低分子医薬基礎知識・分析

固相抽出(SPE)とは?回収率がぶれる原因と担体の選び方

血漿の前処理細胞移植の前に患者へ行う処置。生着の場を空けるために既存の骨髄細胞を減らす目的で実施される。詳しく →で、回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。詳しく →が70%の方法と90%の方法があります。どちらを選ぶべきでしょうか。FDAの指針が見ているのは、回収率の高さではなく、その一貫性です。2018年のガイダンスは、分析対象と内標準物質(前処理や測定のばらつきを補正するために、試料に一定量加えておく目印の物質)の回収が「一貫していて再現できること」を求め、回収率の合否の数字は置いていません。2001年の旧指針には、回収率は100%である必要がない、という記述もありました。

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固相抽出(SPE)とは?回収率がぶれる原因と担体の選び方

この前処理の代表が、固相抽出(SPE、Solid Phase Extraction)です。試料を吸着剤(担体カラムに充填する多孔質ビーズ。表面のリガンドと成分の相互作用差で目的物と不純物を分離する。詳しく →)に通して目的成分を担体に預け、夾雑物を洗い流してから、最後に取り出します。荷物預かり所に荷物を預け、ほかの客の荷物を片づけてから受け取るようなものです。

分析装置が進歩するほど、結果を左右するのは測る前の工程です。分析を担当する人にも、受託先の報告書を読む人にも、消耗品や装置を提案する営業にも、前処理で何が起きているかを知っておくことが、数字の読み方を支えます。

前処理が必要な理由 ― 夾雑物と濃度とマトリックス効果

生体試料や製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →は、そのまま分析装置に入れられないことが多くあります。血漿ならタンパク質や脂質が、製剤なら添加剤が、カラムを傷め、検出を妨げます。目的成分が定量限界に届かないほど薄いこともあります。LC-MS/MS液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせ、断片を一つずつ読んで配列や修飾部位を特定する手法。詳しく →では、共存する成分がイオン化を邪魔して信号を弱めたり強めたりする、マトリックス分析対象物が含まれる試料の背景成分(緩衝液・血清・細胞培養液など)の総称で、測定値に影響を与えうる。詳しく →効果も起きます。血漿のリン脂質LNPを構成するリン脂質で、粒子の構造を補助する。詳しく →は、イオン化薬分子が水溶液中で電荷を帯びたイオン型と電荷を持たない非イオン型に分かれる現象で、体内のpH環境によって割合が変化する。詳しく →を抑える主な原因の1つとして知られています。

前処理には、SPEのほかにもやり方があります。

方法仕組み向く場面弱いところ
除タンパク(沈殿)有機溶媒などでタンパク質を沈めて除く速く安く済ませたいときタンパク質以外の成分(リン脂質など)が残る。濃縮できない
液液抽出(LLE結合の強さを分子サイズ(重原子数)や脂溶性で割り引いて評価する効率指標。ヒットを次の最適化へ進めるかの判断に使う。詳しく →)水層と有機層のあいだの分配を使う疎水性分子が水と親和せず、油脂や非極性溶媒と相互作用しやすい性質で、二本鎖RNAと一本鎖RNAではその程度が異なり分離の指標となる。詳しく →の成分。特別な担体が要らない溶媒の使用量が多い。自動化しにくい。エマルションができることがある
固相抽出(SPE)担体との相互作用を使う夾雑物を減らして濃縮もしたいとき。多検体の自動化条件が多い。担体のロット差が出る

SPEは、洗浄と溶出という2つの独立した段階で選択性目的物と不純物を、溶出位置をどれだけ離して分けられるかの度合い。分離の分解能を左右する。詳しく →を調整できるので、設計の自由度が高い方法です。そのぶん、決める条件も増えます。

除タンパクで済むのか、SPEまで要るのかは、目的成分の量と、マトリックス効果をどこまで許せるかで決まります。

洗浄の強さが要 ― SPEの4段階

SPEは4つの段階で進みます。担体を溶媒で濡らして、働ける状態にします(コンディショニング)。試料を通して、目的成分を担体に預けます(負荷)。目的成分を残したまま、夾雑物だけを洗い流します(洗浄)。条件を変えて、目的成分を取り出します(溶出)。

設計の要は3つ目の洗浄です。洗浄を強くすれば夾雑物は減りますが、預けた目的成分も一緒に流れ始めます。純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →と回収率の取引が、ここで起きます。

条件の探し方には手順があります。洗浄液の強さを段階的に変えながら、流れ出た液を捨てずに測ります。目的成分が流れ出す直前の強さが、実務上の最適点です。この検討を省くと、回収率が低い原因が、洗いすぎなのか、そもそも担体に預かれていないのか、見分けがつきません。

上の図は、担体を入れた筒に液を順に通す固相抽出の4段階の概念図。紫の点が目的成分、灰色の点が夾雑物。1のコンディショニングでは溶媒を通して担体を濡らし、流れ出た液は捨てる。2の負荷では試料を通し、目的成分と夾雑物が担体に預けられ、流れ出た液は測る。3の洗浄では洗浄液を通し、目的成分は担体に残ったまま夾雑物が洗い流され、流れ出た液を測る。4の溶出では条件を変えた溶出液を通し、目的成分が取り出されて回収される。下の図は、洗浄液の強さを弱いほうから強いほうへ上げていったときに担体に残る量の模式図で、目盛りは付けていない。夾雑物(灰色の線)は強くするほど減っていく。目的成分(紫の線)は途中まで同じ高さで残り、ある強さを超えると流れ出して減る。目的成分が流れ出す手前が実務上の最適点で、強さを段階的に変えながら流れ出た液を捨てずに測って探す。
固相抽出の4段階(コンディショニング、負荷、洗浄、溶出)と、洗浄を強くしたときに担体に残る量の概念図

洗浄の強さは、回収率と純度の取引条件です。流れ出した液まで測ると、どちらが原因か分かります。

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逆相・イオン交換・混合モード ― 担体の選び方

担体は、目的成分との相互作用で選びます。まず確かめるのは、目的成分が中性か、酸か塩基かです。

逆相(C18、C8、ポリマー系)は、疎水性の相互作用を使います。汎用性が高く、最初に検討される担体です。イオン交換分子の電荷の違いを利用して分離するクロマトグラフィー。フラグメントなど定型ツールが効かない分子でも使える。詳しく →(陽イオン用と陰イオン用、強と弱)は、成分の電荷を使います。pHを変えることで、保持と溶出を切り替えられます。混合モードは、疎水性とイオン交換の両方を併せ持ちます。強い洗浄をかけられるので、夾雑物の除去に向きます。

SPEの担体は使い捨て使い捨ての樹脂製バッグや容器を用いる製造方式です。洗浄・滅菌の手間を減らせる一方、ステンレス設備と比べて特徴が異なり、目的に応じて選び分けます。詳しく →です。工程で使う精製用レジンのように再生や寿命を管理する必要がない代わりに、ロットの違いが結果にそのまま出ます。

目的成分の性質を先に確かめると、担体の候補は数種類に絞れます。

流速という測定条件 ― 真空マニホールドの弱点

見落とされやすいのが、流速です。試料が担体に触れている時間が、保持の度合いを決めます。速く通せば預かりきれず、遅すぎれば拡散で成分の帯が広がります。

複数の検体を同時に処理する真空マニホールドには、ここに弱点があります。カートリッジペン型インジェクターなどに装填する円筒容器。複数回投与や特定デバイスとの組合せで選ばれる。詳しく →の充填処方済みの溶液をバイアルやシリンジなどの容器へ無菌的に充填し、封止する製造工程。詳しく →状態や試料の粘度液体の流れにくさを表す物理的性質で、タンパク質濃度の上昇に伴い非線形に増大する。詳しく →が穴ごとに違い、同じ減圧をかけても流速が揃いません。液面が下がるにつれて条件が変わり、乾いたかどうかの判断も目視です。検体ごとに違う条件で前処理している状態が生まれます。

この変動源を設計で消そうとする動きもあります。Manufacturing Chemist が紹介した特許取得済みのデバイス「SPEedy」は、外部の真空源を使わずに、制御された前処理を行えるとされるものです(ニュース)。分注や希釈を自動化する液体ハンドリング装置も、人の手による差を減らす手段です。

LC-MS液体クロマトグラフで成分を分離したうえで質量分析計にかけ、分子量を測って物質の同定や定量を行う手法です。詳しく →の分析カラムの手前に置く小さなトラップカラムも、塩などを洗い流す点で、SPEと同じ考え方です(IonOpticksの例)。

ただし、装置を入れれば前処理が揃うとは限りません。担体のロット差、溶媒の品質、試料の保存状態は残ります。装置で消せる変動と消せない変動を分けて考えることが、設計の出発点です。

流速は、事実上の測定条件です。揃っていなければ、条件を振った検討も成立しません。

回収率は高さよりばらつき ― 規制の見方

冒頭の指針に戻ります。FDAの2018年のガイダンスは、回収率について、一貫して再現できることを求めています。審査担当者向けの資料では、回収率に合否の数字は置かれておらず、依頼する側が手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →の中で基準を決め、根拠を示す形だと説明されています。

たとえば、回収率が70%でも、日をまたいで68〜72%に収まっていれば、補正できます。回収率が90%でも、50〜95%で振れていれば、補正できません。前処理の変動は、そのまま精度の悪化として分析全体に現れます。

内標準物質を加えれば、一部は補正できます。ただし、補正が効くのは、内標準が目的成分と同じ挙動を示す範囲です。条件が大きく振れる領域では、補正しきれない差が残ります。マトリックス効果も、複数の個体から取ったブランクの血漿で、イオン化の抑制や増強がないかを確かめます。

回収率は、高さよりも一貫性で見られます。ばらつきの出どころを追えるようにしておくことが、再現性の確保につながります。

よくある失敗

1つ目は、流れ出た液を測らずに、回収率が低いと判断することです。洗いすぎなのか、預かれていないのか、取り出せていないのかが分からず、条件を手探りで探し続けることになりかねません。

2つ目は、担体の扱いの省略です。シリカ系の逆相担体は、コンディショニングのあとに乾くと、保持が不安定になることがあります。手順書にある「乾かさない」は、回収率に直結する指示です。

3つ目は、ロット差を見ないことです。担体は使い捨てなので、受入試験を毎ロット行う体制は多くありません。ロットを替えたら、同じ試料で回収率を確かめ直すだけでも、原因の切り分けがしやすくなります(供給者管理と受入試験)。

4つ目は、移管先で回収率が再現しないときに、原因を切り分けられないことです。担体なのか、流速なのか、作業者なのか。条件を意図的に振って頑健さを見る頑健性の検討を、移管の前にしておくと、手がかりが残ります(分析法の技術移転)。

明日から確かめられること

手元の分析法や、受託先の報告書で、次の点を見てみてください。

  • 回収率の平均だけでなく、日内と日間のばらつきが示されているか
  • 洗浄と溶出の各画分を測った検討の記録があるか
  • 担体の種類と、そのロットを替えたときの確認があるか
  • 流速や乾燥の扱いが、手順書で規定されているか
  • マトリックス効果を、複数の個体のブランクで確かめているか
  • 内標準物質が、目的成分と同じ挙動を示すと言える根拠があるか

人の手による差を減らしたいときは、液体ハンドリングの製品ページで装置を比べられます。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、低分子医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。