抗体医薬装置・試薬の選び方

バイオプロセス用送液ポンプの選び方──選んでいるのは実質チューブ

ペリスタルティックポンプチューブをしごいて送液する充填ポンプ。製品接触が使い捨てチューブに限られ金属微粒子やせん断を抑えやすい。を選ぶという行為は、実質的にチューブを選ぶことです。ポンプ本体は何年も使いますが、性能を決めているのはその中で潰され続けるチューブのほうだからです。

ここを見落とすと、カタログの流量と圧力だけで選んでしまい、運用が始まってからチューブの寿命と発塵で揉めます。

バイオプロセス用送液ポンプの選び方──選んでいるのは実質チューブ

まず、脈動を許容できる工程かどうか

送液方式は、脈動とせん断流れの中で分子にかかる物理的な力。強すぎると抗体の凝集や微粒子発生を招く。の性格で分かれます。ここが最初の分岐です。

方式性格向くところ
ペリスタルティック(チューブポンプ)液が本体に触れない。脈動あり培養液・ハーベスト液の移送、閉鎖系外気と触れずに培地交換やサンプリングを行う閉鎖された流路。無菌を保ち汚染を防ぐ。にしたい流路
ダイアフラム(4連往復など)低脈動・低せん断・自吸性。圧力に強いTFF膜面に液を平行に流しながらろ過し、目詰まりを抑えつつ濃縮やバッファ交換を行う限外ろ過(クロスフロー)装置一式です。詳しく →、クロマトへの送液、高圧が要る工程
磁気浮上遠心(マグレブ)脈動なし・接触部なし大流量で連続的に送りたい工程

脈動を嫌う工程がはっきりしています。 UF/DF・TFF膜間差圧膜の両側にかかる圧力の差。ろ過の流れを生む力で、上げても壁律速の領域では流量が増えなくなる。の制御が要点なので、脈動があると制御が荒れます。クロマトも同じで、圧力が振れるとベースラインとピーク形状に出ます。だからこの領域では Quattroflow のダイアフラムポンプ(QF30〜QF20k)や、Levitronix の BPS / PuraLev のような磁気浮上ポンプが使われます。

逆にバッグからバッグへ送る、リアクターへ培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。を張る、といった移送では、ペリスタルティックで十分です。⁠流路がチューブだけで完結するので、閉鎖系にしやすく、洗浄バリデーション設備を洗浄した後、前の製品の残留がないことを検証し交叉汚染を管理する活動。が要らない。 これは大きな利点です。

チューブが、寿命と発塵と溶出を決める

ペリスタルティックを選ぶなら、チューブの選定が本番です。

Watson-Marlow の Pumpsil、PureWeld XL、Bioprene、Saint-Gobain の C-Flex、AdvantaPure の AdvantaFlex、Sartorius の Tuflux、Masterflex Tubing。同じポンプに付くチューブでも、性格が違います。

見るのは3つです。

  1. 寿命(何時間で交換か) — 連続運転や長時間の灌流では、ここが運用設計そのものになります。途中でチューブを替えられない工程なら、寿命が流量の上限を決める
  2. 発塵(スポレーション) — 押し潰され続けたチューブは微粒子を出します。無菌ろ過微細な孔のフィルターに液を通し、菌などの微生物を取り除く工程です。加熱できない製品を無菌にする手段で、0.22µm前後の膜が広く使われます。詳しく →の直前や、粒子規格が厳しい工程では効きます
  3. 溶出物浸出物の安全性評価の対象です。製品に直接触れる流路なら、資料が揃っているグレードから選ぶことになります

同じ材質でもポンプヘッドとの相性で寿命が変わるので、ここも実機で回して確認する領域です。カタログの寿命はあくまで条件付きの値です。

シングルユース対応は、後付けが効かない

流路を使い捨て使い捨ての樹脂製バッグや容器を用いる製造方式です。洗浄・滅菌の手間を減らせる一方、ステンレス設備と比べて特徴が異なり、目的に応じて選び分けます。詳しく →にするなら、ポンプ側が対応しているかで話が変わります。

Watson-Marlow の Quantum は、シングルユースのポンプヘッドを装着する構成です。Quattroflow にも Single-Use Pumps の系統があり、Levitronix にもシングルユース向けの製品群があります。一方、汎用のペリスタルティックはチューブを替えるだけでも実質シングルユースに近い運用ができます。

判断はポンプ単体ではなく流路全体で決まります。Cytiva の ReadyCircuit、Sartorius の Tuflux アセンブリカプシドタンパク質のサブユニットが自己組織化して完全なウイルス粒子の殻を形成するプロセス。、Merck の Mobius アセンブリのように、チューブ・コネクター・フィルターまで滅菌済みで組んだものを買うなら、その中でポンプヘッドがどう入るかが先に決まります。

「あとでシングルユース化する」は、たいてい流路の作り直しになります。 将来やる可能性があるなら、最初から対応する系統を選ぶほうが安くつきます。

流量を測るか、重量で見るか

送液は「送った量」を確認できないと、工程の記録になりません。方法は主に3つです。

  • 流量計を入れる — Levitronix の LEVIFLOW、em-tec の BioProTT。BioProTT はチューブの外から測るので、流路を切らずに済みます
  • 重量で見る — Mettler-Toledo や Sartorius のロードセルでバッグの重量変化を見る。安価で確実。多くの現場でこれが基本になります
  • ポンプの回転数から換算する — 簡便だが、チューブが劣化すると実流量とずれます

回転数換算だけに頼っていると、チューブの寿命末期で送液量が静かにずれます。 長時間運転する工程では、重量か流量計で独立に確認する構成にしておくほうが安全です。

GMP工程では、記録が残るかどうか

開発では手元で回せば済みますが、GMP医薬品を一定の品質で安全に造るために守るべき製造・品質管理の基準(適正製造規範)です。詳しく →工程では違います。

  • 流量・積算量が記録として残るか
  • 上位のSCADA製造装置の監視・制御(SCADA)と、製造手順や記録の管理(MES)を担うシステムです。工程の実行状況を見える化し、記録を残します。詳しく →/MESと通信できるか(Siemens SIMATIC、Emerson DeltaV、Rockwell PlantPAx など)
  • 校正の頻度と担当
  • 適格性評価製造装置やユーティリティが意図どおりに据え付けられ、動き、性能を出せることを文書で裏づける活動。(IQ/OQ)の文書がメーカーから出るか

小型のラボ用ポンプは、この観点が抜けていることがあります。⁠開発で使い慣れた機種をそのまま製造に持っていこうとして、記録要件で止まるのはよくある詰まり方です。

迷ったときの順番

  1. 脈動を許容できる工程か⁠(TFF・クロマトなら不可)— ここで方式が決まる
  2. 流量と圧力の範囲⁠(ここで機種が絞れる)
  3. チューブの寿命・発塵・溶出⁠(ペリスタルティックなら、これが本体より重要)
  4. 流路をシングルユースにするか⁠(後付けが効かない)
  5. 送液量をどう確認するか⁠(重量/流量計/回転数換算)
  6. GMPなら記録と通信⁠(開発機の横滑りが効かない箇所)

型番の流量レンジ比較は、この順番を通ったあとで意味を持ちます。⁠最初に流量で絞ると、脈動を嫌う工程に脈動するポンプが残ります。

Newsletter

この分野の新着を、メールで受け取る

こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを月数回お届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。

登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。

メール登録が不要な方は RSSで購読 もできます。

次に読む

目次・関連閉じる
編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。