加圧式定量吸入器(pMDI)とは?噴射剤が製剤を決める
加圧式定量吸入器(pMDI:pressurized Metered Dose Inhaler)とは、液化した噴射剤に薬を溶かすか懸濁させ、決まった量だけ霧にして吸わせる器具です。喘息やCOPDの治療で長く使われてきました。
この剤形の特徴は、噴射剤が製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。の一部であることにあります。溶媒であり、動力であり、粒子の大きさを決める要素でもあります。したがって噴射剤を替えると、製剤全体を作り直すことになります。

- 噴射剤は、溶媒・動力・粒子径の3つを同時に担っています。
- 肺に届くのは、おおむね5µm以下の粒子だけです。
- 温室効果の小さい噴射剤への切り替えは、製剤・容器・設備をまとめてやり直す作業になります。
噴射剤が担う3つの役割
缶の中では、噴射剤は液体の状態で入っています。バルブを押すと圧力が下がり、一瞬で気化して薬を運び出します。
溶媒として。 薬が噴射剤に溶けるか溶けないかで、製剤の形が変わります。溶けるなら溶液型、溶けないなら懸濁型です。
動力として。 気化するときの膨張が、霧を作る力になります。蒸気圧が高いほど勢いよく出ます。
粒子径mRNAなどを包む脂質ナノ粒子(LNP)の大きさと、有効成分を内包できた割合です。品質や効果に関わる指標です。詳しく →を決める要素として。 液滴が飛び出した後、噴射剤が蒸発して薬の粒子が残ります。どれだけ速く蒸発するかで、最終的な粒子の大きさが変わります。
3つが同じ物質に載っているため、1つだけを調整することができません。ここがこの剤形の設計を難しくしています。
懸濁型と溶液型
懸濁型は、微粉砕した薬を噴射剤の中に浮かせます。粒子径は粉砕の段階でおおむね決まります。
- 沈降や凝集が起きるため、使用前に振る必要があります
- 粒子の成長(オストワルド熟成)が安定性の論点になります
- バルブの詰まりが起きやすくなります
溶液型は、薬を噴射剤に溶かします。エタノールなどの補助溶媒を加えることが多くなります。
- 振る必要がありません
- 粒子径は、噴射剤の蒸発の速さと不揮発分の量で決まります
- 溶解度と化学的安定性が制約になります
どちらを選ぶかは、原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。の性質と、狙う粒子径で決まります。
肺に届く粒子は限られる
吸入器の性能は、出た量ではなくどこに届いたかで評価されます。おおまかな目安として、
- 5µmより大きい粒子は、口や喉に落ちます
- 1〜5µm程度が、気道から肺の深部に届きます
- 0.5µm以下は、吸った息とともに吐き出されます
したがって、製剤の評価では粒子径分布が中心的な項目になります。カスケードインパクターで段ごとに捕集し、微粒子量(FPD)や空気力学的粒子径の分布を求めます。
同じ薬でも、この分布が違えば効き方が変わります。噴射剤や容器を変えたときに生物学的同等性が問われるのは、このためです。
容器とバルブが製品の一部
pMDIでは、缶とバルブが製剤の性能を直接決めます。
- 定量バルブ:1回あたりの量を決めます。摺動部の材質と寸法が、噴射量の再現性に効きます
- 缶の内面処理:薬が壁に吸着すると、含量製品にどれだけの目的物質が含まれるか(含量)や、その生物学的な効き目の強さ(活性)を示す指標です。培養液中の産生量を指す場合もあります。詳しく →が下がります。アルミの内面をコーティングすることがあります
- ガスケットの材質:噴射剤に膨潤したり、成分が溶け出したりします。抽出物・浸出物の評価対象です
- 気密性:噴射剤が抜ければ、圧力も残量も変わります(容器閉塞性)
つまり、処方だけを決めても製品にはなりません。容器・バルブ・処方の組み合わせで性能が定義される剤形です。
噴射剤を替えるときにやり直すこと
過去にはフロン(CFC)が使われ、オゾン層保護の観点からHFA(HFA-134a、HFA-227ea)へ移行しました。現在進んでいるのは、そのHFAをさらに温室効果の小さいもの(HFA-152a、HFO-1234ze)へ替える動きです。
「ガスの差し替え」に見えますが、実際には次を全部やり直します。
- 薬が溶けるか懸濁するかの見直し
- 蒸気圧が違うため、噴射の速度と粒子径分布の取り直し
- 缶とバルブの適合性、抽出物・浸出物の再評価
- 安定性試験の再実施
- 規制上は大きな変更として扱われ、同等性変更前後が完全に同一でなくても、品質・安全性・有効性で高い類似性を保ち差異が悪影響しないと言える状態。の立証が要ります(ICH Q12)
さらに、HFA-152a には可燃性があります。従来の噴射剤にはなかった性質なので、充填処方済みの溶液をバイアルやシリンジなどの容器へ無菌的に充填し、封止する製造工程。設備の防爆対応が必要になります。製造ラインそのものを変えることになるため、切り替えに時間がかかります。
他の吸入剤形との関係
吸入の剤形はpMDIだけではありません。
- ドライパウダー吸入器(DPI):噴射剤を使わず、患者の吸気で粉を分散させます。環境負荷は小さい一方、吸気流速が足りない患者では届きません
- ネブライザー:装置で霧にします。用量の自由度は高いものの、携帯できません
環境の観点だけならDPIへの移行が単純ですが、患者によって使える剤形が違うため、pMDIをなくすことはできません。だからこそ、噴射剤の置き換えが現実的な選択肢として進んでいます。剤形の選択は、製造の都合だけでは決まらないという例でもあります。
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