独化学大手の Evonik が、8月27日、カナダ・バンクーバーの拠点に脂質ナノ粒子(LNP)医薬品向けの新しいGMP製造施設を建設すると発表しました。投資額は1億5000万カナダドル(約9300万ユーロ)超で、このうち最大6800万カナダドル(約4200万ユーロ)はカナダ連邦政府の「Strategic Response Fund」による支援でまかなわれます。発表はブリティッシュコロンビア大学(UBC)内で行われ、カナダの産業大臣メラニー・ジョリー氏とEvonikのヘルスケア事業統括ギド・スクドラレク氏が出席しました。
脂質原料メーカーが、LNPの老舗拠点に育った経緯
このバンクーバー拠点は、もとは1990年代に脂質原料を手がけていた「Northern Lipids」という会社に起源があります。同社はその後、原料供給だけでなく製剤開発・製造まで手がける「Transferra Nanosciences」に発展し、2016年にEvonikが買収して自社のヘルスケア事業に組み込みました。新型コロナワクチンで一躍注目を集めたLNPですが、この拠点はその何年も前からLNP製剤の設計と少量製造を積み重ねてきた場所にあたります。現在は「Evonik Vancouver Laboratories」として、フェーズ1・2の治験薬製造を担っています。長く地味な原料メーカーだった拠点が、mRNA医薬の実務を支える製造拠点として育っていた点が今回の投資の土台です。
治験の入口を太くする、商用化までの橋渡し
今回新設されるGMP施設は、現行施設と比べて3倍を超える製造能力を持たせる計画です。フェーズ3の大規模治験薬製造や商用製造は、引き続きEvonikの米アラバマ州バーミンガム拠点が担います。バンクーバー拠点は、早期の開発から治験薬供給までの層を厚くする役割に絞られています。医薬品開発を治験薬製造の段階に進める企業は、需要が急に膨らんでもすぐには増産できないという壁にしばしば直面します。実績のある拠点に能力を重ねて積み増す判断は、この壁を埋めるための一手といえます。Evonikのカスタムソリューション事業でCOOを務めるローレン・ケルドセン氏は、「脂質を使った薬物送達技術は、すでに次世代の医薬品を実現しつつあります。カナダ連邦政府の支援を受けたこの投資は、当社が長年培ってきたこの分野の専門性を土台に、より多くの画期的な治療法の開発と実用化を後押しするものです」とコメントしました(発言は編集部訳)。稼働開始は2029年末を予定しており、実際に治験薬供給が積み上がるまでには数年かかる見通しです。
mRNAワクチン以降、LNP製剤の製造能力は少数の拠点に集中してきました。既存拠点を3倍に太らせるという選択が、新規拠点を一から立ち上げるより早く供給の目詰まりを解消できるかどうかを占う試金石です。
※ 本ページは公開情報をもとにしたProglenth編集部による整理です。詳細・数値は一次情報もあわせてご確認ください。