噴霧乾燥(スプレードライ)とは?粒子と非晶質をどう作るか
噴霧乾燥(スプレードライ薬物とポリマーの溶液を微細な液滴にして急速乾燥し、非晶質のまま固める製法。)とは、原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。とポリマーを溶かした液を霧にして、熱風の中で一瞬で乾かし、粉を得る操作です。医薬品では主に、水に溶けにくい原薬を非晶質固体分散体(ASD)にする手段として使われます。
粉を作る方法は他にもありますが、噴霧乾燥薬物とポリマーの溶液を微細な液滴にして急速乾燥し、非晶質のまま固める製法。が選ばれるのは乾く速さのためです。液滴が数秒以下で乾くので、原薬が結晶に戻る暇がありません。結晶格子を組ませないまま固めることが、そのまま目的になります。

- 噴霧乾燥は「溶かす・霧にする・乾かす」の3つで、粒子の性質と非晶質の質が決まります。
- 決めるべきは主に、溶媒、固形分濃度、噴霧の条件、入口と出口の温度です。
- 得られる粉は嵩高く流動性が低いことが多く、そのままでは打錠できません。
3つの操作に分けて考える
工程は大きく3段です。
溶かす。 原薬とポリマーを、共通の溶媒に溶かします。ここで無理があると、後の工程では取り返せません。原薬とポリマーの両方が溶ける溶媒がなければ、混合溶媒を使うことになります。
霧にする。 ノズルまたは回転ディスクで、液を細かい液滴にします。液滴の大きさが、そのまま乾燥後の粒子径mRNAなどを包む脂質ナノ粒子(LNP)の大きさと、有効成分を内包できた割合です。品質や効果に関わる指標です。詳しく →のもとになります。
乾かす。 熱風と一緒に乾燥室を通し、溶媒を飛ばします。粉はサイクロンやフィルターで回収します。
この3段のうち、製品の性質を決めるのは主に「霧にする」と「乾かす」の条件です。
粒子の大きさとかさ密度はどこで決まるか
乾燥後の粒子径は、液滴の大きさと固形分濃度でおよそ決まります。液滴が乾くと体積が縮み、中の固形分だけが残るからです。
- 液滴を小さくすれば粒子は小さくなりますが、乾燥室での回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。が落ちます
- 固形分濃度を上げれば同じ液滴から大きい粒子ができ、生産性も上がります。ただし粘度液体の流れにくさを表す物理的性質で、タンパク質濃度の上昇に伴い非線形に増大する。が上がって霧にしにくくなります
もう一つ効くのが乾く速さと形です。表面から先に固まると、内部の溶媒が抜けるときに中空の粒子になります。中空粒子は軽く、かさ密度が低くなります。噴霧乾燥品が「ふわふわしている」と言われるのはこのためです。
かさ密度が低い粉は、後で困ります。同じ重量を入れるのに大きな容器が要り、打錠では臼への充填処方済みの溶液をバイアルやシリンジなどの容器へ無菌的に充填し、封止する製造工程。が安定しません。
非晶質をどう作り、どう保つか
非晶質固体分散体としての質は、乾燥の速さと、ポリマーの選び方で決まります。
狙いは、原薬の分子をポリマーの中に分散させたまま固めることです。乾燥が遅いと、原薬どうしが集まって結晶核ができます。相分離が起きると、見かけは粉でも中身は不均一になります。
固めた後は、準安定な状態を製品の寿命のあいだ保つ必要があります。効くのは次の3つです。
- ガラス転移温度これを下回ると分子運動が止まり氷の再結晶が進みにくくなる温度。凍結保管温度の目安。(Tg):保存温度がTgに近いほど分子が動きやすく、結晶化溶液中の目的物質を固体の結晶として析出・単離する精製操作で、不純物の除去にも利用される。が進みます
- 水分:水は可塑剤として働き、Tgを下げます。防湿包装が要る理由です
- 残留溶媒製造で使った有機溶媒が製品に残っていないか調べる試験です。ガスクロマトグラフィーなどで残存量を測り安全性を確認します。詳しく →:同じく可塑剤として働きます
つまり、乾燥不足は残留溶媒の規格に触れるだけでなく、安定性そのものを削ります。
残留溶媒をどこまで落とすか
有機溶媒を使う以上、残留溶媒(ICH Q3C)の管理は避けられません。溶媒はクラスごとに許容量が決まっており、クラス2以下を選ぶのが実務上の出発点になります。
残留量を下げる手立ては、乾燥室の条件だけではありません。
- 出口温度を上げる。ただし原薬の熱分解と、Tgを超えることによる結晶化のリスクが上がります
- 二次乾燥を置く。真空乾燥や流動層で追い込みます
- 溶媒を変える。沸点の低い溶媒は抜けやすい一方、霧にする段階の条件が変わります
出口温度は、残留溶媒と非晶質結晶格子を持たないエネルギーの高い状態で、溶けやすいが結晶に戻りやすい。の安定性が引っ張り合う変数です。どちらか一方だけを見て決めることはできません。
スケールアップで変わるもの
小型機と商用機では、同じ処方でも粉の性質が変わります。理由は、乾燥室の中で液滴が経験する条件が違うためです。
- 滞留時間抗体が標的に結合し続ける時間。解離の遅さ(小さいkd)で長くなり、効き続けやすさに関わる。:大型機ほど長くなります。滞留時間分布の考え方で、装置間の橋渡しをします
- 噴霧の方式:小型は二流体ノズル、大型は圧力ノズルや回転ディスクということがあります。液滴径の分布が変わります
- 気流の形:並流か向流か、乾燥室の形状で、液滴が熱風に当たる履歴が変わります
そのため、開発と商用を別の会社・別の装置系列で行うと、技術移管のときに規格を書き直す事態になりがちです。噴霧乾燥を持つ受託先が、処方開発から商用供給までを一貫で受けようとするのは、この断層を社内に閉じるためです。
移管に備えるなら、商用機に合わせたスケールダウンモデルを作っておくのが定石です。
打錠につなぐときの制約
患者に届くのは粉ではなく錠剤なので、噴霧乾燥品はその後の工程に耐える必要があります。
- 流動性:嵩高く付着しやすい粉は、そのままでは臼に均一に入りません。造粒するか、賦形剤有効成分以外の添加剤。鉱物由来のものは元素不純物の由来として注目される。で希釈します
- 圧縮による結晶化:打錠圧と摩擦熱が、非晶質を崩す可能性があります
- 溶出:錠剤としての崩壊と、ASD薬物を非晶質にしてポリマー中に分散させ、見かけの溶解度を高めた製剤。としての過飽和平衡溶解度を一時的に超えた不安定な高濃度状態。溶解が両立する処方でなければ意味がありません
ここまで含めて設計しないと、「粉はできたが錠剤にならない」という状態になります。難溶性薬物の製剤化で噴霧乾燥が出てくるときは、たいてい錠剤までを含めた話です。
工程管理で何を見るか
日々の運転で見る項目は、それほど多くありません。
- 入口温度・出口温度:出口温度が実質的な乾燥度の指標になります
- 供給速度と噴霧圧:液滴径に直結します
- 粉の水分:乾燥後の含水率
- 粒度分布とかさ密度:後工程への引き渡し規格
これらのうち、どれを重要工程パラメータとして扱うかは、工程特性解析で決めます。噴霧乾燥は変数が絡み合うので、一つずつ振るより計画実験で組んだほうが早く収まります。
商用規模で回し始めた後は、継続的工程確認で、季節による原料や気温の変動が出口温度と水分にどう出ているかを追うことになります。
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