技術移転で品質を保つとは?数字が元と違っても合格になるのはなぜか

技術移転(技術移管とも呼びます)は、抗体などの製法を、開発の現場から工場へ、または工場から別の工場や受託先へ移す仕事です。移した先で作った製品が元と同じ品質だと言えるかを、製造と品質の担当者が判断します。
しかし、手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →どおりに条件を合わせても、移した先の製品の分析値は元と少し違うことがあります。そのため合格の基準は「同じ数字が出ること」には置けません。
数字が動いても合格と言える理由と、そう言うために移す前に何をそろえておくかが分かります。
- 品質を保てたとは:元と同一ではなく、同等であることです。
- 何を先にそろえるか:許す幅と、測る分析法です。
- 小さなモデルで試した結果はどこまで使えるか:大きい装置と突き合わせて確かめた範囲までです。
1. 移した先の製品は、元とどこまで同じであればよいのか
求められるのは同一ではなく、同等(comparability)です。 違いがあっても、その違いが安全性と有効性に悪い影響を与えないと説明できれば足ります。
この考え方は、製法を変えたときの比べ方を決めた ICH Q5E製造工程の変更前後で製品が同等・比較可能かを評価する考え方を定めたガイドライン。詳しく → にあります。Q5E は、同等とは品質特性が同一という意味ではなく、非常によく似ていて、違いがあっても安全性と有効性に悪い影響がないと予測できる状態だとしています。装置も工場も変わる技術移転は、製法の変更の1つとして扱えます。

同一を求めないのは、同じ工場で作り続けている市販品でも数字は動くからです。Sandoz の研究者らは2011年、エタネルセプト(エンブレル)について、2009年末までに期限が切れるロットでは品質特性がよくそろっていた一方、2010年以降に期限が来るロットには G2F という糖鎖タンパク質に付加される糖の鎖状構造で、抗体の有効性・免疫原性などに影響する重要な品質特性。詳しく →を持つ分子が約50%から約30%に減ったものが現れたと報告しました。製品は添付文書を変えずに販売が続きました。
後続品の側の研究者による報告なので立場は割り引いて読みますが、承認後の製品でも、この程度の差が説明の付く範囲として扱われたと読める例です(バイオシミラーで詳しく扱っています)。では、どこまでの差なら説明が付くのでしょうか。
2. 許す幅は、いつ、何を基準に決めるのか
幅は、移した先で最初のロットを作る前に決めます。 結果を見てから幅を決めると、どんな差でも「同等」にできてしまうからです。
幅を決める対象は、糖鎖、電荷の分布、凝集体の量、宿主細胞由来のタンパク質(HCP医薬品を作る宿主細胞に由来するタンパク質の不純物です。安全性に関わるため、精製後の残存量を測ります。詳しく →)などの品質特性です。効き目や安全性に近い特性ほど幅を狭く取り、統計で厳しく比べます。影響の小さい特性は、移転前の製品と並べて傾向を見るだけで足ります。
どの特性を厳しく見るかの考え方と、実際に問題になった例は比較可能性試験(ICH Q5E)にまとめています。幅が決まったら、次に気になるのは、その幅に入っているかを測る道具です。
3. 製品を比べる前に、なぜ分析法を移すのか
分析法がそろっていないと、出てきた差が製品の差なのか、測り方の差なのかを区別できないからです。 そのため、製品を比べる前に、受け側で同じ試料を測り、送り側と同じ精度とばらつきで結果が出ることを確かめます。
その前に済ませるのが、送り側と受け側の違いを書き出す作業で、これをギャップ分析と呼びます。対象は、培養槽の形や制御、精製の装置、培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →や樹脂の供給元、分析の能力などです。
世界保健機関(WHO)の技術移転ガイドライン(TRS 1044 Annex 4、2022年)は、送り側と受け側への訪問を通じた事前調査とギャップ分析に1つの章を割いています。計画の段階では、ギャップ分析とリスク評価を行うべき(should)としています。
ギャップ分析移管元にあって受入側に欠けている重要な要素を洗い出し、影響を評価して必要な手当てをする作業。詳しく →で装置の違いが分かったら、その違いでどの条件を合わせ直すかを決めます。工程を手順としてではなく、品質に効く条件とその範囲(重要工程パラメータ(CPP)と設計空間)として理解していれば、装置が変わっても合わせるべき条件が分かります。分析法の移し方は分析法の移管で解説しています。
4. 実機で何度も試せないとき、小さなモデルの結果は使えるのか
使えるのは、大きい装置の実績と突き合わせて、代表していると確かめた範囲だけです。 商用規模の培養槽やカラムで何度も試すのは費用も時間もかかるため、挙動を写した小さな装置(スケールダウンモデル)で数多く回します。
技術移転では、次の場面で使います。
- 装置が違うとき:受け側の装置が送り側と違うとき、移す前に小さく試して、合わせるべき条件を探します。
- 条件の幅を調べるとき:工程の条件をどこまで動かしてよいかを調べます。
- 逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →が出たとき:移転後に起きた外れを小さなモデルで再現して、原因を探します。
ただ、装置を小さくしただけでは、大きいほうを代表しません。酸素の溶け込みやすさ(kLa)や、混ざり方、液にかかる力が食い違えば、小さなモデルの結果は大きい槽の予測に使えません。
そのため、大きい装置の結果と並べて代表性を示す適格性評価製造装置やユーティリティが意図どおりに据え付けられ、動き、性能を出せることを文書で裏づける活動。詳しく →を先に行います。示せたのは確かめた条件の範囲までなので、範囲の外で使うときは確かめ直します。作り方はスケールダウンモデルの作り方、示し方はスケールダウンモデルの適格性評価にあります。
最後は実機で確認のランを流し、移転前の製品と並べて比べ、商用規模で再現できることを工程バリデーション(PPQ)で裏づけます。
5. 書類をすべて渡しても、なぜ知識は渡りきらないのか
手順書に書かれるのは条件で、その条件を選んだ理由や、動かしてよい範囲の経験までは書かれないことが多いからです。 過去にどう外れて何が分かったのか、担当者が目で見て判断している兆しは何か、といった知識です。
ICH Q10医薬品品質システムを定めた国際ガイドライン。ライフサイクルを通じた品質マネジメントの考え方を示す。詳しく → は技術移転の目的を、開発と製造の間、また製造所の間で、製品と工程の知識を移すことだとしています。その知識が、製造の工程、管理の仕方、バリデーションの考え方の土台になるという位置づけです。
受け側から「この条件は動かしてよいか」と聞かれて、送り側がその場で理由まで答えられないなら、その理由は書類に残っていません。確認のランに送り側の担当者が立ち会えるよう、日程を組んでおくと、こうした問いをその場で解消できます。
6. 移転の計画書で、最初に確かめる5つのこと
計画書や報告書を開いたら、上から順に次を確かめます。
- 守る品質特性と許す幅:品質特性ごとの幅が、最初のロットを作る前に決まっているか。
- 送り側と受け側の違い(ギャップ分析):装置・原料・分析能力の違いが書き出され、合わせ直す条件が決まっているか。
- 分析法の移転:製品を比べる前に分析法が移され、両側の結果がそろっているか。
- スケールダウンモデルの範囲:小さなモデルが、大きい装置と突き合わせて確かめた範囲の中で使われているか。
- 口頭で伝える場:条件の理由と動かせる範囲を、送り側から受け側へ直接伝える場があるか。
移管で渡す書類の中身や確認のランが通らない理由は技術移管とは?で、工場ごと売る・買うときの手続きは製造所を手放すとき、何を渡して何が残るかで読めます。
参考文献
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく →, Q5E Comparability of Biotechnological/Biological Products Subject to Changes in Their Manufacturing Process(2004年Step 4)
- WHO, TRS 1044, Annex 4: WHO guidelines on technology transfer in pharmaceutical manufacturing(2022)(4章 事前調査とギャップ分析、12.8)
- ICH, Q10 Pharmaceutical Quality System(3.1.2 Technology Transfer)
- Schiestl M, et al. Acceptable changes in quality attributes of glycosylated biopharmaceuticals. Nat Biotechnol. 2011;29(4):310-312.(GaBIによる解説)
次に、何を調べますか?
次に読む
この記事に関連する工程
この分野の新着を、メールで受け取る
こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを毎週水曜の朝にお届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。
登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。閲覧の記録(どのページから、どの会社のサイトへ移ったか)を、ご案内のために使います。
目次・関連閉じる
Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/technology-transfer-biologics