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ホーム/解説記事/低分子医薬
低分子医薬基礎知識・製剤シリーズ低分子医薬品の製造と製剤化4/10基本

固体分散体とは?非晶質にすれば、溶けやすい薬になるのか

Proglenth 編集部公開 2026-08-07更新 2026-10-28約5分で読めます
固体分散体とは?非晶質にすれば、溶けやすい薬になるのか

固体分散体(solid dispersion難溶性薬物を高分子担体中に分子レベルで分散させ、溶解速度・溶解量を改善した製剤技術。詳しく →)とは、水に溶けにくい有効成分を結晶にせず、ポリマー(高分子)の中に細かく分散させて固めた製剤です。経口薬の吸収を高めるための製剤技術で、製剤の設計だけでなく、包装や原料の購買の判断にも関わります。

しかし、⁠非晶質結晶格子を持たないエネルギーの高い状態で、溶けやすいが結晶に戻りやすい。詳しく →にしただけでは、溶けやすい薬として品質を保てるとは限りません。 非晶質には結晶に戻ろうとする性質があり、保管中に結晶に戻ると溶出が低下するからです。

この記事では、固体分散体が何をどう変えた製剤なのか、なぜ結晶に戻ると困るのか、ポリマーと製法を何で選ぶのか、担当する製品で何から確かめるのかを順に説明します。

この記事の要点
  • 固体分散体とは⁠:薬を非晶質のままポリマーに閉じ込め、溶解した薬物の濃度を一時的に高く保つことで吸収を高める製剤です。
  • なぜ非晶質だけでは足りないのか⁠:非晶質は湿気と熱で結晶に戻りやすく、結晶化した分だけ溶出が低下するためです。
  • 何で選ぶか⁠:ポリマーは結晶化を抑える力とグレードごとの不純物で、製法は薬が熱と溶媒のどちらに耐えるかで選びます。

この記事の前提

初めての方は、先にこちらを読むと、この記事に出てくる言葉の意味が分かります。

  • 溶出試験・崩壊試験とは? 2つの試験の違いと、規格・同等性の判断に使う理由溶出試験・崩壊試験約6分
  • 溶解度とは? 何で決まり、速度論的・熱力学的溶解度をどう使い分けるのか溶解度・熱力学的溶解度・速度論的溶解度・溶出約5分

1. 固体分散体は、溶けにくい薬の何をどう変えた製剤なのか

固体分散体は、薬の分子を結晶から非晶質に変え、溶解直後の濃度を高く保つ製剤です。

成分が非晶質(アモルファス、分子が規則正しく並んでいない状態)のものを、とくに非晶質固体分散体薬物を非晶質にしてポリマー中に分散させ、見かけの溶解度を高めた製剤。詳しく →(ASD)と呼びます。

経口薬は、消化管内で溶解してからでないと吸収されません。ところが新しい薬の候補には、よく効くのに水にほとんど溶けない分子が多くあります。BCS分類(生物薬剤学分類システム)でクラスIIとされる、溶解速度が吸収を左右する薬が典型です。

溶けにくさの一因は、結晶のつくりです。結晶の中では分子が規則正しく積み上がり、互いに強く引き合っています。水が分子を1つずつ引き離すには、大きなエネルギーが要るわけです。非晶質ではこの規則的な配列がもともと崩れているので、同じ成分でも溶けやすくなります。

非晶質の薬が水に触れると、結晶の溶解度を超えて、一時的に多く溶けます。これを過飽和平衡溶解度を一時的に超えた不安定な高濃度状態。詳しく →(本来の溶解度を超えて溶けている状態)と呼びます。ただ、過飽和は長続きしません。時間がたつと、溶解度を超えた分が結晶として析出します。

製剤の分野では、この濃度の動きを「バネとパラシュート」(spring and parachute)と呼びます。

  • バネ⁠:非晶質の薬が、溶解した濃度を一気に溶解度より上へ押し上げる働きです。
  • パラシュート⁠:ポリマーが析出を遅らせ、上がった濃度をゆっくり下ろす働きです。
図1 バネとパラシュートの模式図。横軸は水に触れてからの時間、縦軸は溶けている薬の濃度で、目盛りは振っていない。点線は結晶の溶解度(本来の溶解度)で、それより上が過飽和の範囲。結晶のままの薬(灰色の線)はゆっくり溶けて溶解度に近づくが、それより上には行かない。非晶質の薬だけ(青い線)はバネのように濃度を一気に跳ね上げるが、すぐに余った分が結晶になって沈み、溶解度まで落ちる。非晶質固体分散体(ASD、紫の太い線)も同じように跳ね上がり、ポリマーがパラシュートとして析出を遅らせるので、濃度はゆっくり下がり、溶解度より高い状態が長く続く。腸で吸収されるまでこの高さを保てるかで、吸収される量が変わることを示している
図1 バネとパラシュート:溶けた薬の濃度の動き(模式図)
図をダウンロード(会員・無料)

腸で吸収されるまでのあいだ濃度を高く保てるかどうかで、吸収される量が大きく変わります。HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の治療薬であるロピナビル・リトナビル配合剤では、冷蔵保管の軟カプセルで1日6カプセルだった標準的な用量が、2005年に米国で承認されたASDの錠剤では1日4錠になり、冷蔵も要らなくなりました。

固体分散体は、有効成分を変えずに、服用する錠数や保管条件まで変えうる製剤です。では、非晶質にすれば、それで溶けやすい薬として完成するのでしょうか。

2. 重要:非晶質にしただけでは、なぜ品質を保てないのか

非晶質は結晶より不安定な状態で、保管中に結晶に戻ると、見た目が同じでも溶出が低下するためです。

時間がたつと分子が少しずつ動いて並び直し、結晶に戻ろうとします。この現象を再結晶(recrystallization)と呼びます。

分子が動けるかどうかの目安は、ガラス転移温度非晶質(ガラス状)の物質が、硬いガラスの状態から分子の動きやすいゴム状の状態へ変わる温度です。凍結乾燥では、凍った液の濃縮部分のガラス転移温度(Tg')より低い温度で乾かすと、形が崩れにくくなります。詳しく →(Tg)です。Tgより低い温度なら、分子の動きが強く抑えられたガラス状態にあります。Tgを超えればゴム状態になり、分子が動いて結晶化が進みやすくなります。

注意が要る点は2つあります。

  • 水がTgを押し下げる⁠:湿気を吸うとTgが保存温度に近づき、結晶化が進みやすくなります。
  • Tgより少し低いだけでは安心できない⁠:Tgより50℃ほど低い温度までは、分子がまだ目立って動けるという報告があります。
図2 水がガラス転移温度(Tg)を押し下げることを示す模式図。縦は温度で、上ほど高い。左の乾いた状態と右の湿気を吸った状態を、同じ温度の目盛りで並べている。どちらも、Tgより上は柔らかく分子が動いて結晶になりやすい範囲、Tgから約50℃下までは分子がまだ目立って動ける範囲、その下が動きの強く抑えられた固いガラスの範囲。横に引いた保存温度の線は、乾いた状態では固いガラスの範囲にあるが、湿気を吸ってTgが下がると、まだ動ける範囲に入り、結晶に戻りやすくなる。右の欄は、乾いた状態は保存温度が固いガラスの範囲にあることを緑の○で、湿気を吸った状態は保存温度がまだ動ける範囲に入り結晶に戻りやすくなることを赤の✕で示す
図2 湿気を吸うとTgが下がり、保存温度に近づく(模式図)
図をダウンロード(会員・無料)

実際に、再結晶が原因で製品が市場から回収された例があります。2008年、パーキンソン病などに使うロチゴチンの貼付剤が、米国市場から回収されました。粘着層に結晶でない状態で分散させていた有効成分が、保管中に結晶として出てきたためです。

結晶化した分だけ経皮吸収される薬物量が減り、一部で効果が低下するおそれがありました。経口薬ではありません。ただ、薬を結晶にせず基剤に分散させる点はASDと同じです。欧州では冷蔵で保管・流通させる対応をとり、処方を作り直した製品が米国に戻ったのは2012年でした。

生じ始めた結晶はごく微量で、錠剤の外観ではまず分かりません。だから、次の試験を組み合わせて確かめます。

  • 粉末X線回折(XRD)結晶によるX線の回折パターンから結晶構造を調べる手法。結晶形・多形の同定に用いる。:結晶があると決まった回折角に鋭いピークが出るため、結晶の有無を調べられます。
  • 示差走査熱量測定(DSC)試料を加熱しながら熱の出入りを測り、融解や転移などの熱事象を捉える分析法。:温めながら熱の出入りを測る方法で、Tgが単一に観測されるかを、薬とポリマーが均一に混ざっているかの目安にします。
  • 溶出試験⁠:溶出挙動そのものが保たれているかを確かめます。

安定性試験では、これらを時間を追って繰り返します。ASDの品質を決めるのは、製造直後の状態よりも、湿気と熱にさらされたあとも非晶質のままでいられるかです。

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乾燥・粉砕装置→添加剤・安定化剤→打錠・充填装置→

3. では、ポリマーと製法は何を基準に選ぶのか

ポリマーは結晶化を抑える力と不純物で、製法は薬が熱と溶媒のどちらに耐えるかで選びます。

ポリマーは、薬を薄めるための材料ではありません。薬の分子どうしが集まって結晶核を作るのを妨げ、多くの場合は全体のTgを押し上げて、分子を動きにくくします。

2024年の総説の集計では、米国で2012〜2023年に48製品のASDが承認されています。ポリマーはコポリビドン(ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体)がほぼ半分、HPMCAS(ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル)が3割ほどで、この2種類で8割近くを占めます。HPMCASは、もともと腸で溶ける腸溶性コーティング用に開発されたポリマーです。

同じ名前のポリマーでも、グレードによって中身は違います。2024年の研究では、3種類のコポリビドンで、薬を酸化させる不純物である過酸化物の量に差がありました。⁠過酸化物の多いグレードで作ったASDの錠剤ほど、作りたての段階で薬の酸化分解が多く出ています。

薬の割合(ドラッグロード)を上げれば錠剤を小さくでき、服用する錠数も減らせます。ただ、薬の分子どうしが接触しやすくなるので、再結晶のリスクは上がります。

製法は主に2つあり、同じ総説では噴霧乾燥が半分あまり、ホットメルト押出薬物とポリマーを加熱溶融して混練し、押し出して固める溶媒不要の製法。詳しく →が3割あまりでした。

噴霧乾燥(スプレードライ)ホットメルト押出(HME)
やり方薬とポリマーを有機溶媒に溶かし、霧にして熱風で一瞬で乾かす薬とポリマーを加熱しながら練り混ぜ、押し出して冷やし固める
向く薬熱に弱いが、溶媒には溶けるもの溶媒に溶けにくくても、加工の熱に耐えるもの
設備と管理の要点溶媒を扱う防爆の設備、製品に残る溶媒の管理熱による分解の確認、押し出した後の粉砕

噴霧乾燥では、製品に残った溶媒を残留溶媒のガイドライン(ICH Q3C)に沿って管理します。ホットメルト押出は溶媒が要らず、連続運転にも向いており、押出物は粉砕して粒度をそろえてから打錠へ送ります。

噴霧乾燥は、設備を自社で持たずに受託に出すことが多い工程です。開発の早い段階で受託先を決めれば、そこにある装置で製法も決まりやすくなります。製法を選ぶときに見るのは、薬の性質だけではありません。商用規模で使える受託先の設備まで含めて決めます。

4. 自分の製品では、ASDかどうかと結晶に戻る手当てをどう確かめるのか

最初に確かめるのは、その製品がASDかどうかと、結晶に戻るのを防ぐ手当てがあるかです。

次の3つを順に見ると、聞くべき相手と資料が絞れます。

  • ASDかどうか⁠:インタビューフォームの製剤に関する項に「固体分散体」「非晶質」とあるかを見る。添加剤の欄にコポリビドンやヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル(HPMCAS)があっても、結合剤や腸溶性コーティングにも使われるため、それだけでASDとは言えない。はっきりしなければ製造販売元に問い合わせる。
  • 包装と保管⁠:乾燥剤入りか、防湿性の高いアルミのブリスターかを見る。開封後の保管や一包化(薬局でシートから出して1回分ずつまとめること)の注意書きも確かめる。
  • 非晶質のままかを追う試験と変更の手順⁠:安定性試験出荷時から有効期限まで品質特性が規格内にとどまることを確認する試験。詳しく →で、溶出の推移に加えて粉末X線回折(XRD結晶によるX線の回折パターンから結晶構造を調べる手法。結晶形・多形の同定に用いる。)などで結晶を時間を追って見ているかを品質の担当に聞く。ポリマーの購入先やグレードを替える話が出たら、過酸化物などの不純物の規格と、変更管理で安定性を確かめる手順があるかを確認する。

なかでも包装と保管の確認は、営業や品質保証の立場でもすぐにできます。顧客や薬局から保管について聞かれたとき、湿気で結晶に戻るのを防ぐためだと理由まで説明できれば、答えに説得力が出ます。受託先を比べる段階に入ったら、開発で使う装置と商用機が同じ系列か、錠剤まで一貫して仕上げられるかを、受託開発製造(CDMO)と受託製造(CMO)の違いで挙げた点と合わせて確かめます。

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  • 3. では、ポリマーと製法は何を基準に選ぶのか
  • 4. 自分の製品では、ASDかどうかと結晶に戻る手当てをどう確かめるのか

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参考文献

  • Moseson DE, Tran TB, Karunakaran B, Ambardekar R, Hiew TN. Trends in amorphous solid dispersion drug products approved by the U.S. Food and Drug Administration between 2012 and 2023(Int J Pharm X. 2024;7:100259)
  • Hancock BC, Shamblin SL, Zografi G. Molecular mobility of amorphous pharmaceutical solids below their glass transition temperatures(Pharm Res. 1995;12:799-806)
  • Brouwers J, Brewster ME, Augustijns P. Supersaturating drug delivery systems: the answer to solubility-limited oral bioavailability? J Pharm Sci. 2009;98(8):2549-72.
  • Bhujbal SV, et al., Pharmaceutical amorphous solid dispersion: A review of manufacturing strategies(Acta Pharm Sin B. 2021)
  • Saraf et al. Investigation of the Influence of Copovidone Properties and Hot Melt Extrusion Process on Level of Impurities, In Vitro Release, and Stability of an Amorphous Solid Dispersion Product. Mol Pharm. 2024(doi:10.1021/acs.molpharmaceut.4c00707)
  • Abbott, New Kaletra Tablets FDA Approved(2005年10月31日のプレスリリース。NATAP掲載)
  • UCB, NEUPRO に関するプレスリリース(2008年12月19日。FDAの審査完了報告通知と結晶形成の解決について)
  • Shin-Etsu AQOAT(HPMCAS)製品情報(SE Tylose)
  • ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく →, Q3C(R9): Impurities: Guideline for Residual Solvents(2024年1月 Step 4)
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この記事の目次
  1. 1. 固体分散体は、溶けにくい薬の何をどう変えた製剤なのか→
  2. 2. 重要:非晶質にしただけでは、なぜ品質を保てないのか→
  3. 3. では、ポリマーと製法は何を基準に選ぶのか→
  4. 4. 自分の製品では、ASDかどうかと結晶に戻る手当てをどう確かめるのか→
  5. 参考文献→
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  3. 3難溶性薬物の製剤化とは?ASD・ナノ結晶・脂質製剤の選び方
  4. 4固体分散体とは?非晶質にすれば、溶けやすい薬になるのか
  5. 5噴霧乾燥(スプレードライ)とは? 難溶性薬物を一瞬で乾燥させる理由
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  1. 1. 固体分散体は、溶けにくい薬の何をどう変えた製剤なのか→
  2. 2. 重要:非晶質にしただけでは、なぜ品質を保てないのか→
  3. 3. では、ポリマーと製法は何を基準に選ぶのか→
  4. 4. 自分の製品では、ASDかどうかと結晶に戻る手当てをどう確かめるのか→
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