抗体医薬基礎知識・製剤

Tmが高い抗体なら凝集しにくい?

候補抗体をnanoDSF分子がほどけるのに伴う蛍光の変化を追って融解温度を求める手法。少量・多検体で回しやすい。詳しく →で並べ、Tmがいちばん高い分子を選んだのに、皮下注向けに濃縮した処方で高分子量体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →(HMW)がじわじわ増えていく。処方検討でこの場面に出会うと、Tmの高さは何を保証していたのかという疑問が残ります。

#抗体医薬#凝集#製剤#コロイド安定性
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Tmが高い抗体なら凝集しにくい?
結論

凝集しにくいとは言い切れません。Tmが保証するのは1分子の折りたたみがほどけにくいことだけで、分子どうしが近づいたときに反発し合うかどうかは、コロイド安定性という別の軸で決まります。Tmが高くても、kD(拡散相互作用パラメータ)やB22(第二ビリアル係数)が負に振れていれば、高濃度では会合します。

なぜそうなるのか

凝集には2つの経路があり、熱やpH、界面のストレスで構造がほどけて疎水面が露出してから絡み合う経路は、構造安定性が律速を決めます。もう1つは天然の形のまま分子どうしが寄り合う経路で、こちらは分子間の反発の強さで決まるため、Tmには表れません。Tmを測るMalvern PanalyticalのMicroCal PEAQ-DSCやNanoTemperのPrometheusは、前者を見る機器です。後者はZetasizerの動的光散乱溶液中の粒子がブラウン運動で散乱させる光の揺らぎから、タンパク質や凝集体の粒径分布を測る手法です。凝集の有無を素早く確認できます。詳しく →でkDを、静的光散乱でB22溶液中で分子間に働く引力・斥力の強さを示す指標。コロイド安定性の評価に使う。を取り、どちらも正なら反発、負なら引き合いを示します。Unchained LabsのStunnerなら、2 µLの同じ試料からUV濃度とDLS、SLSをまとめて取れます。

2つの軸が独立していることは、抗体以外の分子で先に示されています。Chiらは2003年にG-CSFで、pH 3.5の低イオン強度ではベンジルアルコールで構造を緩めても凝集が進まず、その理由が分子どうしの反発というコロイド安定性抗体が水溶液中で会合せず、安定に散らばっていられる性質。凝集のしにくさに関わる。詳しく →にあることを、B22の測定から説明しました。ほどけかけた分子があっても、出会って結びつけなければ凝集体にはなりません。

現場で分かれるところ

どちらの軸が先に崩れるかは、分子より用途で変わります。高濃度の皮下注製剤では分子がぶつかる頻度が上がるので、コロイド安定性が律速になりやすく、凍結融解を繰り返す工程や長期の熱ストレスにさらされる製剤では、構造安定性タンパク質の折りたたみがどれだけほどけにくいかの安定性。変性を経る凝集のしにくさに効く。詳しく →が効いてきます。張度を合わせるために塩を足すと、電荷が遮蔽されて反発が弱まり、kDが負に転じることもあります。

POINT

分析部門に確かめるのは「Tmは何度か」だけでは足りません。同じ候補処方でkDかB22も測ったかを聞き、測っていなければ、Tmの順位で候補を絞る前に追加します。

臨床段階の抗体137本を12種類の試験で測ったJainらの2017年の研究も、Tmと、AC-SINSやCSI-BLIによる自己会合の評価を別々の項目として扱っています。開発可能性(developability抗体を医薬品として無理なく製造・製剤できる見込みの高さ。凝集・安定性・粘度などを早期に評価する。詳しく →)の評価では、この2つを分けて見るのが前提です。

もっと詳しく知るなら

可逆的な会合と不可逆的な凝集の違い、界面や凍結融解、微量金属といった引き金ごとの効き方、pH・賦形剤・界面活性剤タンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく →を律速に合わせて選ぶ手順までは、抗体製剤の凝集を防ぐ設計は何で決まるかにまとめています。Croda Super Refined PolysorbateやKolliphor P188のような界面活性剤の選び方も、そちらで扱っています。

Tmは候補をふるいにかける数字としては使えますが、高濃度で凝集しないことの裏づけにはならず、kDかB22を同じ処方で並べて初めて、どちらの軸が律速かが分かります。

参考文献

  • Chi EY, Krishnan S, Kendrick BS, Chang BS, Carpenter JF, Randolph TW. Roles of conformational stability and colloidal stability in the aggregation of recombinant遺伝子組換え技術を用いて微生物や細胞に目的タンパク質を産生させることで製造された成分を指し、動物由来成分を含まない点が特徴。詳しく → human granulocyte colony-stimulating factor. Protein Science. 2003;12(5):903-13. doi:10.1110/ps.0235703
  • Jain T, Sun T, Durand S, et al. Biophysical properties of the clinical-stage antibody landscape. PNAS. 2017;114(5):944-949.
  • Mahler H-C, Friess W, Grauschopf U, Kiese S. Protein aggregationタンパク質医薬品中で複数の分子が非共有結合または共有結合により集合した高分子量体の含有量で、免疫原性リスクと関わる品質指標。詳しく →: pathways, induction factors and analysis. Journal of Pharmaceutical Sciences. 2009. doi:10.1002/jps.21566

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。