります。1つは、同じ寸法の流路を何本も並べる並列化です。1本あたりの混ざり方は変わらないので、本数を増やした分だけ処理量が増えます。マイクロ流体の流路を多数並べて、mRNA-LNPワクチンの製造量を上げる研究も報告されています。もう1つは、衝突噴流(インピンジメントジェット)方式のような、別の混ぜ方に切り替えることです。2つの液を高速で正面からぶつけ、乱れた流れの中で一気に混ぜる方式で、処理量を大きく取りやすく、商用規模のワクチン製造でも使われてきました。KNAUERのIJMシリーズも、この方式の装置です。
ただし、方式を替えると粒子が変わりうることは、冒頭の研究が示したとおりです。流れの整った層を折りたたむ混ぜ方と、乱流で一気に混ぜる混ぜ方では、同じ処方でも同じ粒子になるとは限りません。
開発の途中で混合方式を切り替えるなら、切り替えの前後で粒子が同等であることを示す計画を、先に立てておきます。
よくある失敗
いちばん多いのは、量産に移って数字が動いたとき、原因を混合以外に探して時間を使うことです。処方検討に使ったミキサーと量産のミキサーが別の方式なら、混合そのものが最初の容疑者です。処方検討の記録に、どのミキサーを、どの流量比と合計流量で使ったかが残っていないと、比べようがありません。
次に多いのが、混合の後の工程で分布を崩すことです。混ぜた直後の液にはエタノールが残っていて、粒子はまだ不安定です。タンジェンシャルフローろ過(TFF)でエタノールを抜き、中性の緩衝液に置き換えて濃縮しますが、濃縮しすぎれば粒子が凝集し、せん断が強すぎれば壊れます。混合の条件を詰めても、ここで分布が広がれば意味がありません。
封入率(mRNAのうち粒子に包まれた割合)を測る時点がそろっていないのも、比較を難しくします。粒子に入らなかったmRNAはろ過で抜けるので、ろ過の後には見かけの封入率が上がります。混合直後の値と製剤化後の値を並べて比べると、工程の良し悪しを読み違えます。
どの工程のどの時点の値を規格や比較に使うかを、最初に決めておきます。
導入前に確かめること
NanoAssemblrのようなマイクロ流体ミキサーを選ぶとき、またメーカーや受託先と話すときは、次の点を確かめておくと判断を誤りにくくなります。
- 処方検討から量産まで、同じ混合方式でつなげるのか、途中で別の方式に替えるのか
- 替えるなら、切り替えの前後で粒子径、分布、封入率、細胞での発現をどう比べるか
- 量産の規模で必要な処理量に、並列化で届くのか
- 処方検討の記録に、ミキサーの種類、流量比、合計流量、PEG脂質の割合が残っているか
- 封入率と粒子径を、混合直後と製剤化後のどちらで測っているか
- エタノールを抜くTFFの条件で、粒子径と分布が保たれることを確かめたか
装置の候補はナノ粒子製剤装置の製品ページで、NanoAssemblrと衝突噴流方式の装置などを並べて比べられます。脂質はLNP用脂質、エタノールを抜く工程はTFFシステム、粒子の評価はDLSやLNPの粒子特性評価のページにまとめています。
次に気になるのは、10種類のミキサーを比べた研究で具体的に何が違ったかでしょう。LNPは混ぜ方で変わる?10種のミキサーを比べた論文を読むが答えます。粒子径の測り方と読み方はLNPの粒子径とPDI、封入率の測り方はLNPの封入率測定で解説しています。
参考文献
- Bethiana T, Aljabbari A, Li Y, et al. Effects of different mixing techniques on mRNA lipid nanoparticle physicochemistry and biological performance. Nat Commun. 2026;17:5890.(処方を固定し混合方式だけを替えた比較。ピペット混合と乱流ミキサーの粒子の違い)
- Cytiva, Microfluidic technology for scaling nanoparticle production(NanoAssemblrのマイクロ流体混合とスケールの考え方。メーカー資料)
- Throughput-scalable manufacturing of SARS-CoV-2 mRNA lipid nanoparticle vaccines. PNAS. 2023.(マイクロ流体の流路を並列化してmRNA-LNPの製造量を上げる研究)
- Belliveau NM, et al. Microfluidic Synthesis of Highly Potent Limit-size Lipid Nanoparticles for In Vivo Delivery of siRNA. Mol Ther Nucleic Acids. 2012;1:e37.(ヘリンボーン型マイクロ流体ミキサーでのLNP形成と、PEG脂質の割合による粒子径の制御)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/nanoassemblr-lnp-microfluidic-scaleup-application