無菌製造基礎知識・規制

Annex 1全面適用、無菌製造はCCS中心の設計へ

2023年8月25日、無菌製造に携わる事業者に一つの問いが突きつけられました。施設全体として汚染をどう抑え込むか、一枚の絵で説明できるか。EU GMP Annex 1無菌医薬品の製造に関するEU GMPの付属書。汚染管理戦略などを求める無菌製造の基準。詳しく → の全面改訂版が、この日から適用されました。

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Annex 1全面適用、無菌製造はCCS中心の設計へ

改訂版は 2022年8月25日 に公布され、1年の猶予をおいて適用されています。唯一の例外が凍結乾燥機へのバイアル移送に関する条で、ここだけ 2024年8月25日 に繰り下げられました。Annex 1 は 1989年 の初版以来、部分的な改訂を重ねてきましたが、構成ごと書き直されたのは今回が初めてです。しかも改訂は EU と PIC/S と WHO の共同で進められ、FDA も関与しました。日本で PIC/S GMP を参照する事業者にとっても、対岸の火事ではありません。国内でも GMP省令 の改正で医薬品品質システムと品質リスクマネジメントリスクに基づいて品質を判断する、品質リスクマネジメントの考え方を示すICHのガイドライン。詳しく →が条文になった流れと、向いている方向は同じです。

本稿では、この日から何が変わったのかを整理します。CCS が文書の背骨になったこと、粒子と微生物の限度が数字としてどう置かれているか、PUPSIT除菌フィルターを使用する前、滅菌後にろ過膜の完全性を確認する試験。無菌性を担保する管理。詳しく → の扱い、培地充填製品液の代わりに培地を充填ラインに流し、実工程を模擬して無菌操作に汚染が入らないことを実証する試験。詳しく →の合格基準、そして CCS人・設備・環境・工程の汚染経路を一望し、管理策全体でリスクを許容水準まで下げていることを示す枠組み。 に何を書くか。最後に、CCS を作る順番を並べます。条文を読み直す前に、手元の手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →のどこが旧版のままかを確かめると差分が見えます。

この記事の要点
  • EU GMP Annex 1は2023年8月に全面適用され、汚染管理戦略(CCS)を設計思想の背骨に据える内容へと変わりました。
  • 土台は品質リスクマネジメントで、アイソレーターなどのバリアシステムやリスクに応じた管理設計が前提です。
  • CCSは六つの汚染経路をつなげて残存リスクを説明する「生きた文書」で、更新の履歴そのものが有効性の証拠です。

CCSという背骨 ― 六つの経路

構造として最も変わったのが、汚染管理戦略(CCS)を文書全体の背骨に据えた点です。

CCS が束ねるのは六つの経路です。人。施設と設備。ユーティリティ水・空調・ガスなど、製造を直接支える設備の総称。適格性評価や汚染管理の対象になる。詳しく →、つまり空調と圧縮ガスと注射用水。原材料製造の起点となる原料で、その品質や持ち込む不純物が最終製品の品質に影響しうるため、規格管理が重視される物質。詳しく →と容器。製造工程。そして環境と工程のモニタリング。この六つそれぞれについて、リスク源と管理策と検証手段を対応づけます。

問われているのは、個々の手順書が揃っているかどうかではありません。施設全体として汚染をどう抑え込むかを、一枚の絵で説明できるか。これが新しい基準線です。

土台にあるのは品質リスクマネジメントで、ICH Q9(R1) の考え方がそのまま入っています。一律の決まりごとではなく、製品と工程のリスクに応じて管理の重みを設計する。グレード分類も、環境モニタリング無菌製造区域の空気・表面・作業者を微粒子や微生物で継続監視し、汚染管理の状態を記録する活動。詳しく →の頻度も地点も、リスク評価工程や製品に潜在するリスクの種類・発生可能性・影響度を系統的に特定・分析し、優先的に管理すべき項目を決定する手続き。詳しく →の帰結として説明できなければなりません。加えて、人の介入を減らすアイソレーターやRABSといったバリアシステム人と充填空間を物理的に隔て、汚染を防ぐ設備の総称。アイソレータやRABSを含む。詳しく →の活用が、より明確に推奨されました。 手順を守っているかではなく、その手順がリスクに見合う根拠まで遡れるかが問われます。

数字で締まったところ ― 粒子と微生物の限度

理念だけではありません。数字の側も整理されました。

浮遊微粒子空気中に漂う粒子。粒径ごとに数え、清浄度グレードの維持を確認する。では、グレードA充填点周辺など無菌操作の中心となる最高清浄度区域。作業中も連続監視される。詳しく →が ≥0.5 µm で 3,520 個/m³、≥5 µm で 29 個/m³。これは静止時も作業時も同じです。グレードBは静止時こそ 3,520 個/m³ とAに並びますが、作業時は 352,000 個/m³ まで許されます。グレードCは 352,000 個/m³ と 3,520,000 個/m³、グレードDは静止時 3,520,000 個/m³ で、作業時の上限は定められていません。清浄度の分類そのものは ISO 14644 が土台です。

微生物のほうは、グレードAの書き方が特徴的です。数値ではなく「no growth」と書かれていて、1コロニーでも検出されれば調査の対象です。グレードBは浮遊菌空気を一定量吸引して培地平板に当て、空気中の微生物数を測る指標。詳しく → 10 CFU/m³、落下菌開放平板に自然沈降した微生物を測る環境モニタリングの指標。詳しく →が 90 mm のプレートで 5 CFU、付着菌表面をぬぐう、または押し当てて測る、器具や表面に付いた微生物。詳しく →が 55 mm で 5 CFU培養した際に1つのコロニー(集落)を形成する微生物の単位で、生菌数を表す際に用いられる。詳しく →、グローブプリントが 5指 で 5 CFU。グレードCは 100 CFU/m³、グレードDは 200 CFU/m³ と緩みます。落下菌プレートの曝露は操作の全期間にわたって続け、最大 4時間 で交換します。

グレードAとBでは、浮遊微粒子の連続モニタリングが求められます。 数字が増えたのではなく、数字の意味がリスク評価の結論として説明を求められるようになりました。

POINT

グレードAの微生物限度は「ゼロを目指す」ではなく「no growth」です。検出が1つあれば、それは基準内の変動ではなく調査の起点です。

PUPSITは「やる/やらない」ではない

完全性試験の位置づけも重くなりました。

除菌ろ過のフィルターは、使用後の完全性試験除菌フィルターに欠陥がなく所定の孔径を保っているかを確認する試験。無菌ろ過の信頼性を裏づける。詳しく →が当然として、使用前・滅菌後にも試験するかどうかが論点です。これがPUPSITです。Annex 1 はこれを原則として求めたうえで、実施しない場合はリスク評価に基づく根拠を示すよう求めています。

だから「やる」「やらない」の二択ではありません。やらないと決めたなら、なぜそう判断したのかを CCS の中で説明できるか。フィルターの選定根拠、ろ過の条件、上流の生菌数の管理、フィルターの欠陥が製品に届くまでの経路。これらを並べて、残存リスク管理策を講じてもなお残るリスク。全体として許容水準まで下げられているかを説明する必要がある。詳しく →が許容できる水準にあると言えるかどうかです。除菌ろ過の設計と、この判断は切り離せません。

培地充填の合格基準 ― 1本で失敗になった

もう一つ、手順書に直接効く変更があります。培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →充填処方済みの溶液をバイアルやシリンジなどの容器へ無菌的に充填し、封止する製造工程。詳しく →の合否です。

旧版は段階的な基準を置いていました。5,000本 を超える充填で汚染容器が1本なら調査のうえ再実施を検討する、2本なら再バリデーションプロセスや設備に変更が生じた際に、変更後も品質・性能が適切に保たれることを改めて実験・文書で実証する活動。詳しく →。この数え方を覚えている人は多い。

現行版は変わりました。汚染容器が1本でも出れば、その培地充填は失敗として扱います。そのうえで調査し、原因を特定し、是正を実施し、連続3回の成功で有効性を示すところまでが一続きです。充填本数は 5,000〜10,000本 が目安とされ、培養は合計 14日間、20〜25 ℃ で 7日 と 30〜35 ℃ で 7日 を順に当てるのが一般的です。頻度は各シフト各工程で半年に1回、初回の適格性確認は別々の3日に3回。環境モニタリングと培地充填の詳細は環境モニタリングと培地充填の側で扱っています。 手順書に「5,000本で1本まで」と残っているなら、そこが指摘の対象です。

CCSに何を書くか

CCSは決意表明ではありません。施設のどこにどんな汚染リスクがあり、それを何で抑え、抑え切れているかをどう確かめるかを、一枚に束ねた設計図です。

Annex 1 は書式を指定しませんが、盛り込む論点は事実上決まっています。前述の六経路について、リスク源と管理策と検証手段を対応づける。ここまでは項目を並べる作業です。

本体はその先にあります。経路どうしのつながりを描くこと。たとえば人の介入という一点を取っても、更衣手順という「人」の話が、無菌操作外部から微生物を入れずに工程を進める操作。最終滅菌できない細胞治療では全工程で無菌性を維持する。詳しく →という「工程」に流れ込み、その結果が浮遊菌と付着菌という「モニタリング」に現れます。バラバラの手順書に散っている情報を、汚染という一本の筋で束ね直す。個々の管理が有効かどうかではなく、管理策の全体が組み合わさって残存リスクを許容水準まで下げているかを、施設単位で説明します。

忘れやすいのが、CCSを生きた文書に保つ仕組みです。逸脱が出たとき、変更をかけるとき、傾向が逸れたとき。それをCCSに照らして評価し直す道筋を決めておきます。CCSは医薬品品質システム製品ライフサイクル全体で品質を維持・改善するマネジメント体制。逸脱・CAPA・変更管理を束ねる器。詳しく →の一部として動くので、ICH Q10医薬品品質システムを定めた国際ガイドライン。ライフサイクルを通じた品質マネジメントの考え方を示す。詳しく → が描く循環の中に置かれます。モニタリングデータが管理策の有効性を語る証拠である以上、その改ざん耐性、つまりデータインテグリティの担保もCCSの一部です。 CCSは作って終わりの書類ではなく、更新の履歴そのものが有効性の証拠になる文書です。

POINT

CCSは必ずしも一冊にまとめる必要はありません。既存の手順書や適格性評価を参照する上位文書として設計し、参照先を含めて全体像が一望できればよい。大事なのは束ね方であって、綴じ方ではありません。

CCSを作る順番

最後に、順番を並べます。

先に来るのは棚卸しです。既存の手順書、URS、適格性評価製造装置やユーティリティが意図どおりに据え付けられ、動き、性能を出せることを文書で裏づける活動。詳しく →の記録、逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →の履歴。手元にある材料を六経路に割り付けます。新しく書き起こす前に、いま何があるかを並べる。 CCSは新規に作る文書ではなく、点在している情報を汚染管理の観点で束ね直す作業です。

次に、経路ごとのリスクを洗い出し、管理策を割り付けます。そして各管理策の有効性を裏づけるデータ源を紐づける。環境モニタリングの傾向、フィルターの選定根拠、完全性試験の記録。裏づけがない管理策が、この段階で浮かび上がります。

そのうえで、残存リスクが高いまま残る箇所を並べます。ここが投資と再設計の優先順位です。PUPSITを実施しないといった判断も、この枠組みの中で根拠まで含めて書けば筋が通ります。

最後に、CCSに立ち返る契機を決めます。何が起きたらCCSを開き直すのか。定期レビューの頻度より、この契機のほうが効きます。 見直す頻度を決めるより、何が起きたら見直すかを決めておくほうが、文書は生き続けます。

前提としてGMPの基礎を押さえておくと、Annex 1 の位置づけが掴みやすくなります。

※ 本記事は公開情報をもとにした解説です。

参考文献

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  1. 細胞株・シード1工程
  2. 培養・産生3工程
  3. 回収・清澄化1工程
  4. 精製8工程
  5. 製剤・充填2工程
  6. 品質特性・分析8工程
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  • 各工程の装置・試薬とメーカー
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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、無菌製造に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。