イオン交換レジンとは?CEX・AEXの選び方
抗体のポリッシングでイオン交換レジンを選ぶとき、多くの人がまずカタログのDBC(動的結合容量)を見比べます。大きいほど1サイクルで多く捕まえられ、カラムも小さく収まるからです。ところが、同じ条件で測った数字どうしを並べているとは限りません。ある樹脂のDBCがウシ血清アルブミン血漿中に最も多く存在するタンパク質で、脂肪酸などの疎水性分子を可逆的に結合・運搬する機能をもつ。詳しく →(BSA)で175 mg/mL、別の樹脂がヒトIgGで150 g/Lと書いてあっても、流したタンパクが違えば比べたことにはならないのです。数字の大小だけでカラム容積を見積もると、あとで足りなくなります。

核心は一点です。DBCは樹脂に固有の定数ではありません。何を流したか、どこまで漏れたところで測ったか、どのくらいの速さで流したかで、同じ樹脂でも倍半分に動きます。TosohのToyopearl GigaCap Q-650Mは、BSAで175 mg/mL、サイログロブリンで49 mg/mLと、3分の1以下まで落ちます。だから選定は、カタログのDBCを大きい順に並べる作業ではありません。自分のタンパクと工程で容量が出る樹脂を、基材と粒子径とリガンド担体ビーズ表面に結合させた官能基やタンパク質で、目的物や不純物と相互作用して分離を担う部分。詳しく →の組み合わせから絞り込む作業です。
本稿では、まずDBCという数字の読み方から入り、基材と粒子径が容量と分離と背圧をどう左右するか、リガンドの置き方で何が変わるか、アルカリ耐性が樹脂の寿命をどう決めるか、そして結合溶出とフロースルークロマトグラフィーで担体に結合せず素通りして流れ出る画分。不純物を通過させて除く場合などに利用する。詳しく →の使い分けまで、選ぶ順番に沿って整理します。
- DBCは樹脂固有の値ではなく、流すタンパク・破過率・滞留時間で倍半分に動くので、条件をそろえないと比較できません。
- 基材(アガロース・メタクリル酸系・PS-DVB)と粒子径が、容量・分離・背圧のどれを優先するかを決めます。
- リガンドの置き方とアルカリ耐性が、大きな分子への届きやすさとCIPでの寿命(ランニングコスト)を左右します。
DBCという数字の読み方 ― 対象タンパクで変わる容量
DBC実際に液を流しながら測る、担体が破過するまでに結合できるタンパク質量。樹脂の使い切りの指標。詳しく →は樹脂の固定値ではありません。
動的結合容量は、カラムに試料を流し続けて、出口に目的タンパクが決めた割合だけ漏れてきた時点までに、樹脂が捕まえた量です。だから「どこまで漏れたら終わりにするか」の破過率を5%で取るか10%で取るかで値が変わります。流す速さ、つまり滞留時間でも動きます。Thermo FisherのPOROS XSは、5%破過で100 mg/mLを超えます。陰イオン交換正に帯電した担体に負電荷の物質を吸着させて分離する手法。フロースルーでDNAやウイルスを除くのに使う。詳しく →のPOROS XQは、同じ5%破過フィルターの保持能力の限界を超え、除去対象の微生物や粒子がろ液側に通り抜けてしまう現象。詳しく →で140 mg/mLを超えます。一方、CytivaのCapto Q ImpResは10%破過・滞留時間4分でBSA 55 mg/mL超と公表しています。破過率も滞留時間も対象タンパクも違います。この3つの数字を、そのまま大小で比べることはできません。極端な例がTosohのToyopearl GigaCap Q-650Mです。同じ樹脂がBSAで175 mg/mL、サイログロブリンで49 mg/mLです。分子が違えば数字も違います。大きな分子は細孔の奥まで入れず、容量が3分の1以下に落ちます。
メーカーに聞くべきは「DBCはいくつですか」ではありません。「私のタンパクを、この破過率とこの滞留時間で流したとき容量はいくつですか」です。
カタログのDBCは、たいていBSAやリゾチームのような測りやすいモデルタンパクの値です。自社の抗体や二重特異性抗体は、分子の大きさも等電点も違います。モデルタンパクの大小関係が、自分の分子でそのまま再現するとは限りません。候補を2〜3種に絞ったら、自社の分子で破過曲線を実測しておくほうが、あとでカラム容積を取り違えずに済みます。
DBCは条件とセットではじめて比較の材料になる数字で、対象タンパクと破過率と滞留時間をそろえずに大小を論じると、カラム容積の見積もりを外します。
基材と粒子径 ― 容量・分離・背圧の三すくみ
レジンクロマトグラフィーで目的物や不純物を結合させる粒子状の充填材。精製モードごとに使い分ける。詳しく →を選ぶ軸の中心は、リガンドよりも先に基材と粒子径です。
基材は、容量と分離と背圧のどれを優先するかを決めます。選ぶ順はここからです。高架橋アガロースは圧に強くないぶん、粒子を大きくして流量を稼ぎます。CytivaのCapto Qは粒子径90 µmで、高流量・低背圧が持ち味です。BSAで約120 mg/mLを結合します。メタクリル酸系ポリマーは骨格が硬く、同じ容量でも高い線速で流せます。Toyopearl GigaCap Q-650Mは粒子径75 µmで、背圧3 barまで容量が落ちにくい設計です。ポリスチレン-ジビニルベンゼンはさらに剛直です。POROS XQは50 µmの粒子でも高流速に耐えます。
粒子径は、分離能と背圧の二律背反をそのまま背負います。粒を小さくすると、物質が樹脂の中を拡散する距離が縮まり、ピークが鋭くなります。Capto Qの90 µmに対し、同じ化学で粒子を40 µm(36〜44 µm)に詰めたCapto Q ImpResは、仕上げ精製に向く分離を出します。TosohもGigaCap Q-650Mの75 µmに対して、35 µmのQ-650Sを用意しています。ただし粒を小さくすれば、同じ流量でも背圧が上がります。処理速度は落ちます。分離を取れば圧を払う、という関係です。
基材が圧の天井と使える線速を決め、粒子径がその中で分離と処理速度のどちらを取るかを決めるので、容量だけを見て粒の細かい樹脂に飛びつくと、背圧で流せなくなります。
リガンドの置き方 ― テンタクルと強弱の交換基
同じ強陽イオン交換負に帯電した担体に正電荷のタンパク質を静電的に吸着させて分離する手法。抗体のポリッシングに広く使う。詳しく →でも、リガンドの付け方で大きな分子への届き方が変わります。
リガンドを樹脂の表面に直接付けると、抗体のような大きな分子は立体的に入りにくくなります。MerckのFractogel EMDは、重合した鎖(テンタクル)の先にリガンドを置く構造です。鎖がしなって動くので、大きい分子でも結合点に届きます。Fractogel EMD SO₃⁻のMタイプは、粒子径40〜90 µmでリゾチーム130 mg/mLを結合します。粒の細かいSタイプは150 mg/mLです。陰イオン交換分子の電荷の違いを利用して分離するクロマトグラフィー。フラグメントなど定型ツールが効かない分子でも使える。詳しく →のFractogel EMD TMAE HiCapは、BSAで160〜200 mg/mLと高い容量を出します。
もう一つの軸が、強いイオン交換基か弱いイオン交換基かです。スルホン酸基(強CEX)や四級アンモニウム基陰イオン交換担体のリガンドとして用いられる強正電荷の官能基で、広いpH範囲で安定した交換能を示す。詳しく →(強AEX正の電荷を帯びたクロマト担体で、負に帯電した分子を静電的に吸着して分離します。タンパク質精製や、DNA・不純物の除去に使われます。詳しく →)は、広いpH範囲で電荷を保ちます。POROS XS、GigaCap S/Q、Capto Qはいずれも強い交換基です。カルボキシメチル基(弱CEX負の電荷を帯びたクロマト担体で、正に帯電した分子を吸着して分離します。抗体の精製やチャージバリアント(電荷違い)の分離に使われます。詳しく →)やジエチルアミノエチル基(弱AEX)は、pHで解離の度合いが変わります。pHを動かして選択性目的物と不純物を、溶出位置をどれだけ離して分けられるかの度合い。分離の分解能を左右する。詳しく →を細かく作り込みたいときに効きます。基本の捕捉には強い交換基、分離を作り込む場面では弱い交換基です。これが出発点です。
テンタクル型は大きな分子でも容量を稼げる置き方で、強い交換基は広いpHで安定して捕まえ、弱い交換基はpHで選択性を調整できるので、分子の大きさと作りたい分離から逆算してリガンドを選びます。
アルカリ耐性 ― CIPが決める樹脂の寿命
樹脂の寿命は、容量よりも定置洗浄設備を分解せず配管系のまま行う定置洗浄と定置滅菌。ステンレス設備の切替に必要な工程。詳しく →(CIPタンクや配管を分解せず設置したまま洗浄(CIP)し、蒸気などで滅菌(SIP)する仕組みです。詳しく →)への耐性で決まります。
精製を何度も回すには、カラムを水酸化ナトリウム(NaOH)で洗い、前のロットのタンパクやエンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →を落とします。この洗浄に耐える回数が、1 Lあたりの樹脂単価を実質のコストに変えます。耐性は基材で大きく変わります。高架橋アガロースのCapto S ImpActは、1 MのNaOH強アルカリの洗浄剤。タンパク質や核酸を分解する力が強く、Protein A樹脂のCIP・消毒に使われます。詳しく →に耐え、pH 4〜12で使えます。1 MのNaOHに40℃で1週間浸けても、イオン容量も炭素量も目立って動きません。メタクリル酸系のToyopearl GigaCapは、0.5〜1 MのNaOHで定置洗浄します。Fractogel EMDは0.1〜0.5 MのNaOHが標準で、短時間なら1 Mも使えます。
弱い交換基は、強い交換基より洗浄で容量が落ちやすい傾向があります。CIPを強くすれば汚れはよく落ちます。ただし樹脂によっては結合容量担体が結合できる目的物の量。大きな粒子は樹脂ビーズの細孔に入りにくく、結合容量を稼ぎにくい。詳しく →が削られます。濃度を上げる前に、使う樹脂がその濃度に何サイクル耐えるかを、容量を測りながら確かめておくほうが安全です。
アルカリ耐性の公表値は、たいてい一定濃度のNaOHに一定時間浸けたあとの容量で示されます。実際の工程では、濃度と接触時間とサイクル数の組み合わせで効いてきます。同じ1 MのNaOHでも、毎サイクル30分と15分では累積の負荷が倍違います。樹脂単価だけでなく、想定する年間サイクル数で割ったコストで比べるほうが、置き換えの時期を読み違えずに済みます。
基材がNaOH耐性を決め、その耐性が使用回数と樹脂の実コストを決めるので、単価の安さではなく、自社のCIP条件で何回まわせるかで寿命を見積もります。
結合溶出とフロースルー ― CEXとAEXの役割分担
CEXとAEXは、同じイオン交換でも工程での役割が違います。
抗体のポリッシングでは、陽イオン交換(CEX)を結合溶出で使うことが多いです。抗体を樹脂に捕まえてから、塩やpHで溶出し、凝集体や電荷異性体を分けます。一方、陰イオン交換(AEX)はフロースルーで使うのが定番です。抗体は素通りさせ、負に帯電した宿主細胞タンパク質医薬品を作る宿主細胞に由来するタンパク質の不純物です。安全性に関わるため、精製後の残存量を測ります。詳しく →(HCP)や残存DNA製造に使った宿主細胞に由来するDNAの不純物です。安全性の観点から、精製後にどれだけ残っているかを測る試験です。詳しく →、エンドトキシン、ウイルスを樹脂に捕まえて落とします。POROS XQやCapto Q、GigaCap Q-650Mは、このAEXフロースルーに使われます。どちらを先に置くか、両方を使うかは、除きたい不純物が抗体の等電点抗体全体の正味電荷がゼロになるpH。電荷の性質を表す指標で、会合や粘度に関わる。詳しく →に対してどちら側にあるかで決まります。
CEXの位置づけが近年あらためて見直されているのも、進化した樹脂とデータに基づく条件設定で、1つのカラムから引き出せる分離が広がったからです。CEXとAEXのどちらが正しいという話ではありません。結合溶出目的物を一度樹脂に結合させ、塩濃度やpHを上げて溶出させる運転様式。詳しく →で狙って分けたいのか、フロースルーで一気に落としたいのか、除去したい対象ごとに決めます。
CEXは結合溶出で狙った不純物を分ける道具、AEXはフロースルーでまとめて落とす道具なので、どちらを選ぶかは除きたい不純物が抗体の等電点のどちら側にあるかで決まります。
選定の順番 ― 導入前に決めておくこと
最後に、レジンを選ぶ前に決めておく順番を整理します。
まず、そのステップで何を除くのかをはっきりさせます。凝集体や電荷異性体を狙って分けるならCEXの結合溶出、HCPやDNAをまとめて落とすならAEXのフロースルー、と役割から入ります。次に、対象の抗体の等電点と、負荷するバッファのpH・電導度を確認します。結合させたいのか素通りさせたいのかが、ここで決まります。そのうえで、候補の樹脂に自社の分子を流し、使う破過率と滞留時間で容量を実測します。カタログのモデルタンパクの値は、ここで自分の数字に置き換えます。続いて、カラムにかけられる背圧と必要な分離能から、基材と粒子径を選びます。高流量で低背圧を優先するならアガロース系の大粒子、分離を優先するなら小粒子のメタクリル酸系やアガロース系です。次に、分子の大きさと作りたい選択性から、リガンドの置き方(テンタクルか表面か)と、強いか弱いかを決めます。最後に、自社のCIP条件でのアルカリ耐性樹脂やリガンドが、CIPで使う水酸化ナトリウムなどの強アルカリ条件に繰り返し耐えられる性質。詳しく →と、想定する年間サイクル数樹脂を負荷から洗浄・溶出・再生まで1回使うごとに数える回数。寿命管理の基本単位になる。詳しく →から、樹脂の実コストと置き換え時期を見積もります。
この順番で進めれば、カタログに並ぶDBCや粒子径の数字を、自社の抗体と工程に照らして比べられます。
参考文献
- Tosoh, TOYOPEARL GigaCap Q-650M 製品情報
- Thermo Fisher Scientific, POROS XS Strong Cation Exchange Resin
- Merck, Fractogel EMD SO₃⁻ (M) 製品情報
- Cytiva, Capto Q ImpRes Data File
- Cytiva, Capto S ImpAct Strong Cation Exchange Chromatography Resin Instructions(データファイル、アルカリ耐性とpH範囲の数値を参照)
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