GEN が、新しい菌体外分泌系が従来の大腸菌によるエンドヌクレアーゼの組換え生産の難しさを回避しうる、とする研究を取り上げた。記事によれば、バイオ医薬品の製造企業が抱えるこの生産上の課題を、分泌系によって迂回できる可能性があるとされる。
地味な酵素の話に見えるが、バイオ医薬品の製造工程はこの酵素に広く依存している。
何に使われている酵素か
エンドヌクレアーゼ(ベンゾナーゼ等の名で知られる非特異的核酸分解酵素)は、工程中の核酸を分解して除くために使われる。
- 宿主細胞DNAの低減。細胞を破砕した液は粘度が高く、DNAが精製の妨げになる
- ウイルスベクターの精製。細胞由来の核酸を除き、残存DNAのクリアランスを示す
- プラスミド製造の周辺工程
- 微生物系の下流。封入体の処理や清澄化の前段
つまり、核酸を扱うモダリティが増えるほど需要が増える位置にある。細胞・遺伝子治療の伸びが、そのまま需要の伸びになる。
大腸菌で作るときに何が起きるか
エンドヌクレアーゼを大腸菌で作ると、原理的な問題が生じる。自分の核酸を分解する酵素を、自分の中で作ることになるためである。
- 発現した酵素が宿主のDNAとRNAを攻撃し、細胞が死ぬ
- したがって発現を強くできず、収量が上がらない
- 生き延びた細胞を選ぶと、活性の落ちた変異体が濃縮されうる
回避策として、ペリプラズムへの分泌や、不活性型として発現させてから活性化する設計、封入体として蓄積させてリフォールディングする方法が取られてきた。いずれも工程が増える。
菌体外へ直接出す設計が有効なら、この構造そのものが変わる。
- 細胞質に酵素が留まらないため、宿主への毒性が下がる
- 培養上清から回収でき、菌体破砕が要らない
- 上清には宿主タンパク質が少なく、精製の負荷が下がる
分泌シグナルペプチドの設計は、この分野で長く検討されてきた領域である。
供給側の事情
この酵素は、実務上いくつかの制約を抱えてきた。
- 供給者が限られる。特定の製品が事実上の標準になっており、代替の検証には手間がかかる
- 単価が高い。大量に使う工程では、原材料費として無視できない
- 原材料としての管理が要る。動物由来成分不使用であること、由来と製法が明確であること
- 残留を測る必要がある。工程で加えた酵素が最終製品に残っていないことを、残存ヌクレアーゼのELISAなどで示す
最後の点は見落とされやすい。除去のために加えたものが、新たな不純物になるという構造がある。不純物の分類でいえば工程由来不純物にあたり、供給者管理と併せて管理の対象になる。
生産方法が変われば、酵素そのものの性質——比活性、夾雑物のプロファイル、残留を測る抗体との反応性——も変わりうる。安くなることと、既存の管理をそのまま使えることは別である。
供給の集中という論点
原材料の供給が単一の供給者に集中している状態は、受託製造所の問題で承認が止まるのと同じ形のリスクを持つ。自社では手を出せない部分に、製造の可否が握られる。
生産方法の選択肢が増えることは、この集中を緩める方向に働く。ただし実際に切り替えるには、
- 既存工程での性能が同等であることの確認
- 同等性の評価。原材料の変更は工程変更にあたる
- 残留測定の再確認
が要る。研究の成果が実務に届くまでには距離があるが、選択肢があること自体が交渉力になるという側面もある。
なお、GEN の記事は研究の紹介であり、製品としての提供が始まったという発表ではない点には留意が要る。
※ 本ページは公開情報(GEN の記事)をもとにしたProglenth編集部による整理です。研究の手法・結果・実用化の見通しは一次情報および原著論文をご確認ください。本文中の解説は組換えタンパク質生産と核酸除去一般の構造に関する説明であり、当該研究の具体的な内容を示すものではありません。