de novoタンパク質設計とは?AIが作った結合分子は当たるのか

AIが数日で、何千もの新しいタンパク質の配列を出してくる時代になりました。では、そのうち本当に標的にくっつくものはどれくらいあるのでしょうか。答えは、画面の上のスコアを見ているだけでは分かりません。作って測って、初めて当たりか外れかが決まります。
de novo(デノボ、ゼロから)設計とは、既存の抗体やライブラリを出発点にせず、標的の立体構造から計算で配列を作る方法です。免疫やファージディスプレイ抗体断片をファージ表面に提示し、標的に結合するものを試験管内で選び出す抗体取得の手法。詳しく →が大量の候補から「選ぶ」のに対して、こちらは結合させたい面を指定して「作る」ところが違います。共同研究先やスタートアップから「AIで設計した結合分子」の提案を受けたとき、成功率の数字をどう読むかで、その先の判断が変わります。
探索と設計の違い ― 結合位置の指定
違いは一点です。標的のどこに結合させるかを、設計の入力にできます。
免疫もファージディスプレイも、大量の候補から標的に結合するものを選ぶ方法です(抗体の取得法)。結合の強さで選べても、標的のどの面にくっつくかは、取れたものを調べて初めて分かります。機能に関わる部位を塞ぎたい、既存の薬と競合しない場所を狙いたいという要望があっても、候補が出たあとで選り分けるしかありません。
de novo設計は、この順序を逆にします。標的の構造のうち結合させたい面を指定し、そこに合う形を計算で作ります。いまよく使われる流れは3段です。RFdiffusion(標的の指定した面に合う立体構造の骨格を生成するAI)が骨格を出し、ProteinMPNN(骨格に合うアミノ酸の並びを割り当てるAI)が配列を決め、最後にAlphaFold2(配列から立体構造を予測するAI)で、その配列が意図した形になり、標的に狙いどおり結合しそうかを調べます。RFdiffusionは米ワシントン大学のBaker研究室が2023年にNature誌で報告した手法です。出てくる分子は、抗体よりずっと小さい結合タンパク質(ミニバインダー)が中心でした。
2025年には同じ研究室が、ナノボディラクダ科の重鎖抗体に由来し、単一ドメインで抗原を認識する小さなフラグメント。対合ミスが起きず安定。詳しく →(VHH、重鎖だけでできた小型の抗体)をde novoで設計した報告をNature誌に出しました。四つの標的の部位に対して設計し、そのうち二つは電子顕微鏡で結合の姿まで確かめています。ただし設計直後の親和性抗体が抗原に結合する強さ。解離定数などで表し、値が小さいほど強く結合することを示す。詳しく →は数十から数百ナノモル程度で、OrthoRep(酵母の中で変異を入れ続けて選ぶ進化の手法)で磨き直して、ようやく一桁ナノモルに届きました。設計のあとに磨く工程が続くのは、従来の抗体創出と同じです。
結合する場所を設計の入力にできるのが探索との最大の差で、そのぶん「狙いどおりに結合したか」を実験で確かめる仕事が増えます。
予測スコアの読み方 ― 順位づけと当たりの保証の違い
設計ソフトが出すスコアは、どの候補から作るかを決める道具です。結合するかどうかの答えではありません。
AlphaFold2などの予測では、配列が設計どおりの形に折りたたまれるかと、その形が標的に設計どおり結合するかを、スコアで返します。Bennettらの2023年の報告では、この予測で候補を絞り込むと、設計の成功率が約10倍に上がりました。逆にいえば、絞り込まなければ、それだけ当たらなかったということです。同じ報告で、配列の決定をRosetta(従来の設計ソフト)からProteinMPNNに替えると、計算の効率も大きく上がりました。
予測で分かるのは、形がまとまりそうか、標的の指定した面に当たりそうかまでです。実際に大腸菌などで溶けて出てくるか、どれくらい強く結合するか、近縁の分子にくっつかないか、体内で壊れないかは、計算では見えません。設計直後の結合分子は、前の節のVHHのように、親和性が多くの抗体医薬の水準に届かず、磨き直しが要ることがあります。
提案書やプレスリリースの「成功率」は、分母を確かめてから読みます。たとえば「ヒット率10%」と書かれていても、予測で絞ったあとの10本中1本なのか、設計した1万本のうち千本なのかで、実験の手間は桁違いです。何を「ヒット」と数えたのか(結合が見えただけか、一定の親和性を超えたものか)、何標的で試したのか、うまくいかなかった標的も含めた数字なのかも、あわせて聞きます。
「数日で設計できる」と「数日で結合分子が手に入る」は別の話です。絞り込みで成功率が約10倍になったという報告は、絞り込む前の成功率がそれだけ低かったことの裏返しでもあります。
予測スコアは「どれから作るか」を決める道具で、当たったかどうかは実測で決まります。
実験側の詰まり ― 作れる本数という上限
設計は数日で一巡しても、作って測る側は、それより時間がかかります。
たとえば1,000種の候補を設計しても、作って測れるのが数十種なら、成果はそこで頭打ちです。遺伝子の合成は、Twist Bioscience、IDT、GenScriptのような供給元に外注できます。そのあとの発現と精製は、候補ごとに条件を探す手間があり、測定装置の枠もかかります。
結合の測定には、SPRやBLIを使います。結合の強さに加えて、くっつく速さと離れにくさが分かるので、同じ親和性でも「速くついて速く離れる分子」と「ゆっくりついて離れない分子」を見分けられます。装置の違いはSPRとBLIの製品ガイドで比べられます。
測る項目は、結合の強さだけでは足りません。結合する場所が狙いと合っているかは、他の分子との競合を見るエピトープビニングで確かめます。近縁の標的に結合しない(選択性)かも見ます。熱に強いか、凝集しにくいか、発現量が十分かという作りやすさ(開発可能性)も、早い段階で測っておくほうが後が楽です。
よくある失敗は三つあります。
一つ目は、設計の本数を先に決めて、作れない候補のリストだけが増えることです。二つ目は、結合の強さだけを測って次に進み、あとから結合場所が狙いと違うと分かることです。三つ目は、測る項目を後から足して、同じ候補をもう一度作り直すことです。
設計の速さは、作って測る速さが追いついて初めて意味を持つため、測れる本数から逆算して設計の本数を決めます。
医薬品にするときの壁 ― 免疫原性・体内での滞在時間・製造
小型の結合タンパク質には、抗体と低分子の中間という利点が期待されています。抗体より小さいので組織に入りやすいと見込まれ、平らな表面にも結合しやすく、複数をつないで多価にするといった設計もしやすい分子です。
壁は三つあります。
一つ目は免疫原性です。自然界にない配列だから抗薬物抗体投与した抗体医薬を異物とみなして患者の免疫系が作る抗体。薬の効果低下や安全性の問題を招く。詳しく →が心配、というのは自然な懸念です。実例として、Neoleukin社がIL-2の働きを真似るようにde novoで設計したタンパク質NL-201があります。同社の発表では、第1相試験の中間データで標的への結合と期待どおりの薬力学的な変化が確認され、複数回の投与後も有意な免疫原性薬そのものが患者の免疫応答を誘発しやすい性質。凝集体や不純物、投与経路、患者背景などが要因になる。詳しく →は示されませんでした。それでも2022年11月に開発を止め、約40%の人員削減に踏み切っています。理由として同社が挙げたのは、益とリスクの見込みと、IL-2領域の進展を踏まえた次世代候補への資源の振り向けでした。ここから読めるのは、de novo設計のタンパク質もヒトに投与でき、この分子の中間データでは免疫原性が主な問題ではなかった、ということまでです。別の配列にそのまま当てはまる保証はなく、評価は分子ごとに必要です。
二つ目は体内での滞在時間です。腎臓の糸球体は、分子量がおよそ60 kDa前後を境にふるいにかけるので、数kDaの小さな分子は速く抜けます。Fcへの融合やアルブミンに結合する部品の追加で延ばす工夫が要ります。小さいことの利点と欠点は、同じ性質から出ています。
三つ目は製造です。多くは微生物で作れますが、封入体からのリフォールディング(不溶性の塊を巻き戻す工程)が要ることもあります。
医薬品を目指すなら、結合の強さの前に、免疫原性・体内での滞在時間・作りやすさの3点を、設計の段階から候補に問います。
明日から確かめられること ― 提案を受けたときと設計を頼む前
いま現実的な使い道は、医薬品そのものより、その手前です。標的の機能を確かめる道具として使う(標的検証)、試薬抗体の代わりに性質の揃った結合分子を検出に使う、細胞表面の分子に結合させて送達ゲノム編集ツールや核酸医薬などを標的細胞・組織まで安全かつ効率よく運ぶための技術・方法論の総称。詳しく →の行き先を決める、といった用途です。
設計の提案や受託の話が来たら、次の点を確かめます。
- 成功率の分母は何か(設計した全本数か、絞り込み後の本数か)。何標的で試し、失敗した標的も含むか
- 「ヒット」の基準は何か。結合が見えただけか、親和性の基準を超えたものか
- 設計直後の親和性と、磨き直したあとの親和性を分けて報告しているか
- 結合する場所は、競合実験や構造で確かめているか
- 作って測る本数と納期は、設計の本数に見合っているか
- 用途は試薬か、医薬品か。医薬品なら免疫原性と半減期をどの段階で見るか
- 配列と設計データの権利は誰のものか
結合分子の選び方の全体像は抗体の一次スクリーニングに、モダリティ抗体・低分子・核酸・細胞治療など、医薬品の種類・創薬手法の区分。詳しく →全体の中での位置づけはモダリティの選択にまとめています。
参考文献
- Cao L, Coventry B, Goreshnik I, et al. Design of protein-binding proteins from the target structure alone. Nature. 2022;605(7910):551-560. Nature
- Watson JL, Juergens D, Bennett NR, et al. De novo design of protein structure and function with RFdiffusion. Nature. 2023;620(7976):1089-1100. Nature(RFdiffusionによる骨格の生成)
- Bennett NR, Coventry B, Goreshnik I, et al. Improving de novo protein binder design with deep learning. Nat Commun. 2023;14:2625.(AlphaFold2による絞り込みで成功率が約10倍)
- Bennett NR, et al. Atomically accurate de novo design of antibodies with RFdiffusion. Nature. 2026;649(8095):183-193.(VHHのde novo設計。初期の親和性は数十から数百ナノモル、OrthoRepで一桁ナノモル)
- Neoleukin Therapeutics, Third Quarter 2022 Financial Results and Corporate Update(NL-201の第1相中間データと開発中止、人員削減)
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