抗体基礎知識・精製

ふるい係数とは?膜が溶質を通す度合いの指標

限外ろ過(UF)やTFF(タンジェンシャルフローろ過膜面に液を平行に流しながらろ過し、目詰まりを抑えつつ濃縮やバッファ交換を行う限外ろ過(クロスフロー)装置一式です。詳しく →)の膜資料を開くと、分画分子量膜がふるい分ける境目となる分子サイズ。約150kDaの抗体では30kDaが定番で、目的物を留め小分子を通す。詳しく →と並んで「ふるい係数溶質が膜をどれだけ通り抜けるかを表す値。1なら自由に透過し、バッファ交換や濃縮の挙動を左右する。詳しく →(sieving coefficient)」や保持率という数字が載っています。膜に固定された性能だと思って読むと、自社のスキッドで測り直したときに値がずれて、カタログと実測のどちらを信じればよいか迷う場面があります。

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ふるい係数とは?膜が溶質を通す度合いの指標
結論

ふるい係数は、膜が溶質をどれだけ通すかを表す比で、透過液(permeate)の溶質濃度を保持液(retentate)の溶質濃度で割った値です。1に近いほど素通りし、0に近いほど膜に止められ、保持率(rejection, R)とは R=1−S の関係にあります。ただしカタログやスキッドで測れるのは見かけ(観測)のふるい係数で、膜だけの定数ではありません。膜面に溶質がたまる濃度分極(concentration polarization)が乗るため、フラックスやクロスフローを変えると値が動き、真のふるい係数より高めに出ます。限外ろ過の設計は、残したい製品のSを0へ、除きたい緩衝塩や低分子不純物のSを1へ寄せる配置を狙い、除去の進み方は定容量ダイアフィルトレーション(diafiltration)の式 C/C₀ = exp(-S×N)(N=ダイアボリューム数)で読みます。

なぜそうなるのか

ふるい係数Sは Cp/Cr で、透過側へ出た濃度が供給側の何割かを表します。塩のように膜を自由に抜ける溶質ではSが1に近づき、膜に完全に止められる溶質では0です。保持率はその裏返しで、R=1−S と書けます。S=0.02 の製品を保持率98%、S=0.9 の不純物を保持率10%と言うのは、同じことを別の向きから言っているだけです。

やっかいなのは、現場で測れるのが見かけのふるい係数だという点です。観測値は透過液濃度を供給液の本体濃度で割った値ですが、真のふるい係数は膜面のすぐ近くの濃度を基準に定義されます。ろ過が進むと溶質は膜面へ運ばれて積み上がり、膜面の濃度は本体の濃度より高くなります。これが濃度分極です。透過する量は膜本来の選択性と膜面濃度の積で決まるため、膜面が濃い分だけ透過側にも溶質が多く出て、見かけのふるい係数は真の値より高く出ます。だからフラックスを上げたり、クロスフロー膜面に沿って平行に液を流す流れ。せん断力で膜面の堆積を掃き流し、濃度分極を抑える。詳しく →を落として膜面をかき混ぜる力を弱めたりすると、同じ膜でも観測値が動きます。TMP(膜間差圧)を下げ、クロスフローを上げて濃度分極ろ過で膜面に目的物が局所的に溜まる現象。クロスフローのせん断で掃き流して抑える。詳しく →を薄めると、観測値は真の値へ寄っていきます。

除去の速さも、このふるい係数がそのまま効きます。保持液の量を一定に保つ定容量ダイアフィルトレーション半透膜で目的物質を濃縮したり(限外ろ過)、緩衝液を目的の組成に置き換えたり(ダイアフィルトレーション)する工程です。膜面に沿って液を流すTFF方式が使われます。詳しく →では、溶質濃度は C/C₀ = exp(-S×N) で減り、両辺の対数を取ると ln(C/C₀) = -S×N という直線を描きます。塩のようにS=1の溶質なら、7ダイアボリューム補給したバッファ体積を最初の保持液量で割った値。バッファ交換の進み具合を表し、旧成分は指数的に減る。詳しく →で残りは約0.09%(exp(-7)≒0.0009)、おおむね99.9%が抜けます。緩衝交換の多くは5〜7ダイアボリュームで99%超に届きます。いっぽう製品のようにSがほぼ0の溶質は C/C₀ がほぼ1のままで、いくら流しても保持液TFFで膜を通らず上流側に残り循環する液。目的タンパク質を含み、濃縮やバッファ交換の対象になる。詳しく →に残ります。同じ係数が、不純物がどれだけ速く抜けるかと、製品がどれだけ残るかを同時に決めます。

ふるい係数は膜だけの定数ではなく、膜・溶質・運転条件の組み合わせで決まる観測量で、濃度分極を抜いた真の値へ寄せて初めて膜本来の選択性目的物と不純物を、溶出位置をどれだけ離して分けられるかの度合い。分離の分解能を左右する。詳しく →を語れます。

現場で分かれるところ

まず分かれるのが、分画分子量(MWCO、nominal molecular weight cut-off)の選び方です。MWCOは、その膜が90%保持する球状タンパク質の分子量として表示されますが、測り方が各社で揃っていないため、数字をそのまま横並びで比べられません。目安として、保持したい分子の分子量の1/3〜1/6(3〜6倍小さい側)にMWCOを選ぶと確実に止まる、という使い方をします。流量を優先するなら3倍側、保持を優先するならきつい6倍側です。150 kDa前後のIgG抗体なら25〜50 kDaの膜が範囲に入り、30 kDaが定番の出発点です。膜材質でも目安は変わり、Merck(Millipore)は再生セルロースTFF膜の素材の一種。タンパク吸着が低く洗浄性や苛性耐性に優れ、高い回収率につながる。詳しく →のUltracelでは2〜3倍、PES除菌フィルターなどに広く使われる膜素材。親水化処理で濡れ性や低吸着を高めた製品もある。詳しく →のBiomaxでは4〜5倍小さい膜を薦めています。

分子量だけでふるい係数が決まらない理由の一つが、分子の形です。直鎖状のDNAは、同じ分子量の球状タンパク質なら止まる孔をすり抜けます。残存DNA製造に使った宿主細胞に由来するDNAの不純物です。安全性の観点から、精製後にどれだけ残っているかを測る試験です。詳しく →の除去や、糖鎖・会合体のように形が球から外れる溶質では、MWCO限外ろ過膜が保持できる分子の大きさの目安。これより小さい成分は膜を透過させる。の数字だけから素通りか保持かを読み切れません。

POINT

製品資料のふるい係数や保持率を読むときは、それが「どのフラックス・どのクロスフローで測った値か」を必ず確認します。濃度分極が乗った見かけの値なので、自社のTMPとクロスフローで再現して確かめないと、他社製品との比較にも、スケールアップの予測にも使えません。狙いは配置で、残したい製品のSをできるだけ0へ、除きたい緩衝塩や低分子不純物のSを1へ寄せる膜と運転条件を選びます。

もう一つの分かれ目が、濃縮工程での製品の逃げです。製品のSが0でなければ、濃縮するほど保持液が濃くなり、膜面濃度が上がって透過側へ製品が漏れ、回収率が落ちます。ダイアフィルトレーションの側は逆で、除きたい不純物のSが1に近いほど少ないダイアボリュームで抜け、緩衝液と処理時間を節約できます。メーカーの示すふるい係数はあくまで出発点で、実機のTMP膜をはさんだ供給側と透過側の圧力差。UF/DF(TFF)の運転を左右する主要パラメータ。・クロスフロー・濃度で測り直した値が、回収率と緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →消費の見積もりを左右します。

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もっと詳しく知るなら

濃度分極とゲル層がフラックス膜を単位時間・単位面積あたり透過していく流れの量。粘度に反比例し、高濃度で大きく低下する。詳しく →を頭打ちにする仕組み、クロスフロー・TMP・温度での抑え方、MWCO選定から終点判定までの実務は、UF/DFとは?TFFの濃度分極・ゲル層とリテンテート濃縮の対策にまとめています。ダイアボリューム数の決め方と、理論式に頼らず実測で終点を決める理由も、そちらからたどれます。

ふるい係数は膜に貼り付いた固定値ではなく、残したい製品を0へ、除きたい溶質を1へ寄せるための設計の軸で、濃度分極を抜いた真の値で読み、自社の運転条件で測り直して初めて回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。詳しく →と緩衝液量の見積もりに使えます。

参考文献

  • Merck (Millipore), Ultrafiltration membrane selection(Ultracel 再生セルロース / Biomax PES、分画分子量を保持対象の分子量の1/3〜1/6に選ぶ指針)
  • Merck (Millipore), Protein Concentration and Diafiltration by Tangential Flow Filtration(定容量ダイアフィルトレーションのふるい係数とダイアボリューム数の関係式)
  • Cytiva, Ultrafiltration and diafiltration 製品情報(ふるい係数=透過液TFFで膜を通り抜けた側の液。溶媒や小分子を含み、これを抜くことで保持液を濃縮する。詳しく →濃度/保持液濃度、分画分子量=90%保持される球状溶質の分子量という定義)
  • Bovine Serum Albumin Rejection by an Open Ultrafiltration Membrane: Characterization and Modeling. Membranes. 2024;14(1):26.(観測保持率・真の保持率と濃度分極のモデル化)
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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。