抗体医薬基礎知識・製造工程

送液ポンプはどう選ぶ?せん断・脈動・精度

抗体や組換えタンパク質の精製を組み立てていると、どのポンプで液を送るかという問いに必ず突き当たります。培地やバッファーの移送、クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →の送液、限外ろ過・透析ろ過(UF/DF半透膜で目的物質を濃縮したり(限外ろ過)、緩衝液を目的の組成に置き換えたり(ダイアフィルトレーション)する工程です。膜面に沿って液を流すTFF方式が使われます。詳しく →)の循環、ウイルス除去ろ過の加圧。工程のほとんどにポンプが挟まります。地味ですが、工程からは外せない部品です。カタログを開くと、最初に目に入るのは最大流量です。機種はその数字の大小で並んでいます。だからまず流量で候補を絞りたくなります。ですが、そこでつまずきます。

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送液ポンプはどう選ぶ?せん断・脈動・精度

同じ流量でも、方式によって液の壊れ方はまるでちがうからです。流量域は3つの方式で大きく重なります。そこで差はつきません。本当に効くのは、送りたい液がせん断と脈動のどちらに弱いか、そして接触面から出る粒子をどこまで嫌うか、という点です。細胞やウイルスベクター治療用の遺伝子を細胞へ運ぶために改変したウイルス。AAVやレンチウイルスが代表で、遺伝子・細胞治療に使う。詳しく →、高濃度の抗体は、同じ条件でも挙動がちがいます。壊れれば、そのロットは捨てるしかありません。

本稿では、ペリスタルティック、四連ダイアフラム、マグレブ遠心という3方式を、まず流量域、次に脈動と精度、そしてせん断と粒子発生、シングルユース使い捨ての樹脂製バッグや容器を用いる製造方式です。洗浄・滅菌の手間を減らせる一方、ステンレス設備と比べて特徴が異なり、目的に応じて選び分けます。詳しく →とスケール上限の順にたどり、最後にポンプを選ぶ順番まで整理します。

この記事の要点
  • 送液ポンプは最大流量では選べません。効くのは、送る液がせん断と脈動のどちらに弱いかです。
  • ペリスタルティックは汚染管理と精度、四連ダイアフラムは低脈動とシール無し、マグレブ遠心は低せん断と、方式ごとに強みがちがいます。
  • 低せん断の方式に替えても、凝集の主因が界面や気泡なら効きません。原因を切り分けてから方式を決めます。

流量域は選定の決め手にならない ― 3方式が重なる帯

最大流量という数字は、方式を選ぶ手がかりにはなりにくいです。

ペリスタルティックの上位機、Watson-Marlowの730は、毎時0.12 Lから3,300 Lまでを1台でまかないます。四連ダイアフラムのQuattroflowは毎時1 Lから20,000 Lまで、マグレブ遠心のLevitronix PuraLevも大型の2000SUで毎分140 Lを流します。ラボの分注から製造の大量移送まで、3方式は同じ帯を奪い合います。

カタログの先頭に並ぶ最大流量は候補の上限を示すだけで、どの方式が自社の液に向くかは、その数字からは何も分かりません。

ペリスタルティックの精度と脈動 ― チューブが決める寿命

ペリスタルティックは、ローラーでチューブをしごいて液を押し出す方式です。

液に触れるのはチューブの内側だけで、本体は液と接しません。だから汚染管理がしやすく、多品目の製造で好まれます。計量の精度も高い。Watson-MarlowのQdosは線形で±1%の精度、±0.5%の再現性を示し、ターンダウンは2万対1に達します。530から730までのプロセス機は、87.5万対1という広い流量制御域を持ちます。

ただし弱点がチューブに出ます。ローラーが同じ場所を毎時何千回も潰すので、チューブは疲労します。使い始めに伸びて、送る量も変わります。だから慣らし運転のあとに校正し、定期的に替える運用が要ります。もう一つがスポレーション(spallation)です。潰れた内壁が微粒子を出し、フィルターや検出セルにたまります。充填は最終ろ過充填直前に薬液を除菌グレードの膜でろ過する工程。高粘度では圧力で押し切れず流れが遅くなる。詳しく →の後なので、ここで出た粒子は製品に残ります。

ペリスタルティックの精度と汚染管理は魅力ですが、その性能はチューブの材質と交換頻度に丸ごと乗っていて、チューブを外して語ることはできません。

四連ダイアフラムという中間 ― シール無しの送液

四連ダイアフラムは、4枚のダイアフラムを順に動かして送る方式です。

QuattroflowがこのグループのTFF・クロマト・ウイルスろ過目の細かい膜で物理的にウイルスを除く精製工程。ウイルス安全性を担保する工程の一つ。詳しく →での定番です。偏心軸が4枚のダイアフラムを位相をずらして押すので、拍動が重なり脈動がならされます。回転して液をこするシールも羽根も無く、摩耗による粒子がほとんど出ません。液は完全に封じ込められます。

容量の幅も広い。シリーズは毎時1 Lから20,000 Lまでをカバーします。モデル番号はおおむね1時間あたりの公称最大流量で、QF30が毎時約30 L、QF1200が毎分20 L(毎時約1,200 L)、QF20kが毎時20,000 Lにあたります。最大圧はシングルユースのチャンバーで4 bar、多回使用で6 barまでです。

四連ダイアフラムは、シールを持たず粒子を出しにくいという強みで、高濃度TFFやウイルス除去ろ過のように脈動と清浄さの両方を要求される送液に収まります。

マグレブ遠心の低せん断 ― 軸受を持たない羽根

マグレブ遠心は、羽根を磁気で浮かせて回す遠心ポンプ羽根車で送液する低せん断のポンプ。TFFで蠕動ポンプの代わりに使い細胞への負荷を下げられる。です。

LevitronixのPuraLevがこの方式の代表です。羽根は密閉容器の中に非接触で浮き、モーターの磁場だけで回ります。軸受もシールも無く、羽根と壁のすきまが広いので、せん断流れの中で分子にかかる物理的な力。強すぎると抗体の凝集や微粒子発生を招く。詳しく →が小さい。流れは連続的で脈動がありません。細胞やウイルスベクター、せん断に弱い高濃度液の送りに向きます。

数字で見ると、シングルユース機はi30SUが毎分7.7 L(最大差圧膜の両側にかかる圧力の差。ろ過の流れを生む力で、上げても壁律速の領域では流量が増えなくなる。詳しく →1.0 bar)、200SUが毎分21 L(2.0 bar)、600SUが毎分75 L(3.1 bar)、2000SUが毎分140 L(4.3 bar)です。ここで注意が要ります。PuraLevは遠心式なので、送れる流量は背圧しだいで動きます。最大流量は差圧が小さいときの値で、クロマトのカラムやウイルスフィルターをつなぐと、その分だけ落ちます。だから「最大140 L」を工程の流量として当てにはできません。

マグレブ遠心は脈動もせん断も小さい代わりに、遠心式の宿命として背圧に流量が左右されるので、選ぶときは最大流量ではなく、想定する差圧での流量を確かめておく必要があります。

脈動が効く工程と効かない工程

脈動をどこまで嫌うかは、工程によって大きく変わります。

クロマトグラフィーでは、脈動がUVのベースラインを揺らし、ピークの判定を乱します。TFF膜面に液を平行に流しながらろ過し、目詰まりを抑えつつ濃縮やバッファ交換を行う限外ろ過(クロスフロー)装置一式です。詳しく →では、膜間差圧(TMP膜をはさんだ供給側と透過側の圧力差。UF/DF(TFF)の運転を左右する主要パラメータ。)が脈動で振れると、ろ過の再現性が下がります。ウイルス除去ろ過は、圧の変動が膜の完全性に響きやすい工程です。こうした場面では、Quattroflowの低脈動やLevitronixの脈動フリーが効きます。

一方、バッファーの移送や培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →の張り込みでは、脈動はほとんど問題になりません。ここでペリスタルティックのWatson-Marlowを選べば、汚染管理と価格で有利です。脈動が気になる工程で使いたいときは、パルスダンパーを挟む手もあります。

POINT

脈動を消すポンプは高価です。全工程を低脈動でそろえたくなりますが、脈動が結果を左右するのはクロマト・TFF・ウイルスろ過など一部です。単純な移送や張り込みまでそろえると、効きもしない場所に費用を積むだけです。脈動が結果に響く工程にだけ低脈動機を当てるほうが、費用対効果は上がります。

脈動を消すポンプは判定や再現性が絡む工程でこそ価値が出るので、どの工程で脈動が結果を動かすかを見分けることが、方式選びの出発点です。

せん断より界面と気泡 ― 凝集の主因の取り違え

低せん断のポンプを選べば凝集が止まる、とは限りません。

タンパク質の凝集は、ポンプのせん断だけで起きるのではありません。気泡の巻き込み、容器やチューブ表面への吸着、キャビテーション急な減圧で気泡が発生・崩壊する現象。その衝撃で細胞壁を機械的に破壊する。のほうが、原因として大きいことがあります。DeiringerとFriessは2022年に、ペリスタルティックでの抗体粒子の生成が、せん断そのものよりチューブの硬さと表面の性質で決まると報告しました。硬いシリコーンチューブでいちばん粒子が少なかった、という結果です。

つまり、方式を替える前に、自分の工程で凝集が何から出ているかを確かめる順序が要ります。原因が界面吸着や気泡なら、Levitronixのマグレブ遠心に替えても効果は限られます。逆に、チューブ由来の粒子が主因なら、チューブ材質を見直すほうが早い。メーカーに聞くべきは「せん断はどれだけ低いか」ではなく、「この液で、どのストレスが粒子を出しているか」です。

POINT

気泡は、送液そのものよりも接続や継手の緩みから入ることが多いです。シングルユースの流路では、無菌コネクターの締めが甘いと、陰圧側で空気を吸い込みます。方式を吟味する前に流路の空気の入り口を見ておくと、低せん断機に替えなくても粒子が減ることがあります。

低せん断は魅力的な売り文句ですが、自社の液で凝集を起こす主因がせん断でなければ効き目は薄いので、方式を替える前に原因を切り分けるほうが先です。

シングルユースとスケール上限 ― 多品目製造での使い分け

多品目を切り替える製造では、洗浄よりも使い捨ての流路が選ばれます。

3方式とも、シングルユースの流路をそろえています。ペリスタルティックは液がチューブの中しか通らないので、もともと使い捨てと相性がよい方式です。Watson-MarlowのQuantumはReNu SUという使い捨てポンプヘッドで動きます。Masterflexも使い捨てのアセンブリを統合する動きを見せ、Saint-GobainのC-Flexのようなチューブも無菌接続チューブや容器を無菌状態を保ちながら接続する操作で、専用の溶着装置などを用いて行う。詳しく →と組みで使われます。

四連ダイアフラムのQuattroflowは、本体のモーターを残してポンプチャンバーだけを使い捨てにできます。Levitronixも、羽根と容器を一体にした使い捨てのPuraLev SUを用意します。スケールの上限は方式で差が出ます。ペリスタルティックはチューブ径で頭打ちになりやすく、大流量ではダイアフラムや遠心が有利です。逆に小流量の精密な分注では、ペリスタルティックやシリンジ系が残ります。

シングルユースはどの方式でも選べる時代になった一方で、スケールの上限と精度の下限は方式ごとに残るので、扱う流量の幅が方式を最後にふるいにかけます。

ポンプ選定の順番 ― 導入前に決めておくこと

最後に、ポンプを選ぶ前に決めておく順番を整理します。

まず、送る液が何に弱いかを決めます。細胞やウイルスベクターならせん断、クロマトやTFFなら脈動と、いちばん守りたいものを一つに絞ります。次に、その工程で脈動が判定や再現性に響くかを見分けます。響くならダイアフラムか遠心、響かないなら汚染管理と価格でペリスタルティックが候補です。

そのうえで、想定する差圧での流量を確かめます。遠心式は特に、最大流量ではなく背圧をかけたときの流量で見ます。続いて、凝集の主因がせん断か、界面か気泡かを切り分けます。最後に、多品目製造ならシングルユースの流路とスケールの上限を確かめ、チューブやチャンバーの交換と校正の体制まで決めておきます。

この順で決めておけば、カタログの最大流量や「低せん断」の売り文句に引きずられずに、自社の液と工程に合う方式を選べます。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。