超低温フリーザーの温度マッピングと適格性評価
超低温フリーザーおおむねマイナス80℃前後の低温を保ち、細胞や試料を長期間安定して保存する冷凍庫です。詳しく →の温度マッピングとは、庫内の温度が場所によってどれだけ違うかを実測して、保管場所として使ってよい範囲を決める作業です。カタログの「−80℃」は設定値であって、庫内のどこでもその温度だという意味ではありません。
- 測るのは代表点ではなく、いちばん条件の悪い場所です。扉際と最上段が候補になります。
- 空の状態と、実際に荷を入れた状態の両方を測ります。熱容量で挙動が変わるためです。
- 扉の開閉と霜は、記録に残りにくい温度の揺らぎを作ります。
- 逸脱の判断は「何℃を何分超えたか」で決めます。基準を先に決めておかないと、毎回もめます。
- 停電と故障の備えは、装置の性能ではなく運用設計の問題です。
なぜ代表点ではだめなのか
保管庫は、庫内のどこでも同じ温度にはなりません。冷気の当たり方、棚の位置、扉との距離で差が出ます。−80℃設定の装置で、扉際が−70℃台ということは普通に起こります。
ここで問われるのは平均ではなく最悪の場所です。検体や細胞は、たまたま置かれた場所で保管条件が決まります。だから適格性評価製造装置やユーティリティが意図どおりに据え付けられ、動き、性能を出せることを文書で裏づける活動。では、庫内に複数の測定点を置いて、どこが最も温かくなるかを見つけます。点数は容量と棚数で決めますが、少なくとも各棚の中央と四隅、そして扉の内側が候補になります。
測定は空の状態だけでは足りません。荷が入ると熱容量が増え、扉を開けたときの戻り方が変わります。空で速く戻る装置が、満載でも速いとは限らないからです。実際の積み方に近い状態で、もう一度測ります。
扉の開閉と霜が作る揺らぎ
日常の運用でいちばん温度を動かすのは、扉の開閉です。−80℃の庫に室温の空気が入れば、その瞬間に庫内の一部は大きく上がります。記録計が庫内の1点しか見ていなければ、この揺らぎは記録に残りません。
霜も効きます。内扉や庫内に霜が付くと、断熱と密着が悪くなり、開けたときの回復が遅れます。霜取りのために中身を別の庫へ移す作業も、そのつど温度履歴を作ります。装置側でも対策は進んでおり、内扉に真空断熱パネルを入れて霜を減らす機種のように、霜そのものを減らす設計が出ています。
運用でできることは単純です。取り出すものを先に決めてから開ける、リストと配置図を庫の外に貼る、開放時間の上限を手順に書く。地味ですが、マッピングで見つけた弱い場所に大事な検体を置かない、という運用と組み合わせて効きます。
逸脱の基準を先に決める
温度が上がったとき、毎回「これは大丈夫か」を議論していては回りません。何℃を何分超えたら逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →とするかを、先に決めておきます。
判断の根拠は、保管している物の安定性です。細胞であれば、凍結保存とコールドチェーンで問題になるのはガラス転移温度これを下回ると分子運動が止まり氷の再結晶が進みにくくなる温度。凍結保管温度の目安。の付近を越えたかどうかで、−60℃前後が一つの目安として語られます。原薬や中間体ゲノムを途中までしか積んでいないAAVカプシド。空でも実でもない中間的な粒子で、測定時にどちらへ数えるかで比率が動く。なら、凍結融解の影響を実測したデータが基準になります。装置の仕様ではなく、中身の性質から決めるのが筋です。
逸脱が出たときに何をするかも、同じく先に書いておきます。移送先の確保、影響評価の範囲、使用可否の判断者。逸脱とCAPAの枠組みに載せて扱います。
停電と故障に、どこまで備えるか
超低温フリーザーは、止まると中身が失われます。しかも中身は、たいてい作り直せません。
備えは3段構えで考えます。電源として非常用電源につなぐか、冗長として空きのある予備庫を持つか、分散として同じ細胞バンクを別の建屋にも置くか。どれを選ぶかは、失ったときの損害で決まります。マスターセルバンクとワーキングセルバンクを別拠点に分けて保管するのは、この分散にあたります。
警報の設計も見落とされがちです。誰の携帯に鳴るのか、夜間と休日は誰が動くのか、到着までに何分かかるのか。警報が鳴っても人が来なければ、備えていないのと同じです。
記録をどこまで残すか
温度記録は、GMP医薬品を一定の品質で安全に造るために守るべき製造・品質管理の基準(適正製造規範)です。詳しく → の対象となる保管であればデータの完全性の要求がかかります。誰がいつ設定を変えたか、警報を誰が確認して何をしたか、監査証跡いつ誰が何をしたかを記録し、改ざんや削除ができないようにした操作履歴。記録の信頼性を支える。が残る形で保存します。
研究段階の保管でも、後で GMP 側へ引き継ぐ可能性があるなら、最初から記録を残しておくほうが安いです。後から「この細胞はどう保管されていましたか」と聞かれて答えられない、という事態は避けられます。
適格性評価そのものは、設備適格性評価(IQ/OQ/PQ)の枠組みで実施します。据付、運転、性能。マッピングは PQ にあたる部分で、装置を入れたときに1回やって終わりではなく、大きな修理や設置場所の変更があれば取り直します。
この分野の新着を、メールで受け取る
こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを月数回お届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。
登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。