抗体医薬研究・創薬スクリーニング

de novo タンパク質設計とは?計算で結合分子を作る

de novo のタンパク質設計とは、⁠既存の配列を出発点にせず、計算で新しいタンパク質の配列を作る手法です。目的の多くは、狙った標的の狙った場所に結合する小さなタンパク質(バインダー)を得ることにあります。

従来の抗体の探索は、免疫やライブラリを使って大量の候補から選ぶ方法でした。de novo 設計は、⁠要求から逆算して配列を出す点が違います。

de novo タンパク質設計とは?計算で結合分子を作る
この記事の要点
  • 選ぶのではなく設計するため、標的のどの面に結合させるかを先に決められます。
  • 計算で出た配列は予測にすぎず、実際に作って測るまで結合するかは分かりません。
  • 律速は設計ではなく、発現・精製と結合測定の側にあります。

探索と設計はどこが違うか

抗体を得る従来の方法は、大きく2通りです。

免疫を使う。 動物に抗原を投与し、できた抗体を回収します。得られる抗体は結合が強く安定していますが、ヒト化が要り、どの面に結合するかは選べません。

ライブラリを使う。 ファージディスプレイなどで、多様な配列の集団から結合するものを釣り上げます。ヒト由来の配列から始められる一方、やはり結合部位は選びにくいままです。

de novo 設計では、⁠標的の構造のうち、どの面に結合させたいかを指定できます⁠。機能に関わる部位を狙う、既存の分子と競合しない場所を狙う、といった設計が可能になります。

設計の流れ

現在よく使われるのは、次の組み合わせです。

  1. 形を作る(バックボーン生成):RFdiffusion のような生成モデルで、標的の指定した面に合う立体構造の骨格を出します
  2. 配列を決める⁠:ProteinMPNN のような手法で、その骨格を実現するアミノ酸配列を割り当てます
  3. 確かめる(in silicoコンピュータ上の計算で予測・解析すること。配列からT細胞エピトープのリスクを安価に広く洗い出す一次評価。AlphaFoldアミノ酸配列からタンパク質の立体構造を高精度に予測する計算手法・データベース。 などで、その配列が本当にその形になり、標的に結合しそうかを予測します
  4. 絞る⁠:予測スコアで候補を並べ、作る本数まで減らします

BindCraft のように、これらを一括で回すツールもあります。⁠1〜4まで数日で回ることが、この分野の速さの正体です。

予測はあくまで予測

計算で出た候補が、そのまま使えるわけではありません。段階ごとに落ちます。

  • 発現目的タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞内で転写・翻訳させ、機能的なタンパク質として産生させる工程。しない⁠。設計上は成立しても、大腸菌や細胞で作れないことがあります
  • 凝集する⁠。溶けない、または会合してしまいます
  • 結合しない⁠。予測どおりの構造にならない、あるいはなっても親和性抗体が抗原に結合する強さ。解離定数などで表し、値が小さいほど強く結合することを示す。が足りません
  • 場所が違う⁠。結合はするが、狙った面ではないことがあります

構造予測のスコアは候補の順位づけには使えますが、⁠実測の代わりにはなりません⁠。ドッキングによる仮想スクリーニングが抱えてきた問題と同じ構図です。

湿式で何を測るか

作った候補について、実際に確かめる項目は決まっています。

  • 結合の有無と強さ⁠:SPRやBLIで、結合速度と解離薬分子が水溶液中で電荷を帯びたイオン型と電荷を持たない非イオン型に分かれる現象で、体内のpH環境によって割合が変化する。速度を取ります。同じ親和性でも、速く着いて速く離れる分子と、ゆっくり着いて離れない分子は体内での挙動が違います
  • 結合する場所⁠:エピトープの区別。競合実験や変異体で確かめます
  • 選択性目的物と不純物を、溶出位置をどれだけ離して分けられるかの度合い。分離の分解能を左右する。⁠:近縁の標的に結合しないこと
  • 作りやすさ熱安定性抗体が熱に対して立体構造を保つ性質。融解温度(Tm)などで評価する。、凝集しにくさ、発現量細胞が目的のタンパク質を作る量。低いと必要量の確保に手間がかかり、製造コストが上がる。

設計が速くなるほど、この工程が律速になります。数十しか測れないなら、1,000種を設計しても意味がありません。高スループット一定時間に処理できる検体数。自動パッチクランプはマニュアル法より桁違いに多くの化合物を測れる。の結合測定が同時に発展しているのは、そのためです。

医薬品にするときの課題

小型の結合タンパク質には、抗体と低分子の中間という位置づけの利点があります。

  • 抗体より小さく、組織への浸透が期待できます
  • 平らな表面や広い界面にも結合できます
  • 複数をつなげて多価にする、別の分子と融合させる、といった設計がしやすくなります

一方で、医薬品として成立させるには次が要ります。

  • 免疫原性。天然にない配列は、抗薬物抗体投与した抗体医薬を異物とみなして患者の免疫系が作る抗体。薬の効果低下や安全性の問題を招く。を誘導する可能性があります。繰り返し投与する用途では特に効きます
  • 半減期薬の血中濃度が半分に下がるまでの時間。抗体フラグメントでは短く、延長の工夫が要る。⁠。小さい分子は腎臓から速く抜けます。延長の工夫が要ります
  • 製造。多くは微生物で作れますが、封入体からのリフォールディングが必要になることもあります

どこで使うのが現実的か

いまのところ、この手法が最も効いているのは医薬品そのものより、その手前です。

  • 標的の機能を確かめるための道具(標的検証
  • 検出試薬。試薬抗体の代わりに、性質の揃った結合分子を使う
  • 送達ゲノム編集ツールや核酸医薬などを標的細胞・組織まで安全かつ効率よく運ぶための技術・方法論の総称。の部品。細胞表面の分子に結合させて行き先を決める
  • 診断や分析での捕捉分子

医薬品としての実績はこれからですが、⁠設計から検証までの周回が速いことは、どの用途でも効きます。モダリティの選択に、新しい選択肢が1つ増えつつある段階と見るのが妥当です。

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。